第1章 第6話「13人の自己紹介」
黒い封筒を持ち込んだ参加者について。
その情報の価格は、100,000円。
画面に表示された金額を見て、俺とヒナはしばらく黙っていた。
ヒナ:「……高いね」
ユウキ:「高いな」
ヒナ:「私、カメラのレンズが欲しいんだけど」
ユウキ:「俺は来月の生活費が欲しい」
そもそも、この島では毎月100,000円の生活費が支給される。
情報を1つ買うだけで、その全額が消える計算だ。
しかも、開示されるのはあくまで「黒い封筒を持ち込んだ参加者について」。
名前を教えてくれるとは書かれていない。
俺は端末を閉じた。
ユウキ:「今は買わない。写真のほうを調べよう」
ヒナ:「うん。でも、腕時計だけで誰かを決めつけるのは嫌だな」
ユウキ:「俺もそう思う」
写真に写った人物の手首には、細い腕時計があった。
同じような時計を今日、誰かがつけていた気がする。
だが、誰だったかは思い出せない。
それに、腕時計なんて似たものがいくらでもある。
この写真だけで誰かを疑うのは、危険だ。
俺はヒナに頼み、元の画像を保存してもらった。
そのとき、共有リビングのほうからレンの声が聞こえてきた。
レン:「みんなー! ちょっと集まってくれー!」
何事だろう。
俺とヒナは顔を見合わせ、声のするほうへ向かった。
◇
共有リビングには、すでに何人かが集まっていた。
レンはテーブルの前に立ち、妙に張り切った顔をしている。
レン:「はい! 緊急企画!」
ソウタ:「その言い方をやめろ。何か事件が起きたのかと思うだろ」
レン:「事件は起きてるだろ。俺たち、名前しか知らないんだぞ?」
レンは全員を見渡した。
レン:「365日も一緒に暮らすんだし、ちゃんと自己紹介しようぜ!」
確かに。
俺たちは昨日から、何度も話し合いをしている。
なのに、知っているのは名前と、会話の中で出てきたわずかな情報だけだ。
相手のことを知らないまま疑い合えば、余計な誤解も生まれる。
ハルカ:「いいと思う。生活するうえでも、お互いのことを知っておきたいし」
アカリ:「賛成! 自己紹介って、なんか新学期みたいだね!」
カイト:「新学期にしては、ずいぶん物騒だけどな」
全員が集まったところで、レンが手を叩いた。
レン:「じゃあ、名前、前に何してたか、好きなもの! この3つでどう?」
シオン:「話したくないことは話さなくていい、という条件もつけよう」
レン:「もちろん!」
レイ:「それなら参加するよ」
13人が円になるように座った。
俺はミオの隣の椅子を引く。
彼女は小さく会釈してくれた。
船で初めて会ったときから、不思議と話しやすい相手だった。
それがなぜなのかは、まだ分からない。
◇
レン:「じゃあ、言い出しっぺの俺から!」
レンが勢いよく立ち上がる。
レン:「一ノ瀬レン! 20歳! 元ホスト! 好きなものは楽しいことと、女の子の笑顔!」
アカリ:「うわ、自己紹介がホストっぽい!」
レン:「元だから! 今はただの好青年だから!」
ソウタ:「自称だな」
レン:「お前、俺にだけ厳しくない?」
笑いが起きる。
レンは胸に手を当て、芝居がかったお辞儀をした。
レン:「みんな、365日よろしく!」
次に立ったのはソウタだった。
ソウタ:「黒川ソウタ。20歳。大学を中退した。好きなものは読書と、筋道の通った説明」
レン:「嫌いなものは?」
ソウタ:「根拠のない断言」
レン:「俺の自己紹介、ほぼ全否定じゃん!」
ソウタは何も答えず座った。
どうやら、本気で悪気はないらしい。
続いてカイトが立つ。
カイト:「堂島カイト。20歳。前は建設現場で働いてた。体を動かすのが好きだ。力仕事があったら言ってくれ」
ハルカ:「頼もしいね」
カイト:「ただ、細かい作業は苦手だ。家具の組み立てとかは期待すんなよ」
レン:「建設現場で働いてたのに?」
カイト:「建物を造るのと、説明書の図を理解するのは別の才能だ」
カイトは真顔だった。
俺は昨日のソウタの言葉を思い出す。
正確さと即答は別物。
この島では、妙にもっともらしい言葉が増えていきそうだ。
次はレイ。
レイ:「九条レイ。20歳。フリーランスで仕事をしてる。好きなものは静かな場所」
レン:「仕事って、具体的には?」
レイ:「いろいろ」
レン:「いろいろって?」
レイ:「いろいろだよ」
レイは穏やかに微笑んで座った。
結局、何も分からなかった。
ただ、本人が話したくないなら、それ以上聞くべきではないのだろう。
シオン:「藤堂シオン。20歳。大学生。趣味は読書と記録を取ること。よろしく」
シオンは短く頭を下げた。
ヒナ:「記録って、あのノート?」
シオン:「うん。忘れたくないことを書いてる」
アカリ:「すごいね。私、昨日の夕飯も忘れそう」
レン:「昨日の夕飯は?」
アカリ:「……何だったっけ?」
全員が笑った。
シオンまで、少しだけ口元を緩めていた。
◇
男性陣の最後は俺だった。
立ち上がると、12人の視線が集まる。
自己紹介なんて、高校以来かもしれない。
ユウキ:「神崎ユウキ。20歳。今は無職です」
少しだけ間が空いた。
レン:「おお、潔い!」
ユウキ:「そこ褒めるところか?」
笑いが起きる。
ユウキ:「好きなものは……特にこれっていうのはないけど、誰かと普通に話してる時間は好きかな」
口にしてから、自分でも少し驚いた。
昨日までの俺なら、そんなことは言わなかったと思う。
誰かと関わることを、ずっと避けていたからだ。
ユウキ:「365日、よろしく」
席に戻ると、ミオが小さく笑った。
ミオ:「よろしくね、ユウキ」
ユウキ:「うん」
たったそれだけのやり取りなのに、なぜか少し安心した。
◇
アカリ:「じゃあ、女子は私から!」
アカリが元気よく立ち上がった。
アカリ:「桜庭アカリ! 20歳! 元アイドルです! 好きなものは歌うことと、みんなで楽しく過ごすこと!」
ヒナ:「えっ、アイドルだったの!?」
アカリ:「うん。そんなに有名じゃなかったけどね」
レン:「今度、歌ってよ!」
アカリ:「いいよ! でも、ライブのチケット代は取るから!」
レン:「島でも商売する気!?」
アカリは笑いながら座った。
明るい声につられて、リビングの空気も軽くなる。
次はリナ。
リナ:「天宮リナ。20歳。大学生です。数字を見たり、データを整理したりするのが好き。よろしく」
ソウタ:「分析が得意なのか?」
リナ:「得意かどうかは分からないけど、好きだよ」
シオン:「今度、情報を整理するときに協力してもらえると助かる」
リナ:「うん。私でよければ」
リナは落ち着いた様子で座った。
情報を整理する人間が増えるのは、心強い。
ただし、その情報をどう使うかは、また別の問題だ。
続いてナナが立ち上がった。
ナナ:「水瀬ナナです。20歳。フリーターをしてました」
声は小さい。
彼女は少し緊張した様子で、両手を握っている。
ナナ:「好きなものは……甘いものと、静かな場所です。よろしくお願いします」
ハルカ:「よろしくね、ナナちゃん」
アカリ:「今度、一緒にお菓子買いに行こう!」
ナナはほっとしたように笑った。
昨日、12年前という言葉に反応した彼女。
あのときの表情が、少しだけ頭をよぎる。
だが、今ここで聞くことではない。
◇
ヒナ:「次、私!」
ヒナはカメラを首から下げたまま立ち上がった。
ヒナ:「小鳥遊ヒナ! 20歳! 専門学校に通ってます! 写真を撮るのが大好きです!」
彼女はカメラを掲げた。
ヒナ:「この島のことも、いっぱい撮りたいなって思ってる!」
カイト:「俺も何枚か撮られたな」
ヒナ:「うん! カイトくん、海が似合うから!」
レン:「俺は?」
ヒナ:「レンくんは、動かないでくれたら似合うと思う!」
レン:「俺、写真のために呼吸止めるべき?」
ユウキ:「そこまでしなくていい」
ヒナは楽しそうに笑い、席へ戻った。
彼女の写真が、昨日の封筒を見つける手がかりになった。
本人はただ好きで撮っていただけなのに。
何が役に立つか、分からないものだ。
次に立ったのはハルカだった。
ハルカ:「橘ハルカ。20歳。前は会社で働いてました。料理をするのが好きです」
カイト:「おお、料理できるのか!」
ハルカ:「普通の家庭料理ならね。みんなで作る機会があったら、手伝いたいな」
レン:「俺、食べる係やる!」
ソウタ:「それは全員できる」
レンが胸を押さえた。
レン:「俺の存在意義が……」
ハルカは困ったように笑った。
面倒見のよさが、短い自己紹介からも伝わってくる。
続いてセナ。
セナ:「相沢セナ。20歳。看護の勉強をしています。好きなものは、散歩と温かい飲み物です」
カイト:「体調悪くなったら相談してもいいか?」
セナ:「私に分かる範囲なら。でも、まだ勉強中だから、ちゃんと医療スタッフにも相談してね」
セナは柔らかく微笑んだ。
昨日も救急用品を持っていたし、準備のいい人なのだろう。
365日も共同生活をするなら、こういう人がいてくれるのはありがたい。
◇
最後に、ミオが立ち上がった。
ミオ:「白石ミオです。20歳」
彼女は全員を見渡した。
ミオ:「好きなものは、読書と、海を眺めること。あまり自分から話すのは得意じゃないけど、よろしくお願いします」
アカリ:「ミオちゃん、落ち着いてるよね!」
ミオ:「そうかな?」
レン:「うん。なんか、みんなのお姉さんって感じ」
ミオ:「同い年だよ?」
ミオが小さく笑う。
その笑顔を見たとき、俺はまた妙な懐かしさを覚えた。
船で初めて会ったときと同じ感覚。
どこかで会ったことがある。
でも、思い出せない。
白石ミオ。
その名前を、俺は心の中で繰り返した。
◇
全員の自己紹介が終わると、レンが満足そうに頷いた。
レン:「よし! これでだいぶ仲良くなったな!」
ソウタ:「名前と職業と好きなものを知っただけだ」
レン:「お前、今日くらい素直に喜べよ!」
レンが笑う。
アカリもヒナも笑っていた。
俺も、つられて笑った。
昨日まで、名前しか知らなかった12人。
今は少しだけ、その人となりが見えた気がする。
もちろん、自己紹介だけで相手のすべてが分かるわけじゃない。
話していないこともある。
話したくないこともある。
俺だって、父さんの事件については話さなかった。
それは、ほかの12人も同じなのかもしれない。
そのとき、シオンがノートを閉じた。
シオン:「最後に、1つだけ確認しておきたい」
笑い声が収まる。
シオン:「今日の自己紹介で話したことは、今のところ本人の申告にすぎない。だから、今後の判断材料にはしても、証明された事実として扱わないほうがいいと思う」
ソウタ:「同感だ」
レン:「……自己紹介のあとに言うことか、それ?」
また笑いが起きた。
だが、シオンの言葉は正しかった。
この島では、誰かの言葉を信じることと、その言葉が事実だと確認することは違う。
それでも。
俺は、今日の自己紹介を無駄だったとは思わなかった。
疑うためにも、まず相手を知らなければならない。
そして、信じるためにも。
◇
夜。
自室に戻った俺は、机の上に昨日の黒い封筒を置いた。
『あなたの父親は、1億円を盗んでいない。』
あの言葉は、まだ誰にも話していない。
今日の自己紹介で、俺は無職だと話した。
でも、父さんの事件については話さなかった。
隠していることがあるのは、俺も同じだ。
俺は端末を開き、今日の出来事をメモに残した。
『DAY2』
『参加者13人の自己紹介を実施』
『黒い封筒を持ち込んだのは、参加者のうち1人』
『写真には腕時計をつけた人物が写っている』
『INFO-003は100,000円。未購入』
最後に、もう1行を書き加える。
『全員に、まだ知らない過去がある』
保存ボタンを押した直後、端末が震えた。
『STORE Xよりお知らせ』
新しい情報商品が追加されたらしい。
俺は何気なく画面を開いた。
『INFO-004:参加者の自己紹介について』
思わず手が止まる。
今日、俺たちが話したばかりのことだ。
商品説明には、こう書かれていた。
『本商品では、DAY2に実施された自己紹介について、確認済みの情報を1件開示します』
価格は、30,000円。
俺は画面を見つめた。
自己紹介についての情報?
誰かが話した内容に、確認すべきことがあるのか。
それとも、単に参加者の経歴を調べられるというだけなのか。
分からない。
だが、商品名を見た瞬間、昼間のシオンの言葉がよみがえった。
『本人の申告にすぎない』
俺はベッドに腰を下ろした。
今日、俺たちは少しだけ仲良くなれたと思った。
けれど、この島は、そんな小さな安心さえ簡単には許してくれないらしい。
13人の自己紹介。
その中に、俺たちがまだ知らない何かがある。
そして、それを知るためにも金が必要だという。
ユウキ:「……自己紹介まで有料コンテンツにするなよ」
誰もいない部屋で、思わずつぶやいた。
笑ってしまいそうな話だった。
だが、端末に表示された30,000円という数字は、いつまでも消えなかった。
DAY2。
第1回投票まで、あと28日。
俺たちはまだ、互いの名前を知ったばかりだった。
第1章 第6話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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