第1章 第18話「開けてはいけなかった手紙」
DAY11。
午後11時26分。
俺は、古い紙の最後の折り目に指をかけていた。
12年前にもらったらしい、小さな手紙。
表には、子どもの字でこう書かれている。
『ぜったいに、なくさないでね。』
裏には、もう1つ。
『こまったときは、あけてね。』
俺は今、間違いなく困っている。
父さんの事件。
消えた1億円。
主催者X。
そして、思い出せない2つの約束。
ゆっくりと折り目を開いた。
中には、たった1行。
『あおいへやの、ひきだしをおもいだして。』
ユウキ:「……青い部屋?」
俺は思わず声に出した。
住所でも、名前でもない。
金の送金先でもない。
青い部屋の引き出し。
それだけだった。
紙を裏返す。
ほかに文字はない。
ただ、右下に青い色鉛筆で、小さな四角が描かれていた。
四角の中には、丸が2つ。
俺はしばらく、それを見つめた。
見覚えがある気がした。
でも、何の絵なのか分からない。
◇
午前0時03分。
俺は手紙を机に置き、古い布袋を調べ直した。
袋は色あせている。
縫い目も少しほつれていた。
中には手紙以外、何も入っていない。
どうして俺は、これを12年間も持っていたんだろう。
捨てずにいた理由すら思い出せない。
だが、あの日の俺は、確かに約束したのだ。
『ぜったいに、なくさないでね。』
俺は袋を閉じた。
そして、ノートに書く。
『青い部屋の引き出し』
『四角の中に丸2つの絵』
『誰からもらったか不明』
手紙が本物だとしても、今の事件に関係するとは限らない。
それでも、12年前の俺にとって大切なものだったことは、確かな気がした。
◇
DAY12。
午前8時。
食堂でレンに手紙を見せた。
レン:「……青い部屋の引き出し?」
ユウキ:「覚えがないんだ」
レン:「青い部屋って、壁が青いのか?」
ユウキ:「分からない」
レン:「引き出しって、机の?」
ユウキ:「分からない」
レン:「書いたのは誰?」
ユウキ:「分からない」
レンは真剣な顔で頷いた。
レン:「なるほど。分からないことが分かった」
ユウキ:「調査開始5秒で終わらせるな」
レンは笑ったあと、手紙をもう1度見た。
レン:「でもさ、これを渡した子は、ユウキが困ったときに思い出してほしかったんだろ?」
ユウキ:「……そうなのかな」
レン:「少なくとも、なくしてほしくなかったんだろうな」
俺は手紙を見つめた。
12年間。
俺は約束の内容を忘れていた。
それでも、手紙だけはなくさなかった。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、新しい資料が公開されていた。
『青風こども生活支援センター・閉鎖時の活動記録』
公開件数は5件。
そのうち、全文を読めるものは2件。
残り3件には閲覧制限がかかっている。
俺はシオンとリナに手紙を見せた。
シオン:「青い部屋の引き出しか……」
リナ:「まずは、施設にそういう部屋があったか調べよう」
俺たちは施設の間取り図を検索した。
結果は1件。
『青風こども生活支援センター・施設案内図』
画面に、古い建物の簡単な図面が表示された。
玄関。
食堂。
遊戯室。
相談室。
事務室。
資料保管室。
俺は目を凝らした。
ユウキ:「青い部屋って名前はないな」
リナ:「正式名称じゃなくて、子どもたちの呼び方だったのかも」
その可能性はある。
8歳の子どもが書いた手紙だ。
大人が使う部屋の名前とは限らない。
◇
午前10時12分。
ヒナが施設紹介の写真を見つけた。
ヒナ:「ユウキくん! 部屋の写真があったよ!」
画面には、施設の内部が写っていた。
明るい食堂。
絵本が並ぶ遊戯室。
小さな机が置かれた相談室。
俺は1枚ずつ確認する。
そして、遊戯室の写真で手が止まった。
壁の一部が、淡い青色だった。
ユウキ:「……ここ」
ヒナが写真を拡大する。
青い壁。
低い本棚。
窓際の机。
その机には、引き出しが2つついていた。
俺は息をのんだ。
手紙の右下に描かれた四角。
その中の丸2つ。
もしかして、あれは引き出しの取っ手だったのか。
ヒナ:「似てるね」
ユウキ:「うん。でも、これだけじゃ分からない」
俺は手紙を並べた。
子どもの絵と、写真の机。
確かに似ている。
ただ、どこにでもありそうな机だ。
今は候補として記録しておこう。
◇
午前11時。
俺たちは閉鎖時の活動記録を読み始めた。
1件目は、施設の備品整理について。
『閉鎖に伴い、備品の一部を関係施設へ移管』
『個人の所有物については、可能な限り本人または保護者へ返却』
俺は文章を追った。
もし、青い部屋の机も移管されていたら。
その引き出しの中身は、どうなったのだろう。
2件目は、子どもたちへの対応記録だった。
『閉鎖に伴う環境変化について、個別の説明を実施』
『一部の児童については、移動先の情報を関係者間で限定して共有』
俺はそこで手を止めた。
ユウキ:「……限定して共有?」
シオンが画面をのぞき込む。
シオン:「昨日までの証言ともつながるね。移動先の情報が、全職員に共有されていたわけじゃない」
リナ:「でも、なぜ限定したのかは書かれていない」
俺は頷いた。
昨夜のメッセージには、守られた人たちがいると書かれていた。
だが、今の記録から分かるのは、情報の共有範囲が限定されていたということだけだ。
理由までは分からない。
◇
昼休み。
食堂でカイトが俺に声をかけた。
カイト:「今日は何か進んだか?」
ユウキ:「昔の手紙が出てきた。青い部屋の引き出しを思い出せって書いてある」
カイト:「引き出し?」
俺は手紙を見せた。
カイトは右下の絵を見て、首をかしげた。
カイト:「これ、机じゃねえか?」
ユウキ:「やっぱりそう見える?」
カイト:「四角に丸2つ。引き出しの取っ手っぽい」
そこへソウタが来た。
ソウタ:「絵だけで机と断定するなよ」
カイト:「分かってるって」
ソウタ:「お前、さっき断定しかけただろ」
カイト:「俺の推理には勢いがあるんだよ」
ソウタ:「勢いで証拠は増えない」
レンが横から口を挟んだ。
レン:「でも、勢いで昼飯は増やせるかもしれない」
カイト:「どうやって?」
レン:「店員さんに熱意を伝える」
ソウタ:「やめろ。迷惑だ」
俺は笑いながら、手紙をしまった。
◇
午後1時30分。
資料閲覧室へ戻った俺たちは、施設の備品移管記録を探した。
検索結果は3件。
そのうち、公開されているのは1件だけだった。
『備品移管概要』
そこには、机や椅子、書籍などが、複数の関係施設へ移されたと書かれていた。
だが、個別の備品番号や移管先は伏せられている。
ユウキ:「……机がどこへ行ったかは分からないな」
リナ:「それでも、廃棄されたとは限らないことは分かった」
俺は頷いた。
青い部屋の引き出し。
もし本当にあの机なら、どこかに残っている可能性がある。
だが、12年前の備品だ。
今も存在するとは限らない。
◇
午後3時。
ヒナが施設紹介写真をもう1度開いた。
ヒナ:「ユウキくん、ちょっと気になることがある」
ユウキ:「何?」
彼女は青い壁の部屋を拡大した。
机の上には、折り紙や色鉛筆が置かれている。
その横に、小さな箱があった。
箱の側面には、手書きの文字。
『おもいで』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「……思い出?」
ヒナ:「子どもたちが作ったものを入れてた箱なのかな」
俺は手紙を取り出した。
『あおいへやの、ひきだしをおもいだして。』
引き出し。
思い出の箱。
どちらも、青い壁の部屋にあった。
もしかして、手紙の送り主は、そこに何かを残したのだろうか。
だが、写真だけでは分からない。
◇
午後4時。
俺たちは今日の調査結果をまとめた。
ホワイトボードには、新しい項目が並んでいる。
『施設の遊戯室には、青い壁の一角があった』
『そこに引き出し2つの机が写っている』
『閉鎖時、備品の一部は関係施設へ移管された』
『一部児童の移動先情報は、限定して共有されていた』
『青い壁の部屋には「おもいで」と書かれた箱があった』
シオンが腕を組んだ。
シオン:「手紙の内容と、写真の部屋が一致する可能性は高まったね」
ソウタ:「ただし、手紙の送り主も、引き出しの中身も不明だ」
ユウキ:「うん」
俺はホワイトボードを見つめた。
12年前の約束。
青い部屋。
引き出し。
少しずつ、手がかりがつながり始めている。
だが、肝心の答えにはまだ届かない。
◇
午後5時。
資料閲覧室を出ると、廊下にレイがいた。
レイ:「青い部屋、見つかった?」
俺は足を止めた。
ユウキ:「……何で知ってる?」
レイ:「さっき、共有テーブルで話してたのが聞こえたから」
確かに、午後の調査中は何度もその話をしていた。
ユウキ:「候補は見つかった。でも、引き出しの中身までは分からない」
レイは頷いた。
レイ:「引き出しって、何かを隠す場所でもあるけど、何かをしまっておく場所でもあるよね」
ユウキ:「……どういう意味?」
レイ:「隠したかったのか、なくしたくなかったのか。そこは違うと思う」
俺は手紙を思い出した。
『ぜったいに、なくさないでね。』
確かに、あの子は何かを隠そうとしたのではなく、残そうとしたのかもしれない。
俺は頷いた。
ユウキ:「……ありがとう」
レイは小さく手を振り、歩き去った。
◇
夜。
自室に戻った俺は、古い手紙を机に広げた。
12年前の子どもの字。
『あおいへやの、ひきだしをおもいだして。』
俺は目を閉じた。
青い壁。
低い机。
色鉛筆。
小さな箱。
そして、誰かの声。
『こまったときは、あけてね』
俺は目を開けた。
あの日、俺は何かを受け取った。
それをなくさないと約束した。
でも、手紙の送り主は、なぜ青い部屋の引き出しを覚えていてほしかったのだろう。
俺はノートに書き加えた。
『手紙は、何かを思い出すためのものかもしれない』
そのとき、端末が震えた。
『STORE Xよりお知らせ』
新しい情報商品が追加された。
『INFO-009:青風こども生活支援センター・備品移管記録について』
価格は、80,000円。
ユウキ:「……また80,000円か」
俺は商品説明を読んだ。
『本商品では、閉鎖時に移管された備品のうち、指定された1件の移管先情報を開示します』
指定された1件。
つまり、備品番号が分からなければ、狙った机の情報を買えるとは限らない。
俺は購入画面を閉じた。
今は、まだ買うべきじゃない。
まず、机の備品番号を探そう。
そう考えた直後。
端末に新しい通知が届いた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『あなたが探しているのは、机ではありません。』
俺は息をのんだ。
続けて、文章が表示される。
『引き出しに入っていたものです。』
俺は手紙を見つめた。
引き出しに入っていたもの。
何だ。
あの日、何をしまった?
最後の1行が表示された。
『それを見れば、あなたは2つ目の約束を思い出します。』
俺は立ち上がった。
やはり、青い部屋の引き出しに、約束の手がかりがある。
だが、今はその場所すら分からない。
俺は写真を開いた。
青い壁。
引き出し2つの机。
そして、机の上に置かれた『おもいで』の箱。
そのとき、ふと気づいた。
写真の机。
右側の引き出しが、少しだけ開いている。
中に、何か白いものが見えた。
俺は画面を拡大した。
紙のようにも見える。
だが、文字までは読めない。
その白いものの端に、小さな青い印があった。
俺は手元の手紙を見た。
右下に描かれた、青い四角。
その色と、よく似ていた。
ユウキ:「……まさか」
俺は写真と手紙を並べた。
12年前。
青い部屋。
引き出し。
そして、俺が忘れた約束。
DAY12。
第1回投票まで、あと18日。
俺はまだ、引き出しの中身を知らない。
だが、そこには確かに、誰かが残したものがあったのかもしれない。
そして、その誰かは――。
俺がいつか困る日が来ることを、知っていたのだろうか。
第1章 第18話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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