第1章 第39話「3人目の約束」
DAY33。
午前7時10分。
俺は、机の上に2枚の写真を並べていた。
P-004。
幼い俺と、青いビーズをつけた少女が写る保管用写真。
P-006。
画像は非公開だが、04班の配布用写真に関する照合控えが残されている。
それぞれの裏面には、2人の名前。
公開記録によれば、共通する記載者は1人だけだ。
そして昨夜、差出人不明のメッセージが届いた。
『あなたが12年前に交わした約束は、1人とのものではありません。』
俺は古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
裏面には、青い部屋の引き出しを思い出すように書かれている。
これまで俺は、写真の少女が手紙をくれた相手だと思っていた。
だが、それすら確認できていない。
手紙を書いた人物。
引き出しへ入れた人物。
俺と約束した人物。
その3つを、勝手に同じ人間だと考えていたのかもしれない。
◇
午前8時。
資料閲覧室には、シオン、リナ、ソウタ、レイが集まっていた。
俺は昨夜のメッセージについて、名前の部分だけを伏せずに説明した。
ユウキ:「差出人は分からない。だから、内容は証拠として扱わないでほしい」
シオン:「分かった。まずは公開記録から確かめよう」
シオンがノートを開く。
シオン:「P-004とP-006。共通する記載者が1人いることは、資料に書かれている」
リナ:「でも、それがユウキなのか、もう1人なのかは分からない」
ソウタ:「そもそも、写真の裏に名前を書いた人物と、写真に写っている人物が一致するとも限らない」
俺は頷いた。
そうだ。
写真の裏に『ゆうき』と書かれているからといって、俺自身が書いたとは限らない。
子ども同士で名前を書き合った可能性もある。
俺は、そこから確かめることにした。
◇
午前9時。
リナが、交流会の運営記録を開いた。
『04班 写真配布時の取扱手順』
そこには、当時の職員向けの注意事項が書かれていた。
『写真裏面への記入は、児童本人または相手児童によるものとする』
『職員が代筆した場合は、別途記録する』
『氏名以外の伝言については、本人の希望を尊重する』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「本人か、相手が書いた……」
シオン:「つまり、『ゆうき』という文字だけでは、誰の筆跡か分からないね」
レイ:「僕が家で見た写真も、同じ形式だったと思う」
レイはそう言って、P-004の裏面を見た。
レイ:「ただ、文字の色が違った気がする」
俺は顔を上げる。
ユウキ:「色?」
レイ:「1人は青い鉛筆。もう1人は、黒っぽい色だった」
俺はノートに書き留めた。
記憶だけでは断定できない。
だが、P-006を探す手がかりにはなるかもしれない。
◇
午前10時。
俺たちはP-006の公開登録情報を、もう一度確認した。
『04班 配布用写真・照合控え』
『裏面記載者:2名』
『うち1名はP-004記載者と一致』
その下に、小さな項目があった。
『照合理由:配布先確認』
俺は指を止めた。
ユウキ:「配布先確認……?」
リナが詳細を開く。
そこには、写真配布時の一般的な手順が表示された。
写真は、希望する児童へ渡す。
裏面に名前や伝言がある場合、渡し間違いを防ぐため職員が照合する。
ただし、配布先の個人情報は公開されない。
シオン:「P-006は、誰かに渡すための写真だった可能性が高いね」
ソウタ:「だが、実際に渡されたかどうかは別だ」
俺は頷いた。
配布用と書かれていても、相手に届いたとは限らない。
12年前、青風の施設は閉鎖された。
その混乱の中で、渡せなかったものがあったとしても不思議ではない。
◇
午前11時。
ナナが資料閲覧室へやってきた。
ナナ:「ユウキくん。少し、話してもいい?」
ユウキ:「もちろん」
ナナは、俺たちの前に座った。
ナナ:「昨日、写真の話を聞いてから、ずっと考えてたの」
彼女は両手を膝の上で握る。
ナナ:「青風の交流会で、私……誰かに写真を渡してって頼まれた気がする」
俺は息をのんだ。
ユウキ:「誰に?」
ナナ:「そこが、思い出せないんだけど……」
ナナは申し訳なさそうに俯いた。
ナナ:「その子は、直接渡すのが恥ずかしいって言ってたと思う」
シオンが静かに聞いた。
シオン:「写真を預かったのは、ナナ自身?」
ナナ:「ううん。私が渡すんじゃなくて、お母さんにお願いしたような……」
水瀬真紀。
当時、青風の職員だったナナの母親。
04班を担当し、青い部屋の引き継ぎ記録にも名前が残っている。
俺はノートを開いた。
また、1本の線がつながりかけていた。
◇
正午。
俺はミオと昼食を取っていた。
彼女は、ナナの話を聞いて静かに頷いた。
ミオ:「写真を渡してほしいって、頼んだ子がいたんだね」
ユウキ:「うん。でも、それが誰かは分からない」
俺は箸を置いた。
ユウキ:「俺に渡す写真だったのかも、まだ分からないんだ」
ミオ:「そうだね」
彼女は俺のノートを見た。
ミオ:「でも、ナナちゃんのお母さんが関わっていたなら、記録が残っているかもしれないね」
俺は頷いた。
ユウキ:「青い部屋の引き継ぎ記録と、写真の配布記録。両方に水瀬真紀さんが関わってる」
ミオは少し考えてから言った。
ミオ:「同じ人が関わっていても、同じ出来事とは限らないよ」
俺は顔を上げた。
ミオ:「だから、どの記録が何を示しているのか、分けて考えたほうがいいと思う」
その通りだった。
俺は、少し焦っていたのかもしれない。
名前を知りたい。
約束を思い出したい。
その気持ちが、別々の記録を無理につなげようとしていた。
◇
午後1時。
俺たちは、写真配布記録と青い部屋の引き継ぎ記録を照合した。
公開資料の範囲では、個人名は伏せられている。
だが、日付と担当者は確認できた。
『04班 写真配布確認』
『担当:水瀬真紀』
『配布保留:1件』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「配布保留……!」
シオンが詳細を開く。
『理由:受取予定者不在』
『対応:担当職員が一時預かり』
俺は息をのんだ。
12年前、誰かに渡す予定だった写真が、渡されずに残っていた。
そして、担当したのはナナの母親。
これまでに見つけた青い部屋の記録とも、時期が重なっている。
ソウタ:「ただし、これがP-006とは限らない」
リナ:「うん。管理番号が書かれてないから」
俺は頷いた。
それでも、調べるべき記録が1つ増えた。
◇
午後2時。
シオンがホワイトボードに整理した。
『確認済み』
『04班の写真に配布保留が1件あった』
『理由は受取予定者不在』
『担当は水瀬真紀』
『P-006との関係は未確認』
俺は、その下に書き加えた。
『D-04との関係も未確認』
D-04。
閉鎖時の私物管理記録に残された、手紙・メモ類の管理番号。
青い部屋から回収された品目の1つだ。
ただし、子どもが書いた『04』は班番号の可能性があり、D-04と同じ番号だからといって同一の手紙とは限らない。
俺は改めて、そこに線を引いた。
似た数字に惑わされないためだ。
◇
午後3時。
レイが俺の隣に座った。
レイ:「ユウキ。昨日の話、もう少し思い出した」
ユウキ:「家で見た写真のこと?」
レイ:「うん」
レイは少し考えてから言った。
レイ:「写真の裏に、名前のほかに短い言葉があった」
俺は身を乗り出した。
ユウキ:「何て?」
レイ:「全部は覚えてない。でも、『わたして』って書いてあった気がする」
俺は息をのんだ。
渡して。
誰かに渡してほしいという言葉。
ナナが思い出した話と、重なる。
ユウキ:「その写真、P-006だったと思う?」
レイ:「分からない。ただ、配布用の写真だったことは覚えてる」
俺は頷いた。
記憶は記憶だ。
だが、公開記録と照合できる可能性はある。
◇
午後4時。
俺たちは、P-006の閲覧制限について確認した。
画像そのものは非公開。
INFO-018を購入すれば、P-004の裏面確認票の一部は開示される。
だが、P-006の画像や記載事項まで開示されるとは書かれていない。
俺は端末を閉じた。
ユウキ:「今は買わないほうがいいと思う」
シオンが頷く。
シオン:「P-006を調べたいのに、P-004だけ買っても目的に届かないかもしれないからね」
リナ:「まずは、配布保留の記録を追おう」
俺たちは、無料の資料一覧へ戻った。
そこには、新しい項目が表示されていた。
『04班 配布保留品引継記録』
閲覧制限あり。
ただし、公開されている備考欄には、短い文章が残っていた。
『受取予定者への再交付を要する』
俺は画面を見つめた。
再交付。
つまり、当時は渡せなかった。
だが、後日渡す予定だった。
その相手は、誰だったのか。
◇
午後6時。
夕食後、俺はナナに声をかけた。
ユウキ:「今日、話してくれてありがとう」
ナナ:「ううん。ちゃんと思い出せなくて、ごめんね」
ユウキ:「十分だよ。配布保留の記録が見つかった」
ナナは少し驚いた顔をした。
ナナ:「……お母さんが預かった写真?」
ユウキ:「そうかもしれない。でも、まだ確認できてない」
ナナは静かに頷いた。
ナナ:「私も、もう少し思い出してみる」
俺は頷いた。
彼女に無理をさせたくはない。
だが、12年前の記憶を持つ人間が、この島にいる。
それは、確かなことだった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、ノートを開いた。
『04班の写真配布保留:1件』
『担当:水瀬真紀』
『理由:受取予定者不在』
『レイの記憶:写真裏面に「わたして」の文字』
『P-006との関係は未確認』
俺は古い手紙を取り出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
その言葉を、もう一度読む。
もし、誰かが俺に渡そうとした写真があったなら。
それは、今どこにあるのだろう。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『配布保留の記録を見つけましたね。』
続けて、文章が表示される。
『その写真は、受取予定者へ渡されませんでした。』
俺は息をのんだ。
最後の1行。
『ですが、渡そうとした人物は、最後まで諦めていませんでした。』
俺は端末を伏せた。
匿名の言葉を、証拠にはできない。
それでも、胸の奥がざわついた。
12年前。
誰かが、俺に何かを渡そうとしていた。
そして、俺はそれを受け取れなかったのかもしれない。
DAY33。
写真の裏に残された名前は、まだ読めない。
だが、そこに込められた約束の輪郭が、少しずつ見え始めていた。
第1章 第39話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
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果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
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