第1章 第32話「九条レイの空白」
DAY26。
午前6時51分。
第1回X投票まで、あと4日。
俺は昨夜のメッセージを読み返していた。
『見たものを話すことと、自分が何をしたかを話すことは、同じではありません。』
レイは、港で黒い封筒らしきものを持つ人物を見たと話した。
だが、封筒を島へ持ち込んだかという質問には、今も答えていない。
俺はノートを開く。
『レイが見たもの』
『レイ自身がしたこと』
2つを分けて書いた。
誰かの行動を疑うなら、まず、その行動が実際にあったのか確かめる。
分かっているつもりだった。
それでも、投票が近づくにつれて、俺は答えを急ぎ始めていた。
◇
午前8時。
食堂でシオンとソウタに相談した。
ユウキ:「レイが自分で何をしたのか、まだ聞けてない」
シオン:「じゃあ、今日は質問を細かく分けよう」
シオンはノートに3つの項目を書いた。
『封筒を持ったか』
『誰かから受け取ったか』
『どこかへ運んだか』
ソウタ:「それに、質問の対象をはっきりさせたほうがいい」
ユウキ:「対象?」
ソウタ:「『黒い封筒らしきもの』じゃなく、初日に発見された、あの封筒だ。似た物を持っただけなら別の話になる」
眼鏡をかけたソウタが、ペンで項目を囲んだ。
俺は頷く。
曖昧な質問には、曖昧な答えしか返ってこない。
隣で聞いていたレンが手を上げた。
レン:「俺にも質問していいぞ。昨日の朝、何を食べたかとか」
ソウタ:「焦げたトーストだろ」
レン:「俺の行動履歴、全部公開されてる?」
◇
午前9時。
中庭でレイを見つけた。
銀髪が朝の光を受けて、白く見える。
ユウキ:「レイ。少し話せるか?」
レイ:「うん」
俺はノートを開いた。
ユウキ:「昨日までの質問を、分けて聞きたい」
レイは静かに頷いた。
ユウキ:「初日に見つかった、あの黒い封筒を、自分の手で持ったことはある?」
レイは少し考えた。
レイ:「あるよ」
俺は息をのんだ。
初めて聞く答えだった。
ユウキ:「……いつ?」
レイ:「みんなで封筒を確認したとき。僕も手に取った」
俺は肩の力を抜いた。
確かに、発見後なら不思議ではない。
ユウキ:「発見される前は?」
レイは俺を見た。
レイ:「それには、まだ答えられない」
俺は頷いた。
予想していた答えだった。
ユウキ:「じゃあ、発見前に、誰かから封筒を受け取った?」
レイ:「……その質問も、保留させて」
ユウキ:「どこかへ運んだ?」
レイは答えなかった。
風が、ベンチの脇を通り抜ける。
俺はノートに記した。
『発見前の所持・受領・運搬について、回答保留』
レイはその文字を見て、静かに言った。
レイ:「隠してると思われるのは、分かってる」
ユウキ:「……うん」
レイ:「でも、僕だけのことじゃないんだ」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「どういう意味だ?」
レイは少しだけ視線を落とした。
レイ:「今は、それも話せない」
◇
午前10時。
資料閲覧室へ戻った俺は、レイとの会話を共有した。
カイトが眉を寄せる。
カイト:「自分が運んだかどうかも言えねえのか?」
ユウキ:「うん」
アカリ:「……それ、ちょっと怖いね」
シオンがノートを見つめた。
シオン:「回答を保留したことは事実。でも、理由は分からない」
ソウタ:「『僕だけのことじゃない』という発言から、別の人物が関わっている可能性はある。ただし、誰かを守っているとまでは言えないな」
俺は頷いた。
レイが封筒を運んだのか。
誰かから預かったのか。
あるいは、まったく別の理由で答えを避けているのか。
まだ分からない。
ただ、彼が重要な質問への回答を保留し続けていることは、全員に伝わった。
◇
午前11時。
リナが公開資料の検索結果を見せてくれた。
リナ:「黒い封筒そのものじゃなくて、初日の落とし物記録を調べてみたの」
画面には、中央施設の管理記録が表示されていた。
『DAY1 拾得物受付』
『受付件数:1件』
俺は身を乗り出した。
ユウキ:「中身は?」
リナ:「非公開。でも、受付場所は見られる」
『受付場所:中央施設・西側通路』
俺は息をのんだ。
黒い封筒が置かれていた場所だ。
シオンが画面を確認する。
シオン:「同じ場所だけど、拾得物が封筒とは限らないね」
俺は頷いた。
ただ、初日の西側通路で、何かが拾得物として届けられていた。
これまで知らなかった事実だった。
◇
午後0時30分。
食堂で昼食を取っていると、ミオが向かいに座った。
ミオ:「今日は何か分かった?」
ユウキ:「レイに、質問を分けて聞いた」
俺は結果を説明した。
ミオは静かに聞いていた。
ユウキ:「あいつ、『僕だけのことじゃない』って言ったんだ」
ミオ:「そうなんだ」
ユウキ:「誰かが関わってるのかな」
ミオは少し考えた。
ミオ:「そういう可能性はあるね。でも、本人が何を指して言ったのかは、まだ分からない」
俺は頷いた。
彼女の言う通りだった。
そのとき、俺のスプーンが皿の縁から滑り落ちた。
カラン、と乾いた音が響く。
ユウキ:「……しまった」
ミオ:「大丈夫?」
ユウキ:「最近、封筒ばっかり追ってたら、スプーンまで手元から消えた」
ミオ:「それは自分で落としたんじゃないかな」
ユウキ:「犯人が即日判明した……」
ミオが小さく笑った。
俺もつられて笑った。
こんな時間があるから、まだ考え続けられる気がした。
◇
午後1時30分。
俺たちは西側通路へ向かった。
カイトが台の周囲を確認する。
カイト:「拾得物ってことは、誰かがここで何かを見つけたんだよな」
ヒナが端末を開いた。
ヒナ:「レイくんの写真だと、台の上に封筒がある。でも、そのあと誰かが届けたのかもしれないね」
俺は頷いた。
初日に封筒を発見したとき、俺たちはそれがどこから来たのかばかり気にしていた。
だが、封筒が置かれたあとにも、誰かが触れた可能性がある。
俺は管理記録の時刻を確認した。
『拾得物受付:DAY1 午後』
レイの写真が撮影されたのも、DAY1の午後。
ただし、公開記録は時刻を分単位で表示していない。
前後関係は確定できなかった。
◇
午後2時30分。
資料閲覧室へ戻ると、ソウタが別の記録を見つけていた。
ソウタ:「拾得物の受付手順が公開されてる」
俺たちは画面をのぞき込んだ。
『拾得物を受け付けた際は、発見場所・受付者・返却または保管状況を記録する』
『個人が特定される情報は、公開資料から除外する』
シオンが頷く。
シオン:「受付件数だけじゃなく、詳細記録も存在するはずだね」
リナが関連資料を開いた。
『DAY1 拾得物個別記録』
鍵のマーク。
閲覧制限中。
俺は画面を見つめた。
この島では、何かに近づくたび、次の扉に鍵がかかっている。
その鍵を開けるには、金が必要になることが多い。
だが、俺たちはまだ、今月の生活費を残さなければならなかった。
◇
午後3時。
レイを呼び、拾得物記録について聞いた。
ユウキ:「DAY1、西側通路で拾得物の受付があった。何か知ってる?」
レイは画面を見た。
そして、しばらく黙った。
レイ:「……その記録、見つけたんだ」
俺は息をのんだ。
ユウキ:「知ってたのか?」
レイ:「うん」
シオンが静かに聞く。
シオン:「何が届けられたか、知ってる?」
レイは頷いた。
レイ:「知ってる」
食堂にいた全員の視線が、彼に集まった。
カイト:「じゃあ、話してくれよ」
レイは少し間を置いた。
レイ:「……今は話せない」
カイトが立ち上がりかけた。
カイト:「またそれかよ!」
ハルカ:「カイト、落ち着いて」
俺はレイを見つめた。
ユウキ:「レイ。投票まで、あと4日だ」
レイ:「分かってる」
ユウキ:「何か知ってるなら、俺たちにも判断する材料をくれよ」
レイは目を伏せた。
レイ:「……明日」
俺は眉を寄せた。
レイ:「明日、話す」
◇
午後4時。
レイはそれ以上、何も答えなかった。
俺たちは彼の言葉を整理した。
『DAY1の拾得物記録を知っていた』
『何が届けられたかも知っている』
『詳細は明日話すと約束』
ソウタが腕を組む。
ソウタ:「少なくとも、レイは拾得物に関する情報を持っている」
シオン:「ただ、それが黒い封筒と同じ物かは、まだ確認できていないね」
俺は頷いた。
レイへの疑惑は、また1つ増えた。
だが、俺は彼が明日何を話すのか、聞くまで判断を保留することにした。
◇
午後5時。
食堂のホワイトボードに、今日の結果を書き込んだ。
『DAY1、西側通路で拾得物の受付が1件』
『拾得物の内容は非公開』
『レイはその記録を知っている』
『レイは明日、詳細を話すと約束』
アカリが不安そうに言った。
アカリ:「……レイくん、本当に話してくれるかな」
俺は答えられなかった。
約束を守るかどうかは、明日にならなければ分からない。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の情報をノートにまとめていた。
黒い封筒。
西側通路。
拾得物。
九条レイ。
4つの言葉を線でつなぐ。
ただし、線の途中には、まだ疑問符が残っている。
俺はペンを置いた。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『拾得物記録に、たどり着きましたね。』
続けて、文章が表示された。
『九条レイは、明日、あなたたちに話すと言いました。』
俺は息をのんだ。
最後の1行。
『彼の説明を聞いたあと、もう1つだけ質問してください。』
俺は画面を見つめた。
その下に、短い文章が続いた。
『その封筒を、誰から受け取りましたか?』
俺は端末を伏せた。
DAY26。
第1回X投票まで、あと4日。
レイは明日、何かを話す。
そして、その話には、まだ続きがあるらしい。
俺はノートの最後に、質問を書き加えた。
『誰から受け取った?』
明日。
必ず、本人に聞こう。
第1章 第32話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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