第1章 第45話「預かったのは誰だ」
DAY39。
午前7時06分。
俺は、机の上に3枚のメモを並べていた。
『写真――受取予定者不在』
『書簡――返却先確認中』
『04班関係児童1人――交流会終了前に移動』
昨日の調査で、12年前の出来事に時間の流れが生まれた。
交流会が終わる前に、予定を変更して移動した子がいた。
その頃、未交付品が発生している。
そして昨夜、匿名のメッセージが届いた。
『渡せなかったものを、誰かに託していました。』
誰が、誰に、何を託したのか。
今日はそこを調べる。
ただし、匿名の文章を前提にしてはいけない。記録で確認できたことだけを、順番に積み重ねる。
俺はノートを閉じた。
まず探すのは、預かり品の受領記録だ。
◇
午前8時。
食堂に入ると、ミオがいつもの席にいた。
隣には、俺の分の椅子が空いている。
ミオ:「おはよう、ユウキ」
ユウキ:「おはよう。今日も早いな」
ミオ:「ユウキが来る前に、昨日の資料を整理してたの」
彼女の前には、小さなノートが開かれていた。
写真、手紙、紙製保管袋。
それぞれの記録が、矢印で結ばれている。
ユウキ:「すごいな。もう調査が始まってる」
ミオ:「まだ朝ごはんは食べてないよ」
ユウキ:「じゃあ、一緒に食べよう」
俺が隣に座ると、ミオはノートを閉じた。
ミオ:「うん」
たった一言なのに、嬉しそうに聞こえた。
俺は彼女の皿に目を向ける。
卵焼きが2切れ。
俺の皿には1切れ。
別に気にしていたわけではない。
……いや、少し気にしていた。
すると、ミオが俺の皿に卵焼きを1切れ移した。
ユウキ:「えっ、いいの?」
ミオ:「ユウキ、さっきから見てたから」
ユウキ:「見てない! ……いや、見たけど!」
ミオが声を立てて笑う。
向かいの席のレンが、すかさず身を乗り出した。
レン:「俺も見てたんだけど」
ソウタ:「お前は自分で取ってこい」
レン:「同じ視線なのに、この待遇差!」
朝から食堂が少し賑やかになった。
俺は卵焼きを口に運ぶ。
いつもより、おいしい気がした。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、俺、ミオ、シオン、リナ、ソウタ、ナナ、レイが集まった。
今日の目的を説明すると、リナが検索条件を入力した。
『04班』
『未交付品』
『預かり』
表示された資料は12件。
その中に、昨日まで見ていなかった項目があった。
『交流会当日・児童預かり品受付簿』
シオン:「これだね。職員が受け取った時点の記録だ」
詳細を開く。
個人名は伏せられていたが、受付方法は公開されていた。
『受付区分:児童からの直接預かり』
『担当職員:水瀬真紀』
『品目:紙製品』
『備考:後刻交付予定』
ナナが画面に顔を近づけた。
ナナ:「お母さんが直接受け取ってる……」
ユウキ:「昨日見つけた書簡の記録と関係があるかもしれないな」
ソウタ:「ただし、紙製品という分類は広い。手紙とも写真とも限らない」
俺は頷いた。
見つけた記録を、都合よく同じ品物に結びつけるのは危険だ。
まずは受付時刻を調べることにした。
◇
午前10時。
リナが当日の受付記録を時刻順に並べた。
04班の紙製品は、午後に2件登録されていた。
『受付A:児童からの直接預かり』
『受付B:職員間引継ぎ』
どちらも担当欄には、水瀬真紀の名前がある。
ユウキ:「2件……?」
シオン:「最初に子どもから預かって、そのあと職員間で引き継いだ可能性もある。でも、同じ品物かは分からない」
俺はノートにAとBを書いた。
受付Aには『後刻交付予定』。
受付Bには『交付保留品』。
似ているようで、意味が違う。
ナナが腕を組んだ。
ナナ:「お母さん、あの日ずっと忙しそうだった気がする」
ユウキ:「覚えてる?」
ナナ:「うん。何かを渡してほしくて話しかけたら、『あとでね』って言われたような……」
ナナはそこで言葉を止めた。
ナナ:「でも、私が渡したかったのが手紙だったか、写真だったかは分からない」
ユウキ:「そのままでいいよ。無理に決めなくて」
彼女は小さく頷いた。
◇
午前11時。
レイが、受付Bの関連資料を見つけた。
レイ:「職員間引継ぎの手順書がある」
画面には、次のように書かれていた。
『児童からの預かり品を別の職員へ引き継ぐ場合、元の受付番号を記載する』
『複数の品物を一括して引き継ぐ場合、外装単位で受付番号を付す』
俺は顔を上げた。
ユウキ:「外装単位……紙製保管袋か!」
シオンが頷く。
シオン:「受付AとBの番号がつながれば、子どもから預かった品物が、どの袋に入ったか追えるかもしれない」
俺たちは受付番号の欄を確認した。
だが、そこは非公開だった。
名前だけでなく、番号まで伏せられている。
俺は椅子にもたれた。
また、あと一歩のところで止まった。
◇
正午。
昼食の時間。
俺はミオと食堂へ向かった。
彼女はトレーを持ちながら、少し考え込んでいた。
ユウキ:「どうした?」
ミオ:「受付AとBが同じ品物なら、途中で誰かが袋に入れたことになるよね」
ユウキ:「そうだな」
ミオ:「その人が、渡そうとした本人とは限らない」
俺は足を止めた。
確かにそうだ。
子どもが手紙を職員へ渡した。
職員が袋へ入れた。
別の職員が事務室へ運んだ。
そういう流れなら、記録に出てくる「預かった人」と「託された人」は複数いる。
ユウキ:「誰から誰へ渡ったのか、分けて考えないとな」
ミオ:「うん」
彼女が微笑む。
俺は、少しだけ見とれた。
するとミオが首を傾げた。
ミオ:「……ユウキ?」
ユウキ:「あっ、いや。何でもない」
ミオ:「今日も考え事?」
ユウキ:「まあ、そんなところ」
正確には、考え事が1つ増えたところだ。
もちろん、口には出さなかった。
◇
午後1時。
俺たちは受付AとBの記録を、もう一度比較した。
すると、リナが備考欄の小さな違いに気づいた。
リナ:「受付Aには『後刻交付予定』。Bには『受取予定者不在』って追記されてる」
ユウキ:「途中で状況が変わったんだ」
シオンが時刻を確認する。
シオン:「Aは交流会の途中。Bは、移動予定が変更されたあとだね」
俺はノートに時系列を書いた。
『児童から紙製品を預かる』
↓
『受取予定者の移動予定が変更』
↓
『職員間で交付保留品を引き継ぐ』
この流れは、記録上確認できる。
ただし、AとBが同じ品物であることは、まだ証明できない。
俺は2つの記録の間に、点線を引いた。
◇
午後2時。
ナナが、ふいに声を上げた。
ナナ:「あ……!」
俺たちは彼女を見た。
ナナ:「思い出したかもしれない。お母さんに何かを渡した子、私じゃなかった」
ユウキ:「別の子?」
ナナ:「うん。私、その子の隣にいたんだと思う」
ナナは目を閉じた。
ナナ:「その子が『お願い』って言って、お母さんに渡して……私は、ちゃんと渡してもらえるか気になってた」
俺は静かに尋ねた。
ユウキ:「その子の名前は?」
ナナはしばらく考えたあと、首を横に振った。
ナナ:「ごめん。そこはまだ……」
俺は頷いた。
ナナが隣にいた。
別の子が、母親へ何かを渡した。
それだけでも、昨日までとは違う記憶だ。
俺は彼女の言葉を、断定せずに書き留めた。
◇
午後3時。
シオンが、受付簿の末尾に関連資料への案内を見つけた。
『児童預かり品・職員間引継ぎ対応表』
俺たちは一斉に画面を見た。
資料の存在は公開されている。
だが、内容は閲覧制限あり。
公開項目には、こう書かれていた。
『受付Aと受付Bの対応関係を記載』
『元の預かり品と引継ぎ外装を照合』
『個人名は別管理』
ユウキ:「これなら、同じ品物かどうか確認できる!」
ソウタが頷く。
ソウタ:「名前を明かさず、管理番号だけで照合できるようになってるんだな」
俺は画面を見つめた。
12年前の記録は、ただ隠されているわけではない。
子どもたちの個人情報を守りながら、品物の行方を追えるように作られている。
その仕組みを、俺たちは少しずつ理解し始めていた。
◇
午後4時。
STORE Xに、新しい情報項目が表示された。
『INFO-023』
『対象:04班・児童預かり品職員間引継ぎ対応表』
『価格:50,000円』
『開示範囲:受付A・受付Bの対応関係、品目分類、引継ぎ先』
『児童の氏名、品物の本文、受取予定者の氏名は含みません』
50,000円。
これまでの情報より安い。
だが、今月の生活費は減額されている。
俺たちは、その場で購入を決めなかった。
シオン:「これを買えば、AとBが同じ品物か確認できる。でも、名前は分からない」
リナ:「今は、ほかの無料記録から対応関係を探せないか調べたい」
ユウキ:「うん。まだ時間はある」
全員が頷いた。
焦って情報を買えば、生活そのものが苦しくなる。
この島では、真相を追うことと、生きていくことを両立しなければならない。
◇
午後5時。
調査を終え、俺はミオと中庭を歩いていた。
空は少し曇っている。
海から吹く風が、昼間より冷たかった。
ミオ:「今日は、預かり品の流れが少し分かったね」
ユウキ:「うん。子どもから職員へ渡されて、そのあと引き継がれた可能性がある」
ミオ:「誰かに託すって、簡単なことじゃないよね」
俺は彼女を見る。
ミオ:「ちゃんと届くって、信じないといけないから」
その言葉が、胸に残った。
12年前、誰かが水瀬真紀に品物を預けた。
きっと、届けてくれると信じて。
だが、予定が変わり、受取予定者はいなくなった。
ユウキ:「……その子、渡せなかったことをずっと気にしてたのかな」
ミオ:「気にしていたかもしれないね」
彼女はそれ以上、何も言わなかった。
俺も、続きを尋ねなかった。
◇
午後6時。
食堂で夕食を取ったあと、俺はミオと建物の外へ出た。
風が強くなっていた。
ミオ:「ちょっと寒いね」
ユウキ:「そうだな。戻る?」
ミオ:「もう少しだけ、歩きたい」
俺は頷いた。
彼女の歩幅に合わせて、ゆっくり歩く。
しばらくして、ミオが俺の袖を軽くつまんだ。
ミオ:「……こうしててもいい?」
俺は一瞬、返事を忘れた。
彼女の指先が、俺の袖をつかんでいる。
たったそれだけなのに、心臓がうるさい。
ユウキ:「もちろん」
ミオは小さく笑った。
俺たちは、そのまま並んで歩いた。
手をつないだわけじゃない。
それでも、今までより少しだけ近い距離だった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、ノートを開いた。
『04班・紙製品の受付記録は2件』
『受付A:児童からの直接預かり』
『受付B:職員間引継ぎ』
『両者の対応関係は未確認』
『INFO-023:50,000円、未購入』
ナナの記憶も書き加える。
『ナナの隣にいた子が、水瀬真紀へ何かを渡した可能性』
そして、古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
この言葉を書いた子は、何を託したのだろう。
写真か。
手紙か。
それとも、別のものか。
俺が考えていると、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『受付Aと受付Bの記録を見つけましたね。』
続けて、文章が表示される。
『最初に預かった職員は、約束を破ったわけではありません。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『渡せなくなったあとも、その品物を捨てずに残しました。』
俺は静かに息を吐いた。
水瀬真紀が預かったもの。
そして、早川恵子が事務室で受け取った紙製保管袋。
この2つを結ぶ記録が見つかれば、12年前の品物の行方は、もう少し明確になる。
DAY39。
誰かが託したものは、そこで消えたわけではなかった。
俺たちは、その続きを探している。
第1章 第45話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
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果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
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