第1章 第44話「届かなかった理由」
DAY38。
午前7時12分。
俺は、昨夜届いた匿名メッセージをノートに書き写していた。
『その手紙は、差出人本人から担当職員へ渡されました。』
『受取予定者は、当日、その場所にはいませんでした。』
当日、その場所にいなかった。
その一文が、ずっと引っかかっている。
写真の配布保留記録にも、受取予定者不在と書かれていた。
だが、2つの記録が同じ人物を指しているとは限らない。
そもそも、匿名メッセージの内容は運営が保証した情報ではない。
今日確かめたいのは、書簡が未交付になった経緯だ。
誰が、いつ、どこで受け取る予定だったのか。
名前が分からなくても、記録から追えることはあるはずだ。
◇
午前8時。
食堂に入ると、いつもの窓際の席にミオがいた。
俺に気づくと、彼女は隣の椅子を少し引いた。
ミオ:「おはよう、ユウキ」
ユウキ:「おはよう。今日も席、ありがとう」
ミオ:「もう、ここが定位置みたいだね」
ユウキ:「そうだな」
俺が座ると、ミオは少しだけ嬉しそうに笑った。
最近、彼女と朝食を取る時間が楽しみになっている。
この島に来たばかりの頃は、誰がXなのかということばかり考えていた。
もちろん、今も忘れたわけじゃない。
ただ、疑うことだけで1日を終えたくはなかった。
ミオ:「今日は、手紙が渡されなかった理由を調べるんだよね?」
ユウキ:「うん。未交付になった日時が分かれば、写真の記録とも比較できる」
ミオ:「じゃあ、私は配布予定の記録を探してみるね」
ユウキ:「助かる」
向かいの席で、レンがパンをかじりながら俺たちを見ていた。
レン:「最近、お前らの会話、完全に朝の夫婦だよな」
ユウキ:「違うから!」
レン:「『今日は何を調べる?』『私はこっちを探すね』。役割分担まで完璧だ」
ミオ:「夫婦って、そういうものなの?」
レン:「少なくとも俺の理想はそう」
ソウタ:「まず相手を探せ」
レン:「朝から現実を突きつけるな!」
ミオが笑った。
俺もつられて笑ってしまう。
こんな何でもないやり取りが、今はありがたかった。
◇
午前9時。
資料閲覧室。
俺たちは、04班の書簡預かり記録を再び開いた。
『差出人確認済み』
『受取予定者確認済み』
『交付状況:未交付』
昨日までに確認できたのは、ここまでだ。
シオンが別の資料を表示する。
シオン:「書簡の交付手順を調べてみた。受取予定者が不在だった場合、理由を記録することになってる」
リナ:「理由の分類は?」
シオン:「欠席、早退、移動済み、その他。少なくとも手順書には、この4つがある」
俺は画面を見つめた。
受取予定者不在。
それだけでは、何が起きたのか分からない。
その子が交流会を欠席したのか。
途中で帰ったのか。
それとも、施設から別の場所へ移っていたのか。
理由によって、探すべき記録は変わる。
◇
午前10時。
ミオが、交流会当日の進行表を見つけた。
ミオ:「ユウキ、これ」
『04班 交流会当日予定』
『午前:共同制作』
『午後:写真撮影・記念品配布』
『終了前:私物返却・書簡交付』
俺は時刻を確認した。
写真撮影と、手紙の交付。
どちらも午後に予定されていた。
ユウキ:「写真と手紙が同じ日に渡される予定だったことは分かるな」
ミオ:「うん。でも、実際に何時に渡そうとしたかは別の記録だね」
彼女の指が、画面の下部を示した。
『当日変更事項は、進行変更記録を参照』
俺はその文字をノートに書いた。
新しい調査対象だ。
◇
午前11時。
進行変更記録は、無料で閲覧できた。
ただし、個人名は伏せられている。
『04班 午後の進行変更』
『写真配布:一部保留』
『書簡交付:一部保留』
『理由:対象児童の移動予定変更』
俺は思わず声を上げた。
ユウキ:「移動予定変更……!」
シオンが画面を確認する。
シオン:「これは大きいね」
ソウタ:「欠席したとは書かれていない。予定が変わったことで、交付できなくなった可能性がある」
ナナ:「移動って、施設から別の場所に行くこと?」
リナ:「この記録だけでは断定できないけど、閉鎖前後の資料と照合する価値はある」
俺は頷いた。
昨日の匿名メッセージには、受取予定者がその場所にいなかったと書かれていた。
今日見つかった記録は、その言葉と矛盾しない。
ただし、写真と書簡が同じ子どもに宛てられていたかどうかは、まだ分からなかった。
◇
正午。
昼食の時間。
俺はトレーを持って席へ向かった。
ミオが先に座っている。
隣に座ろうとした瞬間、俺のトレーが少し傾いた。
ユウキ:「うわっ」
ミオがすぐに手を伸ばし、コップを押さえてくれた。
ミオ:「危なかったね」
ユウキ:「ありがとう。助かった」
ミオ:「昨日はユウキが私の飲み物を持ってくれたから、お返し」
彼女は笑った。
俺は、少しだけ照れくさくなる。
ユウキ:「じゃあ、次は俺がお返しする番だな」
ミオ:「ふふ。ずっと続いちゃうね」
その言葉が、妙に心に残った。
ずっと。
この島を出たあとも、そんなふうに笑い合えたら。
そこまで考えて、俺は慌てて箸を取った。
今は調査中だ。
余計なことを考えている場合じゃない。
……いや、余計なことなのか?
自分でも分からなくなった。
◇
午後1時。
俺たちは、移動予定変更の記録を調べ始めた。
閉鎖時の児童移動記録には、個人名や移動先が伏せられている。
ただし、当日の手続きに関する情報は一部公開されていた。
『04班関係児童』
『移動時刻変更:1件』
『当初予定:交流会終了後』
『変更後:交流会終了前』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「交流会が終わる前に、移動した子がいたんだ」
リナが頷く。
リナ:「その子が写真や手紙の受取予定者だった可能性はある」
シオン:「でも、まだ結びつける記録がない。ここは分けて考えよう」
俺はノートに書き加えた。
『04班関係児童1人、交流会終了前に移動』
『未交付品との関係:未確認』
また1つ、12年前の時間の流れが見えてきた。
◇
午後2時。
ナナが、画面を見つめながら呟いた。
ナナ:「……少し、思い出したかもしれない」
俺たちは彼女を見る。
ナナ:「交流会の日、途中で帰っちゃった子がいた気がする」
ユウキ:「どんな子?」
ナナ:「女の子……だったと思う。でも、顔は思い出せない」
ナナは眉を寄せた。
ナナ:「その子がいなくなってから、誰かが『まだ渡してない』って言ってたような……」
俺の胸が、強く鳴った。
ユウキ:「写真を?」
ナナ:「分からない。手紙かもしれないし、別のものかもしれない」
彼女は申し訳なさそうに首を振る。
ナナ:「ごめんね。曖昧で」
ユウキ:「謝らなくていいよ。12年前のことだし」
俺は、彼女の言葉をそのままノートに記した。
女の子。
途中で帰った。
まだ渡していないもの。
どれも確定した事実ではない。
だが、記録と照らし合わせる手がかりにはなる。
◇
午後3時。
シオンが、進行変更記録の関連資料を開いた。
『04班 未交付品発生報告』
俺は画面に近づいた。
公開されている項目には、こう書かれていた。
『発生時刻:交流会終了前』
『発生理由:受取予定者の予定変更』
『対応:担当職員へ引継ぎ』
『担当:水瀬真紀』
俺は息をのんだ。
ユウキ:「水瀬真紀……!」
ナナの母親だ。
写真と手紙の記録にも、その名前が残っている。
シオンが慎重に言った。
シオン:「これで、少なくとも04班の未交付品が、交流会終了前の予定変更に関係していたことは確認できた」
ソウタ:「ただし、この報告に含まれる品物の内訳は非公開だ」
俺は頷いた。
写真と手紙の両方なのか。
それとも、どちらか一方なのか。
まだ分からない。
◇
午後4時。
STORE Xの端末に、新しい情報項目が表示された。
『INFO-022』
『対象:04班 未交付品発生報告・詳細』
『価格:80,000円』
『開示範囲:発生時刻、対象品目、引継ぎ経路』
『児童の氏名、移動先、書簡本文は含みません』
俺は価格を見て、ため息をついた。
ユウキ:「80,000円か……」
シオンが腕を組む。
シオン:「INFO-020は90,000円。INFO-021は70,000円。全部買うのは現実的じゃないね」
リナ:「今は無料資料で分かることを優先しよう」
俺たちは購入を保留した。
残された生活費を考えれば、簡単に使える金額ではない。
それに、情報を買ったからといって、名前が分かるわけでもない。
◇
午後5時。
調査を終えた俺は、資料閲覧室の前でミオと並んで歩いていた。
ミオ:「今日は、少し時間がつながったね」
ユウキ:「うん。交流会の途中で移動した子がいた。未交付品も、その頃に発生してる」
ミオ:「でも、誰のことかはまだ分からない」
ユウキ:「そうだな」
俺は少し考えてから、彼女に聞いた。
ユウキ:「ミオは、子どもの頃に誰かと別れたことってある?」
彼女は、少しだけ歩く速度を落とした。
ミオ:「あるよ」
ユウキ:「そっか」
ミオ:「会えなくなるって分かっていても、ちゃんとお別れできないこともあるよね」
俺は頷いた。
ユウキ:「……うん」
12年前。
俺も、誰かに何かを渡せないまま別れたのだろうか。
それとも、渡されるはずだったものを受け取れなかったのだろうか。
俺は、まだ思い出せない。
◇
午後6時。
夕食後、俺はミオと中庭のベンチに座っていた。
夕焼けが、海の向こうへ沈みかけている。
しばらく、2人とも何も話さなかった。
沈黙が気まずくない。
それが、少し不思議だった。
ミオ:「ユウキ」
ユウキ:「ん?」
ミオ:「今日は、疲れてない?」
ユウキ:「少し。でも、ミオと話してると落ち着く」
口にしてから、俺は彼女を見た。
ミオは少し驚いた顔をしていた。
そして、ゆっくり笑った。
ミオ:「……私も」
風が吹いた。
彼女の髪が、俺の肩に触れる。
俺は、今度は慌てなかった。
ただ、隣に座っていた。
もう少しだけ、この時間が続けばいい。
そう思った。
◇
夜。
自室へ戻った俺は、ノートを開いた。
『04班関係児童1人、交流会終了前に移動』
『未交付品発生:交流会終了前』
『理由:受取予定者の予定変更』
『担当:水瀬真紀』
『写真・書簡との対応関係は未確認』
俺は、古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
12年前、誰かがこの言葉を書いた。
誰かが、何かを渡そうとした。
そして、受け取れなかった誰かがいた。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『受取予定者が交流会終了前に移動したことを確認しましたね。』
続けて、文章が表示される。
『その子は、約束を忘れていたわけではありません。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『渡せなかったものを、誰かに託していました。』
俺は、古い手紙を握りしめそうになり、慌てて力を緩めた。
誰かに託したもの。
写真なのか。
手紙なのか。
それとも、まだ知らない別の品物なのか。
匿名の言葉だけでは決められない。
だが、次に調べるべき記録は見えてきた。
未交付品を、誰が、誰から預かったのか。
DAY38。
届かなかった理由は、少しずつ明らかになってきた。
次は、その品物を託された人物を探す。
第1章 第44話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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