第1章 第3話「写真に写った14人目」
写真には、白い紙を持った人影が写っていた。
俺がホールで拾ったものと、よく似た紙だ。
そして、そのすぐ近くには、銀色の文字で「X」と書かれた黒い封筒。
偶然にしては、出来すぎている。
ユウキ:「ヒナ。この写真、いつ撮った?」
ヒナ:「えっと……島に着いて、ホールに案内された直後かな」
ユウキ:「ゲームの説明が始まる前?」
ヒナ:「うん。みんなが席を探してるとき」
ヒナはカメラの画面を操作した。
撮影時刻は午前9時42分。
ゲームの説明が始まったのは午前10時。
つまり、少なくとも18分前には、あの紙がホールに存在していたことになる。
カイト:「何か写ってたのか?」
隣からカイトが画面をのぞき込んだ。
俺は一瞬迷った。
この写真のことを、ほかの参加者に話すべきだろうか。
だが、隠したままでは何も分からない。
ユウキ:「実は、ホールでこんな紙を拾ったんだ」
ポケットから折り畳まれた紙を取り出す。
カイトが受け取り、文章を読んだ。
カイト:「……12年前の事件?」
彼の表情が変わった。
カイト:「お前、何か知ってるのか?」
ユウキ:「俺の父親が関わってた事件かもしれない」
カイト:「かもしれない?」
ユウキ:「まだ確証はない。でも、そう考える理由はある」
カイトは紙を返してくれた。
カイト:「なら、調べたほうがいいな」
ユウキ:「信じるのか?」
カイト:「何を?」
ユウキ:「俺が言ってること」
カイト:「信じるかどうかは、調べてから決める」
カイトは当然のように答えた。
カイト:「それに、紙が落ちてたのは事実なんだろ?」
そうだ。
俺が何を考えているかはともかく、紙と写真は存在している。
まずは、そこからだ。
◇
俺たちは共有リビングへ移動した。
ヒナがカメラの写真を端末へ転送し、テーブルの中央に置く。
声をかけると、リナとソウタもやってきた。
リナ:「画像を拡大してもいい?」
ヒナ:「どうぞ!」
リナは写真を開き、白い紙を持った人影の部分を拡大した。
だが、輪郭はぼやけている。
顔は写っていない。
手元の紙も、文字までは読めなかった。
ソウタ:「これだけじゃ、参加者か係員かも分からないな」
ユウキ:「そうなんだよ」
リナ:「ちょっと待って。この写真、元の画像はある?」
ヒナ:「あるよ。カメラの中」
リナ:「なら、拡大前のデータを見たい。切り抜いた画像だけだと、位置関係が分からなくなるから」
ヒナが元の画像を送る。
リナは画面を横向きにして、全体を確認した。
13脚の椅子。
正面のモニター。
壁際の机。
黒い封筒。
そして、白い紙を持つ人影。
リナ:「……あれ?」
ユウキ:「何か分かった?」
リナ:「この人、椅子の後ろに立ってるんじゃない」
リナが画面を指さした。
リナ:「壁際の机の向こう側にいる。だから、下半身が写ってないんだと思う」
カイト:「じゃあ、机に封筒を置いた人間か?」
ソウタ:「可能性はある。でも、写真だけで断定するな」
ソウタは画像をじっと見つめた。
ソウタ:「それより、人数を数えてみよう」
ユウキ:「人数?」
ソウタ:「写っている参加者だよ。誰がどこにいたか分かれば、人影の候補を絞れる」
なるほど。
俺たちは写真を拡大し、1人ずつ確認した。
レン。
レイ。
シオン。
アカリ。
ナナ。
ハルカ。
セナ。
ミオ。
カイト。
ソウタ。
リナ。
ヒナ。
そして、俺。
全員が写っていた。
ユウキ:「……13人いる」
カイト:「じゃあ、あの人影は?」
誰も答えなかった。
写真の奥に立つ人物を含めれば、14人。
参加者は13人のはずなのに。
ヒナ:「……えっ、私、知らない人まで撮っちゃった?」
レン:「何それ、怖っ!」
いつの間にかリビングに入ってきたレンが、俺たちの後ろから画面をのぞいていた。
レン:「ちょっと待って。14人目って、幽霊とかじゃないよな?」
ソウタ:「係員の可能性が高い」
レン:「そうだよな! 幽霊が封筒持ってるわけないもんな!」
リナ:「幽霊が封筒を持てないって、どうやって証明するの?」
レン:「そっち側から攻めてこないで!」
思わず笑ってしまった。
けれど、笑いが収まると、写真の不気味さが戻ってきた。
14人目。
それが係員なら、何もおかしくない。
だが、もし参加者とは別に、何かを知っている人物がいたのなら。
俺たちが疑うべき相手は、本当に13人の中だけなのだろうか。
◇
その疑問を口にしたのは、シオンだった。
シオン:「主催者Xが13人の中にいることと、運営に関わる人物がほかにいることは矛盾しない」
シオンは写真を確認すると、静かに言った。
シオン:「運営側の係員が何人いても、Xが参加者の中にいるというルールは成立する」
ユウキ:「じゃあ、14人目は係員?」
シオン:「まだ分からない。そういう可能性があるというだけだ」
彼はノートを開いた。
シオン:「それと、黒い封筒の『X』という文字も気になる」
レン:「主催者の封筒ってことじゃないの?」
シオン:「そう見せたいだけかもしれない」
レイ:「あるいは、別の意味かもね」
窓際から声がした。
レイはいつの間にか、俺たちの会話を聞いていたらしい。
レイ:「Xという文字が書かれているだけで、主催者の持ち物だと決めつけるのは早いと思う」
ソウタ:「同感だ」
レイとソウタの意見が一致した。
珍しい光景だ。
もっとも、2人とも笑ってはいなかった。
俺は写真をもう1度見た。
黒い封筒。
白い紙。
14人目の人影。
どれも、意味がありそうで、決定的なことは分からない。
ユウキ:「……直接、運営に聞いてみるか」
◇
中央施設の受付には、黒い制服の係員がいた。
俺たちは写真を見せ、午前9時42分にホールにいた人物について尋ねた。
係員:「確認いたします」
係員は端末を操作した。
数秒後、画面を見たまま答える。
係員:「当該時刻、ホールには参加者13人と、案内担当の係員1人が入室していました」
ユウキ:「じゃあ、この人影は係員ですか?」
係員:「写真だけでは、個人を特定できません」
ソウタ:「当時の案内担当者を確認すれば分かるだろ」
係員:「担当者の個人情報は開示できません」
予想どおりの返答だった。
シオンが続けて質問する。
シオン:「では、ホールに置かれていた黒い封筒について、運営側は把握していますか?」
係員:「確認いたします」
再び端末が操作される。
係員:「当該封筒は、運営の備品として登録されていません」
俺たちは顔を見合わせた。
運営の備品ではない。
なら、誰のものだ?
ユウキ:「封筒は今、どこにあるんですか?」
係員:「現在の所在については、確認できておりません」
シオンがノートに書き込む。
シオン:「ありがとうございます」
俺たちは受付を離れた。
廊下に出たところで、レンが大きく息を吐いた。
レン:「いやあ、あの係員さん、すごいな」
カイト:「何が?」
レン:「あそこまで質問に答えてるのに、何も分からないって逆に才能だろ」
確かに。
聞けば聞くほど、分からないことが増えている。
ただ、1つだけ確認できた事実がある。
黒い封筒は、運営の備品として登録されていない。
誰かが持ち込んだ可能性があるということだ。
◇
夕食後。
俺は自室に戻り、机の上に白い紙を広げた。
表には、12年前の事件を知る人物がいるという文章。
裏には、俺が知っている事件は本当に事実なのかという問い。
紙を見つめていると、父さんの顔が浮かんだ。
あの日から、俺は父さんのことを信じきれずにいた。
でも、疑いきることもできなかった。
だから、何も聞かなくなった。
知りたいと思いながら、知ることを避けていた。
この島に来たのは、その答えを見つけるためだったはずだ。
ユウキ:「……逃げてばっかりだな、俺」
独り言をこぼしたとき、端末が震えた。
『STORE Xからのお知らせ』
画面を開く。
『新しい情報商品が追加されました』
商品名は、短いものだった。
『INFO-001:ホールに置かれた黒い封筒について』
俺は思わず身を乗り出した。
まさに、今調べているものだ。
商品説明を開く。
『本商品では、DAY1午前9時42分にホールで撮影された黒い封筒について、確認済みの情報を1件開示します』
価格は、50,000円。
ユウキ:「……高っ!」
思わず声が出た。
生活費の半分だ。
カレーなら62杯分。
いや、カレーで換算するな。
俺は画面を見つめた。
買えば、何かが分かる。
だが、開示されるのは情報1件だけ。
知りたいことが分かるとは限らない。
STORE Xは、事実を売る。
ただし、どこまで教えるかは商品ごとに違う。
説明どおりなら、50,000円を払って「封筒は黒色でした」と教えられる可能性だってある。
それはさすがに怒っていいと思う。
だが、俺は購入画面を閉じられなかった。
黒い封筒。
白い紙。
14人目の人影。
この3つがつながっているなら、何かが分かるかもしれない。
俺は購入ボタンへ指を伸ばした。
その瞬間。
端末に、新しい通知が届いた。
『参加者の皆様へ』
『本日、ホール内において、運営の管理対象外となる物品が確認されました』
俺は手を止めた。
『当該物品について、参加者の皆様から情報提供を受け付けます』
続けて、写真が表示される。
黒い封筒だった。
銀色の文字で、中央に「X」と書かれている。
だが、俺が見た写真とは、1つ違うところがあった。
封筒が開いていた。
中から、白いカードが半分ほど飛び出している。
カードには、赤い文字が書かれていた。
『第1回投票の対象者は、すでに決まっている』
背筋が冷たくなった。
まだDAY1だ。
第1回投票までは29日もある。
なのに、対象者が決まっている?
誰が、何を根拠に?
そのとき、部屋の扉がノックされた。
ユウキ:「……誰?」
返事はなかった。
もう1度、ノックの音がする。
俺は端末を置き、扉へ近づいた。
電子ロックを解除し、ゆっくりと開く。
廊下には、誰もいなかった。
ただ、足元に小さな封筒が置かれていた。
黒い封筒。
銀色の文字。
今度は、俺の名前が書かれている。
『神崎ユウキ様へ』
俺は封筒を拾った。
中には、白いカードが1枚。
そこに書かれていた文章を見た瞬間、息が止まった。
『あなたの父親は、1億円を盗んでいない。』
心臓が大きく跳ねた。
父さんは、盗んでいない?
じゃあ、12年前の事件は何だったんだ?
誰が、何のために、こんなことを俺に伝えてきた?
カードを裏返す。
そこには、たった1行。
『真相を知りたければ、誰も信じるな。』
俺は廊下を見渡した。
静まり返った居住棟。
閉ざされた12人の部屋。
そのどこかに、この封筒を置いた人物がいるのだろうか。
そして、その人物は――。
俺の父さんについて、何を知っている?
DAY1の夜。
俺は初めて、1億円よりも欲しいものが、この島にあるのかもしれないと思った。
第1章 第3話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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