第1章 第47話「訂正理由書の空白」
DAY41。
午前7時03分。
俺は食堂へ向かう前に、昨日の調査結果を読み返していた。
『事務室一時保管台帳・番号訂正理由書』
紙製保管袋が事務室へ移された翌日、番号対照欄に訂正が入っていた。
理由は、重複登録の解消。
昨夜の匿名メッセージには、1つの袋に入っていたものが2つの記録に分かれたためだと書かれていた。
だが、その説明が本当かどうかは、まだ確認できていない。
俺はノートに今日の目標を書いた。
『訂正理由書の登録番号を、公開台帳と照合する』
INFO-024を買う前に、できることを探そう。
◇
午前7時45分。
食堂の給湯コーナーで、俺は2つのカップを前に悩んでいた。
昨日、ミオに約束したのだ。
今朝は俺がお茶を用意する、と。
彼女は「ユウキと同じものがいい」と言っていた。
だから、同じ茶葉を使えばいい。
それだけの話なのに、なぜか妙に緊張する。
湯を注いでいると、背後から声がした。
レン:「おっ。愛妻弁当ならぬ愛妻茶?」
ユウキ:「誰が妻だ!」
レン:「じゃあ、婚約茶?」
ユウキ:「段階を飛ばすな!」
レンは俺の手元を見た。
レン:「……それ、茶葉入れすぎじゃね?」
俺はカップを見た。
濃い。
想像以上に濃い。
試しに一口飲む。
ユウキ:「にっが!」
レン:「恋の味だな」
ユウキ:「この恋、抽出時間を間違えてる!」
俺は慌てて作り直した。
◇
午前8時。
窓際の席で、ミオが俺を待っていた。
ユウキ:「おはよう。約束のお茶」
ミオ:「おはよう。ありがとう」
俺は彼女の前にカップを置いた。
ミオが一口飲む。
俺は、試験結果を待つような気持ちでその顔を見た。
ミオ:「……おいしい」
ユウキ:「よかった」
心底ほっとした。
ミオはカップを両手で包み、柔らかく笑った。
ミオ:「同じお茶だね」
ユウキ:「うん」
俺も一口飲む。
今度は苦くない。
朝の光の中で、同じお茶を飲む。
たったそれだけのことが、妙に特別に感じられた。
ミオ:「明日も、一緒に飲める?」
俺は彼女を見た。
ユウキ:「もちろん」
返事をすると、ミオは嬉しそうに目を細めた。
調査を始める前から、今日はいい日になりそうな気がした。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、俺、ミオ、シオン、リナ、ソウタ、ナナ、レイが集まった。
シオンが昨日の訂正履歴を表示する。
『訂正対象:番号対照欄』
『訂正理由:重複登録の解消』
『訂正日:紙製保管袋の移管翌日』
シオン:「まず、理由書の登録番号を確認しよう」
リナが公開文書索引を開く。
訂正理由書は、日付ごとに複数存在していた。
俺たちは作成日と担当部署を照合した。
すると、該当する可能性のある理由書が2件に絞られた。
『事務室一時保管台帳・番号訂正理由書 A』
『事務室一時保管台帳・番号訂正理由書 B』
ユウキ:「2件あるのか」
ソウタ:「同じ日に、複数の訂正が行われたってことだな」
俺は画面を見つめた。
昨日見つけた訂正履歴が、紙製保管袋に関係するとは限らない。
まず、どちらの理由書なのか確かめる必要がある。
◇
午前10時。
リナが、理由書Aの公開項目を開いた。
『対象分類:備品』
『訂正内容:登録順の重複』
続いて、理由書B。
『対象分類:児童私物』
『訂正内容:移管番号の重複』
俺は身を乗り出した。
ユウキ:「児童私物……!」
シオンが頷く。
シオン:「紙製保管袋は児童私物として扱われていた。関係する可能性はBのほうが高い」
だが、まだ確定ではない。
リナが理由書Bの関連台帳を調べる。
そこには、次の記載があった。
『関連外装:紙製保管袋』
『移管元:青い部屋』
俺は思わず拳を握った。
ユウキ:「つながった!」
昨日見つけた訂正履歴は、04班の紙製保管袋に関係するものだった。
これで、調べるべき理由書を特定できた。
◇
午前11時。
俺たちは理由書Bの公開部分を読み進めた。
『訂正前:外装単位で登録』
『訂正後:内容物の分類に応じて登録』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「外装単位から、内容物ごとに……」
シオンがホワイトボードに図を書いた。
『紙製保管袋・1点』
その下から、2本の矢印。
『写真関連』
『書簡関連』
シオン:「1つの袋を受け取ったあと、中身を別々に登録した。その際、番号の対応に重複が生じたと考えられるね」
ソウタ:「ただし、写真と手紙がそれぞれ何点あったかは分からない」
俺は頷いた。
昨日の匿名メッセージと整合する記録が、ようやく見つかった。
ただ、記録にない部分まで決めつけるわけにはいかない。
◇
正午。
昼食の時間。
俺はミオと並んで食堂へ向かった。
ミオ:「今日は、ちゃんと進んだね」
ユウキ:「うん。訂正理由書が紙製保管袋に関係してるって確認できた」
ミオ:「よかった」
彼女はそう言って笑った。
俺は、朝のお茶を思い出す。
ユウキ:「そういえば、朝のお茶、本当においしかった?」
ミオ:「うん。おいしかったよ」
ユウキ:「実は最初、失敗してさ」
ミオ:「そうなの?」
ユウキ:「茶葉を入れすぎて、すごく苦くなった」
ミオは目を丸くしたあと、くすっと笑った。
ミオ:「作り直してくれたんだ」
ユウキ:「せっかく一緒に飲むなら、おいしいほうがいいだろ」
何気なく言ったつもりだった。
だが、ミオは少しだけ頬を赤くした。
ミオ:「……ありがとう」
今度は俺が照れる番だった。
◇
午後1時。
資料閲覧室に戻った俺たちは、理由書Bの続きに取りかかった。
公開部分の末尾には、こんな項目があった。
『外装と内容物の対応は、別紙照合表へ転記』
『訂正後、旧外装番号は参照用として保持』
俺はノートを開いた。
ユウキ:「つまり、訂正前の番号は残ってる」
シオン:「うん。その番号から、写真関連と書簡関連の両方を追える可能性がある」
リナが別紙照合表を検索した。
結果は1件。
『04班 外装・内容物対応照合表』
俺は画面を見つめた。
昨日まで探していた記録が、ようやく具体的な名前で見つかった。
だが、内容は閲覧制限あり。
公開されているのは、表題と作成日だけだった。
◇
午後2時。
ナナが、照合表の作成者欄を見つけた。
ナナ:「……早川恵子」
俺は画面を確認した。
『作成責任者:早川恵子』
『確認者:水瀬真紀』
2人の名前が並んでいた。
ユウキ:「水瀬さんが確認してるんだな」
ナナは小さく頷いた。
ナナ:「お母さん、最後まで関わってたんだ……」
その声には、少し複雑な響きがあった。
俺は彼女に尋ねた。
ユウキ:「お母さんから、当時の話を聞いたことはある?」
ナナ:「施設が閉まったあと、子どもたちの荷物を整理するのが大変だったって。それくらい」
彼女は少し考えた。
ナナ:「でも、捨てられないものが多かったって言ってた気がする」
俺は頷いた。
写真。
手紙。
子どもたちが大切にしていた品物。
それらを整理することは、単なる事務作業ではなかったのだろう。
◇
午後3時。
俺たちは、照合表の公開範囲を確認した。
すると、項目の構成だけは閲覧できた。
『旧外装番号』
『新分類番号』
『品目』
『点数』
『保管先』
『交付状況』
俺は、最後の2項目を見つめた。
ユウキ:「保管先と交付状況……!」
シオンが頷く。
シオン:「これが分かれば、事務室で分けられたあと、どこへ移されたか追える」
写真と書簡は、同じ場所に保管されたとは限らない。
昨日の匿名メッセージも、そう示唆していた。
だが、照合表があれば、実際の移動先を記録で確認できる。
俺はノートに書いた。
『次の目標:外装・内容物対応照合表の保管先欄』
◇
午後4時。
STORE Xの端末に、新しい情報項目が表示された。
『INFO-025』
『対象:04班 外装・内容物対応照合表』
『価格:60,000円』
『開示範囲:旧外装番号、新分類番号、品目、点数、保管先、交付状況』
『児童の氏名、書簡本文、写真画像は含みません』
俺は価格を確認した。
60,000円。
今月の生活費が50,000円に減額されていることを考えると、簡単には買えない。
だが、これまで見つけた情報項目の中では、目的が明確だった。
シオンが全員を見る。
シオン:「今日は購入しない。まず、無料の保管先索引を探そう」
全員が頷いた。
俺も同意した。
焦って買うより、必要な情報を絞ったほうがいい。
◇
午後5時。
調査を終え、俺はミオと中庭へ出た。
夕方の風が、少し冷たい。
ミオは俺の隣を歩きながら、静かに言った。
ミオ:「今日は、記録を残した人たちの名前も分かったね」
ユウキ:「うん。早川恵子と水瀬真紀」
ミオ:「誰かが残してくれたから、今も追えるんだね」
俺は頷いた。
ユウキ:「12年前、何があったのか。ちゃんと知りたい」
ミオは、俺を見た。
ミオ:「……うん」
その声は、いつもより少しだけ静かだった。
俺は彼女の表情を見つめた。
何か考えているように見えたが、無理に尋ねることはしなかった。
◇
午後6時。
夕食後、俺たちは海の見えるベンチに座った。
今日は、ミオが俺の袖をつまむ前に、俺から少しだけ距離を詰めた。
肩が触れそうな位置。
ミオは驚いたように俺を見た。
ユウキ:「……寒いかなと思って」
我ながら、苦しい言い訳だった。
ミオは少し笑った。
ミオ:「うん。今日は寒いね」
彼女は俺の袖を軽くつまんだ。
俺は、もう何も言わなかった。
ただ、隣にいる時間を大切にしたかった。
◇
夜。
自室へ戻った俺は、今日の調査結果を整理した。
『番号訂正理由書Bは、04班の紙製保管袋に関係』
『外装単位の登録から、内容物ごとの登録へ訂正』
『旧外装番号は参照用として保持』
『別紙照合表が存在』
『作成責任者:早川恵子』
『確認者:水瀬真紀』
『INFO-025:60,000円、未購入』
俺は、古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
12年前、誰かが書いた言葉。
誰かが託した品物。
そして、事務室に残された記録。
少しずつ、線がつながり始めている。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『訂正理由書を確認しましたね。』
続けて、文章が表示される。
『写真と手紙は、事務室で別々に保管されました。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『ですが、どちらも、受取予定者へ渡されることを前提に残されたものです。』
俺は静かに息を吐いた。
12年前、誰かが渡そうとしたもの。
その品物は、事務室で終わったわけではない。
俺たちは、まだその先を追える。
DAY41。
訂正理由書の空白に、ようやく道が見えた。
次に探すのは、写真と手紙が分けられたあとの保管先だ。
第1章 第47話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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