第1章 第17話「忘れられた2つの約束」
DAY11。
午前6時35分。
『あなたは、その日、約束を2つしました。』
昨夜届いたメッセージを、俺は何度も読み返していた。
12年前の春。青風こども生活支援センターの交流会。
写真には、8歳の俺と青い飾りをつけた女の子が写っている。その左端には、紙袋を持った別の子ども。
メッセージによれば、俺はあの日、2つの約束をしたらしい。
けれど、誰と、何を約束したのか思い出せない。
昨夜、頭の奥に浮かんだ声。
『忘れないでね』
あれが本当の記憶なのか、メッセージを読んだせいで想像したものなのかも分からなかった。
俺はノートを開き、最初のページに書いた。
『思い出したことと、確認できた事実を混ぜない』
そして、写真をもう1度表示した。
◇
午前8時。
食堂でレンに事情を話すと、彼は腕を組んだ。
レン:「約束が2つか。そりゃ気になるな」
ユウキ:「でも、誰と約束したのかすら分からない」
レン:「8歳の頃の約束なんて、忘れてても不思議じゃないだろ」
ユウキ:「そうかな」
レン:「俺なんか昨日、カイトに朝飯のパンを1個やるって約束したの忘れてた」
隣の席から、カイトが顔を上げた。
カイト:「忘れてたのかよ。ずっと待ってたんだぞ」
レン:「ごめん。今日の分をやる」
カイト:「今日のは今日の分だろ」
レン:「借金に利息がついてる!」
俺は思わず笑った。
だが、レンはすぐに真面目な顔に戻った。
レン:「なあ、ユウキ。そのメッセージ、約束の内容までは書いてないんだよな?」
ユウキ:「ああ」
レン:「だったら、写真だけじゃなくて、当日の記録を調べてみようぜ。何をしてたか分かれば、思い出すきっかけになるかもしれない」
俺は頷いた。
今日は、交流会の記録をもう少し詳しく調べよう。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、ヒナとリナが先に来ていた。
俺は昨夜のメッセージを2人に見せた。
ヒナ:「約束が2つ……?」
リナ:「この送り主、ずいぶん具体的なことを知ってるね」
ユウキ:「本当なら、だけどな」
ヒナは頷き、写真の一覧を開いた。
ヒナ:「じゃあ、今日は撮影順に並べてみよう。写真が撮られた流れから、当日の行動が分かるかも」
俺たちは公開されている6枚を並べた。
A-009。受付付近。
A-011。記念品制作。
A-012。昼食会場。
A-014。俺と女の子が手をつないでいる写真。
A-015。俺が左端の子どもを見ている写真。
A-018。庭での集合写真。
ヒナがA-011を拡大した。
ヒナ:「この写真、青いビーズを作ってるところだね」
テーブルの上には、色とりどりのビーズと細いひもが並んでいた。
何人もの子どもが、小さな飾りを作っている。
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「……そうだ。これ、作った気がする」
手のひらに乗せた青いビーズ。
ひもを結ぶのが難しくて、何度もやり直した。
そんな光景が、ぼんやり浮かんだ。
ただ、誰と一緒に作ったのかは分からない。
リナ:「記念品を全員が作ったなら、青い飾りを持っているだけで人物を特定するのは難しいね」
ユウキ:「うん。でも、あの日のことは少し思い出せそうだ」
◇
午前10時20分。
シオンが交流会の運営記録を見つけた。
シオン:「当日の進行表があったよ」
モニターには、時間ごとの予定が表示されていた。
『午前10時 受付』
『午前10時30分 記念品制作』
『正午 昼食交流』
『午後1時 自由交流』
『午後2時30分 記念撮影』
俺は首をかしげた。
ユウキ:「あれ? A-014の写真、記念撮影より前に撮られたものなのか?」
ヒナ:「写真の管理番号は、必ずしも撮影順とは限らないよ」
確かにそうだ。
俺たちは、番号だけで時間を決めつけていた。
ヒナは写真の詳細情報を確認した。
ヒナ:「撮影時刻は公開されてないね。管理番号は整理した順番かもしれない」
俺はノートに書いた。
『写真番号=撮影順とは限らない』
こうして調べてみると、思い込みがいくつも見つかる。
12年前の事件についても、同じことが起きていたのかもしれない。
◇
午前11時。
俺は交流会の案内チラシを読み直した。
そこには、記念品制作について、短い説明があった。
『子どもたちが互いに贈り合える、手作りの飾りを制作します』
ユウキ:「……贈り合う?」
ヒナが画面をのぞき込む。
ヒナ:「自分の分を作るだけじゃなかったんだ」
俺は写真を開いた。
青い飾りをつけた女の子。
あの飾りは、本人が作ったものとは限らない。
誰かからもらったものかもしれない。
もしかして、俺が――。
そこまで考えて、手を止めた。
まだ思い出していない。
写真にも、渡す場面は写っていない。
俺は深呼吸した。
ユウキ:「……決めつけるのはやめよう」
ヒナ:「うん。でも、調べる方向は見えてきたね」
俺は頷いた。
あの日、誰が誰に何を渡したのか。
それが、約束を思い出す手がかりになるかもしれない。
◇
昼休み。
食堂でミオと向かい合って座った。
ミオ:「今日は、何か分かった?」
ユウキ:「青い飾り、交流会で作って贈り合ったものらしい」
ミオ:「そうなんだ」
ユウキ:「それから、俺があの日、約束を2つしたってメッセージが届いた」
ミオは静かに俺を見た。
ミオ:「思い出せそう?」
ユウキ:「少しだけ。でも、誰と約束したかは分からない」
俺は写真を見せた。
8歳の俺。
青い飾りの女の子。
左端の子ども。
ユウキ:「この子たちと何か話したのかもしれない。でも、記憶って曖昧だな」
ミオは写真を見つめたあと、俺に視線を戻した。
ミオ:「思い出せないことを、無理に埋めなくてもいいと思う」
ユウキ:「……そうだな」
ミオ:「確かめられることから、少しずつでいいんじゃないかな」
俺は頷いた。
ミオと話していると、焦りが少し和らぐ。
そのとき、彼女が俺の皿を見た。
ミオ:「ユウキ、サラダ残ってるよ」
ユウキ:「……後で食べる」
ミオ:「さっきも同じこと言ってた」
ユウキ:「覚えてたのか」
ミオ:「うん」
俺は観念してフォークを持った。
12年前の約束は思い出せないのに、昼食の約束は逃がしてもらえなかった。
◇
午後1時30分。
資料閲覧室へ戻ると、ソウタが俺を呼んだ。
ソウタ:「神崎。左端の子どもについて、1つ分かった」
ユウキ:「本当か?」
ソウタは交流会の記録を開いた。
そこには、記念品制作の参加人数が記されていた。
『参加児童:18名』
さらに、集合写真の説明にはこうあった。
『撮影時、一部の児童は別室で活動中』
ソウタ:「つまり、集合写真に写っていない子どももいた」
ユウキ:「……そうか」
ソウタ:「あの写真に写っている人間だけを、交流会の参加者全員だと思うなよ」
俺は頷いた。
左端の子どもが誰か分からない。
青い飾りの女の子も分からない。
そして、写真に写っていない参加者もいる。
メッセージが指す人物を探すには、まだ材料が足りなかった。
◇
午後3時。
ヒナが新しい資料を見つけた。
ヒナ:「ユウキくん! これ、見て!」
画面には、記念品制作の活動報告が表示されていた。
写真はない。
だが、当日の様子が文章で記されている。
『子どもたちは、それぞれ大切な相手に贈る飾りを制作した。』
『完成後には、互いに贈り合い、再会を約束する姿も見られた。』
俺は息をのんだ。
再会を約束する姿。
昨夜のメッセージ。
『あなたは、その日、約束を2つしました。』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「……もしかして、また会おうって約束したのか?」
ヒナは頷きかけて、首をかしげた。
ヒナ:「そうかもしれない。でも、ユウキくんのことだとは書いてないね」
ユウキ:「うん」
それでも、胸の奥に小さな感覚が戻ってきた。
春の庭。
青いビーズ。
誰かの笑顔。
そして、手を振る自分。
俺は目を閉じた。
あの日、俺は誰かに言った気がする。
『また会おう』
だが、その相手の顔は見えなかった。
◇
午後4時30分。
俺たちは今日の調査結果を共有した。
ホワイトボードには、新しい項目が並んでいる。
『青い飾りは、交流会で贈り合うために作られた可能性が高い』
『記念品制作には18人の子どもが参加』
『集合写真に写っていない参加者もいた』
『活動報告には、再会を約束する姿が記録されている』
シオンが腕を組んだ。
シオン:「約束の内容については、まだ推測の段階だね」
ユウキ:「うん。でも、少し思い出した気がする」
リナ:「思い出したことは、そのまま記録しておこう。あとで資料と照らし合わせられるから」
俺は頷いた。
記憶は曖昧だ。
だが、何もないわけじゃない。
12年前の俺が、何か大切なことを約束した。
その感覚だけは、少しずつ強くなっていた。
◇
午後5時。
資料閲覧室を出ると、廊下にナナがいた。
ナナ:「ユウキくん。今日も写真、調べてた?」
ユウキ:「うん。交流会で作った飾りのことが少し分かった」
ナナは小さく頷いた。
ナナ:「……青い飾り?」
ユウキ:「そう。あの日、みんなで作って贈り合ったらしい」
彼女はしばらく黙っていた。
やがて、ぽつりと言った。
ナナ:「……あれ、かわいかったよね」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「覚えてるの?」
ナナは少し驚いたように俺を見た。
ナナ:「……うん。少しだけ」
ユウキ:「ナナも、あの日いたのか?」
彼女は答えるまでに時間がかかった。
ナナ:「……同じ日だったかは、まだ自信がない」
俺は頷いた。
無理に聞き出すつもりはない。
ただ、ナナの記憶にも、青い飾りが残っている。
それだけは分かった。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の記録を整理した。
『交流会では、飾りを贈り合っていた』
『再会を約束する子どもたちがいた』
『ナナも青い飾りを覚えている』
『俺は「また会おう」と言った気がする』
最後の1行には、印をつけた。
『未確認の記憶』
俺はペンを置いた。
そのとき、端末が震えた。
『資料閲覧室よりお知らせ』
新しい公開資料の案内だった。
『DAY12より、青風こども生活支援センター・閉鎖時の活動記録を一部公開します』
俺は画面を見つめた。
閉鎖時の活動記録。
そこには、子どもたちがどこへ行ったのか、何か残っているかもしれない。
俺は明日の予定を書き込んだ。
『DAY12:閉鎖時の記録を確認』
その直後。
端末がもう1度震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『あなたが思い出そうとしている約束のうち、1つは再会に関するものです。』
俺は息をのんだ。
やはり、あの日。
俺は誰かと、また会う約束をしたのか。
続けて、文章が表示される。
『もう1つは、誰かに渡されたものに関する約束です。』
俺は写真を開いた。
左端の子ども。
紙袋。
俺に何かを差し出しているように見える手。
あの子は、俺に何を渡した?
そして、俺は何を約束した?
最後の1行が表示された。
『あなたは、渡されたものを今も持っています。』
俺は動けなくなった。
今も持っている?
12年前にもらったものを?
俺は自分の荷物を思い浮かべた。
財布。
服。
スマートフォン。
そして、島へ持ってきた小さな私物。
そんなものがあっただろうか。
俺は慌ててクローゼットを開けた。
バッグを取り出し、中身を確認する。
だが、思い当たるものは見つからない。
そのとき、ふと手が止まった。
バッグの内側。
小さなファスナーつきのポケット。
そこには、島へ来る前から入れっぱなしにしていた、古い布製の小袋があった。
俺はゆっくり取り出した。
色あせた、小さな袋。
何年も開けていない。
なぜ持ってきたのか、自分でも分からなかった。
俺はファスナーに指をかけた。
そして、袋を開いた。
中に入っていたのは――。
小さな、折りたたまれた紙だった。
端が黄ばんでいる。
俺は慎重に広げた。
そこには、子どもの字で、短い文章が書かれていた。
『ぜったいに、なくさないでね。』
俺は息を止めた。
12年前の約束。
そのうちの1つが、今。
俺の手の中にあった。
DAY11。
第1回投票まで、あと19日。
俺はまだ、この紙を誰からもらったのか思い出せない。
だが、紙の裏には、もう1つ。
小さな文字が書かれていた。
『こまったときは、あけてね。』
俺は、紙の折り目を見つめた。
まだ開いていない部分がある。
そこに、何が書かれているのか。
俺は震える指で、最後の折り目を開こうとした。
第1章 第17話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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