第1章 第38話「写真の裏に残された名前」
DAY32。
午前7時20分。
昨日のプリン事件は、解決した。
犯人は九条レイ。動機は、投票の対象者になって腹が立ったから、なんとなく。
本人の自白もあり、弁償も済んだ。
だが、俺たちが本当に追っている事件は、何ひとつ解決していない。
12年前の青風未来基金1億円消失事件。
島へ持ち込まれた黒い封筒。
そして、13人の中にいる主催者X。
俺は机に置いたP-004の画像を開いた。
幼い俺と、長い髪の少女。
写真の裏には、青い鉛筆で書かれた2人の名前がある。
『ゆうき』
もう1人の名前は、表面の傷と重なって読めない。
昨夜届いた匿名メッセージには、こう書かれていた。
『次に探すべきものは、黒い封筒ではありません。』
『写真の裏に残された、もう1人の名前です。』
匿名の言葉を、そのまま信じるつもりはない。
それでも、名前を確かめたいのは俺自身だった。
◇
午前8時。
食堂には、いつもの13人が集まっていた。
ただし、昨日までと違うことがある。
レイがXではないと、運営によって確定したことだ。
彼は今後も投票に参加するが、判定対象にはならない。
残るX候補は12人。
俺たちは、そこから改めて探さなければならない。
シオン:「今日はP-004の裏面について調べたい」
藤堂シオンがノートを開いた。
俺は頷く。
ユウキ:「俺も同じことを考えてた」
リナ:「写真の文字を読みたいってこと?」
ユウキ:「うん。ただ、画像を無理に加工して、見えない文字を作り出すのは避けたい」
ソウタ:「その判断でいい。傷を文字だと思い込むと、都合のいい名前が浮かぶ」
黒川ソウタが眼鏡を押し上げた。
水瀬ナナも、写真をのぞき込む。
ナナ:「この写真……やっぱり、見覚えがある気がする」
ユウキ:「04班の写真?」
ナナ:「うん。でも、私が持ってたものと同じかは分からない」
ナナは申し訳なさそうに目を伏せた。
俺は首を振る。
ユウキ:「思い出せるところだけでいいよ」
12年前の記憶を、無理やり正解に変えてはいけない。
◇
午前9時。
俺たちは、写真そのものではなく、写真がどう管理されていたかを調べ始めた。
P-004は、青風の交流会で撮影された04班の写真だ。
表面には幼い俺と少女。
裏面には2人の名前と『また、あおうね。』という言葉。
これまでに確認した記録では、交流会の写真は参加者へ配布され、余ったものが保管されていた。
つまり、P-004以外にも同じ場面を写した写真が存在した可能性がある。
シオン:「同じ写真の別の印刷物なら、裏面の文字は違うかもしれない。でも、表面の傷がない可能性はある」
ヒナ:「元の写真データが残ってたら、顔ももう少し見えるかも!」
小鳥遊ヒナが身を乗り出した。
リナ:「ただし、写真のデータがあることと、公開されていることは別だね」
俺たちは資料一覧を確認した。
P-004の登録情報。
『04班集合写真・保管分』
『表面画像:公開済み』
『裏面画像:公開済み』
『関連資料:閲覧制限あり』
俺の指が止まった。
ユウキ:「関連資料……?」
シオンが画面に顔を近づける。
シオン:「今まで、写真の画像ばかり見てたね」
俺たちは、写真に付随する記録を見落としていた。
◇
午前10時。
関連資料の一覧を開く。
表示されたのは、3件だった。
『写真配布記録』
『余剰写真保管記録』
『写真裏面記載事項確認票』
最後の項目を見て、俺は息をのんだ。
ユウキ:「裏面の記載事項……!」
シオンが詳細を開いた。
閲覧制限あり。
ただし、記録の作成目的だけは公開されている。
『写真裏面に児童が記入した氏名・伝言について、配布および保管時の照合に用いるため作成』
俺は画面を見つめた。
写真の裏の文字を、当時の職員が確認していた可能性がある。
もし確認票に名前が残っていれば、傷んだ画像から推測する必要はない。
ソウタ:「ただし、確認票に全文が転記されているとは限らない」
ユウキ:「分かってる。でも、調べる価値はある」
俺は久しぶりに、はっきりした手応えを感じた。
◇
午前11時。
STORE Xの端末に、関連情報の項目が追加されていた。
『INFO-018』
『対象:P-004 写真裏面記載事項確認票』
『価格:80,000円』
『開示範囲:記載された文字のうち、照合可能な部分および記録上の取扱情報』
『写真に写る人物の現在の氏名・所在は保証しません』
俺は最後の注意書きを読み返した。
仮に名前が分かっても、その子が今どこにいるかまでは分からない。
それでも、俺にとっては大きな一歩だ。
ただし、80,000円。
昨日の投票で、翌月の生活費は1人50,000円に減額された。
今までの情報購入でも、俺たちはかなりの金額を使っている。
簡単に買える額ではなかった。
レン:「80,000円か……」
レンが腕を組む。
レン:「プリン何個分だ?」
ソウタ:「昨日の事件を今日の予算会議に持ち込むな」
レン:「もう真面目に考えてるって!」
その声は明るかったが、誰もすぐには購入を提案しなかった。
◇
正午。
俺はミオと食堂の窓際に座っていた。
彼女はP-004の画像を見つめている。
ミオ:「確認票、見つかったんだね」
ユウキ:「うん。まだ中身は分からないけど」
ミオ:「名前が残っているといいね」
俺は頷いた。
ユウキ:「写真の子に、会ったことがある気がするんだ」
言ってから、少し迷った。
ユウキ:「いや、会ったことはあるんだけど。そうじゃなくて……もっと、ちゃんと覚えていたはずなんだ」
ミオは黙って聞いていた。
ユウキ:「一緒に写真を撮って、約束までした。それなのに、名前が出てこない」
俺は自分の手を見つめた。
ユウキ:「名前が分かったら、何か思い出せるかな」
ミオ:「分からない。でも、確かめることはできると思う」
俺は顔を上げた。
ミオは穏やかに続ける。
ミオ:「名前を知ることと、その人がどんな時間を過ごしたかを知ることは、別だから」
俺は、その言葉を胸の中で繰り返した。
名前だけで、12年間の空白が埋まるわけじゃない。
それでも、俺は知りたかった。
◇
午後1時。
レイが資料閲覧室へやってきた。
レイ:「P-004の関連資料を見つけたんだって?」
ユウキ:「うん。裏面の確認票があるらしい」
レイは画面を見つめた。
しばらくして、口を開く。
レイ:「……家にあった写真にも、裏面の文字を確認した記録がついていた」
俺は振り向いた。
ユウキ:「同じ形式?」
レイ:「たぶん。ただ、僕が見たのはP-004じゃない」
シオン:「その写真の管理番号は覚えてる?」
レイ:「番号までは覚えてない。でも、写真の裏に2人の名前があった」
俺は息をのんだ。
昨夜の匿名メッセージ。
『九条レイが見た写真には、あなたがまだ知らない名前が残されています。』
その言葉が頭をよぎる。
だが、俺はレイの話を最後まで聞くことにした。
ユウキ:「名前は読めた?」
レイ:「1人は読めたと思う」
ユウキ:「誰?」
レイは俺を見た。
レイ:「……神崎ユウキ」
俺は言葉を失った。
◇
午後2時。
レイは記憶をたどりながら説明した。
レイ:「写真の表には、子どもが何人か写っていた。裏には2人分の名前が書かれていたんだ」
ユウキ:「もう1人は?」
レイ:「覚えてない。読めなかったのか、読んだけど忘れたのかも分からない」
俺は小さく息を吐いた。
期待した答えは、まだ得られない。
だが、重要なことがある。
P-004とは別の写真にも、俺の名前が書かれていた可能性がある。
シオン:「同じ交流会の写真だとしたら、配布記録で関連づけられるかもしれない」
リナ:「管理番号が分かれば、資料一覧から追えるね」
俺は頷いた。
写真を1枚だけ見ていても、分からなかったことだ。
◇
午後3時。
俺たちは無料で閲覧できる写真配布記録を調べた。
個人名は伏せられている。
だが、班ごとの配布枚数は記載されていた。
『04班』
『配布用写真:作成数と配布数に差異あり』
『保管分:P-004』
『照合対象:複数』
俺は画面を指さした。
ユウキ:「照合対象が複数……」
ソウタ:「P-004以外にも、裏面の記載を確認した写真があった可能性はあるな」
シオンが頷く。
シオン:「でも、どの写真に誰の名前があったかは、この記録だけじゃ分からない」
また一歩進んで、壁にぶつかった。
俺は端末のINFO-018を見つめた。
80,000円。
今すぐ買うべきか。
それとも、ほかの記録を調べてからにするべきか。
俺たちの生活費には限りがある。
過去を知るために、これからの生活を壊すわけにはいかなかった。
◇
午後4時。
全員で話し合った結果、INFO-018の購入は保留になった。
反対したのは、情報の価値を認めないからではない。
開示範囲が限定されているからだ。
確認票を買っても、少女の現在の名前や所在が分かる保証はない。
そして、俺個人の記憶を確かめるために、全員へ負担を求めることにも慎重であるべきだった。
ユウキ:「俺も、もう少し無料の記録を調べたい」
俺が言うと、シオンが頷いた。
シオン:「まず、写真の管理番号を追おう」
レイも口を開いた。
レイ:「僕も、家で見た写真の特徴を思い出してみる」
俺は彼を見た。
ユウキ:「ありがとう」
レイは小さく頷いた。
昨日、プリンを盗んだ男とは思えないほど真剣な顔だった。
いや。
昨日のことは、いったん忘れよう。
◇
午後6時。
資料閲覧室に残っていたのは、俺とシオン、リナ、レイの4人だった。
写真の管理番号を調べていたリナが、ふと手を止める。
リナ:「……これ、見て」
画面には、古い資料の登録履歴が表示されていた。
『写真関連資料・照合記録』
『P-004』
『関連番号:P-006』
俺は身を乗り出した。
ユウキ:「P-006?」
シオン:「P-004とは別の写真だね」
リナが検索する。
P-006。
資料は存在していた。
ただし、画像は非公開。
公開されているのは、登録名だけだった。
『04班 配布用写真・照合控え』
俺の胸が高鳴る。
P-004は保管分。
P-006は配布用写真の照合控え。
もしレイが見た写真がこれなら――。
俺は画面を見つめた。
登録名の下に、もう1行ある。
『裏面記載者:2名』
そして、備考欄。
『うち1名は、P-004記載者と一致』
俺は息を止めた。
P-004に書かれた2人の名前。
P-006に書かれた2人の名前。
そのうち、1人が一致する。
だが、どちらの名前なのかは分からない。
◇
夜。
自室へ戻った俺は、ノートを開いた。
『P-004:保管分。裏面に2人の名前』
『P-006:配布用写真の照合控え。裏面記載者2名』
『共通する記載者:1名』
俺はペンを止めた。
レイが見た写真は、P-006なのか。
それとも、また別の写真なのか。
まだ確認できない。
ただ、俺の名前が書かれた写真が複数存在する可能性は高まった。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は画面を開いた。
『P-006を見つけましたね。』
俺は眉をひそめた。
また、調査の直後だ。
続きが表示される。
『P-004とP-006には、共通する名前が1つあります。』
これは公開記録と一致する。
だが、次の文章は違った。
『もう1つの名前は、同じではありません。』
俺は息をのんだ。
2枚の写真。
それぞれに2人の名前。
共通する名前が1つ。
つまり、記録が正しければ、そこには少なくとも3人分の名前がある。
俺と、青いビーズの少女。
そして、もう1人。
最後の文章が表示された。
『あなたが12年前に交わした約束は、1人とのものではありません。』
俺は端末を伏せた。
匿名の言葉は、まだ証拠ではない。
だが、手元の古い手紙には、確かにこう書かれていた。
『あおいへやの、ひきだしをおもいだして。』
俺は、青い部屋の机を思い出した。
2つの引き出し。
そして、まだ思い出せない2人目の相手。
DAY32。
第1回X投票が終わり、俺たちはようやく次の手がかりへ進み始めた。
写真の裏に残された名前は、俺が忘れていた約束へとつながっている。
その先に何があるのか。
今度こそ、確かめたい。
第1章 第38話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
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