第1章 第49話「写真を渡さなかった人」
DAY43。
朝食の席で、俺は昨日のノートを開いていた。
『04班・未交付写真』
『保管理由:受取予定者の所在照会保留』
所在不明ではなく、所在照会保留。
相手がどこにいるか分からなかったのか。それとも、居場所を調べてはいけない事情があったのか。
この違いは大きい。
昨夜の匿名メッセージは、居場所を守るためだったと告げていた。
だが、俺たちが確認した記録に、そこまでの説明はない。
俺はノートに書いた。
『誰が、所在照会を保留したのか』
今日は、そこを調べる。
◇
ミオ:「ユウキ。お茶、冷めちゃうよ」
ユウキ:「あ、ごめん」
顔を上げると、隣のミオが俺を見ていた。
今朝も俺が淹れたお茶が、2つ並んでいる。
ミオ:「難しい顔してた」
ユウキ:「昨日の写真のことが気になってさ」
ミオ:「朝ごはんを食べてからでも、記録は逃げないよ」
ユウキ:「そうだな」
俺はノートを閉じた。
ミオが卵焼きを一口食べる。
その横顔を見て、昨夜のことを思い出した。
海の見えるベンチで、俺たちは少しだけ手をつないだ。
あのとき、ミオは手を引かなかった。
それを思い出すだけで、胸のあたりが落ち着かなくなる。
ミオ:「……ユウキ?」
ユウキ:「えっ?」
ミオ:「今度は私の顔を見て考え事?」
ユウキ:「いや、その……」
向かいに座っていたレンが、すかさず口を挟んだ。
レン:「昨日、何か進展があったな?」
ユウキ:「何もない!」
レン:「何もない人間は、そんな速度で否定しない」
ソウタ:「朝食中に他人の恋愛を分析するな」
レン:「お前だって今、恋愛って言っただろ!」
ミオが口元を押さえて笑った。
俺はお茶を飲む。
昨日までと同じ茶葉なのに、今日はやけに熱かった。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、俺、ミオ、シオン、リナ、ソウタ、ナナ、レイが集まった。
シオンが今日の調査方針を説明する。
シオン:「所在照会保留の決定者と、保留理由を分けて探そう」
リナ:「理由の詳細には個人情報が含まれるかもしれない。でも、決裁の手順なら公開されているはず」
検索を始めると、すぐに一般手順書が見つかった。
『児童私物・返却待機保管運用規程』
そこには、所在照会を保留する場合の決裁方法が書かれていた。
『担当職員は保留を提案できる』
『保留の決定は施設責任者が行う』
『理由は児童保護上の事情と区分して記録する』
ユウキ:「担当者が勝手に止められるわけじゃないんだな」
シオン:「少なくとも、この規程ではそうなってる」
俺は、ナナを見た。
彼女も画面を見つめていた。
ナナ:「お母さんが預かったものでも、お母さんだけで決めたわけじゃないんだね」
ユウキ:「うん。まずは実際の決裁記録を探そう」
◇
午前10時。
リナが、04班の未交付写真に関する決裁記録を見つけた。
『所在照会保留申請』
『申請者:水瀬真紀』
『承認者:早川恵子』
『対象:04班・写真関連未交付品』
『理由区分:児童保護上の配慮』
俺は画面に顔を近づけた。
ユウキ:「あった……!」
昨日まで分からなかったことが、1つ明らかになった。
水瀬真紀が保留を申請し、早川恵子が承認している。
そして、理由区分には児童保護上の配慮とある。
匿名メッセージの内容と整合する。
だが、具体的にどんな事情だったのかは、まだ分からない。
ソウタ:「保留の理由が安全面に関係していたことは確認できた。でも、どんな危険があったのかまでは書かれていない」
シオン:「そこを推測で埋めるのはやめよう」
俺は頷いた。
誰かを守るための記録なら、なおさら慎重に扱わなければならない。
◇
午前11時。
俺たちは申請書の作成日を確認した。
交流会当日ではない。
未交付品が発生してから、数日後だった。
ユウキ:「写真を渡せなくなった日に、すぐ保留が決まったわけじゃないんだな」
リナ:「最初は通常の返却手続きを進めようとしていたのかもしれない」
その言葉を受けて、シオンが関連文書を検索した。
見つかったのは、所在照会保留申請より前に作成された記録だった。
『未交付写真・返却方法確認依頼』
『提出先:施設責任者』
『提出者:水瀬真紀』
『処理状況:確認中』
俺はノートに日付を書き並べた。
交流会当日、未交付品発生。
その後、返却方法の確認依頼。
さらに数日後、所在照会保留申請。
いきなり返却を止めたのではなく、途中に確認の手続きがあった。
◇
正午。
昼食を取っていると、ナナが俺の隣に来た。
ナナ:「ユウキくん。ちょっといい?」
ユウキ:「もちろん」
彼女はトレーを置き、少し迷ってから口を開いた。
ナナ:「私、お母さんのことを聞かれると、つい守りたくなっちゃうんだ」
俺は黙って続きを待った。
ナナ:「だから、思い出したことも、本当にそうだったのか何度も考えちゃって。変なことを言って、お母さんが疑われたら嫌だなって」
ユウキ:「……そっか」
ナナ:「でも、黙ってるのも違うよね」
彼女は自分の手元を見た。
ナナ:「昨日、写真の記録を見て思い出したことがあるの」
俺はノートを開かずに、彼女を見た。
ユウキ:「聞かせて」
ナナ:「交流会のあと、お母さんが誰かに言ってた気がする。『渡したい気持ちは分かるけど、今は待ってね』って」
ユウキ:「誰に?」
ナナ:「分からない。子どもだったと思うけど……」
ナナは首を振った。
ナナ:「それに、写真のことだったかも分からない」
ユウキ:「ありがとう。無理に思い出さなくていいよ」
彼女は少しだけ安心したように笑った。
俺はそのあとで、彼女の言葉をノートに記した。
誰かが、渡したがっていた。
そして水瀬真紀は、待つように伝えた。
記憶は曖昧だ。
だが、今日見つけた手続きの流れとは矛盾しなかった。
◇
午後1時。
資料閲覧室へ戻ると、ハルカとセナが来ていた。
午前中の調査結果を聞き、ハルカが言った。
ハルカ:「返却方法を確認してから保留にしたなら、途中で何か分かったのかもしれないね」
セナ:「でも、分かった内容が公開されていないなら、私たちが勝手に理由を決めるのは危険だと思う」
シオンが頷く。
シオン:「その通り。今日は決裁の前後関係までで止めよう」
俺はホワイトボードに時系列を書いた。
『未交付品発生』
↓
『返却方法確認依頼』
↓
『所在照会保留申請』
↓
『早川恵子が承認』
ミオが、それを静かに見つめていた。
ミオ:「ユウキ。これ、最後にもう1つ続きがあるかもしれない」
ユウキ:「続き?」
ミオ:「保留したあと、定期的に見直す決まりはなかったのかな」
俺は顔を上げた。
確かに。
保留は、永久に返さないという意味ではないはずだ。
◇
午後2時。
俺たちは運用規程の続きを調べた。
『所在照会保留品は、一定期間ごとに保留継続の要否を確認する』
『交付可能となった場合は、所定の確認を経て返却する』
俺は思わず呟いた。
ユウキ:「見直しの記録があるはずだ」
リナが検索する。
『04班・未交付写真 保留継続確認』
結果は2件。
ただし、詳細は閲覧制限あり。
公開されていたのは、確認が実施された日付と処理区分だけだった。
『第1回確認:保留継続』
『第2回確認:保留継続』
俺は画面を見つめた。
写真は忘れられていたわけではない。
少なくとも2回、返却できるかどうか確認されていた。
それでも、渡されなかった。
◇
午後3時。
ヒナが資料閲覧室に顔を出した。
ヒナ:「ねえ、写真の話なら、これ関係あるかな?」
彼女が持っていたのは、自分のカメラで撮った島の写真だった。
資料ではない。
昨日、管理棟の外壁を撮影したものだ。
ヒナ:「古い建物って、表から見えない場所に管理番号が残ってたりするでしょ。ここの倉庫の扉にも番号があるんだよ」
写真には、管理棟の裏手にある小さな倉庫が写っていた。
扉には、薄く消えかけた文字。
『記録保管』
俺は画面を見た。
ユウキ:「この島の倉庫?」
ヒナ:「うん。立入禁止の札があるから、中には入ってないよ」
シオンが身を乗り出す。
シオン:「今の資料閲覧システムと、物理的な保管場所が対応している可能性はあるね」
ただし、そこに12年前の写真があるとは限らない。
俺たちは、まず施設案内の公開情報を調べることにした。
◇
午後4時。
施設案内には、管理棟裏手の倉庫について、こう記されていた。
『記録保管室』
『保管対象:運営関連資料、設備記録、その他指定物』
『入室:管理者許可制』
12年前の青風の資料については、何も書かれていない。
俺はヒナの写真をもう一度見た。
島の管理棟にある記録保管室。
そこに、俺たちが探しているものがあるのだろうか。
分からない。
だが、資料閲覧システムだけが、この島の記録のすべてとは限らない。
シオン:「明日、公開されている保管室の利用記録を調べよう。立入禁止の場所には入らない」
俺たちは頷いた。
新しい調査の方向が、1つ増えた。
◇
午後5時。
中庭を歩きながら、俺はミオに今日のことを話した。
ユウキ:「写真、2回も返却できるか確認されてたんだな」
ミオ:「うん」
ユウキ:「渡したかった人も、待ってた人もいたのかもしれない」
ミオは少し考えてから言った。
ミオ:「待ってる時間って、長いよね」
俺は彼女を見る。
ミオ:「いつ届くか分からないものを待つのは、きっと」
彼女はそこで言葉を止めた。
俺は、古い手紙のことを思い出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
12年前、俺は誰かと約束をした。
その相手が今、どこにいるのかも分からない。
ユウキ:「……もし、また会えたらさ」
ミオ:「うん?」
ユウキ:「ちゃんと話したい。覚えてないことも、忘れてたことも」
ミオは俺を見つめた。
ミオ:「きっと、話せるよ」
その声は、静かだった。
◇
夕食後。
俺たちは海の見えるベンチに座った。
ミオが俺の袖をつまむ。
俺は少し迷ってから、自分の手を差し出した。
ユウキ:「……今日は、こっちでもいい?」
言った直後、顔が熱くなる。
何を言っているんだ、俺は。
ミオは一瞬驚いたあと、小さく笑った。
ミオ:「うん」
彼女の手が、俺の手に重なった。
昨日より自然に、指が触れる。
俺たちは並んで海を見た。
しばらくして、ミオが口を開いた。
ミオ:「ユウキは、約束って大事にする人だね」
ユウキ:「守れなかった約束もあるかもしれないけどな」
ミオ:「それでも、思い出そうとしてる」
俺は彼女の横顔を見た。
ミオは海を見つめていた。
つないだ手だけが、確かに温かかった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の調査結果を整理した。
『所在照会保留申請者:水瀬真紀』
『承認者:早川恵子』
『理由区分:児童保護上の配慮』
『保留前に返却方法確認依頼あり』
『保留継続確認:少なくとも2回』
『管理棟裏手に記録保管室あり。青風資料との関係は未確認』
俺はノートを閉じた。
写真を渡さなかった人。
その人は、単に渡すのを忘れていたわけではないらしい。
だが、守ろうとしたものが何だったのか。
その判断で、誰が寂しい思いをしたのか。
そこまで知らなければ、12年前の出来事を理解したことにはならない。
俺は机の引き出しに、古い手紙をしまった。
明日は、管理棟の記録保管室について調べる。
資料の中だけを見ていては、気づけないことがあるかもしれない。
窓の外では、夜の海が静かに揺れていた。
第1章 第49話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
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果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
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