第1章 第22話「預けた人の名前」
DAY16。
午前7時05分。
俺は古い手紙を机に広げていた。
青い色鉛筆で描かれた四角と、丸2つ。
裏側には、小さな数字。
『04』
昨日、この数字と一致する管理番号を見つけた。
『D-04』
青風こども生活支援センターが閉鎖された際、保管された手紙・メモ類のうちの1件だ。
ただし、俺の手紙に書かれた「04」が、その管理番号を指すとは限らない。
昨夜の匿名メッセージには、こう書かれていた。
『まずは、誰がD-04を預けたのかを調べてください。』
俺はノートを開いた。
『持ち主と預けた人物は、同じとは限らない』
そう書いてから、少し考えた。
俺が持っている手紙は、誰かから渡されたものだ。
もしD-04も、別の誰かが預けたものだったら。
そこには、少なくとも2人の人間が関わっている可能性がある。
俺は手紙を布袋に戻した。
ユウキ:「……今日は名前を探そう」
◇
午前8時。
食堂でレンに昨夜のメッセージを見せた。
レン:「預けた人か。持ち主じゃないんだな」
ユウキ:「そう書いてある」
レン:「じゃあ、施設の職員が預かった可能性もあるってことか」
ユウキ:「うん」
レンは朝食のパンをちぎりながら考え込んだ。
レン:「俺も昔、友達からゲームを預かったことあるぞ」
ユウキ:「へえ」
レン:「返す前に引っ越されて、今も実家にある」
ユウキ:「それ、返したほうがいいんじゃないか?」
レン:「連絡先が分からないんだよ」
隣で聞いていたソウタが顔を上げた。
ソウタ:「それは笑い話じゃなくて、返却先不明の保管品だな」
レン:「俺の実家も青風の管理記録に載せてくれ」
ユウキ:「12年後に100,000円で情報売られるぞ」
レンは真顔でパンを置いた。
レン:「絶対に返却記録を残すわ」
◇
午前9時。
資料閲覧室には、シオン、リナ、ヒナが集まっていた。
俺はD-04の預け入れ記録を探したいと伝えた。
シオン:「個別記録を買わずに、預けた人だけ分かる資料があるか調べよう」
リナ:「保管品一覧の作成手順から探すのがよさそう」
俺たちは公開資料を検索した。
『保管品 預け入れ』
『閉鎖時 受領』
『保管品 管理責任者』
結果は複数あったが、ほとんどは一般的な手順書だった。
その中で、リナが1件の資料を開いた。
『閉鎖時保管品・受領記録の記載要領』
俺たちは画面をのぞき込んだ。
『預け入れ者と所有者が異なる場合、それぞれを別欄に記載する』
俺は思わず頷いた。
ユウキ:「やっぱり、別なんだ」
シオンが続きの文章を指さす。
『預け入れ者の氏名が不明な場合は、受領した職員名と発見場所を記載する』
俺はそこで手を止めた。
名前が分からなくても、発見場所が残っている可能性がある。
青い部屋。
引き出し。
もしD-04がそこで見つかったなら、記録につながるかもしれない。
◇
午前10時12分。
ソウタが資料一覧の中から、古い作業報告を見つけた。
ソウタ:「神崎。これを見ろ」
『閉鎖準備・私物確認作業報告』
公開されているのは概要だけだった。
俺たちは文章を読み進めた。
『各室に残された私物を確認し、返却可能なものと一時保管するものに分類』
『作業には施設職員および事務担当者が従事』
『発見場所ごとの確認表を作成』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「発見場所ごとの確認表……」
ヒナが検索欄に入力する。
『遊戯室 確認表』
検索結果は1件。
『閉鎖準備・遊戯室確認表』
鍵のマークがついていた。
『一部公開』
俺たちは顔を見合わせた。
シオン:「開いてみよう」
◇
午前10時25分。
確認表には、備品の状態と、残された私物の有無が記されていた。
『本棚:異常なし』
『工作用品棚:整理済み』
『窓際机:引き出し内に私物あり』
俺は息をのんだ。
ユウキ:「……窓際机!」
ヒナが施設紹介写真を開いた。
青い壁。
窓際に置かれた、引き出し2つの机。
位置は一致している。
ただし、同じ机だと断定するには、まだ情報が足りない。
俺たちは確認表の続きを読んだ。
『私物は確認後、事務室へ移送』
『受領担当者:早川恵子』
俺は画面を見つめた。
早川恵子。
青風こども生活支援センターの施設長。
閉鎖時保管品一覧の管理責任者でもあった人物だ。
ユウキ:「……早川さんが受け取ってる」
リナが頷いた。
リナ:「ただし、ここに書かれているのは受領担当者。誰が最初に預けたのかは、まだ分からないね」
俺は深く息を吐いた。
名前が出てきた。
でも、探している答えそのものではなかった。
◇
午前11時。
俺たちは確認表の末尾にある注記を読んだ。
『私物の詳細は、別紙「遊戯室・保管品引継票」に記載』
ヒナが検索する。
結果は1件。
『遊戯室・保管品引継票』
『閲覧制限中』
俺は天井を見上げた。
ユウキ:「……また鍵か」
レン:「この島、鍵のマークだけで1冊図鑑作れそうだな」
ソウタ:「図鑑を作る暇があったら検索しろ」
レン:「第1巻『開かない資料たち』」
ユウキ:「売れなさそう」
笑いながらも、俺は画面を閉じなかった。
引継票。
そこには、発見場所と預け入れ者が記録されているかもしれない。
少なくとも、調べるべき資料は見つかった。
◇
昼休み。
食堂でミオに今日の進展を話した。
ユウキ:「青い部屋の窓際机から、私物が見つかってた」
ミオ:「そうなんだ」
ユウキ:「早川さんが受け取った記録もあった。でも、誰が預けたのかはまだ分からない」
ミオは静かに頷いた。
ミオ:「預けた人が分かれば、持ち主にも近づけるかもしれないね」
ユウキ:「うん。そう思ってる」
俺はスープを飲んだ。
少し冷めていた。
ミオ:「今日は、ちゃんと食べてる?」
ユウキ:「食べてる。昨日のレンの証言は信用しないでくれ」
少し離れた席からレンが振り向いた。
レン:「俺の証言、まだ争われてるの?」
ユウキ:「サラダの件はもう終わった!」
ミオは小さく笑った。
俺もつられて笑った。
調査のことばかり考えていた頭が、少し軽くなった。
◇
午後1時30分。
資料閲覧室へ戻ると、リナが新しい検索結果を見つけていた。
リナ:「引継票そのものは見られないけど、作成者の情報は公開されてる」
俺は画面をのぞき込んだ。
『遊戯室・保管品引継票』
『作成者:青風こども生活支援センター職員』
『確認者:早川恵子』
作成者の氏名は伏せられていた。
だが、関連資料の欄に別の文書があった。
『閉鎖準備・作業担当者一覧』
俺たちはすぐに開いた。
そこには、担当部署と作業内容が記されていた。
遊戯室。
事務室。
資料保管室。
それぞれに、担当者の氏名が載っている。
遊戯室の欄。
『私物確認・引継票作成担当:水瀬真紀』
俺は手を止めた。
ユウキ:「……水瀬?」
ヒナが隣で目を丸くした。
ヒナ:「ナナちゃんと同じ名字だ」
俺は画面を見つめた。
水瀬真紀。
初めて見る名前だった。
同じ名字というだけで、ナナと関係があるとは限らない。
だが、確認する価値はある。
◇
午後2時。
俺はナナを探した。
彼女は中庭のベンチに座っていた。
声をかけると、少し驚いたように顔を上げた。
ナナ:「ユウキくん。どうしたの?」
ユウキ:「少し聞きたいことがあるんだ。答えにくかったら、無理に答えなくていい」
ナナは小さく頷いた。
俺は端末に表示した名前を見せた。
『水瀬真紀』
ユウキ:「この人、知ってる?」
ナナの表情が変わった。
彼女はしばらく画面を見つめた。
そして、小さな声で答えた。
ナナ:「……私のお母さん」
俺は息をのんだ。
ユウキ:「お母さんが、青風で働いてたのか?」
ナナ:「……うん」
彼女は膝の上で手を握った。
ナナ:「でも、詳しいことはあまり聞いてない。私も小さかったから」
俺は頷いた。
ユウキ:「今日、青風の閉鎖準備の記録を見つけたんだ。お母さんが遊戯室の私物確認を担当してた」
ナナは目を伏せた。
ナナ:「……そうなんだ」
ユウキ:「青い壁の部屋、覚えてる?」
彼女は少し考えた。
ナナ:「……うん。たぶん」
俺は黙って待った。
ナナはゆっくりと言葉を続けた。
ナナ:「窓の近くに、机があったと思う」
俺は息を止めた。
ナナ:「そこで、手紙を書いたことがある気がする」
昨日、彼女が話してくれた記憶とつながった。
俺は端末を握りしめた。
ユウキ:「その手紙、誰に渡したか覚えてる?」
ナナは首を横に振った。
ナナ:「……ごめん。そこまでは」
ユウキ:「いや、ありがとう」
俺は頷いた。
少なくとも、ナナの母親は閉鎖時の遊戯室を確認していた。
そして、ナナ自身にも、その部屋で手紙を書いた記憶がある。
2つの事実が、初めて同じ場所で重なった。
◇
午後3時30分。
俺はナナの許可を得て、調査メンバーに話を共有した。
ただし、彼女が覚えていないことまで推測で広めないようにした。
シオンがホワイトボードに書く。
『水瀬真紀:遊戯室の私物確認・引継票作成担当』
『水瀬ナナの母親』
『ナナには、青い壁の部屋で手紙を書いた記憶がある』
ソウタが腕を組んだ。
ソウタ:「これで、引継票の作成者候補は分かった」
リナ:「でも、D-04が遊戯室で見つかったものかは、まだ未確認だね」
ユウキ:「うん」
俺はホワイトボードを見つめた。
ナナの母親。
早川施設長。
青い部屋。
そして、D-04。
つながりそうで、まだつながらない。
◇
午後5時。
資料閲覧室を出ると、レイが廊下にいた。
レイ:「今日は、名前が見つかったみたいだね」
ユウキ:「うん。ナナのお母さんが、遊戯室の私物確認を担当してた」
レイは頷いた。
レイ:「名前が分かったなら、次はその人が何を見たかだね」
ユウキ:「そうだな」
俺は少し考えてから言った。
ユウキ:「でも、ナナに無理に聞くのは違う気がする」
レイ:「本人が知らないことまで、娘だからって答えられるわけじゃないからね」
俺は頷いた。
ナナも、12年前の事件に関わる記憶を抱えている。
だからこそ、調査のために追い詰めたくはなかった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の記録を整理した。
『遊戯室の窓際机から私物が見つかっていた』
『受領担当者は早川恵子』
『引継票の作成担当者は水瀬真紀』
『水瀬真紀はナナの母親』
『D-04が遊戯室の私物かどうかは未確認』
俺はペンを置いた。
昨日の匿名メッセージ。
『まずは、誰がD-04を預けたのかを調べてください。』
今日分かったのは、遊戯室の私物を確認した担当者の名前だ。
D-04の預け入れ者そのものは、まだ分からない。
だが、少しずつ近づいている。
そのとき、端末が震えた。
『STORE Xよりお知らせ』
新しい情報商品が追加された。
『INFO-012:遊戯室・保管品引継票について』
価格は、70,000円。
俺は商品説明を開いた。
『本商品では、遊戯室から移送された保管品の管理番号および分類を開示します』
管理番号と分類。
これを買えば、D-04が遊戯室から移送されたものか確認できる。
ただし、持ち主や内容は分からない。
俺は購入画面を閉じた。
明日、みんなに相談しよう。
そう考えた直後。
端末に新しい通知が届いた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『水瀬真紀という名前に、たどり着きましたね。』
俺は息をのんだ。
続けて、文章が表示される。
『その人は、あなたが探しているものを見ています。』
俺は画面を見つめた。
ナナのお母さんが、引き出しの中身を見た?
最後の1行が表示された。
『でも、最初にそれを引き出しへ入れたのは、その人ではありません。』
俺は手紙を取り出した。
青い四角。
丸2つ。
そして、「04」。
最初に引き出しへ入れた人物。
それが、俺の約束した相手なのだろうか。
俺はノートに、新しい調査項目を書き込んだ。
『D-04を最初に引き出しへ入れた人物』
DAY16。
第1回投票まで、あと14日。
俺はまだ、2つ目の約束を思い出せない。
だが、青い部屋に残されたものは、確かに誰かの手を経て、閉鎖時の記録へと移されていた。
そして、その記録の向こうには――。
12年前の俺が忘れてしまった、もう1人の名前があるのかもしれなかった。
第1章 第22話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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