第1章 第35話「投票前夜の告白」
DAY29。
午前6時40分。
第1回X投票まで、あと1日。
俺は机の上に、2枚の写真を並べていた。
1枚は、12年前の青風交流会で撮影されたP-004。
幼い俺と、長い髪の少女が写っている。少女の手首には青いビーズ。裏面には『ゆうき』と、傷んで読めないもう1人の名前。
もう1枚は、DAY1の港でヒナが撮った写真。
顔の見えない人物が黒い長方形を持ち、そのバッグには青い飾りのようなものがついている。
似ている。
だが、同じ物だとは証明できない。
俺は写真を閉じた。
明日は投票だ。
12年前の謎も、黒い封筒の謎も、すべて解けるとは思っていない。
それでも、誰かをXだと判定するための1票を、曖昧な思い込みだけで投じるわけにはいかなかった。
◇
午前8時。
食堂に入ると、ホワイトボードに大きな文字が書かれていた。
『第1回X投票 DAY30』
書いたのはシオンだった。
彼はノートを閉じ、俺たちを見渡した。
シオン:「明日が初回投票だ。今日は新しい情報を集めるだけじゃなく、これまでの事実を整理したい」
眼鏡をかけたソウタが頷く。
ソウタ:「特に、確認済みの情報と本人の申告を混ぜないことだな」
レン:「俺の申告も信用してくれ。昨日のプリンは食べてない」
アカリ:「誰も聞いてないよ?」
レン:「先に潔白を証明しておこうと思って」
カイト:「冷蔵庫の空容器、お前の名前書いてあったぞ」
レン:「証拠の管理が厳重すぎる!」
小さな笑いが起きた。
だが、レイは笑わなかった。
銀髪の青年は、食堂の端で静かに端末を見つめていた。
◇
午前9時。
俺たちは、黒い封筒について判明したことを整理した。
まず、INFO-001によって確認された事実。
『黒い封筒は、参加者13人のうち1人が島へ持ち込んだ』
次に、レイの説明と受付控えで確認できたこと。
『レイは西側通路で封筒を拾った』
『拾得物として受付へ届けた』
『受付から搬送を依頼され、案内室へ運んだ』
そして、まだ分からないこと。
『島へ持ち込んだ人物』
『西側通路の台へ置いた人物』
『封筒を運営が案内室へ戻した理由』
シオンが最後の項目を指さした。
シオン:「レイが運んだ理由は搬送依頼で説明できる。でも、そもそもなぜ受付が参加者に運ばせたのかは分からない」
ソウタ:「運営の指示だったことと、その指示が妥当だったことも別だ」
俺は頷いた。
レイは封筒を運んだ。
その事実は変わらない。
だが、運んだからXだとは言えない。
◇
午前10時。
レイが席を立った。
レイ:「みんなに、話したいことがある」
食堂が静まり返った。
彼は端末をテーブルに置く。
レイ:「昨日、家に残っていた青風の写真について話したよね。青い飾りと、黒い封筒に似たものが写っていたって」
俺は頷いた。
レイ:「あの写真を見た理由も、話しておく」
レイは少し息を吸った。
レイ:「僕の親族は、青風の記録整理に関わっていた。家には、整理の途中で複写された写真が残っていたんだ」
リナ:「P-004の裏にあった『九条』という名字と、同じ人?」
レイ:「同じかどうかは、僕も確認できていない」
レイは続けた。
レイ:「ただ、家にあった写真の中に、交流会の会場が写ったものがあった。そこに黒い封筒に似たものが写っていた」
俺は身を乗り出した。
ユウキ:「封筒には、何か書いてあった?」
レイ:「覚えていない。写真の端に写っていただけだから」
彼は視線を落とした。
レイ:「だから、DAY1に封筒を見つけたとき、気になった」
◇
午前10時30分。
カイトが腕を組んだ。
カイト:「それで、封筒を拾って届けたのか?」
レイ:「うん」
カイト:「でも、なんで黙ってた?」
レイは少し間を置いた。
レイ:「……僕が届けた封筒が、みんなの前に現れたとき、怖くなった」
俺は顔を上げた。
レイ:「拾って届けただけなのに、僕が持ち込んだと思われるかもしれない。そう考えた」
彼は静かに続ける。
レイ:「それに、家の写真のことを話せば、青風に関係していた親族まで疑われると思った」
食堂に沈黙が落ちた。
レイは初めて、自分が黙っていた理由を言葉にした。
それは、Xである証明ではない。
だが、彼が疑われることを恐れていたのは、伝わってきた。
◇
午前11時。
俺はレイに、最後の確認をした。
ユウキ:「レイ。あの黒い封筒を、島へ持ち込んだ?」
彼は俺を見た。
レイ:「持ち込んでいない」
ユウキ:「西側通路の台へ置いた?」
レイ:「置いていない。僕が見つけたときには、もう置かれていた」
ユウキ:「封筒の中身を、事前に知っていた?」
レイ:「知らなかった」
俺は頷いた。
これらは、レイ本人の申告だ。
すべてを裏付ける記録は、まだない。
それでも、彼はようやく質問に答えた。
◇
昼休み。
俺はミオと食堂の窓際に座っていた。
ミオ:「レイくん、話してくれたね」
ユウキ:「うん」
俺は水を飲んだ。
ユウキ:「でも、まだ分からないことが多い」
ミオ:「そうだね」
彼女は静かに頷いた。
ミオ:「明日の投票で、全部の謎が解けるわけじゃないから」
俺は窓の外を見た。
海は穏やかだった。
この島に来て、もう29日。
俺たちは1億円のために集められた。
だが、今の俺にとっては、賞金よりも気になることがある。
12年前、父は何をしたのか。
青いビーズの少女は誰なのか。
そして、この島にいるXは、何を知っているのか。
◇
午後1時。
資料閲覧室で、シオンが投票の仕組みを確認していた。
シオン:「明日の投票前に、ルールが再掲されるはずだけど、今のうちに整理しておこう」
俺たちは画面を見た。
参加者13人が、それぞれXだと思う人物を1人選ぶ。
自分自身への投票も可能。
最多票を得た人物が判定対象となる。
ただし、最多票が同数の場合は、同数者による決選投票へ進む。
決選投票では、対象者が弁明したあと、参加者全員が相談せず一斉に投票する。
再び最多票が同数なら、その回の判定対象者はなし。
判定結果として開示されるのは、1人だけ。
俺は画面を見つめた。
13人のうち、誰か1人がX。
だが、投票は多数決だ。
多数派が正しいとは限らない。
◇
午後2時。
全員で、投票前の意見交換を行うことになった。
最初に口を開いたのはカイトだった。
カイト:「俺は、レイが気になってる。封筒のことを長く黙ってたからな」
レイは何も言わなかった。
アカリが続ける。
アカリ:「私も、まだ少し引っかかってる」
ナナは不安そうに視線を落とした。
ナナ:「でも、拾って届けた記録はあるんだよね……」
シオンが頷く。
シオン:「そう。レイが運んだことは確認できた。でも、Xである証拠にはならない」
俺は全員の顔を見た。
誰も、確信を持っていない。
それでも明日、俺たちは1票を投じる。
◇
午後3時。
レイが俺の隣に来た。
レイ:「ユウキ。少し、いい?」
俺たちは中庭へ出た。
レイは空を見上げた。
レイ:「明日、僕に投票する?」
俺はすぐには答えられなかった。
ユウキ:「……まだ決めてない」
レイ:「そう」
彼は静かに頷いた。
レイ:「僕が黙っていたことは、事実だから」
ユウキ:「でも、黙ってたからXだとは思わない」
レイは俺を見た。
ユウキ:「明日まで考える。自分で決めるよ」
レイは、ほんの少しだけ笑った。
レイ:「それでいいと思う」
◇
午後4時。
俺は1人で資料閲覧室へ戻った。
P-004を開く。
幼い俺と、青いビーズの少女。
裏面の読めない名前。
レイが家で見たという、別の写真。
そこに残されているという、俺の知らない名前。
俺は端末を閉じた。
明日の投票でレイが判定対象になったとしても、この謎が解けるとは限らない。
そして、もしレイがXではなかったとしても、彼が知っている12年前の情報には意味がある。
俺は、投票の結果だけで人を見ないようにしようと思った。
◇
午後5時。
食堂のホワイトボードには、明日の予定が書かれていた。
『DAY30 第1回X投票』
『投票前にルール再掲』
『投票後、最多票対象者の判定』
レンがそれを見て、ため息をついた。
レン:「ついに来たか……」
アカリ:「緊張するね」
レン:「俺、こういうの苦手なんだよ。多数決で昼飯決めるときも、毎回負けるし」
ソウタ:「お前が毎回『プリン』って書くからだろ」
レン:「昼飯に夢を持って何が悪い!」
笑いが起きた。
だが、誰も明日のことを忘れてはいなかった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、ノートを開いた。
『レイは封筒を拾い、受付へ届け、案内室へ運んだ』
『レイは島への搬入を否定』
『レイは12年前の青風の写真を見た記憶がある』
『青い飾りの持ち主は未確認』
『封筒を島へ持ち込んだ人物は未確認』
俺はペンを置いた。
レイを疑う理由はある。
だが、Xだと断定できる証拠はない。
ほかの参加者についても、同じだった。
俺は、まだ投票先を決められずにいた。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『明日は、第1回X投票です。』
続けて、文章が表示される。
『九条レイは、自分が何をしたかを話しました。』
『ですが、彼がXであるかどうかは、あなたたちが確かめることです。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『投票の結果だけで、12年前の約束を忘れないでください。』
俺は端末を伏せた。
匿名のメッセージは、証拠ではない。
だが、その言葉が胸に残った。
俺は古い手紙を取り出す。
『ぜったいに、なくさないでね。』
12年前の俺は、誰かと約束した。
その相手の名前を、まだ思い出せない。
明日、誰か1人の正体が判定されるかもしれない。
だが、俺たちの過去は、それだけでは終わらない。
DAY29。
第1回X投票まで、あと1日。
俺は明日のために、ノートを閉じた。
第1章 第35話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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