第1章 第27話「銀髪の目撃者」
DAY21。
午前7時12分。
俺は端末に表示された商品説明を読み返していた。
『INFO-008:未公開写真1枚の開示』
『価格:60,000円』
指定する資料番号は、P-004。
12年前の青風交流会で撮影された、04班の配布用記念写真だ。
昨夜届いた匿名メッセージによれば、その裏には2人の名前が残されているという。
だが、差出人不明のメッセージは、STORE Xで購入した検証済み情報ではない。
実際に何が写っているかは、見てみるまで分からなかった。
俺は残高を確認した。
生活費から何度も情報を購入してきたせいで、余裕は少ない。
それでも、P-004は俺の過去につながる具体的な資料だった。
ユウキ:「……まずは、購入できるか確認しよう」
◇
午前8時。
食堂でレンに相談すると、彼は真剣な顔で頷いた。
レン:「60,000円か。昨日の70,000円より安いな」
ユウキ:「安く感じ始めてるのが怖い」
レン:「島に来る前なら、60,000円あれば相当遊べたぞ」
ソウタ:「お前の場合、翌朝には消えてそうだな」
レン:「失礼な。昼には消えてた」
ユウキ:「もっと悪い!」
笑いが起きた。
だが、俺はすぐに端末を見せた。
ユウキ:「今回は、買う前にP-004を指定できるか確かめたい」
シオンが頷いた。
シオン:「それが先だね。対象外の写真に60,000円払うわけにはいかない」
◇
午前9時。
資料閲覧室。
俺たちはINFO-008の購入画面を開いた。
資料番号入力欄に、P-004を入力する。
『指定資料を確認しました』
『資料番号:P-004』
『開示対象:登録画像一式』
俺は息を吐いた。
ユウキ:「……指定できる」
ただし、購入前の画面では画像の枚数も内容も分からない。
裏面が登録されているかどうかも、ここでは確認できなかった。
俺は購入画面を閉じた。
シオン:「対象は確認できた。次は、費用をどうするかだね」
ユウキ:「俺が多めに出す。でも、無理に集めるつもりはない」
みんなも頷いた。
◇
午前10時。
俺たちは食堂で、P-004について説明した。
04班の配布用写真が1枚残っていること。
写真の裏面には、子どもが名前や短いメッセージを書ける仕組みだったこと。
そして、INFO-008でP-004を指定できること。
ユウキ:「俺の記憶を調べるための購入だから、出資は任意でお願いしたい」
最初に手を上げたのはヒナだった。
ヒナ:「写真なら、私も見たい!」
アカリも頷く。
アカリ:「私も少しなら出せるよ」
カイト、レン、シオン、リナ、ソウタも参加を申し出た。
ミオも静かに手を上げた。
ミオ:「私も出すよ」
ユウキ:「ありがとう」
レイは少し離れた席で、端末を見つめていた。
やがて顔を上げる。
レイ:「……僕も参加する」
その声は、いつもと変わらなかった。
俺は頷いた。
最終的に、俺たちはそれぞれ無理のない金額をSTORE Xへ直接入金し、60,000円をそろえた。
生活費の残りを確認しながらの共同購入だった。
◇
午前10時42分。
『INFO-008 購入完了』
『指定資料:P-004』
全員の端末に通知が届いた。
俺はすぐに画像を開いた。
1枚目。
青い壁の前に、子どもたちが並んでいる。
胸元には小さな班札。
その中央に、黒髪の少年がいた。
俺は息をのんだ。
ユウキ:「……俺だ」
全体写真と同じ横縞の服。
顔も、今まで見た幼い自分の写真と一致している。
その隣には、髪の長い少女が立っていた。
少女の手首には、小さな青い飾りが見える。
俺は画面に顔を近づけた。
だが、解像度が低く、顔までははっきりしなかった。
ヒナ:「裏面もある!」
2枚目の画像が表示された。
写真の裏。
青い色鉛筆で、2つの名前が書かれていた。
『ゆうき』
『――』
2つ目の名前は、紙の傷と色の薄れで一部が読めなかった。
俺は息を止めた。
ユウキ:「……俺の名前だ」
その横には、短い文章があった。
『また、あおうね。』
俺は胸の奥が締めつけられるのを感じた。
12年前。
俺は誰かと、再会の約束をした。
それだけは、確かだった。
◇
午前11時。
俺たちは画像を拡大し、読める部分を整理した。
2つ目の名前は、最初の文字が薄く、最後の文字も傷んでいた。
無理に読もうとすれば、いくつもの名前に見える。
俺は首を振った。
ユウキ:「今は、読めないってことにしておこう」
シオンが頷く。
シオン:「そうだね。都合のいい名前を当てはめるのは危険だ」
ヒナは写真の表面を見つめていた。
ヒナ:「この写真、撮影した人の位置が分かるかも」
ユウキ:「どういうこと?」
ヒナ:「窓に、少しだけ人影が反射してる」
俺たちは画面を拡大した。
青い壁の横にある窓。
そこに、カメラを構えた大人らしき姿が映っていた。
だが、顔は分からない。
俺は写真を保存した。
これも、後で調べる必要がありそうだった。
◇
昼休み。
食堂でミオと向かい合った。
ミオ:「写真、見られたんだね」
ユウキ:「うん。俺が写ってた」
ミオ:「そうなんだ」
俺は写真を見せた。
青い壁の前に並ぶ子どもたち。
中央の俺。
隣の少女。
ユウキ:「この子と、再会の約束をしたのかもしれない」
ミオは画面を見つめた。
ミオ:「……そうかもしれないね」
ユウキ:「でも、名前が読めなくてさ」
俺は苦笑した。
ユウキ:「あと少しなのにな」
ミオは静かに言った。
ミオ:「名前だけじゃなくて、そのとき何を話したかも大事なんじゃないかな」
俺は頷いた。
再会の約束。
そして、もう1つの約束。
まだ、思い出せていない。
◇
午後1時。
資料閲覧室へ戻った俺たちは、P-004の登録情報を調べ直した。
そのとき、ヒナが声を上げた。
ヒナ:「ねえ、これ!」
画面には、写真の保管履歴が表示されていた。
『原本確認日:閉鎖準備期間中』
『保管場所:資料保管室』
『移送担当:施設職員』
そして、下部に小さな注記があった。
『原本確認時、裏面の記載を確認』
俺は頷いた。
写真の裏の名前は、閉鎖時にはすでに存在していた。
後から誰かが書き足したものだと決めつける理由はない。
ただし、いつ誰が書いたのかまでは分からなかった。
◇
午後2時。
俺たちは写真の撮影者について調べ始めた。
交流会の実施報告書には、撮影担当が施設職員とだけ書かれている。
だが、P-004の登録情報には、別の欄があった。
『写真整理担当:九条――』
俺は手を止めた。
ユウキ:「……九条?」
リナが画面をのぞき込む。
リナ:「名字だけ見えてるね。下の名前は非公開」
九条。
この島にいる、銀髪の青年。
九条レイ。
俺は画面を見つめた。
同じ名字というだけで、関係があるとは限らない。
だが、偶然にしては気になる。
シオンが言った。
シオン:「本人に聞いてみよう。ただし、決めつけずに」
俺は頷いた。
◇
午後3時。
俺は中庭でレイを見つけた。
彼はベンチに座り、海を眺めていた。
ユウキ:「レイ。少し聞いてもいいか?」
レイ:「何?」
俺はP-004の登録情報を見せた。
ユウキ:「写真整理担当に、九条って名字があったんだ」
レイは画面を見た。
ほんの一瞬、目を細めた。
レイ:「……そう」
ユウキ:「知ってる人か?」
レイは少し間を置いた。
レイ:「僕の親族に、青風の記録整理に関わった人がいる」
俺は息をのんだ。
ユウキ:「……そうだったのか」
レイ:「でも、その人がこの写真を整理したかどうかは、今ここでは分からない」
俺は頷いた。
レイの説明は、資料と矛盾していない。
だが、彼が青風の記録に関係する人物を知っていたことは、新しい事実だった。
ユウキ:「今まで話してなかったのは、どうして?」
レイは海へ視線を戻した。
レイ:「聞かれなかったから」
俺は言葉に詰まった。
嘘ではないのかもしれない。
でも、何かを隠しているようにも聞こえた。
◇
午後4時。
俺はレイとの会話を、シオンとソウタに共有した。
シオンがノートを開く。
シオン:「九条という名字の写真整理担当がいた。レイの親族に、青風の記録整理に関わった人がいる」
ソウタ:「ただし、同一人物かどうかは未確認」
ユウキ:「うん」
俺は頷いた。
そのとき、ヒナが端末を持ってやってきた。
ヒナ:「ユウキくん。ちょっと見てほしい写真があるの」
表示されたのは、島に来て間もない頃、ヒナが撮影した風景写真だった。
北側の通路。
遠くに管理棟が写っている。
その建物の近くに、銀髪の人物が立っていた。
ユウキ:「……レイ?」
ヒナ:「たぶん。でも、遠いから断定はできない」
撮影日時はDAY3の夕方。
俺は写真を見つめた。
管理棟は、普段の生活で立ち寄る場所ではない。
レイは、そこで何をしていたのだろう。
◇
午後5時。
俺たちはレイに写真を見せた。
レイ:「……僕だね」
彼はあっさり認めた。
ユウキ:「管理棟の近くで、何してたんだ?」
レイ:「島の道を確認してた。北側の見晴らしがいいって聞いたから」
確かに、管理棟の先には北の展望台へ続く道がある。
レイの説明は不自然ではなかった。
だが、俺はもう1つ気になることがあった。
ユウキ:「そのとき、管理棟には入った?」
レイ:「入ってないよ」
レイは俺を見た。
レイ:「何か疑ってる?」
俺は少し迷ってから答えた。
ユウキ:「……まだ、分からないことが多いだけだ」
レイは静かに頷いた。
レイ:「そうだね」
それ以上、彼は何も言わなかった。
◇
夜。
俺は自室で、今日の情報を整理していた。
『P-004の裏に、ゆうきともう1人の名前』
『04班の写真に、幼い俺が写っていた』
『写真整理担当に九条姓の人物』
『レイの親族に、青風の記録整理に関わった人物がいる』
『DAY3夕方、レイは管理棟付近にいた』
俺はペンを置いた。
九条レイ。
これまで、彼は必要なときにだけ調査へ加わり、要点を突く発言をしてきた。
それ自体は、疑う理由にはならない。
だが、青風の記録との接点を持ち、管理棟付近にもいた。
俺は初日の黒い封筒を思い出した。
あの封筒は、参加者13人のうち1人が島へ持ち込んだものだと、STORE Xの情報で確認されている。
持ち込んだ人物が書いたとは限らない。
置いた人物とも限らない。
そして、レイが持ち込んだ証拠もない。
それでも、今まで別々だった疑問が、彼の周囲に集まり始めていた。
そのとき、端末が震えた。
『STORE Xよりお知らせ』
新しい情報商品が追加された。
『INFO-014:黒い封筒の搬入経路』
『価格:80,000円』
俺は商品説明を開いた。
『当該封筒が島へ持ち込まれた際の搬入経路に関する情報を開示します』
搬入経路。
持ち込んだ人物の名前まで分かるとは書かれていない。
俺は画面を閉じようとした。
だが、その直後。
別の通知が届いた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『写真の裏に残された名前を、確認しましたね。』
続けて、文章が表示された。
『黒い封筒と、12年前の写真。』
『その2つを、同じ人物が扱ったとは限りません。』
俺は息をのんだ。
最後の1行が表示された。
『誰かを疑うなら、まず、その人が何をしたのかを確かめてください。』
俺は画面を見つめた。
レイが管理棟の近くにいたこと。
彼の親族が青風の記録整理に関わっていたこと。
それだけで、Xだと決めつけるわけにはいかない。
だが、確かめる必要はある。
俺はノートに、新しい調査項目を書き込んだ。
『九条レイと黒い封筒の関係』
DAY21。
第1回X投票まで、あと9日。
初めて、具体的に疑うべき人物の名前が浮かんだ。
九条レイ。
彼は、いったい何を知っているのだろう。
第1章 第27話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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