第1章 第41話「事務室に残された2つの記録」
DAY35。
午前7時18分。
俺は昨夜の匿名メッセージを、もう一度読み返していた。
『青い部屋から移されたものは、すべて同じ場所に保管されたわけではありません。』
『あなたが探しているものは、事務室で再び分けられています。』
青い部屋から事務室へ。
そして、事務室から別の場所へ。
12年前、誰かが渡そうとしていた品物は、今も記録のどこかに残っているのだろうか。
俺はノートを開いた。
『04班・配布保留品』
『紙製保管袋』
『担当:水瀬真紀』
『事務室受領者:早川恵子』
『内容物:未確認』
匿名の言葉は証拠ではない。
だが、事務室の保管記録を調べる理由は、すでに十分あった。
◇
午前8時。
食堂に向かうと、ミオが窓際の席に座っていた。
長い黒髪が朝日に照らされている。
彼女は俺に気づくと、小さく手を振った。
ミオ:「ユウキ、おはよう」
ユウキ:「おはよう。今日は早いな」
ミオ:「少し調べたいことがあって」
ユウキ:「俺も事務室の記録を調べるつもりなんだ」
ミオ:「じゃあ、一緒に調べる?」
何気ない誘いだった。
それなのに、俺は一瞬、返事に詰まった。
ユウキ:「……うん。助かる」
向かいの席に座ろうとすると、ミオが隣の椅子を引いた。
ミオ:「画面を見るなら、こっちのほうが見やすいよ」
ユウキ:「そ、そうだな」
隣に座る。
思っていたより距離が近い。
彼女の髪が、俺の腕にかすかに触れた。
俺は慌ててコーヒーを飲んだ。
熱かった。
ユウキ:「あっつ!」
ミオ:「大丈夫?」
ユウキ:「大丈夫。ちょっと舌が調査開始前に殉職しただけ」
ミオは口元を押さえて笑った。
ミオ:「それは大変。今日の調査、無理しないでね」
彼女が笑うと、俺まで少し気が楽になる。
昨日までずっと、写真の名前ばかり考えていた。
こういう朝も、悪くない。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、シオン、リナ、ソウタ、ナナ、レイが集まった。
俺とミオも端末を開く。
シオン:「今日の目的は、事務室での再分類が実際にあったか確認すること」
ユウキ:「それから、紙製保管袋がどこへ移されたか」
リナが事務室の保管記録を検索した。
表示されたのは、閉鎖時の物品整理台帳。
『青風こども生活支援センター』
『閉鎖時・事務室一時保管品』
そこには、写真、手紙、児童私物、書類など、複数の分類が並んでいた。
だが、個別の内容はほとんど伏せられている。
ソウタ:「ここから探すなら、受領者と日付で絞るのが早い」
リナ:「早川恵子、閉鎖前後、04班……」
検索結果は3件。
そのうち1件に、見覚えのある記載があった。
『紙製保管袋・1点』
俺は身を乗り出した。
ユウキ:「あった!」
シオンが詳細を開く。
『受領:早川恵子』
『旧保管場所:青い部屋』
『事務室内処理:内容物確認後、分類保管』
俺は画面を見つめた。
匿名メッセージに書かれていた「分けられた」という言葉。
少なくとも、内容物を確認して分類したという記録は存在していた。
◇
午前10時。
俺たちは、分類保管の続きを調べた。
公開されている記録には、2つの分類先が表示されていた。
『写真関連』
『書簡関連』
俺は息をのんだ。
ユウキ:「写真と……手紙?」
シオン:「少なくとも、記録上は2種類に分けられている」
ナナが小さく呟いた。
ナナ:「じゃあ、袋の中には両方あったのかな……」
ソウタ:「可能性は高い。ただし、分類名だけで内容物の点数までは断定できない」
俺は頷いた。
それでも、大きな進展だった。
紙製保管袋は、単なる写真の袋ではなかった。
写真と書簡。
2つの記録につながっている。
俺はノートに書き加えた。
『紙製保管袋 → 写真関連/書簡関連』
◇
午前11時。
ミオが、別の資料を開いていた。
ミオ:「ユウキ、こっちを見て」
俺は彼女の隣へ移動した。
画面には、事務室の物品整理手順が表示されている。
『内容物に個人情報を含む場合、写真と書簡は別々に保管する』
『元の外装と内容物の対応関係は、照合記録に残す』
俺は目を見開いた。
ユウキ:「対応関係……!」
ミオ:「うん。別々に保管されても、どれが同じ袋に入っていたかは、記録で追えるはず」
彼女が画面を指さす。
俺も同じ場所を見ようとして、顔が近づいた。
ミオの横顔が、すぐ隣にある。
俺は反射的に背筋を伸ばした。
ミオ:「……ユウキ?」
ユウキ:「いや、何でもない!」
ミオ:「画面、見づらかった?」
ユウキ:「全然! むしろ近すぎるくらい見えてる!」
言ってから、何が近すぎるのか分からなくなった。
ミオは一瞬きょとんとして、それから小さく笑った。
ミオ:「じゃあ、もう少し離すね」
端末を少し遠ざける。
俺は内心で頭を抱えた。
端末じゃない。
いや、端末の話にしておこう。
◇
正午。
昼食の時間。
俺たちは調査結果を整理した。
紙製保管袋は事務室で開封され、写真関連と書簡関連に分けられた。
ただし、元の袋と内容物の対応関係を示す照合記録は、まだ見つかっていない。
シオン:「次は、その照合記録だね」
リナ:「管理番号が分かれば、写真と手紙の両方を追える」
俺は頷いた。
P-006。
C-02。
D-04。
これまで別々に調べてきた番号が、同じ袋に関係している可能性が出てきた。
だが、まだ線で結ぶには早い。
俺はノートに3つの番号を書き、それぞれの間に疑問符を置いた。
◇
午後1時。
レイが俺に声をかけた。
レイ:「ユウキ。家で見た写真のこと、少し思い出した」
ユウキ:「何か分かった?」
レイ:「裏面に『わたして』って書いてあった話、したよね」
ユウキ:「うん」
レイ:「あれ、写真そのものじゃなくて、写真を入れていた袋に書かれていたのかもしれない」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「袋に?」
レイ:「うん。写真を取り出す前に、白っぽい袋を見た記憶がある」
ナナの証言と重なる。
だが、レイ自身も記憶が曖昧だと言っている。
ユウキ:「その袋に、名前はあった?」
レイ:「そこまでは覚えてない」
俺は頷いた。
それでも、調べるべき対象が少し明確になった。
写真だけではない。
外装の袋にも、文字が残されていた可能性がある。
◇
午後2時。
リナが、照合記録の登録項目を発見した。
『事務室・内容物分離照合票』
詳細を開く。
閲覧制限あり。
ただし、登録情報にはこう書かれていた。
『元外装:紙製保管袋』
『分類先:写真関連・書簡関連』
『照合番号:非公開』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「これだ……」
シオンが頷いた。
シオン:「この照合票があれば、写真と手紙の対応関係を確認できるかもしれない」
だが、肝心の番号は伏せられていた。
俺たちは、また情報購入の壁にぶつかった。
◇
午後3時。
STORE Xの端末に、新しい項目が表示された。
『INFO-020』
『対象:事務室・内容物分離照合票』
『価格:90,000円』
『開示範囲:元外装と分類先の管理番号』
『内容物の全文、記載者および受取予定者の氏名は含みません』
俺は、価格を見てため息をついた。
90,000円。
生活費が減額された今、簡単に出せる金額ではない。
しかも、買って分かるのは管理番号だけだ。
レン:「90,000円で番号か……」
ソウタ:「番号が分かれば、その先を追える」
レン:「分かるけど、俺のプリン何個分なんだろうな」
レイ:「もうプリンの話は終わったんじゃないの?」
レン:「お前が言うな!」
俺は笑いそうになったが、すぐに端末へ視線を戻した。
情報を買うかどうか。
この判断は、全員の生活に関わる。
◇
午後4時。
全員で話し合った結果、INFO-020の購入は保留となった。
まずは、無料で閲覧できる管理番号の索引を探す。
その方針で一致した。
俺は、ミオと一緒に資料閲覧室へ戻った。
ユウキ:「今日はありがとう。照合記録の手順、見つけてくれたおかげで進んだ」
ミオ:「ユウキが最初に、袋の中身を確かめようって言ったからだよ」
ユウキ:「いや、俺だけだったら、写真の番号ばっかり追ってたと思う」
ミオは少し笑った。
ミオ:「じゃあ、2人で調べてよかったね」
その言葉に、胸が少し温かくなった。
ユウキ:「……うん。よかった」
ミオは端末を開きながら言った。
ミオ:「明日も、一緒に調べる?」
俺は、今度は迷わず答えた。
ユウキ:「もちろん」
彼女が嬉しそうに笑った気がした。
それだけで、明日が少し楽しみになった。
◇
午後6時。
夕食後、俺はノートを整理した。
『紙製保管袋は事務室で開封』
『写真関連と書簡関連に分類』
『対応関係は内容物分離照合票に記録』
『照合番号は非公開』
『INFO-020:90,000円、未購入』
俺は、古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
この手紙が、あの袋に入っていたものと関係しているのか。
まだ分からない。
だが、写真と手紙が同じ袋に入っていたなら。
12年前の俺が受け取れなかったものは、1つではなかったのかもしれない。
◇
夜。
自室に戻ると、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『写真と手紙が、別々に保管されたことを確認しましたね。』
続けて、文章が表示される。
『分けられた理由は、隠すためではありません。』
俺は息をのんだ。
最後の1行。
『渡す相手を、間違えないためです。』
俺は画面を見つめた。
写真と手紙。
それぞれ、渡す相手が違ったのか。
それとも、同じ相手に渡すため、別々に管理されたのか。
匿名の言葉だけでは判断できない。
だが、1つだけ確かなことがある。
12年前、誰かが品物を受け取る相手を、慎重に確認しようとしていた。
俺はノートを閉じた。
DAY35。
事務室に残された2つの記録。
その先に、写真の裏に書かれた名前と、俺が忘れていた約束がある。
そして明日も、ミオと一緒に調べる。
その約束だけは、忘れないようにしようと思った。
第1章 第41話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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