第1章 第40話「渡されなかった写真」
DAY34。
午前7時12分。
俺は、昨夜届いた匿名メッセージを読み返していた。
『その写真は、受取予定者へ渡されませんでした。』
『ですが、渡そうとした人物は、最後まで諦めていませんでした。』
写真を渡そうとした人物。
受け取るはずだった人物。
そして、配布保留の記録を残した水瀬真紀さん。
この3人の関係を確かめたい。
だが、匿名メッセージは運営が保証した情報ではない。書かれていることを前提にして、ほかの記録を解釈するのは危険だ。
俺はノートに、新しく1行書いた。
『まず、配布保留になった品物が写真だったことを確認する』
昨日まで、俺たちはそれすら確定できていなかった。
◇
午前8時。
食堂で、俺はシオンたちに調査方針を伝えた。
ユウキ:「今日は、配布保留品の引継記録を調べたい」
シオン:「P-006との関係を確かめるためだね」
ユウキ:「うん。写真だと分かれば、次に管理番号を追える」
天宮リナが端末を操作する。
リナ:「公開資料だけで分かる範囲を、先に洗い出そう」
隣ではレンが、朝食のトーストにジャムを塗っていた。
レン:「配布保留か……。俺も昨日、レイから弁償されたプリンを食べるの保留にしてる」
ソウタ:「まだ食べてないのか」
レン:「次こそ最高のタイミングで食べたいんだよ」
レイ:「今度は食べないから」
レン:「その発言、書面にしてくれ」
レイは少し考えたあと、紙ナプキンに『食べません 九条レイ』と書いた。
レンはそれを丁寧に折りたたみ、胸ポケットにしまった。
ユウキ:「契約書が紙ナプキンでいいのかよ」
久しぶりに、食堂に笑い声が広がった。
だが、俺たちの調査はここからが本番だった。
◇
午前9時。
資料閲覧室。
リナが見つけたのは、閉鎖時の物品管理に関する公開説明だった。
『児童への配布予定品は、未交付の場合、担当職員が一時預かりとする』
『施設閉鎖に伴い、未交付品は引継対象へ移す』
『私物管理番号と配布管理番号は、必ずしも一致しない』
俺は最後の文章を読み返した。
ユウキ:「つまり、配布用写真が引き継がれていても、P-006の番号のままとは限らないんだな」
シオン:「そう。写真の番号と、閉鎖時の品物番号は別の体系かもしれない」
俺たちは以前、青い部屋から回収された品物の一覧を確認している。
B-03、B-07、C-02、D-04、E-01、F-02。
そのうちCは写真類、Dは手紙・メモ類だった。
P-006が、C-02として引き継がれた可能性はある。
だが、同じものだという記録はまだない。
俺はノートに『P-006=C-02?』と書き、疑問符を大きく丸で囲んだ。
◇
午前10時。
小鳥遊ヒナが、写真資料の一覧を見ながら言った。
ヒナ:「ねえ、配布保留品の記録って、写真だけを探しても出てこないんじゃない?」
ユウキ:「どういうこと?」
ヒナ:「写真が封筒に入ってたら、引継記録では『封筒1点』って書かれてるかもしれないよ」
俺は顔を上げた。
その可能性は考えていなかった。
ヒナは続ける。
ヒナ:「写真を整理するときも、袋に入れたまま保管することあるし」
シオン:「なるほど。中身の分類と、外側の分類が違う場合だね」
リナが検索条件を変更した。
写真。
封筒。
配布品。
未交付。
複数の分類を横断して調べる。
すると、1件の記録が見つかった。
『04班 配布保留品引継記録』
『品目:紙製保管袋』
『内容物:別紙参照』
『担当:水瀬真紀』
俺たちは、同時に画面へ顔を近づけた。
◇
午前11時。
別紙は閲覧制限がかかっていた。
だが、公開されている記録の続きには、こう書かれていた。
『外装に児童による記載あり』
『受取予定者への再交付を要する』
俺は息をのんだ。
ユウキ:「外装に、子どもが何か書いてた……」
ナナ:「それ……」
いつの間にか、資料閲覧室へ来ていた水瀬ナナが声を漏らした。
俺は振り向く。
ユウキ:「何か思い出した?」
ナナは画面を見つめたまま、ゆっくり頷いた。
ナナ:「写真を渡してって頼まれたとき、たぶん……袋に入ってた」
シオン:「袋の色は覚えてる?」
ナナ:「白っぽかったと思う。でも、はっきりしない」
俺は、ナナの言葉をそのままノートに書いた。
白っぽい袋。
それ以上は、付け足さない。
思い出せない部分を、俺たちが埋めてはいけない。
◇
正午。
俺はミオと中庭のベンチに座っていた。
風が、木々の葉を揺らしている。
ミオ:「紙製保管袋、見つかったんだね」
ユウキ:「うん。中身はまだ分からないけど」
俺はノートを開いた。
ユウキ:「もし写真が入ってたなら、誰かが俺に渡そうとしてたのかもしれない」
ミオ:「そうかもしれないね」
ユウキ:「でも、受取予定者が俺だって記録もない」
ミオは静かに頷いた。
俺は空を見上げる。
ユウキ:「12年前の俺、何を忘れてるんだろうな」
ミオ:「全部を忘れたわけじゃないと思うよ」
ユウキ:「え?」
ミオ:「手紙を、今も持ってるでしょう?」
俺は胸元に手を当てた。
古い布袋に入れた、小さな手紙。
何度も引っ越したのに、捨てずに持っていた。
ユウキ:「……そうだな」
ミオ:「覚えていなくても、大切だったことは残るのかもしれないね」
その言葉が、不思議と胸に残った。
◇
午後1時。
俺たちは、紙製保管袋の管理番号を探した。
公開されている引継記録には、番号が伏せられている。
ただし、保管先の分類は表示されていた。
『写真・書類関連』
シオンが画面を指さす。
シオン:「写真だけじゃなく、手紙も入っていた可能性があるね」
ソウタ:「逆に、写真が1枚も入っていない可能性もある」
俺は頷いた。
今の段階では、どちらもあり得る。
リナが次の資料を開いた。
『閉鎖時 未交付品整理一覧』
そこには、未交付品の総数と分類が記載されていた。
04班の未交付品は、1件。
品目は紙製保管袋。
担当は水瀬真紀。
受取予定者は非公開。
俺は、その文字を見つめた。
少なくとも、昨日見つけた配布保留の記録と、今日の紙製保管袋は同じ管理系列にある。
ようやく、別々の記録がつながった。
◇
午後2時。
STORE Xの端末に、新しい情報項目が表示された。
『INFO-019』
『対象:04班 配布保留品引継記録・内容物別紙』
『価格:60,000円』
『開示範囲:内容物の分類、点数、引継先』
『受取予定者の氏名および内容物の全文は含みません』
俺は画面を見つめた。
60,000円。
INFO-018の80,000円より安い。
だが、今回も名前は分からない。
シオンが言った。
シオン:「買えば、袋の中身が写真なのか手紙なのかは分かるかもしれない」
リナ:「でも、誰に渡す予定だったかは分からない」
俺は頷いた。
情報の価値はある。
ただし、今すぐ全員で購入するかは別問題だ。
◇
午後3時。
全員で話し合った結果、INFO-019は共同購入を検討することになった。
生活費が減額された翌月を控え、誰も無理な支出はしたくない。
それでも、今回の情報は、青風の記録を調べるうえで重要だった。
俺は、購入を急がず、もう少し無料の資料を確認することを提案した。
ユウキ:「中身の分類だけなら、ほかの記録に残ってるかもしれない」
シオンが頷く。
シオン:「そうだね。まずは引継先を探そう」
俺たちは、資料閲覧室へ戻った。
◇
午後4時。
引継先を調べていたリナが、画面を止めた。
リナ:「……これ、見て」
そこには、閉鎖時の保管場所変更記録があった。
『04班 未交付品』
『旧保管場所:青い部屋』
『移動先:事務室』
『受領者:早川恵子』
俺は息をのんだ。
早川恵子。
当時の施設長。
青い部屋の引き出しにあった品物を受け取った人物として、以前の記録にも名前が残っていた。
俺はノートを開く。
『青い部屋 → 事務室』
『受領者:早川恵子』
また、同じ名前が出てきた。
だが、早川さんが何を知っていたのかは、まだ分からない。
◇
午後5時。
俺は、古い手紙を取り出した。
『あおいへやの、ひきだしをおもいだして。』
青い部屋。
2つの引き出し。
そして、事務室へ移された未交付品。
俺は、これまでの記録を並べた。
青い部屋から回収された品物。
04班の配布保留品。
水瀬真紀さん。
早川恵子さん。
写真の裏に残された名前。
すべてが同じ出来事を示しているとは限らない。
だが、少なくとも青い部屋と事務室の間に、何かが移されていたことは確認できた。
俺は、次に調べるべき場所を決めた。
事務室の保管記録だ。
◇
午後7時。
夕食後、レイが俺に声をかけた。
レイ:「ユウキ。今日の記録、見せてもらっていい?」
ユウキ:「もちろん」
俺はノートを渡した。
レイはしばらく読み、ある部分で手を止めた。
レイ:「……早川恵子」
ユウキ:「知ってる?」
レイ:「名前は知ってる。家にあった青風の資料にも出てきた」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「何の資料?」
レイ:「写真の整理記録だと思う」
レイは少し考えた。
レイ:「ただ、早川さんが写真を撮ったのか、受け取ったのかは覚えてない」
俺は頷いた。
また、写真の記録につながる可能性が出てきた。
レイがXではないと分かった今、彼の記憶は、俺たちにとって重要な手がかりになっている。
◇
夜。
自室へ戻った俺は、ノートを開いた。
『04班 未交付品』
『品目:紙製保管袋』
『担当:水瀬真紀』
『旧保管場所:青い部屋』
『移動先:事務室』
『受領者:早川恵子』
『内容物:未確認』
俺はペンを置いた。
写真の裏に残された名前。
渡されなかった品物。
そして、12年前の約束。
少しずつ、輪郭が見えてきた。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『事務室の保管記録を探してください。』
続けて、文章が表示される。
『青い部屋から移されたものは、すべて同じ場所に保管されたわけではありません。』
俺は息をのんだ。
最後の1行。
『あなたが探しているものは、事務室で再び分けられています。』
俺は端末を伏せた。
匿名の言葉を、そのまま信じるつもりはない。
だが、明日調べるべき記録は決まった。
事務室。
そこで、何が分けられたのか。
そして、誰がそれを受け取ったのか。
DAY34。
俺たちは、12年前に渡されなかった品物の行方を追い始めた。
第1章 第40話 完
第31話〜第40話 あらすじ・重要事項まとめ
あらすじ
第1回X投票を目前に、黒い封筒の移動経路を追うユウキたち。レイは封筒を拾得物として受付へ届け、その後、案内室へ運んだことを告白する。
DAY30の第1回X投票では、レイが最多5票を獲得。しかし、運営の判定によりレイはXではないと確定する。
翌日はレンのプリン盗難事件が発生。全員で議論した末、腹いせに食べたレイが自白し、プリン2個の弁償で解決する。
本編に戻ったユウキたちは、12年前の写真P-004とP-006を調査。写真の裏に残された名前と、当時渡されなかった品物を追ううちに、青い部屋から事務室へ移された「紙製保管袋」の存在へたどり着く。
判明した重要事項
- 第1回X投票: レイ5票、シオン3票、ソウタ2票、ミオ・リナ・セナ各1票。ユウキの投票先はシオン。
- レイはXではない。 今後も投票には参加するが、判定対象から除外。残るX候補は12人。
- 誤判定により、翌月の生活費は1人100,000円から50,000円へ減額。
- P-004とP-006の裏面には、それぞれ2人の名前があり、共通する記載者は1人。
- レイは、家で見た別の写真の裏に「神崎ユウキ」と「わたして」という文字があった可能性を思い出す。
- 04班には、受取予定者不在で配布保留となった品物が1件存在。
- 担当者はナナの母・水瀬真紀。品物は紙製保管袋で、青い部屋から事務室へ移され、施設長・早川恵子が受領した。
- 袋の中身、受取予定者、P-006との関係は未確認。
- INFO-018(80,000円)とINFO-019(60,000円)は未購入。
次の調査目標:事務室の保管記録を調べ、紙製保管袋の中身と、その後の移動先を突き止める。




