第1章 第29話「答えなかった理由」
DAY23。
午前7時10分。
俺は昨日の写真を、もう一度開いていた。
DAY1。南側の港から中央施設へ向かう道。
銀髪のレイの隣に、顔の見えない人物が写っている。その手には、黒い長方形のものがあった。
封筒に似ている。
だが、写真だけでは断定できない。
俺はノートを開いた。
『確認すること』
『黒いものを持っていた人物』
『レイが質問に答えなかった理由』
『黒い封筒の搬入経路』
その下に、もう1行加える。
『P-004の裏にある、読めない名前』
12年前の約束も、目の前のX投票も、どちらも放り出すわけにはいかなかった。
投票まで、あと7日。
◇
午前8時。
食堂でレンに写真を見せると、彼は目を細めた。
レン:「これ、俺じゃね?」
ユウキ:「えっ?」
レン:「この服。袖の白い線、俺が初日に着てた上着に似てる」
俺は写真を拡大した。
確かに、画面の端に写った人物の袖には、細い白線が入っている。
ソウタ:「似ている服なんていくらでもある。本人確認には足りないな」
眼鏡をかけたソウタが、写真とレンを交互に見た。
レン:「じゃあ、俺の顔を拡大してくれ」
ヒナ:「写ってないよ」
レン:「そこを写真の専門家の力で」
ヒナ:「撮ってない顔は出せません!」
レン:「専門家の守備範囲、今日も厳しい!」
笑いが起きた。
だが、レンが初日に着ていた服を覚えているなら、確認する方法はある。
ユウキ:「その上着、今も持ってる?」
レン:「ある。ちょっと取ってくる」
◇
午前9時。
レンが持ってきた上着には、袖に白い線が入っていた。
写真とよく似ている。
ただし、それだけでは本人と確定できない。
ヒナは初日に撮影した別の写真を探し始めた。
ヒナ:「港に着いた直後の写真なら、正面から写ってるかも」
数分後、彼女が画面を止めた。
ヒナ:「あった!」
そこには、レンが同じ上着を着て立っていた。
手には黒い冊子。
表紙には、白い文字で『島内生活案内』と書かれている。
俺は昨日の写真と見比べた。
大きさも形も、よく似ていた。
レン:「ああ、これだ。到着したときにもらったやつ」
ユウキ:「じゃあ、昨日の黒いものは……」
レン:「たぶん案内冊子だな」
シオンが慎重に頷いた。
シオン:「同じ服を着たレンが、同じような黒い冊子を持っていたことは確認できた。ただ、問題の写真に写る人物がレンだと断定するには、もう少し材料が欲しい」
俺は頷いた。
黒いものを持っていた人物は、レンかもしれない。
そして、それは封筒ではなく案内冊子かもしれない。
昨日、俺がレイの近くに見つけた疑惑は、少なくとも別の説明ができるものだった。
◇
午前10時。
資料閲覧室。
リナが、到着時に配られた案内冊子の登録画像を見つけた。
黒い表紙。
白い文字。
縦長の形。
写真の中の黒いものと、外形が一致する。
俺は息を吐いた。
ユウキ:「……封筒だと思ってた」
ソウタ:「思うのは自由だ。だが、思っただけで票を入れたら危ない」
俺は頷いた。
写真の中の物体が案内冊子だったとしても、レイが黒い封筒を持ち込んでいない証明にはならない。
ただ、この写真を根拠にレイを疑うことはできなくなった。
俺はノートの該当箇所に線を引いた。
◇
午前11時。
レイが資料閲覧室へ入ってきた。
俺は立ち上がった。
ユウキ:「レイ。昨日の写真のことで話がある」
レイ:「何?」
ユウキ:「隣に写ってた黒いもの、島内生活案内の冊子だった可能性が高い。俺、封筒かもしれないって疑ってた」
レイは写真を見た。
レイ:「……そう」
ユウキ:「ごめん。確かめる前に、疑いすぎた」
レイは少しだけ首を振った。
レイ:「謝る必要はないよ。疑うためのゲームなんだから」
その言い方が、妙に引っかかった。
ユウキ:「……レイは、そう割り切れるのか?」
レイ:「割り切れてるわけじゃない」
彼は俺を見た。
レイ:「疑われるのは、気分がいいものじゃないからね」
俺は返す言葉を探した。
レイは続けた。
レイ:「でも、昨日の質問には、まだ答えられない」
ユウキ:「黒い封筒を持ち込んだか、って質問?」
レイ:「うん」
昨日と同じ答えだった。
ただ、今日は逃げずに俺を見ている。
ユウキ:「何を確認したいんだ?」
レイは少し考えた。
レイ:「あの封筒を、最初に見つけた場所」
俺は眉を寄せた。
ユウキ:「場所?」
レイ:「君は、誰が持ち込んだかを調べてる。でも、僕は別のことが気になってる」
ユウキ:「……何?」
レイ:「封筒が置かれたのは、いつなのか」
◇
午後1時。
俺たちは初日の出来事を整理し直した。
黒い封筒は、初日に参加者の前へ現れた。
その後、STORE Xで購入したINFO-001によって、参加者13人のうち1人が島へ持ち込んだことが確認された。
だが、持ち込まれた時刻は分かっていない。
誰が、どの場所へ置いたのかも不明だ。
シオン:「持ち込んだ時刻と、置いた時刻は別だね」
リナ:「到着時から持っていたとしても、すぐ置いたとは限らない」
俺はレイを見た。
ユウキ:「そのことを確かめたかったのか?」
レイ:「それもある」
彼は端末を開いた。
レイ:「僕が初日に撮った写真を見せるよ」
表示されたのは、中央施設へ向かう通路だった。
画面の端に、黒い封筒が見える。
俺は息をのんだ。
ユウキ:「……これ!」
壁際の小さな台。
その上に、黒い封筒が置かれている。
写真の撮影時刻は、DAY1の午後。
俺たちが封筒を見つける前だった。
レイ:「道を確認していたときに撮った。あとで写真を見返して、写っていたことに気づいたんだ」
俺は画面を見つめた。
レイが封筒の存在を、ほかの参加者より早く知っていた可能性がある。
そして、彼はその写真を今まで見せていなかった。
◇
午後2時。
ソウタが眼鏡の位置を直し、写真の情報を確認した。
ソウタ:「撮影日時はDAY1。画像の登録情報にも、その時刻が残ってる」
ヒナ:「写真を撮った場所も、通路の形から分かりそう」
カイトが島内地図を開いた。
カイト:「中央施設の西側だな。この台、今もあるぞ」
俺はレイを見た。
ユウキ:「……なんで、今まで見せなかった?」
レイは静かに答えた。
レイ:「封筒が写っていることに気づいたのは、あとからだった。それに、写真だけでは何も分からないと思ったから」
ユウキ:「でも、INFO-001を買ったときにも、封筒の話をしたよな」
レイ:「うん」
彼は否定しなかった。
レイ:「そのときに出すべきだったかもしれない」
俺は言葉を失った。
レイの説明には筋が通っている。
だが、写真を持っていた事実を伏せていたことも、確かだった。
◇
午後3時。
俺たちは写真を全員に共有した。
アカリが驚いた声を上げる。
アカリ:「えっ、レイくん、こんなの撮ってたの?」
レイ:「うん」
カイト:「なんで早く言わなかったんだよ」
レイ:「写真の意味が分からなかったから」
カイトは腕を組んだ。
カイト:「分かんなくても、出してくれりゃよかっただろ」
レイは黙った。
ハルカが間に入る。
ハルカ:「責める前に、写真から分かることを整理しましょう」
シオンが頷いた。
シオン:「確実なのは、封筒が発見される前に、西側通路の台に置かれていたこと。レイがそれを撮影していたこと」
ソウタ:「そして、写真に置いた人物は写っていない」
俺は頷いた。
レイが封筒を置いた証拠ではない。
ただし、彼は重要な写真を持っていた。
その事実に、何人かの視線が集まっていた。
◇
午後4時。
俺はレイと2人で、西側通路へ向かった。
写真に写っていた台は、今もそこにあった。
黒い封筒はない。
俺は写真と実際の景色を見比べた。
ユウキ:「この位置から撮ったんだな」
レイ:「うん」
レイは少し離れた場所に立った。
ユウキ:「封筒を見たとき、何か思わなかった?」
レイ:「撮影したときは、封筒だと意識してなかった」
ユウキ:「あとから気づいたときは?」
レイは少し間を置いた。
レイ:「……誰かが、僕たちに見つけさせたかったのかもしれないと思った」
俺は台を見つめた。
通路を歩けば、目に入る場所だ。
偶然置かれたのか。
見つけてもらうために置かれたのか。
その違いは、写真だけでは分からない。
ユウキ:「レイ。もう1回聞く」
彼が俺を見る。
ユウキ:「黒い封筒を、島へ持ち込んだ?」
レイは目をそらさなかった。
レイ:「……第1回投票の前には、答える」
ユウキ:「今は?」
レイ:「まだ、確認できていないことがある」
俺は拳を握った。
投票まで、あと7日。
答えを待つには、長くない。
◇
午後5時。
食堂に戻ると、ミオが窓際の席にいた。
ミオ:「レイくんと話せた?」
ユウキ:「うん。でも、肝心なことはまだ聞けなかった」
俺は隣に座った。
ユウキ:「あいつがXかどうか、分からない」
ミオ:「まだ7日あるよ」
ユウキ:「……そうだな」
ミオは俺のノートを見た。
ミオ:「今日、分かったこともあるんでしょう?」
俺は頷いた。
黒い長方形は案内冊子だった可能性が高い。
封筒は、発見前から西側通路に置かれていた。
レイはその写真を撮っていた。
疑惑は消えていない。
だが、形は変わった。
ユウキ:「投票までに、ちゃんと確かめる」
ミオ:「うん」
ミオは静かに頷いた。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の情報をノートにまとめた。
『DAY1の黒い長方形は、案内冊子の可能性が高い』
『レイは封筒発見前の写真を持っていた』
『封筒は西側通路の台に置かれていた』
『レイは搬入についての回答を保留』
『第1回投票前には答えると発言』
俺はペンを置いた。
レイを疑う理由はある。
だが、彼がXだと断定できる証拠はない。
そして、まだ確認できていないことがある。
レイは、なぜ写真を撮ったのか。
なぜ、その写真をすぐに共有しなかったのか。
彼の親族と、青風の記録整理はどうつながっているのか。
そのとき、端末が震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『黒い封筒が置かれていた場所を確認しましたね。』
続けて、文章が表示された。
『写真に写っていないものまで、写っていると思わないでください。』
俺は画面を見つめた。
最後の1行。
『九条レイが答えなかった質問には、まだ続きがあります。』
俺は息をのんだ。
続き。
黒い封筒を持ち込んだかどうか。
それだけでは、終わらないということか。
俺は端末を伏せた。
DAY23。
第1回X投票まで、あと7日。
銀髪の青年は、まだ答えを隠している。
だが、俺たちもまだ、正しい質問をできていないのかもしれなかった。
第1章 第29話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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