第1章 第23話「70,000円の引継票」
DAY17。
午前7時10分。
俺は古い手紙を、もう1度光に透かしていた。
青い色鉛筆で描かれた四角と、丸2つ。
裏側に隠れるように書かれた「04」。
昨日、青風こども生活支援センターの保管品記録から、D-04という管理番号を見つけた。
そして、遊戯室の窓際机に残されていた私物を、施設長の早川恵子が受け取った記録も見つかった。
引継票の作成担当者は、水瀬真紀。
ナナのお母さんだった。
ただし、D-04がその机から見つかったものかは、まだ分からない。
昨夜、STORE Xに追加されたINFO-012。
『遊戯室・保管品引継票について』
価格は70,000円。
購入すれば、遊戯室から移送された保管品の管理番号と分類が分かる。
俺は端末を伏せた。
今日は、これを買うべきか決めなければならない。
◇
午前8時。
食堂でレンに相談すると、彼は残高画面を開いた。
レン:「70,000円か。最初の頃なら勢いで買ってたかもな」
ユウキ:「今は生活費も減ってるからな」
レン:「俺、昨日からパンを1個減らしてる」
ユウキ:「節約してるのか?」
レン:「いや、カイトに返済してる」
隣の席でカイトが頷いた。
カイト:「あと1個だ」
ユウキ:「まだパンの借金残ってたのかよ」
レンは真剣な顔で言った。
レン:「金の貸し借りより怖いぞ。食堂で毎朝、債権者と目が合うんだから」
笑いながらも、俺は残高を確認した。
調査に使える金は、無限じゃない。
父さんの証言記録も、まだ未購入のままだ。
俺の過去を調べるためだけに、みんなへ負担を頼み続けるわけにはいかなかった。
◇
午前9時。
資料閲覧室に、シオン、リナ、ソウタ、ヒナが集まった。
俺はINFO-012の商品説明をホワイトボードに書き出した。
『価格:70,000円』
『開示内容:遊戯室から移送された保管品の管理番号および分類』
『開示されない内容:持ち主・預け入れ者・個別の中身・現在の保管先』
シオンが頷いた。
シオン:「買えば、D-04が遊戯室にあったかどうかは確認できるね」
ソウタ:「ただし、一覧にD-04がなかった場合、手紙の04とD-04を結びつける根拠は弱くなる」
リナ:「逆に、一覧にあっても、ユウキの手紙との関係はまだ証明できない」
ユウキ:「……そうだな」
70,000円で得られるのは、答えそのものじゃない。
仮説を1つ確かめるための情報だ。
俺は少し考えてから言った。
ユウキ:「今回は、俺が多めに出す。俺の手紙から始まった調査だから」
シオンは俺を見た。
シオン:「それなら、無理のない範囲を先に決めよう」
俺は頷いた。
◇
午前10時。
俺たちは食堂で、参加者たちに調査の進展を共有した。
青い壁の遊戯室。
窓際机の引き出し。
D-04という管理番号。
そして、ナナの母親が引継票の作成を担当していたこと。
ナナ本人が話してくれた内容については、彼女の許可を得た範囲だけ伝えた。
ユウキ:「この情報を買っても、D-04の中身までは分からない。だから、出資は任意でお願いしたい」
最初に手を上げたのはカイトだった。
カイト:「俺は出す。あの机のこと、気になるしな」
アカリ:「私も少しなら!」
ヒナ:「写真の謎にも関係してるかもしれないし、私も!」
ハルカは残高を確認してから言った。
ハルカ:「今回は見送るわ。来月の生活費が入るまで、余裕を残しておきたいの」
ユウキ:「うん。無理しないで」
セナも今回は見送った。
ナナは少し迷ってから、手を上げた。
ナナ:「……私も、2,000円なら」
ユウキ:「ナナ、無理しなくていいんだぞ」
ナナ:「うん。でも、お母さんの名前が出てきたから。私も知りたい」
俺は頷いた。
最終的に、共同購入へ参加することになったのは11人。
俺が15,000円。
レン、シオン、リナ、ソウタが各7,000円。
カイトとレイが各6,000円。
ヒナ、アカリ、ミオが各4,000円。
ナナが3,000円。
合計70,000円。
俺たちは、それぞれSTORE Xへ直接支払った。
◇
午前10時38分。
最後の入金が完了すると、全員の端末が震えた。
『INFO-012 購入完了』
俺はすぐに開いた。
『青風こども生活支援センター』
『遊戯室・保管品引継票』
その下に、管理番号と分類が並んでいた。
『B-03:文具・学用品』
『B-07:文具・学用品』
『C-02:写真・印刷物』
『D-04:手紙・メモ類』
『E-01:小型記念品』
『F-02:その他』
俺は息を止めた。
ユウキ:「……あった」
D-04。
確かに、遊戯室から移送された保管品の中にあった。
ヒナが俺の肩越しに画面を見た。
ヒナ:「本当にD-04だ!」
俺は古い手紙を取り出した。
右下の「04」。
そして、画面の「D-04」。
数字は一致している。
だが、これだけで同じものだと断定することはできない。
俺は手紙を握りしめた。
ユウキ:「……ようやく、ここまで来た」
◇
午前11時。
俺たちは購入した情報を整理した。
シオンがホワイトボードに書く。
『D-04は、遊戯室から移送された保管品』
『分類は手紙・メモ類』
『個別の内容・持ち主・預け入れ者は未判明』
ソウタが言った。
ソウタ:「次にINFO-011を買えば、D-04の個別記録は見られる」
価格は100,000円。
俺は首を横に振った。
ユウキ:「今日は買わない。まずは、ほかの資料を調べたい」
シオンが頷いた。
シオン:「いい判断だと思う。引継票から、別の公開資料につながる可能性もあるからね」
俺は画面を見つめた。
D-04。
それが、俺の忘れた約束に関係しているのか。
まだ答えは出ていない。
◇
昼休み。
食堂でミオと向かい合って座った。
ミオ:「D-04、遊戯室にあったんだね」
ユウキ:「うん。手紙の数字と一致してる」
ミオ:「よかったね」
ユウキ:「でも、まだ中身は分からない。100,000円の情報を買えば分かるかもしれないけど」
ミオは静かに頷いた。
ミオ:「急がなくてもいいと思うよ」
ユウキ:「……そうだな」
俺はスープを飲んだ。
今日のスープは、少し熱かった。
ユウキ:「あっつ!」
ミオが俺を見た。
ミオ:「大丈夫?」
ユウキ:「舌が事件現場になった」
ミオは小さく笑った。
ミオ:「ちゃんと冷ましてから飲んでね」
ユウキ:「12年前の真相より、目の前のスープのほうが危険だった」
俺も笑った。
こんな時間が、今はありがたかった。
◇
午後1時30分。
資料閲覧室へ戻った俺たちは、D-04に関連する公開資料を検索した。
検索結果は2件。
『閉鎖時保管品・個別記録』
『保管品返却状況・分類別集計』
個別記録は閲覧制限中。
返却状況の集計は、すでに確認したものだった。
手紙・メモ類4件のうち、返却済み2件、返却未確認2件。
D-04がどちらに含まれるかは分からない。
俺は端末を閉じかけた。
そのとき、リナが言った。
リナ:「待って。引継票の関連資料欄に、別の文書がある」
俺は画面を見た。
『遊戯室・私物確認作業日誌』
鍵のマークはついていない。
俺たちは顔を見合わせた。
ユウキ:「……開ける?」
リナ:「もちろん」
◇
午後2時。
作業日誌には、閉鎖準備の様子が短く記されていた。
『遊戯室の備品および私物を確認』
『窓際机の引き出し内に、児童の私物と思われる品を発見』
『発見品は分類後、事務室へ移送』
俺は画面を見つめた。
窓際机。
引き出し。
私物。
そして、遊戯室から移送されたD-04。
すべてが、同じ場所へ近づいている。
だが、作業日誌には、D-04の番号は書かれていなかった。
俺は深く息を吐いた。
ユウキ:「……あと少しなのにな」
ヒナが画面を見つめる。
ヒナ:「でも、今日だけでかなり進んだよ」
俺は頷いた。
そうだ。
焦ってはいけない。
◇
午後3時。
ナナが資料閲覧室にやってきた。
ナナ:「ユウキくん。少し、いい?」
ユウキ:「うん。どうした?」
彼女は小さなメモを持っていた。
ナナ:「昨日、お母さんの名前を見てから、少し思い出したことがあるの」
俺は黙って待った。
ナナ:「青い部屋で、手紙を書いたことがあるって話したよね」
ユウキ:「うん」
ナナ:「そのとき、私……誰かに、渡してほしいって頼んだ気がする」
俺は息をのんだ。
ユウキ:「誰に?」
ナナは首を横に振った。
ナナ:「そこまでは思い出せない。でも、直接渡せなかったんだと思う」
俺は古い手紙を見た。
誰かが俺に渡したもの。
そして、引き出しに残されたもの。
もし、直接渡せなかった手紙が、そこに置かれていたのなら。
俺はナナを見た。
ユウキ:「その手紙、どんなことを書いたか覚えてる?」
ナナは少し考えた。
ナナ:「……ごめん。まだ分からない」
ユウキ:「いや、ありがとう」
俺は頷いた。
無理に思い出してもらうつもりはなかった。
◇
午後4時。
俺たちは今日の調査結果をまとめた。
ホワイトボードには、次の項目が並んでいる。
『D-04は遊戯室から移送された』
『分類は手紙・メモ類』
『窓際机の引き出しから私物が見つかっている』
『D-04がその引き出しにあったかは未確認』
『ナナには、誰かに手紙を渡してほしいと頼んだ記憶がある』
シオンが腕を組んだ。
シオン:「D-04とユウキの手紙の関係は、まだ仮説だね」
ユウキ:「うん」
俺はホワイトボードを見つめた。
でも、昨日よりは確実に近づいている。
12年前の約束。
青い部屋。
D-04。
そして、ナナの記憶。
それぞれが、少しずつ重なり始めていた。
◇
午後5時。
資料閲覧室を出ると、廊下にレイがいた。
レイ:「D-04、見つかったんだね」
ユウキ:「うん。でも、まだ中身は分からない」
レイは頷いた。
レイ:「中身を見る前に、誰がそこへ置いたのかを調べるのも大事かもね」
ユウキ:「……そうだな」
俺は古い手紙を取り出した。
青い四角。
丸2つ。
そして、「04」。
12年前の誰かが残した、小さな印。
その意味を、俺はまだ知らない。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の記録を整理した。
『D-04は遊戯室から移送された』
『個別記録は未購入』
『預け入れ者は未判明』
『ナナは、誰かに手紙を渡してほしいと頼んだ記憶がある』
俺はペンを置いた。
そのとき、端末が震えた。
『STORE Xよりお知らせ』
新しい情報商品が追加された。
『INFO-013:閉鎖時保管品・受領記録について』
価格は、60,000円。
俺は商品説明を開いた。
『本商品では、指定された保管品1件について、受領担当者および受領時の記録を開示します』
D-04を指定すれば、受領時の記録が見られる。
だが、預け入れ者や持ち主まで分かるとは書かれていない。
俺は購入画面を閉じた。
明日、みんなと相談しよう。
そう考えた直後。
端末に新しい通知が届いた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『D-04が遊戯室にあったことを確認しましたね。』
俺は息をのんだ。
続けて、文章が表示される。
『あなたが探しているものは、確かにその部屋に残されていました。』
俺は手紙を握りしめた。
その部屋に残されていたもの。
D-04。
やはり、関係があるのか。
最後の文章が表示された。
『ただし、D-04を書いた人物と、引き出しへ入れた人物は同じではありません。』
俺は動けなくなった。
書いた人物。
引き出しへ入れた人物。
そして、俺に手紙を渡した人物。
12年前の青い部屋で、いったい何があった?
俺はノートに、新しい調査項目を書き込んだ。
『D-04を書いた人物』
『D-04を引き出しへ入れた人物』
DAY17。
第1回投票まで、あと13日。
俺はまだ、2つ目の約束を思い出せない。
だが、D-04には、少なくとも2人の行動が関わっているらしい。
そして、その2人のうち、どちらかが――。
俺の忘れた約束の相手なのかもしれなかった。
第1章 第23話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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