第1章 第46話「消された番号」
DAY40。
午前7時21分。
昨夜の匿名メッセージを読み返しながら、俺はノートに一本の線を引いた。
『受付A――受付B――紙製保管袋』
12年前の交流会で、ある子どもが水瀬真紀に紙製品を預けた。
その後、受取予定者の移動予定が変わり、未交付品が職員間で引き継がれた。
さらに、04班の紙製保管袋は青い部屋から事務室へ移され、写真関連と書簡関連に分けられている。
ここまでは記録で確認できた。
だが、最初に預かった品物と、事務室へ運ばれた袋が同じものなのか。
そこを結ぶ管理番号が、まだない。
俺はノートの線を消し、代わりに点線を引いた。
つながっていると証明できるまで、実線にはしない。
◇
午前8時。
食堂の窓際には、今日もミオがいた。
ミオ:「おはよう、ユウキ」
ユウキ:「おはよう。今日は少し寒いな」
ミオ:「うん。温かいお茶、飲む?」
彼女が差し出したのは、まだ湯気の立つカップだった。
ユウキ:「ありがとう。ミオの分は?」
ミオ:「こっちにあるよ」
テーブルには、同じカップが2つ。
俺は隣に座った。
最近、ミオが俺の分まで用意してくれることが増えた。
嬉しい反面、何も返せていない気もする。
ユウキ:「明日は俺がお茶を用意するよ」
ミオ:「本当?」
ユウキ:「うん。何が好き?」
ミオ:「ユウキが選んでくれたものでいいよ」
俺はカップを持ったまま固まった。
それは、なかなか難しい注文ではないだろうか。
ミオは楽しそうに笑っていた。
◇
午前9時。
資料閲覧室。
シオンが昨日の受付記録を画面に表示した。
シオン:「今日は管理番号の索引を探そう。INFO-023を買うのは、そのあとでいい」
リナ:「個別記録は非公開でも、帳簿の構成は公開されているかもしれない」
俺たちは資料の目次から調べ始めた。
交流会当日の受付簿。
職員間引継ぎ対応表。
事務室の一時保管台帳。
それぞれ別の帳簿だ。
しかも、作成した部署が違う。
ソウタ:「同じ品物でも、部署が変われば番号が変わることはある」
ユウキ:「じゃあ、受付Aの番号を見つけても、事務室の番号とは一致しないかもしれないのか」
ソウタ:「そういうこと。だから対応表が必要なんだ」
俺は頷いた。
番号そのものより、番号がどう引き継がれたか。
そこを追わなければならない。
◇
午前10時。
リナが、受付簿の公開索引を発見した。
リナ:「あった。個人名はないけど、受付番号の形式が載ってる」
『交流会当日・児童預かり品受付簿』
『受付番号:班番号―受付順』
『職員間引継ぎ時は、別の引継番号を付与する』
続いて、事務室の記録を開く。
『事務室一時保管台帳』
『保管番号:品目分類―登録順』
俺は画面を見比べた。
ユウキ:「受付番号、引継番号、保管番号……全部違うんだな」
シオン:「うん。P-004やD-04とも、番号の体系が別だ」
これまで見つけた番号を、無理に結びつけてはいけない。
俺はノートの端に、番号の種類を整理した。
そのとき、ミオが画面の下を指さした。
ミオ:「ユウキ。ここ、まだ続きがあるよ」
俺は身を乗り出した。
◇
索引の最下部には、次の一文があった。
『旧番号との対応は、移管時に作成する番号対照欄に記載する』
ユウキ:「番号対照欄……!」
シオンも画面をのぞき込む。
シオン:「対応表とは別に、移管時の対照欄があるんだ」
俺たちは、すぐに検索を始めた。
だが、表示されたのは事務室の台帳の一部だけだった。
個人情報に関わる欄は伏せられている。
その中に、04班の紙製保管袋と思われる記録があった。
『旧番号:非公開』
『新番号:非公開』
『外装:紙製保管袋』
『移管元:青い部屋』
『移管先:事務室』
『受領者:早川恵子』
俺は画面を見つめた。
番号は見えない。
だが、旧番号と新番号の対応が記録されていたことは分かった。
◇
午前11時。
レイが、別の欄を見つけた。
レイ:「これ、何だろう」
画面には、事務室台帳の訂正履歴が表示されていた。
『登録内容訂正:1件』
『訂正対象:番号対照欄』
『訂正理由:重複登録の解消』
俺は眉を寄せた。
ユウキ:「重複登録?」
ソウタ:「同じ品物を2回登録した可能性がある。でも、別の品物に同じ番号を付けた可能性もある」
シオン:「訂正前の番号を確認しないと、何が重複したのか分からないね」
俺は、訂正日時を確認した。
紙製保管袋が事務室に移された日の翌日。
受領した当日ではなく、その翌日に訂正されていた。
偶然かもしれない。
だが、調べる価値はある。
◇
正午。
昼食の席で、俺はノートを見ながら考え込んでいた。
ミオが隣から声をかける。
ミオ:「ごはん、冷めちゃうよ」
ユウキ:「あ、ごめん」
俺は慌てて箸を持った。
その瞬間、レンが向かいに座る。
レン:「聞いたぞ。番号が消されてたんだって?」
ユウキ:「消されたというか、訂正されたんだよ」
レン:「なるほど。俺のプリンも、冷蔵庫の記録から消えたことがある」
レイ:「それは僕が食べたからでしょ」
レン:「自白が早い!」
ソウタが淡々と言った。
ソウタ:「その事件はもう解決してる」
レン:「俺の心の中では未解決だ!」
ミオが笑いをこらえながら、俺のノートを閉じた。
ミオ:「調査は食べ終わってからにしよう?」
ユウキ:「……そうだな」
俺は素直に箸を進めた。
◇
午後1時。
資料閲覧室へ戻ると、リナが訂正履歴の運用規則を調べていた。
リナ:「番号を訂正した場合、訂正前の番号は削除しないことになってる」
ユウキ:「じゃあ、残ってる?」
リナ:「うん。訂正履歴として保存する決まり」
俺は画面を見た。
『訂正前番号は履歴に保持する』
『訂正後番号との対応を記録する』
『品物の廃棄・返却を意味するものではない』
俺は静かに息を吐いた。
番号が訂正されても、品物が消えたとは限らない。
むしろ、訂正履歴をたどれば、移管前の記録へ戻れる可能性がある。
俺はノートに書いた。
『訂正前番号を探す』
◇
午後2時。
ナナが、母親の名前がある別の資料を見つけた。
ナナ:「これ……引継ぎ確認の欄に、お母さんの名前がある」
『移管元確認:水瀬真紀』
『移管先受領:早川恵子』
俺は画面を確認した。
04班の紙製保管袋に関する記録だ。
ユウキ:「水瀬さんが、早川さんに引き継いだんだな」
ナナは頷いた。
ナナ:「お母さん、ちゃんと記録を残してたんだ……」
彼女の声には、少し安堵が混じっていた。
だが、俺たちはまだ、品物がその後どうなったのか知らない。
事務室で写真と書簡に分けられたあと、どこへ保管されたのか。
その先を追う必要がある。
◇
午後3時。
シオンが、訂正履歴の公開範囲を調べた。
シオン:「番号そのものは制限されてる。でも、訂正理由の詳細は別の記録になってるみたいだ」
資料名は――
『事務室一時保管台帳・番号訂正理由書』
公開されているのは、表題と作成日だけ。
内容は閲覧制限あり。
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「この理由書に、何が重複したのか書いてあるかもしれない」
リナ:「ただし、紙製保管袋の訂正と同じ案件か、まず確認したいね」
その通りだ。
同じ日の記録だからといって、同じ品物の訂正とは限らない。
俺たちは、理由書の登録番号を控えた。
◇
午後4時。
STORE Xに、新しい項目が表示された。
『INFO-024』
『対象:事務室一時保管台帳・番号訂正理由書』
『価格:40,000円』
『開示範囲:訂正対象の品目分類、訂正理由、訂正前後の番号の対応』
『児童の氏名、品物の本文、受取予定者の氏名は含みません』
俺は価格を見た。
40,000円。
これまでの情報より安い。
だが、今月の生活費が減額されていることに変わりはない。
シオンが言った。
シオン:「これを買えば、訂正の内容は分かる。でも、紙製保管袋と関係があるかは、買う前には確定しない」
俺は頷いた。
情報購入は保留。
まずは、公開されている訂正履歴の登録番号を調べることにした。
◇
午後5時。
調査を終えた俺は、ミオと中庭へ出た。
今日は風が弱く、空がよく晴れていた。
ミオ:「番号って、難しいね」
ユウキ:「うん。全部同じ番号だったら楽なのにな」
ミオ:「でも、別々に管理する理由もあるんだろうね」
俺は頷いた。
子どもたちの名前を守るため。
品物を間違った相手に渡さないため。
そして、あとから行方を確認できるようにするため。
12年前の記録には、そういう仕組みが残っている。
ユウキ:「誰かが残してくれた記録のおかげで、今の俺たちが調べられるんだな」
ミオ:「……そうだね」
彼女は、少しだけ目を細めた。
◇
午後6時。
夕食後、俺たちは海の見えるベンチに座った。
ミオは、昨日と同じように俺の袖を軽くつまんでいる。
俺はもう、驚かなかった。
むしろ、その小さな温もりが嬉しかった。
ユウキ:「ミオ」
ミオ:「なに?」
ユウキ:「明日の朝、お茶を用意するって言っただろ」
ミオ:「うん」
ユウキ:「何がいいか、まだ決められなくてさ」
ミオは少し考えた。
ミオ:「じゃあ、ユウキと同じものがいい」
俺は彼女を見る。
ユウキ:「同じものでいいの?」
ミオ:「うん。一緒に飲みたいから」
心臓が跳ねた。
俺は、しばらく海を見つめた。
ユウキ:「……分かった。任せて」
ミオが笑った。
明日の朝が、少し楽しみになった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の調査結果を整理した。
『受付番号・引継番号・保管番号は別体系』
『04班の紙製保管袋には旧番号と新番号の対応記録が存在』
『事務室台帳に番号訂正履歴あり』
『訂正理由:重複登録の解消』
『訂正前番号は履歴に保持される』
『INFO-024:40,000円、未購入』
俺はノートを閉じかけて、もう一度開いた。
今日、気づいたことがある。
12年前の記録は、すべてが消されたわけではない。
伏せられた名前。
訂正された番号。
別々に保管された写真と手紙。
それらをつなぐ記録が、まだ残っている。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『番号訂正の記録を見つけましたね。』
続けて、文章が表示される。
『訂正されたのは、品物の存在ではありません。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『1つの袋に入っていたものが、2つの記録に分かれたためです。』
俺は静かに息を吐いた。
写真と手紙。
2つの記録。
そして、訂正された番号。
匿名の言葉が正しいかどうかは、まだ分からない。
だが、次に調べるべきものは明確になった。
番号訂正理由書。
その記録が、紙製保管袋と写真、手紙を結ぶ手がかりになるかもしれない。
DAY40。
消されたように見えた番号は、まだ記録の中に残っていた。
俺たちは、その続きを追う。
第1章 第46話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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