第1章 第37話「第1回プリン消失事件」
DAY31。
午前7時03分。
事件は、食堂に響き渡る絶叫から始まった。
レン:「ないいいいいいいっ!」
俺は箸を落とした。
ユウキ:「何だ!? Xが見つかったのか!?」
レン:「もっと深刻だ!」
レンは冷蔵庫の前で震えていた。
その手には、透明なプラスチック容器。
蓋には油性ペンで、でかでかと名前が書かれている。
『一ノ瀬レン』
間違いなく、レンのものだ。
ただし。
中身がない。
レン:「俺のプリンが……食われた……!」
昨日、九条レイがXではないと判定された。
その翌朝、俺たちは新たな犯人探しを始めることになった。
容疑者は13人。
被害品はプリン1個。
賞金1億円を懸けたゲームは、思いもよらない方向へ進み始めた。
◇
午前7時15分。
食堂に全員が集められた。
招集したのはレンだ。
レン:「みんな、聞いてくれ。昨夜、俺は冷蔵庫にプリンを入れた」
彼は空の容器をテーブル中央に置いた。
レン:「蓋には名前を書いた。しかもフルネームだ。これを偶然自分のプリンと勘違いする奴はいない!」
ソウタ:「お前の名前が一ノ瀬レンだと知らない奴なら、いるかもしれないな」
レン:「1か月一緒に暮らしてるだろ!」
シオンがノートを開く。
シオン:「最後にプリンを確認したのは?」
レン:「昨日の午後10時12分」
ユウキ:「細かいな」
レン:「楽しみすぎて、寝る前に3回見に行った」
アカリ:「食べればよかったのに」
レン:「朝食後のご褒美にする予定だったんだよ!」
レンは空容器を掲げた。
レン:「これは窃盗だ! いや、殺人未遂だ!」
セナ:「プリンがなくなっても、生命には通常影響しないよ」
レン:「俺の心が死んだ!」
セナは困ったように笑った。
◇
午前8時。
臨時捜査本部が設置された。
場所は食堂。
本部長はレン。
捜査員は残り12人。
ただし、犯人もその中にいる可能性がある。
シオン:「まず、事実を整理しよう」
ホワイトボードに文字が並んだ。
『被害品:プリン1個』
『所有者:一ノ瀬レン』
『名前の記載:あり』
『最後の確認:DAY30 午後10時12分』
『発覚:DAY31 午前7時03分』
『容疑者:レンを含む13人』
カイトが首を傾げた。
カイト:「レン自身も容疑者なのか?」
ソウタ:「寝ぼけて食べて忘れた可能性がある」
レン:「俺のプリンへの愛を疑うな!」
ヒナがカメラを構えた。
ヒナ:「記録写真、撮っておくね!」
レン:「頼む。被害者の無念が伝わる角度で」
ユウキ:「プリンの容器を遺影みたいに持つな」
◇
午前9時。
容疑者への聞き取りが始まった。
最初はアカリ。
シオン:「昨夜、冷蔵庫を開けた?」
アカリ:「開けたよ。お茶を取っただけ」
レン:「プリンは見た?」
アカリ:「見た。名前が大きすぎて、むしろプリンより先に名前が見えた」
次はナナ。
ナナ:「私は夜、食堂に来てないと思う……」
ハルカは水を取りに来たという。
リナは翌朝の食材を確認したという。
ヒナは夜景を撮りに外へ出た帰りに、冷蔵庫を開けたという。
セナは白湯を作ったという。
ミオは食堂へ来たが、冷蔵庫には触れていないという。
全員の証言をシオンが書き留めていく。
やがて、レイの番になった。
シオン:「レイは?」
レイ:「夜、食堂には来たよ」
レン:「何時?」
レイ:「正確には覚えてない。11時前後かな」
レン:「冷蔵庫は?」
レイ:「開けた」
レンの目が鋭くなった。
レン:「……プリンは?」
レイ:「見た」
食堂に緊張が走った。
レイ:「名前も読んだ」
レン:「読んだうえで!?」
レイ:「うん」
レイは、なぜかそれ以上話さなかった。
◇
午前10時。
ソウタが空容器を調べていた。
ソウタ:「蓋は破損していない。容器の底にカラメルが少し残ってる」
レン:「そこまで食えよ、犯人!」
ユウキ:「怒るポイントが変わってるぞ」
ソウタ:「スプーンですくった跡があるな」
カイトが真剣な顔で頷く。
カイト:「つまり、スプーンを使える奴が犯人か」
沈黙。
シオン:「容疑者、減らないね」
レン:「くそっ。高度な犯行だ……!」
俺は額を押さえた。
昨日まで黒い封筒の移動経路を追っていた人間たちが、今日はプリンの食べ方を分析している。
この島の捜査能力の使い道は、本当にこれでいいのだろうか。
◇
午前11時。
レンが新たな証拠を提出した。
昨日、プリンを購入した際のSTORE Xの購入履歴だ。
『商品名:カスタードプリン』
『数量:1』
『購入者:一ノ瀬レン』
シオンが頷く。
シオン:「所有者は確認できたね」
レン:「当たり前だ!」
続いて、ヒナが昨夜の食堂の写真を見せた。
午後9時過ぎ。
冷蔵庫の扉が少し開いている。
その前に立つ人影。
ヒナ:「たまたま撮れてたんだけど……」
全員が画面をのぞき込んだ。
黒っぽい服。
細身の体格。
だが、顔は写っていない。
レン:「犯人だ!」
ソウタ:「冷蔵庫を開けた人間だ。犯人とは限らない」
レン:「冷静な正論がつらい!」
俺は写真を拡大した。
人影の手には、何か小さなものがある。
プリンの容器か。
それとも、ただのコップか。
判別できなかった。
◇
正午。
昼食の時間になった。
しかし、レンは食べない。
レン:「犯人が分かるまで、俺は箸を取らない」
カイト:「そうか。じゃあ、その唐揚げもらうぞ」
レン:「それは食べる!」
レンは即座に箸を取った。
ソウタ:「決意の寿命、4秒」
俺は笑いをこらえながら、味噌汁を飲んだ。
そのとき、レイがレンの空容器を見て、小さく呟いた。
レイ:「……そこまで好きだったんだ」
俺は顔を上げた。
レイはすぐに視線をそらした。
何か、引っかかった。
◇
午後1時。
午後の捜査が始まった。
議題は、動機。
シオン:「誰が、なぜレンのプリンを食べたのか」
レン:「俺への恨みだろうな」
アカリ:「昨日、プリンの話を15回くらいしてたから?」
レン:「そんなにしてた?」
ハルカ:「数えてないけど、かなりしてたわね」
ソウタ:「『明日の俺にはプリンがある』を3回聞いた」
レン:「幸せを共有してただけなのに!」
リナが冷静に言った。
リナ:「単純に、甘いものが食べたかった可能性もあるよ」
セナ:「ストレスがたまっていたのかもしれないね」
その言葉に、俺は昨日の投票を思い出した。
第1回X投票。
最多5票を集めたレイ。
判定結果は、Xではない。
だが、彼は1か月間疑われ、最後には全員の前で判定対象になった。
俺はレイを見た。
彼は何食わぬ顔でお茶を飲んでいる。
◇
午後2時。
俺はレイに声をかけた。
ユウキ:「レイ。昨日の投票、やっぱり嫌だった?」
レイ:「……うん」
珍しく、即答だった。
レイ:「説明しても疑われて、結局5票も入ったからね」
ユウキ:「そっか」
レイ:「Xじゃないって分かったのはよかったけど、少し腹は立ったよ」
俺は頷いた。
当然だと思う。
ただし、それとプリン事件は別の話だ。
俺は慎重に聞いた。
ユウキ:「それで、昨夜は何してた?」
レイ:「食堂に来て、水を飲んだ」
ユウキ:「ほかには?」
レイは黙った。
俺は彼の顔を見つめた。
ユウキ:「……プリン、食べた?」
レイ:「その質問には、みんなの前で答える」
俺は頭を抱えた。
ユウキ:「昨日も似たようなこと言ってたよな!?」
◇
午後3時。
全員が食堂に集まった。
レンはホワイトボードの前に立つ。
レン:「ここまでの捜査で、犯人像が見えてきた」
ソウタ:「見えてないだろ」
レン:「推理には勢いが必要なんだよ!」
シオンが整理した。
夜間に冷蔵庫を開けた人物は複数。
写真の人影は特定できない。
プリンの所有者はレン。
名前を読んだと認めた人物はレイ。
ただし、これだけでは犯人と断定できない。
俺は手を挙げた。
ユウキ:「レイが、みんなの前で答えるって言ってた」
全員の視線がレイへ集まった。
レイは静かに立ち上がる。
レイ:「……もう、いいか」
レンが息をのんだ。
レン:「まさか……!」
◇
午後3時10分。
レイは、空のプリン容器を見つめた。
レイ:「食べたのは、僕だよ」
食堂が静まり返った。
レンの口が開いたまま止まる。
ユウキ:「……本当に?」
レイ:「うん。昨日の夜、冷蔵庫から取って食べた」
シオン:「名前が書いてあるのは分かってた?」
レイ:「分かってた」
レン:「なんでだよおおおお!」
レイは少し考えた。
そして、淡々と答えた。
レイ:「昨日、投票の対象者になって、なんとなくムカついたから」
沈黙。
俺は耳を疑った。
ユウキ:「……それだけ?」
レイ:「うん」
レン:「俺のプリン、関係なくない!?」
レイ:「そうだね」
レン:「そうだね、じゃねええええ!」
レイは視線を落とした。
レイ:「冷蔵庫を開けたらプリンがあって、名前を見たらレンのだった。なんとなく食べたくなった」
ソウタ:「犯行動機が雑すぎる」
カイト:「逆恨みですらねえのかよ」
レイ:「……ごめん」
俺は椅子にもたれた。
昨日、Xではないと判定された男。
その翌日、彼はプリン泥棒として自白した。
この島の判定システムには、重大な抜け穴がある。
Xではないことと、他人のプリンを食べないことは、まったく別だった。
◇
午後4時。
事件の全容が明らかになった。
昨夜、レイは投票結果に腹を立てて食堂へ来た。
水を飲もうと冷蔵庫を開けたところ、レンのプリンを発見。
名前を確認。
それでも取り出した。
スプーンで食べた。
空容器を冷蔵庫へ戻した。
以上。
シオン:「計画性は?」
レイ:「ない」
ソウタ:「共犯者は?」
レイ:「いない」
リナ:「プリンを食べることで、投票結果が変わると思った?」
レイ:「思ってない」
レンが両手で顔を覆った。
レン:「じゃあ本当になんとなくじゃん……」
レイは頷いた。
レイ:「うん。なんとなく」
俺は思わず笑ってしまった。
昨日まで、レイの発言の裏に隠された意図を必死に考えていた。
まさか、何も考えずに他人のプリンを食べる日が来るとは。
◇
午後5時。
判決が下された。
もちろん、運営によるX判定ではない。
俺たち13人による、ただの話し合いだ。
レン:「九条レイ。お前には、プリンを弁償してもらう!」
レイ:「分かった」
レン:「しかも、同じプリンを2個だ!」
レイ:「……2個?」
レン:「1個は弁償! もう1個は慰謝料!」
レイは少し考えた。
レイ:「分かった。STORE Xで買っておく」
レンは満足げに頷いた。
レン:「よし。これにて一件落着!」
アカリが拍手した。
ヒナも笑いながら拍手する。
カイトは呆れた顔で肩をすくめた。
ソウタはホワイトボードに、最後の一文を書き加えた。
『犯人:九条レイ』
『動機:なんとなくムカついた』
シオンがその下に、小さく書いた。
『Xではないが、プリン泥棒ではある』
俺は腹を抱えて笑った。
◇
午後7時。
夕食後、レイは約束どおりプリンを2個購入した。
レンは受け取ると、蓋に名前を書いた。
『一ノ瀬レン』
さらに、その下にもう1行。
『食べたら許さない』
レイが横からのぞき込む。
レイ:「今度は食べないよ」
レン:「信用できるか!」
レイ:「昨日の判定で、僕がXじゃないことは確定したのに」
レン:「プリンに関しては前科1犯だろ!」
俺たちは、また笑った。
昨日までの緊張が、少しだけ薄れていく。
この島に来てから、誰かを疑うことばかりだった。
今日も犯人探しをした。
だが、今回だけは、答えが出たあとに笑うことができた。
◇
午後10時。
自室に戻った俺は、ノートを開いた。
『DAY31 プリン事件』
『被害者:一ノ瀬レン』
『犯人:九条レイ』
『動機:第1回X投票の対象者になってムカついたため、なんとなく』
『処分:プリン2個の弁償』
俺はペンを置いた。
1億円ゲームが始まって31日。
初めて、全員が納得する形で犯人が判明した。
もっとも、被害品はプリンだったが。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は身構えて開いた。
『本日の事件について、1つだけお伝えします。』
続く文章を見て、俺は固まった。
『冷蔵庫に名前を書くことは、所有権を明示するうえで有効です。』
さらに、最後の1行。
『ただし、九条レイには効果がありませんでした。』
ユウキ:「そこまで把握してるのかよ!」
俺は端末を伏せた。
Xの正体は、まだ分からない。
だが、今日の犯人は分かった。
そして明日から、俺たちは再び1億円と12年前の真相を追う。
……その前に。
俺は自分の冷蔵庫の飲み物にも、名前を書いておくことにした。
第1章 第37話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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