第1章 第42話「2つの宛先」
DAY36。
午前7時08分。
俺は昨夜届いた匿名メッセージを読み返していた。
『分けられた理由は、隠すためではありません。』
『渡す相手を、間違えないためです。』
写真と手紙。
青い部屋から事務室へ移された紙製保管袋は、そこで2つの分類に分けられていた。
写真関連と、書簡関連。
その対応関係を記した照合票は存在するが、肝心の管理番号は非公開だ。
俺はノートに書いた。
『同じ袋に入っていたものは、同じ相手に渡す予定だったのか?』
これまで俺は、写真も手紙も自分に宛てられたものだと思いかけていた。
だが、そうとは限らない。
12年前、青い部屋にいた子どもは俺だけではなかった。
◇
午前8時。
食堂に行くと、ミオが2人分の席を確保してくれていた。
ミオ:「おはよう、ユウキ」
ユウキ:「おはよう。席、ありがとう」
ミオ:「今日も一緒に調べる約束だったから」
彼女は当然のように言った。
俺は隣の椅子に腰を下ろす。
昨日も同じ席だった。
たったそれだけなのに、ここが自分の定位置になったようで、少し嬉しい。
ミオ:「昨日の続き、考えた?」
ユウキ:「うん。写真と手紙の宛先が違う可能性を調べたい」
ミオ:「じゃあ、まずは配布記録だね」
ミオが俺のノートをのぞき込む。
長い髪が肩から滑り落ちた。
俺は反射的に、彼女の髪が朝食の皿に触れないよう、皿を少し動かした。
ミオ:「……ありがとう」
ユウキ:「いや、卵焼きが髪につきそうだったから」
ミオ:「ユウキ、よく見てるね」
何気ない一言に、心臓が跳ねた。
ユウキ:「た、たまたまだよ」
ミオは小さく笑い、髪を耳にかけた。
俺はコーヒーに視線を逃がした。
今日も調査開始前から、妙に落ち着かない。
◇
午前9時。
資料閲覧室。
集まったのは、俺、ミオ、シオン、リナ、ソウタ、ナナ、レイの7人だった。
シオンがホワイトボードに、昨日までの情報を書き出す。
『04班・配布保留品』
『紙製保管袋』
『事務室で写真関連と書簡関連に分類』
『内容物分離照合票:非公開』
シオン:「今日は、管理番号を買わずに宛先を調べられるか確認したい」
リナ:「配布先の個人名は伏せられているけど、配布方法なら公開されているかもしれない」
俺たちは写真と書簡の配布手順を調べ始めた。
写真の配布記録。
手紙の返却記録。
施設閉鎖時の引継手順。
似たような資料が大量に表示される。
その中で、ソウタが1件の文書を見つけた。
ソウタ:「これ、04班の記録だ」
『04班 未交付品対応方針』
俺たちは画面をのぞき込んだ。
◇
午前10時。
文書には、こう書かれていた。
『未交付品は、内容物ごとに受取資格を確認する』
『児童本人の所有物と、他児童からの預かり品を区別する』
『同一外装内の品物であっても、受取予定者が同一とは限らない』
俺は最後の文章を読み返した。
ユウキ:「同じ袋でも、宛先が違うことがある……」
シオン:「これは一般的な手順だね。今回の袋の宛先が違うと確定したわけじゃない」
ユウキ:「分かってる。でも、調べる方向は見えた」
俺はノートに2つの欄を作った。
『写真の受取予定者』
『書簡の受取予定者』
これからは、別々に追う。
◇
午前11時。
ナナが、書簡の返却記録を開いていた。
ナナ:「……これ、前に見たDの一覧だよね」
画面には、閉鎖時の私物管理記録が表示されている。
『D:手紙・メモ類』
『合計4点』
『返却済み:2点』
『返却確認なし:2点』
D-04は、その4点のうちの1つだ。
だが、D-04が紙製保管袋に入っていたものかは、まだ分からない。
ナナ:「私、誰かの手紙をお母さんに渡した記憶があるんだけど……」
ユウキ:「うん」
ナナ:「写真と一緒だったかどうか、思い出せない」
俺は頷いた。
ユウキ:「無理に思い出さなくていいよ」
ナナは小さく息を吐いた。
ナナ:「でも、もし私が預かったものなら、ちゃんと届けたかったな」
その言葉に、俺は胸が締めつけられた。
12年前のナナも、まだ8歳だった。
彼女が責任を感じる必要はない。
それでも、渡せなかったものがあるという事実は、今も誰かの心に残っている。
◇
正午。
昼食の時間になった。
レンが食堂で、レイに紙ナプキンを突きつけていた。
レン:「これ、覚えてるな?」
レイ:「……プリンを食べないって書いたやつ?」
レン:「そう。契約書だ」
ソウタ:「まだ持ってたのか」
レン:「重要書類だからな」
レンは真剣な顔で続ける。
レン:「昨日、冷蔵庫のプリンを確認した。無事だった」
レイ:「よかったね」
レン:「だが、俺は気づいた。お前が食べないと約束しただけで、ほかの11人には効力がない」
俺は思わず箸を止めた。
ユウキ:「そこまで考えるなら、もう食べろよ」
食堂に笑いが起きた。
レンはプリンの安全保障について、さらに5分ほど演説した。
俺たちは、その間に昼食を食べ終えた。
◇
午後1時。
資料閲覧室へ戻ると、リナが新しい記録を見つけていた。
リナ:「写真の配布保留記録に、追記がある」
俺は画面を見た。
『04班 配布保留品』
『写真関連:受取予定者不在』
『書簡関連:返却先確認中』
俺は息をのんだ。
ユウキ:「理由が違う……!」
シオンが頷く。
シオン:「写真は受取予定者が不在。手紙は返却先を確認している途中だった」
ソウタ:「少なくとも、同じ理由で一括保留されたわけじゃない」
俺はノートに書き込んだ。
写真は、渡す相手がその場にいなかった。
手紙は、誰へ返すべきか確認していた。
2つの品物は、別々の問題を抱えていた。
◇
午後2時。
レイが、写真の記録を見つめながら口を開いた。
レイ:「家で見た写真のこと、もう少し考えてみたんだ」
ユウキ:「何か思い出した?」
レイ:「写真を入れていた袋に、名前が書いてあった気がする」
俺は身を乗り出した。
ユウキ:「誰の?」
レイ:「……そこまでは思い出せない」
レイは申し訳なさそうに首を振った。
レイ:「でも、袋の文字と写真の裏の文字は、別のものだったと思う」
俺は頷いた。
外装に書かれた名前。
写真の裏に書かれた名前。
それぞれ、意味が違う可能性がある。
写真に写っている人物の名前と、受取予定者の名前も、同じとは限らない。
俺たちは、名前を1つ見つけるたびに、その名前が何を示しているのか確かめなければならない。
◇
午後3時。
ミオが、書簡の返却手順を調べていた。
ミオ:「ユウキ、これを見て」
俺は彼女の隣へ移動した。
画面には、当時の職員向けの説明が表示されている。
『児童から預かった書簡について、差出人と受取予定者が異なる場合は、双方の確認を行う』
『受取予定者が不在の場合、差出人へ返却するか、担当職員が継続保管する』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「手紙を渡せなかったら、書いた子に返すこともあったんだな」
ミオ:「うん。でも、今回どうしたかは分からないね」
彼女は、俺のノートを指さした。
ミオ:「写真と手紙を別々に追うなら、差出人も欄を作ったほうがいいと思う」
俺は頷き、新しく書き加えた。
『書簡の差出人』
『書簡の受取予定者』
ミオが小さく笑う。
ミオ:「これで、少し整理できたね」
ユウキ:「助かった。ミオと一緒だと、見落としが減る気がする」
言ってから、少し照れくさくなった。
ミオは俺を見た。
ミオ:「……私も、ユウキと一緒だと調べやすいよ」
その言葉に、胸が温かくなった。
俺はノートへ視線を戻した。
たぶん、耳が少し赤くなっている。
◇
午後4時。
シオンが全員を集めた。
シオン:「今日分かったことを整理しよう」
ホワイトボードには、2つの欄が並んだ。
『写真関連』
『受取予定者不在』
『書簡関連』
『返却先確認中』
そして、中央に大きく書かれた。
『同じ袋に入っていたが、同じ宛先とは限らない』
俺は頷いた。
これまで、写真の少女と手紙の差出人を同じ人物だと思いかけていた。
だが、記録はそこまで示していない。
俺たちは、まだ名前を知らない。
それでも、調査の進め方は明確になった。
◇
午後6時。
夕食後、俺は中庭でミオと並んで歩いていた。
空は薄い橙色に染まっている。
ミオ:「今日は、少し進んだね」
ユウキ:「うん。名前はまだ分からないけど」
俺は足を止めた。
ユウキ:「俺、ずっと写真の子に会いたいと思ってたんだ」
ミオも立ち止まる。
ユウキ:「でも、手紙を書いた子が別にいたなら、その子のことも知りたい」
ミオ:「……うん」
ユウキ:「12年前の俺が、誰と何を約束したのか。ちゃんと思い出したい」
ミオは少しだけ視線を落とした。
そして、静かに言った。
ミオ:「思い出せるといいね」
俺は頷いた。
風が吹き、彼女の髪が揺れる。
俺は何気なく、その髪を見つめていた。
ミオ:「……どうしたの?」
ユウキ:「いや、髪、きれいだなって」
言った瞬間、俺は固まった。
何を言ってるんだ、俺。
ミオも少し驚いた顔をした。
だが、すぐに柔らかく笑った。
ミオ:「……ありがとう」
彼女は髪を耳にかける。
ミオ:「ユウキに言われると、ちょっと嬉しい」
俺は返す言葉を失った。
夕焼けのせいにできないくらい、顔が熱かった。
◇
夜。
自室へ戻った俺は、ノートを開いた。
『写真:受取予定者不在』
『書簡:返却先確認中』
『写真の受取予定者と、書簡の差出人・受取予定者は未確認』
俺は古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
この手紙は、誰が書いたのだろう。
そして、誰に渡すつもりだったのだろう。
俺は、12年前の青い部屋を思い浮かべた。
2つの引き出し。
白っぽい袋。
そして、まだ思い出せない子どもたち。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『写真と手紙の保留理由が違うことを確認しましたね。』
続けて、文章が表示される。
『写真を渡そうとした人物と、手紙を書いた人物は、同じではありません。』
俺は息をのんだ。
最後の1行。
『あなたが探している約束は、2人の記憶に分かれています。』
俺は端末を伏せた。
匿名の言葉を、証拠として扱うことはできない。
だが、もし本当なら。
俺が思い出そうとしている約束は、1人の少女だけでは完成しない。
写真を渡そうとした人物。
手紙を書いた人物。
そして、12年前の俺。
DAY36。
俺たちは、2つの宛先を追い始めた。
次に探すべきものは、写真の名前だけではない。
手紙の差出人だ。
第1章 第42話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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