第1章 第48話「返却されなかった写真」
DAY42。
午前7時32分。
食堂へ向かう途中、俺は昨日のノートを開いた。
『04班 外装・内容物対応照合表』
紙製保管袋は、事務室で写真関連と書簡関連に分けられた。
その際、外装単位の番号から内容物ごとの番号へ登録が変更され、旧番号も参照用として残されている。
問題は、その先だ。
写真と手紙は、どこへ保管されたのか。
昨日見つけた照合表を買えば分かる可能性はあるが、価格は60,000円。今月の生活費が半減している俺たちには、軽い出費ではない。
まずは無料の保管先索引を調べる。
それが今日の方針だった。
◇
午前8時。
食堂の窓際で、ミオが手を振った。
ミオ:「おはよう、ユウキ」
ユウキ:「おはよう。約束のお茶、持ってきたよ」
俺は2つのカップをテーブルに置いた。
昨日と同じ茶葉。
昨日より少しだけ、抽出時間を短くしてみた。
ミオが一口飲む。
ミオ:「……おいしい」
ユウキ:「よかった。昨日より飲みやすいと思う」
ミオ:「毎朝、上達してるね」
ユウキ:「お茶だけは、この島を出る頃にはプロになってるかもな」
ミオ:「じゃあ、そのときも淹れてくれる?」
俺はカップを持つ手を止めた。
この島を出たあと。
彼女は、何気なくそう言ったのだろうか。
ユウキ:「……うん。もちろん」
ミオは満足そうに笑った。
俺もお茶を飲む。
朝から心臓だけが、妙に忙しい。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、シオン、リナ、ソウタ、ナナ、レイが集まっていた。
俺とミオも席につく。
シオン:「今日は、写真関連と書簡関連の保管先を別々に探す」
リナ:「照合表そのものは制限されていても、移管先の部署別台帳なら公開部分があるかもしれない」
リナが検索条件を入力した。
『04班』
『写真関連』
『事務室』
検索結果は5件。
その中に、これまで見落としていた資料があった。
『閉鎖時・写真資料移管一覧』
俺は画面に身を乗り出した。
ユウキ:「これ、写真の移動先が載ってるんじゃないか?」
詳細を開く。
そこには、移管先が2種類記されていた。
『施設記録保管庫』
『返却待機保管』
ソウタ:「同じ写真でも、保管目的が違うんだな」
シオンが頷いた。
シオン:「施設の記録として残す写真と、子ども本人へ返す予定の写真を分けていたんだろうね」
俺はノートに2つの保管先を書いた。
写真は、すべて同じ場所へ送られたわけではなかった。
◇
午前10時。
04班の項目を調べると、次の記載が見つかった。
『04班・写真関連』
『施設記録保管庫:保管分あり』
『返却待機保管:未交付分あり』
俺は息を止めた。
ユウキ:「未交付分が、別に残ってる……」
リナが頷く。
リナ:「P-004は保管分として登録されていたよね」
シオン:「うん。でも、ここに書かれている未交付分がP-006なのかは、まだ分からない」
P-004。
P-006。
そして、紙製保管袋から分けられた写真。
関連している可能性はある。
だが、番号の対応が分からない以上、同じ写真だとは言えない。
俺はノートに線を引きかけ、手を止めた。
今日も、まだ点線だ。
◇
午前11時。
ミオが書簡関連の資料を開いた。
ミオ:「ユウキ。手紙のほうも見つかったよ」
『閉鎖時・書簡資料移管一覧』
その中の04班の項目には、こう記されていた。
『返却先確認中』
『事務室継続保管』
俺は画面を見比べた。
ユウキ:「写真は返却待機保管。手紙は事務室に残ったのか」
ミオ:「記録上はそうなってるね」
シオンがホワイトボードに書き出す。
『写真関連 → 返却待機保管』
『書簡関連 → 事務室継続保管』
ようやく、事務室で分けられたあとの経路が見えてきた。
ただし、この記録が例の紙製保管袋の内容物を指しているかは、まだ照合が必要だ。
◇
正午。
食堂で昼食を取っていると、レンが俺たちのテーブルにやってきた。
レン:「なあ、返却待機保管って、何年くらい待ってくれるんだ?」
ユウキ:「資料によるだろうけど、長期間残ってるものもあるみたいだな」
レン:「じゃあ、俺のプリンも返却待機保管に入れればよかった」
レイ:「もう弁償したでしょ」
レン:「そういう問題じゃない。俺が求めてるのは再発防止だ」
ソウタ:「冷蔵庫に鍵をつけろ」
レン:「なるほど!」
レンは真剣な顔で立ち上がった。
数秒後、戻ってきた。
レン:「……鍵代が惜しい」
ユウキ:「じゃあ食べろよ!」
ミオが笑いながら、俺の袖を軽く引いた。
ミオ:「ユウキ、ごはん冷めちゃう」
ユウキ:「あ、そうだった」
俺は箸を取る。
ミオがまだ笑っている。
その顔を見ると、俺までつられて笑ってしまった。
◇
午後1時。
資料閲覧室に戻った俺たちは、返却待機保管の運用記録を調べ始めた。
そこには、未交付品を保管する際の条件が記されていた。
『受取予定者の所在が確認できない場合、返却待機保管へ移管する』
『所在確認に際しては、児童保護上の事情に配慮する』
『移動先情報を一般の記録へ転記しない』
俺は最後の一文を読み返した。
ユウキ:「移動先を、記録に書かない……」
シオンが静かに言った。
シオン:「子どもの安全のためだね。事情によっては、居場所を広く知らせない必要がある」
ナナ:「だから、写真を渡したくても渡せなかったのかな」
俺は頷いた。
誰かが意地悪で渡さなかったとは限らない。
渡したい気持ちと、居場所を守る必要。
その2つが、同時に存在していたのかもしれない。
◇
午後2時。
レイが、返却待機保管の一覧を開いた。
レイ:「04班の未交付分、ここにある」
画面には、次の記載が表示されていた。
『04班・写真関連』
『交付状況:未交付』
『保管理由:受取予定者の所在照会保留』
俺は眉を寄せた。
ユウキ:「所在照会保留?」
リナ:「所在不明とは違うね。居場所を確認する手続き自体が、いったん保留されたってこと」
シオンが補足する。
シオン:「理由はまだ分からない。本人保護のためかもしれないし、別の事情かもしれない」
俺はノートに、そのまま書き写した。
『所在照会保留』
誰かが、写真を渡そうとしていた。
だが、渡す相手の居場所を確認する手続きが止まっていた。
その理由を知りたい。
◇
午後3時。
ナナが、返却待機保管の関連文書を見つけた。
ナナ:「これ……確認者にお母さんの名前がある」
『04班・未交付写真保管確認票』
『保管確認:水瀬真紀』
『承認:早川恵子』
俺は画面を見つめた。
水瀬真紀。
早川恵子。
紙製保管袋の引継ぎ記録にも登場した2人だ。
ユウキ:「この写真も、2人が関わってたんだな」
ナナは頷いた。
ナナ:「お母さん、ちゃんと残してくれてたんだ……」
彼女の声が、少し震えていた。
俺は何も言わず、画面に視線を戻した。
12年前の記録が、今のナナにとっても大切なものになっている。
◇
午後4時。
STORE Xに、新しい情報項目が表示された。
『INFO-026』
『対象:04班・未交付写真保管確認票』
『価格:50,000円』
『開示範囲:写真の管理番号、保管区分、交付状況、所在照会の処理経過』
『受取予定者の氏名、移動先、写真画像は含みません』
俺は価格を確認した。
50,000円。
今月の生活費と同じ金額だ。
シオンが全員を見る。
シオン:「購入は保留。まず、所在照会保留の理由を無料資料で調べよう」
俺たちは頷いた。
買えば番号が分かるかもしれない。
だが、番号を知るだけでは、写真の受取予定者までは分からない。
必要な情報を、もう少し絞りたい。
◇
午後5時。
調査を終えた俺は、ミオと中庭を歩いていた。
夕方の風が、少し冷たい。
ミオ:「今日は、写真の行方が少し分かったね」
ユウキ:「うん。返却待機保管に残ってる」
俺は空を見上げた。
ユウキ:「でも、渡す相手の居場所を調べること自体が保留になってた」
ミオ:「……そうだね」
ユウキ:「12年前、誰かを守るために、知らせなかったこともあったのかな」
ミオは少し考えてから答えた。
ミオ:「知らせないことが、必要な場合もあると思う」
俺は彼女を見る。
ミオ:「でも、知らされなかった人が寂しくなかったとは限らないよね」
その言葉が、胸に残った。
守るための沈黙。
その沈黙で、取り残された人。
どちらか一方だけを見ていては、真相にはたどり着けないのかもしれない。
◇
午後6時。
夕食後、俺たちは海の見えるベンチに座った。
ミオは、いつものように俺の袖を軽くつまんでいる。
俺は少し迷ってから、彼女に尋ねた。
ユウキ:「ミオはさ。誰かと離れるとき、ちゃんとお別れしたい?」
彼女は海を見つめたまま答えた。
ミオ:「……できるなら、したいよ」
ユウキ:「そっか」
ミオ:「でも、できなかったら」
彼女はそこで言葉を止めた。
俺は続きを待った。
ミオ:「また会えたときに、話せたらいいなって思う」
俺は頷いた。
ユウキ:「俺も、そう思う」
少しの沈黙。
それから、ミオが俺を見た。
ミオ:「ユウキとは、ちゃんと話せる時間があってよかった」
俺は一瞬、返事に詰まった。
ユウキ:「……俺も」
ミオは柔らかく笑った。
彼女の指先が、俺の袖を少しだけ強くつまむ。
俺は、その手を見つめた。
そして、そっと自分の手を近づけた。
指先が触れる。
ミオは手を引かなかった。
俺たちは、ほんの少しだけ手をつないだ。
海から吹く風が、さっきより温かく感じられた。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の調査結果を整理した。
『04班の写真関連は、施設記録保管庫と返却待機保管に分かれている』
『未交付写真は返却待機保管』
『保管理由:受取予定者の所在照会保留』
『確認者:水瀬真紀』
『承認者:早川恵子』
『INFO-026:50,000円、未購入』
俺は古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
写真は、渡されなかった。
手紙は、事務室に残された。
そして、誰かの居場所は、簡単には調べられないようになっていた。
12年前の約束は、どうして届かなかったのだろう。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『返却待機保管の記録を見つけましたね。』
続けて、文章が表示される。
『写真が渡されなかったのは、受取予定者が忘れられていたからではありません。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『その子の居場所を守るため、知らせられない事情がありました。』
俺は静かに息を吐いた。
誰かの居場所を守るため。
それが、12年前の写真に関わる理由だったのか。
匿名の言葉だけでは、まだ確定できない。
だが、今日見つけた運用記録には、確かに児童保護への配慮が記されていた。
俺はノートに、最後の1行を書き加えた。
『所在照会保留の理由を、記録で確認する』
DAY42。
返却されなかった写真は、まだ記録の中に残っている。
そして、その写真を待っていた誰かの存在も。
第1章 第48話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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