第1章 第36話「第1回X投票」
DAY30。
午前7時18分。
俺は、ほとんど眠れなかった。
机の上には、これまでの調査をまとめたノートがある。
黒い封筒。
12年前の青風未来基金。
父の名前。
そして、九条レイ。
レイは封筒を拾い、受付へ届け、案内室へ運んだ。その行動には記録の裏付けがある。
だが、島へ持ち込んだ人物は、まだ分かっていない。
俺はノートを閉じた。
今日、俺たちは13人の中からXだと思う人物を選ぶ。
確信がなくても、投票はやってくる。
◇
午前8時。
食堂には全員が集まっていた。
いつもなら朝から騒がしいレンも、今日は静かだ。
レン:「……なあ。投票って、昼飯のあとだよな?」
シオン:「午後1時からだね」
レン:「よかった。空腹で人生を左右する判断をしたくない」
ソウタ:「満腹なら正確になる保証もないぞ」
レン:「今日ぐらい希望を持たせてくれ!」
小さな笑いが起きた。
俺も笑ったが、すぐにレイのほうを見た。
彼は普段と変わらない表情で、朝食を食べている。
昨日、レイは封筒を島へ持ち込んでいないと明言した。
それを信じるかどうか。
そして、仮に信じなかったとしても、それがXである証拠になるのか。
俺は、まだ答えを出せずにいた。
◇
午前10時。
資料閲覧室で、最後の確認を行った。
シオンがホワイトボードに書く。
『レイについて確認された行動』
『DAY1、西側通路で黒い封筒を拾った』
『拾得物として受付へ届けた』
『受付の搬送依頼に従い、案内室へ運んだ』
『封筒を島へ持ち込んだことは本人が否定』
その下に、別の欄を作った。
『未確認事項』
『島への搬入者』
『西側通路の台へ置いた人物』
『封筒と12年前の写真との関係』
カイトが腕を組む。
カイト:「レイが何か知ってたのは確かだろ」
シオン:「うん。ただ、知っていたこととXであることは別だね」
アカリが不安そうに口を開く。
アカリ:「でも、ほかに誰を疑えばいいのかも分からないよ……」
誰もすぐには答えなかった。
俺たちは1か月かけて調べた。
それでも、13人のうち誰がXなのか、決定的な証拠は見つからなかった。
◇
正午。
俺はミオと食堂の窓際に座っていた。
ミオ:「緊張してる?」
ユウキ:「かなり」
ミオ:「そうだよね」
俺は箸を置いた。
ユウキ:「もし間違えたら、誰かを傷つけるかもしれない」
ミオは少し考えてから言った。
ミオ:「だから、投票した理由を、自分で説明できるようにしたいね」
俺は頷いた。
その通りだ。
誰かが怪しいと言ったから。
みんなが投票しそうだから。
そんな理由で選びたくはない。
ユウキ:「ミオは、もう決めた?」
ミオ:「うん。私は決めてるよ」
ユウキ:「そっか」
俺はそれ以上、聞かなかった。
誰に投票するかは、それぞれが決めることだ。
俺も、自分の答えを出さなければならない。
◇
午後0時50分。
中央施設の投票室へ向かう通路には、13人全員が集まっていた。
扉の上には、赤い文字が表示されている。
『第1回X投票』
俺は息を吸った。
扉が開く。
中には13台の投票端末が、互いの画面を見られないように配置されていた。
正面の大型モニターが点灯する。
『参加者13名の入室を確認しました』
無機質な音声が響いた。
運営:「これより、第1回X投票を開始します。投票に先立ち、ルールを説明します」
全員が顔を上げた。
運営:「参加者13名は、それぞれ主催者Xだと思う人物を1名選び、投票してください。自分自身への投票も可能です。棄権は認められません」
画面に13人の名前が表示される。
運営:「最多票を獲得した人物を、今回の判定対象者とします」
続けて、文字が切り替わった。
運営:「最多票が同数の場合、同数最多の人物のみを候補として決選投票を実施します。決選投票の前に、候補者には弁明の機会が与えられます」
運営:「弁明終了後、参加者全員が相談せず、一斉に再投票してください。決選投票でも最多票が同数となった場合、今回の判定対象者はなしとします」
俺は画面を見つめた。
運営:「判定が行われた場合、開示される結果は判定対象者1名についてのみです。Xではないと判定された人物は、以後の投票で判定対象となりません。ただし、投票には引き続き参加します」
さらに、生活費に関する説明が表示された。
運営:「Xではない人物を判定対象とした場合、翌月の生活費支給額は規定に従い減額されます。通常の支給額は1人あたり100,000円、減額時は50,000円です。賞金とは別に管理されます」
レンが小さく呟いた。
レン:「間違えたら、来月のプリンが……」
ソウタ:「そこだけ聞くな」
運営:「投票は各自の判断で行ってください。投票内容は、他の参加者の端末には表示されません」
モニターに、最後の文字が現れた。
『第1回X投票を開始します』
◇
午後1時05分。
俺の端末に、13人の名前が表示された。
神崎ユウキ。
一ノ瀬レン。
黒川ソウタ。
堂島カイト。
九条レイ。
藤堂シオン。
白石ミオ。
桜庭アカリ。
天宮リナ。
水瀬ナナ。
小鳥遊ヒナ。
橘ハルカ。
相沢セナ。
俺は指を止めた。
レイが封筒を運んだことは確かだ。
だが、受付から依頼されたという記録もある。
彼が島へ持ち込んだという証拠はない。
それでも、何かを隠していたのも事実だった。
俺は目を閉じた。
昨日、レイは言った。
『僕が黙っていたことは、事実だから』
その言葉を思い出す。
隠し事があるだけで、Xだと決めつけていいのか。
俺は、そうは思えなかった。
では、誰に投票する?
俺は全員の名前を見直した。
そして、ある人物の名前で指を止めた。
その人物は、青風の記録について冷静に調べ、情報を整理してきた。
俺たちが見落とした部分にも、何度か気づいている。
だからこそ、まだ話していないことがあるのではないか。
もちろん、それだけでXだとは言えない。
だが、今の俺が自分の判断で選ぶなら――。
俺は、藤堂シオンの名前を選んだ。
『投票先:藤堂シオン』
『この内容で確定しますか?』
俺は確認ボタンを押した。
画面が暗くなる。
『投票を受け付けました』
俺の第1回投票は、終わった。
◇
午後1時20分。
全員の投票が終了した。
大型モニターに、文字が表示される。
『集計中』
食堂で見せていた余裕は、誰の顔からも消えていた。
レンは両手を組み、カイトは腕を組んでいる。
ナナは俯き、アカリは唇を噛んでいた。
レイは静かに前を見ている。
ミオは、俺の少し離れた場所に立っていた。
俺は息を吸った。
やがて、モニターが切り替わる。
『第1回X投票 集計結果』
13人の名前と得票数が表示された。
参加者得票数
九条レイ5票
藤堂シオン3票
黒川ソウタ2票
白石ミオ1票
天宮リナ1票
相沢セナ1票
その他7名0票
合計13票
俺は画面を見つめた。
最多票は、九条レイ。
5票。
同数ではない。
決選投票は行われない。
運営:「集計の結果、最多票を獲得した九条レイを、第1回X投票の判定対象者とします」
食堂が静まり返った。
レイは、ゆっくりと目を閉じた。
◇
午後1時25分。
モニターに、判定開始の文字が表示された。
『判定対象者:九条レイ』
『主催者X照合中』
俺は拳を握った。
もしレイがXなら、今日で終わる。
だが、もし違ったら。
俺たちは、何を失うのだろう。
数秒後。
モニターが白く光った。
『判定結果』
そして、文字が表示された。
『九条レイは、主催者Xではありません』
誰も声を出せなかった。
俺は、息を止めたまま画面を見つめていた。
レイはXではない。
それが、運営によって確定した。
◇
午後1時30分。
運営:「第1回X投票の判定は終了しました。九条レイは、以後の投票で判定対象となりません。ただし、投票には引き続き参加します」
続けて、翌月の生活費について通知が表示された。
『翌月生活費:1人あたり50,000円』
レンが天井を見上げた。
レン:「……プリンどころじゃなかった」
誰も笑わなかった。
レイは、ゆっくりと俺たちを見渡した。
レイ:「……これで、僕がXじゃないことは分かったね」
カイトが顔を伏せた。
カイト:「悪かった」
レイは首を振った。
レイ:「疑われる理由はあった。僕が話すのを遅らせたから」
その声は、静かだった。
俺はレイを見た。
彼はXではなかった。
だが、封筒を運んだことも、12年前の写真を見たことも、消えたわけではない。
◇
午後2時。
投票室を出たあと、俺は中庭でレイに声をかけた。
ユウキ:「レイ」
レイ:「ユウキ」
俺は少し迷ってから言った。
ユウキ:「俺は、レイには投票しなかった」
レイは静かに頷いた。
レイ:「そうなんだ」
ユウキ:「でも、疑ってた。何度も」
レイ:「分かってる」
俺は頭を下げた。
ユウキ:「ごめん」
レイは少しだけ笑った。
レイ:「謝るより、次の投票で間違えないようにして」
俺は顔を上げた。
レイは続ける。
レイ:「それと、僕も調べるよ。封筒を持ち込んだ人のこと」
ユウキ:「……一緒に?」
レイ:「うん。僕がXじゃないって分かったからこそ、できることもあると思う」
俺は頷いた。
初めて、レイの表情が少しだけ柔らかく見えた。
◇
午後4時。
資料閲覧室に戻ると、シオンがホワイトボードを書き換えていた。
『第1回X投票』
『判定対象者:九条レイ』
『判定結果:Xではない』
『残るX候補:12人』
俺はその文字を見つめた。
13人から、12人へ。
たった1人減っただけだ。
だが、今日の判定には意味がある。
レイがXではないことは、もう疑う必要がない。
その代わり、俺たちは別の誰かを探さなければならない。
俺はP-004の写真を開いた。
幼い俺と、青いビーズの少女。
裏面の読めない名前。
レイが家で見たという、もう1枚の写真。
その謎は、まだ残っている。
◇
夜。
自室に戻った俺は、ノートを開いた。
『第1回X投票』
『俺の投票先:藤堂シオン』
『判定対象者:九条レイ』
『結果:Xではない』
俺はペンを置いた。
自分の票は、最多票にはならなかった。
だが、シオンに投票した理由を、俺はまだ捨てていない。
彼がXだと決めつけるつもりはない。
ただ、次の1か月で確かめたいことがある。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『第1回X投票が終了しました。』
続けて、文章が表示される。
『九条レイは、主催者Xではありません。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『ですが、彼が12年前に見た写真には、まだ続きがあります。』
『次に探すべきものは、黒い封筒ではありません。』
俺は息をのんだ。
その下に、短い言葉が表示された。
『写真の裏に残された、もう1人の名前です。』
俺は端末を伏せた。
DAY30。
第1回X投票は終わった。
九条レイは、Xではなかった。
だが、俺たちの1億円ゲームは、まだ始まったばかりだった。
第1章 第36話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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