第1章 第33話「誰から受け取った?」
DAY27。
午前6時42分。
第1回X投票まで、あと3日。
俺は昨夜届いた個別メッセージを見つめていた。
『彼の説明を聞いたあと、もう1つだけ質問してください。』
『その封筒を、誰から受け取りましたか?』
九条レイは今日、初日の拾得物について話すと約束している。
差出人不明のメッセージが示した質問を、俺はノートに書き写した。
ただし、これを正解として扱うつもりはない。
匿名の言葉は、STORE Xで購入した情報とは違う。誰が、何のために送っているのかも分からないのだから。
俺が確かめたいのは、レイ自身の言葉だった。
◇
午前8時。
食堂に入ると、いつもより会話が少なかった。
レイはまだ来ていない。
レンが俺の隣に座った。
レン:「今日、話すんだよな」
ユウキ:「うん。昨日、そう約束した」
レン:「じゃあ朝飯は食っとけ。空腹で推理すると、全部食べ物に見える」
ソウタ:「お前は満腹でもそうだろ」
レン:「俺への信頼が揺るぎない!」
眼鏡をかけたソウタは、返事の代わりに味噌汁を飲んだ。
向かいでは、シオンが昨日までの調査内容を整理していた。
シオン:「レイの話を聞く前に、確認できていることをそろえよう」
俺は頷いた。
初日の黒い封筒は、参加者13人のうち1人が島へ持ち込んだ。
これは購入済みのINFO-001で確認された事実だ。
レイが撮った写真には、発見前の封筒が西側通路の台に写っていた。
同じ通路では、初日に拾得物が1件受け付けられている。
ただし、拾得物が封筒だったかは未確認。
そしてレイは、その内容を知っていると言った。
ここまでは、全員が共有できる。
◇
午前9時。
レイが食堂へ入ってきた。
彼は集まった顔ぶれを見渡し、静かに言った。
レイ:「昨日の約束を守りに来た」
カイトが椅子を引いた。
カイト:「じゃあ、聞かせてくれ」
レイは座らなかった。
レイ:「まず、昨日見つかった拾得物記録のことから話す」
俺はノートを開いた。
レイ:「DAY1、西側通路で届けられた拾得物は、黒い封筒だった」
食堂が静まり返る。
リナがすぐに確認した。
リナ:「その内容を、どうやって知ったの?」
レイ:「僕が届けたから」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「……レイが?」
レイ:「うん」
レイは頷いた。
レイ:「西側通路の台に置かれていた封筒を見つけて、施設の受付に持っていった」
俺は昨日までの写真を思い出した。
台の上の黒い封筒。
そのあとに記録された、拾得物の受付。
初めて、2つがつながった。
◇
午前9時15分。
シオンが静かに質問した。
シオン:「レイが撮影した写真は、拾う前に撮ったもの?」
レイ:「そう。通路を撮ったときには、封筒だと意識してなかった。あとから台の上に気づいて、近づいて確認した」
ヒナ:「写真を撮ったあと、封筒を拾ったんだね」
レイ:「うん」
ソウタ:「拾得物として届けた記録は、本人なら確認できるのか?」
レイ:「受付時に控えが発行された。今も持ってる」
レイは端末を操作し、画面を俺たちに向けた。
『DAY1 拾得物受付控え』
『拾得場所:中央施設・西側通路』
『品目:黒色封筒 1点』
『届出者:九条レイ』
俺は画面を見つめた。
少なくとも、レイが封筒を届けたという説明には、記録の裏付けがあった。
ただし、控えが示すのは受付時の行動だ。
島へ持ち込んだ人物までは分からない。
◇
午前9時30分。
カイトが腕を組んだ。
カイト:「だったら、なんで最初から言わなかった?」
レイは目をそらさなかった。
レイ:「届けたとき、受付の人に確認されたんだ。『どこで見つけたか』『誰かが置くところを見たか』って」
ユウキ:「それで?」
レイ:「置くところは見てない、と答えた。そのあと、封筒は確認のために預かると言われた」
レイは少し間を置いた。
レイ:「でも、みんなの前に現れた封筒が、僕の届けたものと同じだと分かったのは、あとからだった」
ソウタが首を傾ける。
ソウタ:「拾得物の封筒は、受付で預かったんだろう? それがなぜ、みんなの前に現れた?」
レイ:「分からない」
レイの声が低くなる。
レイ:「僕も、そこを確認したかった」
俺は息をのんだ。
台から受付へ。
その先の移動が、まだ空白だった。
◇
午前10時。
俺は、昨夜のメッセージに書かれていた質問を思い出した。
『その封筒を、誰から受け取りましたか?』
レイは台から拾ったと説明した。
ならば、質問の前提は違うのかもしれない。
それでも、聞く価値はある。
ユウキ:「レイ。封筒を拾う前に、誰かから受け取ったことはある?」
レイ:「ないよ」
即答だった。
俺は続けた。
ユウキ:「じゃあ、受付で預けたあと、誰かから返してもらった?」
レイの表情が変わった。
ほんのわずかに、眉が動く。
レイ:「……ある」
俺は息を止めた。
ユウキ:「誰から?」
レイは端末の受付控えを見た。
レイ:「受付の人から。確認が終わったから、指定された場所へ運んでほしいって」
食堂がざわついた。
カイト:「待て。お前、封筒を運んだのか?」
レイ:「うん」
レイは静かに頷いた。
レイ:「僕が運んだ」
◇
午前10時15分。
俺はノートを見つめた。
レイは封筒を拾った。
受付に届けた。
そして、返された封筒を運んだ。
彼が回答を保留していた『運んだか』という質問に、ようやく答えが出た。
だが、これだけではXとは言えない。
シオン:「どこへ運ぶように言われたの?」
レイ:「中央施設の案内室。そこに置くよう指示された」
リナ:「その指示は、端末に残ってる?」
レイ:「残ってる」
レイが表示した通知には、受付番号と搬送先が記されていた。
『確認済み拾得物の搬送依頼』
『搬送先:中央施設・案内室』
俺たちが黒い封筒を確認したのは、その案内室だった。
これで、封筒の移動経路がつながった。
西側通路の台。
拾得物受付。
案内室。
そのうち、後半を運んだのはレイだった。
◇
午前11時。
カイトがレイを見据えた。
カイト:「そこまで知ってて、なんで黙ってた?」
レイ:「受付で聞いたことを、確かめたかったから」
ユウキ:「何を聞いたんだ?」
レイは少しだけ唇を結んだ。
レイ:「封筒を届けたとき、受付の人が言ったんだ。『これは参加者が持ち込んだものです』って」
俺は目を見開いた。
INFO-001で確認された内容と同じだ。
レイ:「でも、その人は持ち込んだ参加者の名前を教えてくれなかった」
ソウタ:「つまり、受付側は搬入者を把握していた可能性がある」
シオン:「ただし、その発言が記録に残っているかは別だね」
レイ:「うん。僕も、受付の人が何を根拠に言ったのかは知らない」
レイは俺たちを見渡した。
レイ:「僕が黙っていたのは、封筒を運んだことを話せば、僕が持ち込んだと思われるかもしれなかったから。それと、受付で聞いた言葉だけで別の誰かを疑わせたくなかったから」
彼の説明には、筋が通っていた。
だが、重要な情報を長く伏せていたことも事実だった。
◇
昼休み。
俺は食堂の窓際で、ミオと向かい合っていた。
ミオ:「レイくん、話してくれたね」
ユウキ:「うん。封筒を運んだのはレイだった」
俺は水を飲んだ。
ユウキ:「でも、島へ持ち込んだかどうかは、まだ分からない」
ミオ:「そうだね」
彼女は静かに頷いた。
ミオ:「拾って運んだことと、最初に持ち込んだことは別だから」
俺は頷いた。
その通りだった。
ただし、レイはまだ、発見前に封筒を持ち込んだかという質問に明確には答えていない。
俺は、その点を見落とさないようにした。
◇
午後1時。
資料閲覧室で、俺たちはレイの受付控えと搬送通知を照合した。
受付番号は一致している。
品目は黒色封筒。
搬送先は案内室。
リナが頷いた。
リナ:「少なくとも、レイが届けた封筒と、運搬を依頼された封筒は同じ受付番号で管理されてる」
ソウタ:「問題は、その前だな」
俺はノートに線を引いた。
『港 → 西側通路の台』
ここだけが、まだつながっていない。
レイが運んだのは、台から先。
台へ置いた人物は不明。
島へ持ち込んだ人物も不明。
俺はレイを見た。
ユウキ:「レイ。今なら答えられるか?」
彼は俺を見返した。
ユウキ:「黒い封筒を、島へ持ち込んだ?」
レイは静かに答えた。
レイ:「僕は、持ち込んでいない」
食堂が静まり返った。
俺はその言葉をノートに書いた。
これはレイ本人の申告だ。
まだ、独立した裏付けはない。
◇
午後2時。
シオンが、ここまでの事実をホワイトボードにまとめた。
『確認できたこと』
『レイは西側通路で黒い封筒を拾った』
『レイは拾得物として受付へ届けた』
『レイは受付から封筒を受け取り、案内室へ運んだ』
『レイは島への搬入を否定した』
『搬入者と、西側通路の台へ置いた人物は未確認』
アカリが小さく息を吐く。
アカリ:「じゃあ、レイくんがXって決まったわけじゃないんだね」
ソウタ:「もちろんだ。封筒を運んだだけでXなら、宅配業者は全員主催者になる」
レン:「俺の通販、毎回ラスボスが届けに来てたのか……」
張りつめていた空気が、少しだけ緩んだ。
だが、レイを見るカイトの表情は硬いままだった。
カイト:「説明は分かった。でも、もっと早く話せたんじゃねえのか」
レイ:「……それは、そうだと思う」
レイは否定しなかった。
◇
午後3時。
俺は1人で西側通路へ向かった。
黒い封筒が置かれていた台。
ここまで来れば、港から運んだ人物が封筒を置くことはできる。
だが、誰かが置いたところを見た人はいない。
俺は周囲を見渡した。
台のすぐ横には、案内板が立っている。
その裏側に、小さな金属の留め具があった。
何かを固定するためのものらしい。
ただ、それが封筒と関係する証拠はない。
俺は写真を撮り、ノートに記録した。
推測だけで、次の犯人を作らないために。
◇
午後4時。
資料閲覧室へ戻ると、ヒナが端末を見せてきた。
ヒナ:「ユウキくん。DAY1の写真、もう1枚見つけた」
画面には、港の出口が写っていた。
参加者たちの後ろ姿。
その中に、暗い服を着た人物がいた。
手元には、黒い長方形。
昨日まで見ていた写真と似ている。
だが、今回の写真には、別のものが写っていた。
その人物の肩にかかったバッグ。
持ち手の付け根に、小さな飾りが揺れている。
青い、丸い飾り。
俺は息をのんだ。
ユウキ:「……青い?」
ヒナが画面を拡大する。
だが、画質は粗い。
青い飾りなのか、光の反射なのか。
まだ分からない。
俺の脳裏に、12年前の写真が浮かんだ。
幼い俺の隣にいた少女。
その手首にあった、青いビーズ。
同じ物だと考えるには、材料が足りない。
それでも、俺は画面から目を離せなかった。
◇
午後5時。
今日の調査結果を全員に共有した。
レイの説明によって、封筒の移動経路の一部が確定した。
だが、港から西側通路の台までの経路は、依然として不明だ。
そして、青い飾りの写った写真。
その持ち主も、まだ分からない。
カイトが言った。
カイト:「結局、持ち込んだ奴は分からねえままか」
シオン:「そうだね。ただ、レイが何をしたのかは、昨日より明確になった」
俺は頷いた。
疑いは、証拠で確かめなければならない。
レイが封筒を運んだことは事実。
だが、それだけでXだとは言えない。
俺たちには、まだ3日ある。
◇
夜。
自室に戻った俺は、ノートを開いた。
『レイは黒い封筒を拾い、受付へ届け、案内室へ運んだ』
『レイは島への搬入を否定』
『港から西側通路までの経路は未確認』
『港の写真に、青い飾りのようなもの』
俺はペンを止めた。
青いビーズ。
12年前の約束。
黒い封筒。
この3つが、偶然同じ色でつながっているだけなのか。
それとも――。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『九条レイは、今日、自分が何をしたかを話しました。』
続けて、文章が表示される。
『ですが、封筒を運んだ理由と、封筒を持ち込んだ理由は、同じではありません。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『青い飾りを見つけましたね。』
『その持ち主を、写真だけで決めないでください。』
俺は端末を伏せた。
差出人は、俺たちが何を調べているのか知っている。
少なくとも、そう思わせる文章だった。
だが、その人物がXだという証拠はない。
俺はノートの最後に、もう1つ書き加えた。
『青い飾りの持ち主を確認する』
DAY27。
第1回X投票まで、あと3日。
黒い封筒の行方は、少しずつ明らかになっている。
だが、その先にいる人物の顔は、まだ見えなかった。
第1章 第33話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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