第1章 第5話「50,000円の真実」
『黒い封筒の情報を買ってはいけない。』
『その情報を知れば、あなたは最初に疑う相手を間違える。』
俺の端末に届いた非公開メッセージ。
差出人の表示はない。
送信時刻は午後3時17分。
共有リビングでは、シオンが情報商品の共同購入について説明を続けていた。
黒い封筒に関する情報は50,000円。
販売終了まで、あと3時間弱。
買うなと言われれば、余計に買いたくなる。
だが、そう考えること自体が、相手の狙いかもしれない。
ユウキ:「……面倒くさいな」
レン:「何が?」
ユウキ:「いや、こっちの話」
レン:「分かる。50,000円あったら、カレー62杯食えるもんな」
ユウキ:「お前、まだその話してたのか」
レン:「俺たち、カレーでつながった仲だろ?」
ユウキ:「そんな薄い絆、初めて聞いた」
レンは笑った。
俺もつられて笑いそうになったが、端末の画面を見て表情を戻した。
このメッセージを、みんなに見せるべきだろうか。
少なくとも、情報を買うなと警告してきた人物がいる。
それは共有すべき事実だ。
ただし、昨夜届いた父さんに関する封筒まで話すかは、まだ決められない。
俺は手を上げた。
ユウキ:「ちょっといい?」
シオンが説明を止める。
シオン:「どうした?」
ユウキ:「俺の端末に、こんなメッセージが届いた」
画面をモニターへ接続する。
文章が映し出された瞬間、リビングが静かになった。
『黒い封筒の情報を買ってはいけない。』
『その情報を知れば、あなたは最初に疑う相手を間違える。』
カイト:「……誰からだ?」
ユウキ:「分からない。差出人の表示がない」
ソウタ:「個別メッセージか」
ユウキ:「ああ。俺だけに届いたみたいだ」
レイ:「みたい?」
ユウキ:「ほかの人にも届いてるかもしれないから」
レイは頷いた。
レイ:「そうだね。全員に確認しよう」
シオンが参加者たちを見渡した。
シオン:「同じメッセージを受け取った人はいる?」
誰も手を上げなかった。
俺だけ。
なぜ、俺だけなんだ。
◇
ソウタがモニターの文章を指さした。
ソウタ:「このメッセージは、情報が嘘だとは言っていない」
リナ:「うん。『知れば疑う相手を間違える』って書いてあるだけ」
シオン:「事実を知っても、解釈を間違える可能性があるという警告かもしれない」
アカリ:「じゃあ、買ったほうがいいの? 買わないほうがいいの?」
ソウタ:「それを決める材料が足りない」
アカリ:「もう! ソウタくん、いつも正しいこと言うのに結論が出ない!」
ソウタ:「正確さと即答は別物だ」
レン:「名言っぽく言うなよ」
アカリが笑い、少しだけ空気が緩んだ。
だが、シオンは真剣な表情のままだった。
シオン:「1つ提案がある。情報を買う前に、STORE Xへ確認したい」
ユウキ:「何を?」
シオン:「情報商品がどんな形式で提供されるのか。そこを知らないまま50,000円を払うのは危険だ」
確かに。
情報が事実に基づくとしても、内容が曖昧なら意味がない。
俺たちは全員でSTORE Xへ向かうことにした。
◇
STORE Xの奥にある情報端末。
シオンが問い合わせ画面を開いた。
『お問い合わせ内容を入力してください』
彼は短い文章を打ち込む。
『情報商品は、事実と異なる内容を含むことがありますか?』
数秒後、回答が表示された。
『情報商品として提供する記載内容に、虚偽は含まれません』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「じゃあ、買えば本当のことが分かるんだな」
ソウタ:「記載内容が本当だというだけだ。知りたいことへの完全な回答が得られるとは限らない」
ソウタが次の質問を入力した。
『INFO-001を購入すると、黒い封筒を置いた人物の氏名が分かりますか?』
回答が返る。
『購入前に開示内容の詳細をお伝えすることはできません』
レン:「うわあ。そこは教えてくれないんだ」
カイト:「商売上手だな」
レン:「俺も元ホストだけど、ここまで秘密主義じゃなかったぞ」
アカリ:「比較対象がホストのお店なの?」
レン:「情報を売るって意味では近くない?」
ソウタ:「かなり遠い」
即答だった。
レンは肩を落とした。
俺はもう1度、端末の回答を見た。
虚偽は含まれない。
だが、開示範囲は購入するまで分からない。
その条件は変わらないらしい。
◇
午後4時。
共有リビングに戻った俺たちは、共同購入の条件を決めた。
INFO-001の50,000円を、希望者で負担する。
購入時は全員が立ち会い、表示された原文をその場で確認する。
購入者が内容を言い換えて伝えることは禁止。
そして、出資しなかった参加者にも、原文を共有する。
最後の条件を提案したのは、ハルカだった。
ハルカ:「お金を出せない人だけ情報を知らないままだと、あとで困ると思うから」
セナも頷いた。
セナ:「生活費は人によって使い方が違うしね」
レイが静かに口を開いた。
レイ:「それなら、出資者には情報以外の利点がないね」
ハルカ:「そうなるね」
レイ:「分かった。それでも出したい人が出せばいい」
誰もが同じ考えではない。
それでも、話し合いは前へ進んだ。
出資を希望したのは、俺、レン、ソウタ、カイト、シオン、リナ、ヒナ、アカリ、レイ、ミオの10人。
1人5,000円。
残る3人、ナナ、ハルカ、セナは出資を見送った。
理由を尋ねる人はいなかった。
生活費の使い方まで、他人に説明する義務はない。
俺は端末で5,000円の支払いを承認した。
残高が減る。
たった5,000円。
けれど、無職の俺には十分な痛手だった。
レン:「ユウキ、顔が死んでるぞ」
ユウキ:「5,000円あればカレーが……」
レン:「6杯とちょっと」
ユウキ:「計算するな。余計につらい」
◇
午後4時28分。
10人分の支払いが完了した。
購入操作を担当するのはシオン。
俺たちは情報端末の前に集まった。
シオンが商品を選択する。
『INFO-001:ホールに置かれた黒い封筒について』
『価格:50,000円』
確認画面が表示された。
『本商品は、確認済みの情報を1件開示します』
『購入後の返金には応じられません』
シオンが俺たちを見渡す。
シオン:「購入するよ」
全員が頷いた。
彼が決定ボタンを押す。
画面が暗転した。
数秒後、白い文字が現れる。
『INFO-001』
『DAY1午前9時42分にホールで撮影された黒い封筒について』
俺は息をのんだ。
封筒を置いた人物。
カードを書いた人物。
それとも、Xの正体に関わる何か。
50,000円の答えが、表示される。
『当該封筒は、参加者13人のうち1人が、島へ持ち込んだものです。』
沈黙。
誰も、すぐには口を開かなかった。
参加者のうち1人。
つまり、あの封筒は運営の係員が用意したものではない。
少なくとも、島へ持ち込んだのは俺たちの誰かだ。
カイト:「……それだけか?」
画面を下へスクロールする。
何もない。
商品は終了していた。
レン:「50,000円で、これだけ!?」
ソウタ:「購入前の説明どおり、情報は1件だ」
レン:「いや、分かってるけどさ!」
レンが頭を抱える。
レン:「俺の5,000円が、たった1文に……!」
ユウキ:「カレー6杯分だな」
レン:「お前まで言うなよ!」
笑いが起きた。
だが、俺は笑いながらも、画面から目を離せなかった。
この情報は、重要だ。
黒い封筒を持ち込んだのは、13人の誰か。
けれど、それがXだとは書かれていない。
持ち込んだ人物と、ホールに置いた人物が同じとも書かれていない。
まして、中のカードを書いた人物が誰なのかも分からない。
俺たちは、1つだけ事実を知った。
そして、その事実によって、疑う相手が13人全員に広がった。
◇
共有リビングへ戻ると、シオンが購入結果をモニターに表示した。
出資しなかった3人にも、原文を確認してもらう。
ナナ:「参加者が持ち込んだんだ……」
セナ:「誰かが、最初から持っていたってことだね」
ハルカ:「でも、どうしてホールに置いたんだろう」
誰も答えられなかった。
そのとき、レイが口を開いた。
レイ:「封筒を持ち込んだ人が、今も中身を持っているとは限らないよね」
シオン:「どういうこと?」
レイ:「誰かに渡した可能性もある。だから、持ち込んだ人物だけを探しても、カードを書いた人にはたどり着けないかもしれない」
ソウタ:「そのとおりだ」
レイは静かに頷いた。
彼の言葉には、妙な説得力があった。
だが、俺は同時に思った。
どうして、そこまで別の可能性を考えるんだ?
単に慎重なだけか。
それとも、何か知っているのか。
疑い始めれば、きりがない。
俺は小さく息を吐いた。
◇
夕方。
話し合いが終わり、参加者たちはそれぞれの部屋へ戻っていった。
俺は廊下で、ヒナに声をかけられた。
ヒナ:「ユウキくん、ちょっといい?」
ユウキ:「どうした?」
ヒナ:「昨日の写真、もう1回見てたんだけどね」
ヒナはカメラの画面を見せてくれた。
例のホールの写真。
黒い封筒と、人影が写っている。
ヒナ:「この写真の前に、連続で何枚か撮ってたの」
ユウキ:「連続で?」
ヒナ:「うん。似たような写真ばっかりだから、ちゃんと見てなかったんだけど」
ヒナが画面を切り替える。
1枚前。
さらに1枚前。
ホールの風景が、少しずつ変わっていく。
そして、ある写真で俺は目を止めた。
黒い封筒が、まだ机の上にない。
代わりに、机の前に立つ人物が写っていた。
その人物の手には、黒い封筒。
ユウキ:「……これ」
ヒナ:「うん。封筒を持ってるよね」
俺は画面を拡大した。
顔は、ほかの参加者の陰になって見えない。
だが、服の一部が写っている。
袖口。
そして、手首につけられた細い腕時計。
どこかで見たことがある。
俺は記憶をたどった。
船の中。
ホール。
食堂。
今日の話し合い。
あの腕時計をつけていたのは――。
ユウキ:「……まさか」
ヒナ:「誰か分かった?」
俺は答えられなかった。
写真の中の腕時計。
それと同じものを、今日の共同購入の場で見ていた。
ただし、腕時計が同じだからといって、本人だとは限らない。
それでも。
俺の中で、ある人物の名前が浮かんでいた。
そのとき、ヒナの端末が震えた。
ヒナ:「あ、通知だ」
彼女が画面を開く。
そして、表情を変えた。
ヒナ:「……え?」
ユウキ:「どうした?」
ヒナは端末を俺に見せた。
『STORE Xよりお知らせ』
『新しい情報商品が追加されました』
『INFO-003:黒い封筒を持ち込んだ参加者について』
『価格:100,000円』
俺は思わず目を見開いた。
100,000円。
生活費1か月分。
だが、今度の商品名は、さっきよりも具体的だった。
黒い封筒を持ち込んだ参加者について。
つまり、誰が持ち込んだのか分かる可能性がある。
ヒナが小さくつぶやいた。
ヒナ:「……これ、私たちが写真を見てたから?」
分からない。
偶然かもしれない。
だが、タイミングが良すぎる。
俺は写真と端末を交互に見つめた。
50,000円を払って、ようやく分かった事実が1つ。
その先を知りたければ、さらに100,000円。
まるで、俺たちがどこまで金を出すのか試されているみたいだった。
そして、俺は気づいた。
このゲームで本当に恐ろしいのは、誰がXなのか分からないことだけじゃない。
真実が、少しずつ売られていることだ。
しかも、買うたびに新しい疑問が生まれる。
俺たちは、いったいいくら払えば、答えにたどり着けるのだろう。
DAY2。
第1回投票まで、あと28日。
13人の疑いは、静かに広がり始めていた。
第1章 第5話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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