第1章 第16話「写真の左端」
DAY10。
午前6時18分。
俺は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
昨夜届いたメッセージが、頭から離れなかった。
『明日、写真の左端を確認してください。』
12年前の春。
青風こども生活支援センターの交流会で撮影された写真。
そこには、8歳の俺と、青いビーズの飾りをつけた女の子が写っていた。
俺はずっと、その子ばかり見ていた。
だが、公開写真は一部が切り抜かれていた。
左端には、まだ誰かがいたのかもしれない。
今日、写真原本の一部が公開される。
俺は端末を握りしめた。
ユウキ:「……今度こそ、何か分かるといいんだけどな」
◇
午前8時。
食堂へ行くと、ヒナが俺を見つけて手を振った。
ヒナ:「ユウキくん! 今日、写真の日だよ!」
ユウキ:「分かってる。俺も早く起きた」
ヒナ:「私なんて、夢に写真が出てきた!」
レン:「俺も夢を見たぞ」
ヒナ:「どんな?」
レン:「STORE Xで朝食の写真を買ったら、現物より高かった」
ユウキ:「それ、夢じゃなくてこの島で起こりそうなのが嫌だな」
レンは真剣に頷いた。
レン:「写真だけで1,500円。実物のトーストは650円」
ヒナ:「写真家としては複雑な気持ち!」
朝食の席に、小さな笑いが広がった。
だが、俺の気持ちは落ち着かなかった。
昨夜のメッセージが正しければ、写真の左端に何かがある。
ただし、あれはSTORE Xの有料情報ではない。
差出人不明のメッセージだ。
内容が真実とは限らない。
期待しすぎるな。
俺は自分にそう言い聞かせた。
◇
午前9時。
資料閲覧室に入ると、新しい資料が公開されていた。
『地域交流イベント・写真原本』
『公開画像:6件』
『個人情報保護処理済み』
ヒナが端末を操作する。
ヒナ:「あった! これだよ!」
画面に、昨日まで見ていた写真が表示された。
ただし、今度は横幅が広い。
8歳の俺。
青い飾りをつけた女の子。
その周囲に、ほかの子どもたち。
そして、公開写真では切り取られていた左側。
俺は息を止めた。
そこには、もう1人の子どもが写っていた。
短い髪の、小柄な子。
俺たちの少し後ろに立っている。
だが、顔にはぼかしが入っていた。
ユウキ:「……この子か?」
ヒナが拡大する。
顔は見えない。
服装は、淡い色の上着。
手には、小さな紙袋を持っていた。
ヒナ:「左端には、この子がいたんだね」
俺は画面を見つめた。
メッセージの送り主は、この子を見ろと言っていたのだろうか。
それとも、まだ別の何かがあるのか。
◇
午前9時42分。
シオンとリナが合流した。
俺たちは写真を細かく確認していく。
シオン:「まず、左端の子どもが誰なのかは分からないね」
リナ:「顔が隠されているし、氏名も載っていない」
ユウキ:「でも、俺と同じ写真に写ってる」
シオンは頷いた。
シオン:「それは確か。ただ、メッセージがこの子を指しているとは、まだ断定できない」
俺は写真をもう1度見た。
左端の子ども。
紙袋。
そして、その少し後ろ。
白いエプロンをつけた大人が立っていた。
顔は写っていない。
胸元に名札らしきものがある。
ユウキ:「……待って」
俺は画面を指さした。
ユウキ:「この人、昨日の別の写真にも写ってなかったか?」
ヒナがすぐに写真を切り替えた。
昼食会場の写真。
テーブルの近くに立つ、白いエプロンの人物。
服装が似ている。
ヒナ:「同じ人かもしれない!」
リナ:「でも、職員の制服だった可能性もあるよ」
俺は頷いた。
同じ服装だからといって、同一人物とは限らない。
ただ、名札が見える写真があれば、何か分かるかもしれない。
◇
午前10時15分。
ヒナが6枚の写真を並べ、名札が写っているものを探した。
1枚目。
見えない。
2枚目。
ぼやけている。
3枚目。
人物が横を向いている。
4枚目。
胸元がテーブルで隠れている。
5枚目。
俺たちは画面に顔を近づけた。
白いエプロンの人物が、子どもたちに何かを配っている。
名札の文字が、かろうじて読めた。
『早川』
俺は息をのんだ。
ユウキ:「……早川?」
シオンが資料を確認する。
シオン:「青風こども生活支援センターの施設長、早川恵子」
俺は画面を見つめた。
新聞記事に載っていた名前。
12年前、施設の閉鎖に関わっていた人物。
その人が、写真に写っていた。
ただし、名札の姓が一致しただけだ。
同姓の職員だった可能性もある。
リナ:「本人かどうかは、別の資料で確認したいね」
俺は頷いた。
だが、胸の奥で何かが動いた。
早川。
その名前を、俺は昔から知っていた気がする。
◇
午前11時。
俺たちは施設の公開資料を検索した。
『早川恵子』
検索結果は7件。
その中に、施設紹介の記事があった。
『施設長・早川恵子』
掲載されている顔写真。
短く整えた髪。
穏やかな表情。
俺はしばらく、その写真を見つめた。
ユウキ:「……この人、覚えてる」
口から言葉がこぼれた。
ヒナが俺を見る。
ヒナ:「本当?」
ユウキ:「うん。名前は忘れてたけど……施設で会ったことがある」
頭の中に、ぼんやりとした記憶が浮かぶ。
廊下。
夕方の光。
大人の女性が、俺の目線に合わせてしゃがんでいる。
何かを話していた。
だが、声は思い出せない。
俺は額に手を当てた。
ユウキ:「……何を話したんだっけ」
シオンは静かに言った。
シオン:「無理に思い出そうとしなくていい。今分かったことだけ記録しよう」
俺は頷いた。
記憶は、証拠とは違う。
それでも、12年前の出来事が少しずつ戻ってきている気がした。
◇
昼休み。
俺は食堂の窓際に座っていた。
そこへミオがやってきた。
ミオ:「ユウキ。隣、いい?」
ユウキ:「うん」
ミオは俺の向かいに座った。
ミオ:「写真、見られた?」
ユウキ:「ああ。左端に、もう1人子どもがいた。それから、施設長の早川さんらしい人も写ってた」
ミオ:「そっか」
ユウキ:「俺、早川さんのこと、少し覚えてるみたいなんだ」
ミオは静かに聞いていた。
ユウキ:「でも、何を話したかまでは思い出せない」
ミオ:「12年前のことだもんね」
俺は頷いた。
しばらくして、ミオが言った。
ミオ:「写真って、不思議だね」
ユウキ:「どうして?」
ミオ:「写っているものは残るのに、そのとき何を思っていたかまでは残らないから」
俺は写真を思い出した。
笑っている8歳の俺。
隣の女の子。
左端の子ども。
後ろに立つ大人。
あの日、俺たちは何を考えていたのだろう。
ユウキ:「……確かに」
ミオは小さく微笑んだ。
ミオ:「でも、少しずつ思い出せるといいね」
ユウキ:「うん。ありがとう」
◇
午後1時30分。
資料閲覧室へ戻ると、ソウタが俺を呼んだ。
ソウタ:「神崎。写真について、1つ気になることがある」
ユウキ:「何?」
ソウタは写真原本の詳細情報を開いた。
そこには、撮影日時と管理番号が記されていた。
『撮影日:12年前・春の交流会』
『管理番号:A-014』
俺は画面を見つめた。
ユウキ:「A-014……?」
ソウタ:「ほかの写真はA-009、A-011、A-012、A-015、A-018だ」
つまり、公開されている6枚の間には、欠けている番号がある。
ユウキ:「ほかにも写真があるってことか」
ソウタ:「少なくとも、この番号だけ見れば、そう考えるのが自然だ。ただし、欠番が写真とは限らない」
俺は頷いた。
A-014。
その前後に、何が写っていたのか。
もし連続して撮影された写真なら、人物の位置が変わっている可能性がある。
顔が見える写真も、あるかもしれない。
◇
午後3時。
ヒナが写真の撮影順を整理した。
A-009。
A-011。
A-012。
A-014。
A-015。
A-018。
公開されている6枚。
俺たちはそれぞれの写真を見比べた。
すると、A-014とA-015で、同じ場所が写っていることに気づいた。
庭の一角。
俺と女の子が立っている。
A-014では、俺たちは手をつないでいる。
A-015では、俺が少し左を向いていた。
その視線の先には、左端の子どもがいる。
ユウキ:「……俺、この子を見てる」
ヒナが頷いた。
ヒナ:「本当だ」
俺は写真を拡大した。
左端の子どもは、紙袋を胸に抱えている。
そして、俺のほうへ何かを差し出しているように見えた。
だが、手元はぼかされていた。
何を渡そうとしていたのか、分からない。
俺は画面を見つめた。
昨夜のメッセージ。
『12年前のあなたが本当に見ていたのは、その人だけではありません。』
その言葉が、少しだけ意味を持ち始めた。
◇
午後4時。
俺たちは今日の調査結果をまとめた。
ホワイトボードには、新しい項目が並んでいる。
『写真の左端に、顔を伏せられた子どもがいた』
『白いエプロンの人物は、施設長・早川恵子の可能性がある』
『A-015では、8歳のユウキが左端の子どもを見ている』
『写真には未公開の管理番号が存在する可能性がある』
シオンが腕を組んだ。
シオン:「これで、写真に写っている人物の候補が増えたね」
リナ:「でも、メッセージの人物が誰かは、まだ分からない」
ユウキ:「うん」
俺はホワイトボードを見つめた。
左端の子ども。
青い飾りの女の子。
施設長の早川さん。
誰が、父さんの秘密を知っているのか。
そして、なぜその人物が、この島にいるのか。
まだ答えは出ない。
◇
午後5時。
資料閲覧室の閉室直前。
俺はもう1度、写真原本の一覧を開いた。
未公開の管理番号。
その中に、何か手がかりがあるかもしれない。
検索欄に入力する。
『A-013』
結果なし。
『A-016』
結果なし。
俺は少し考え、別の検索語を入れた。
『写真原本 未公開』
検索結果は1件。
鍵のマークがついていた。
『地域交流イベント・未公開写真』
『閲覧制限中』
俺は苦笑した。
ユウキ:「……またかよ」
だが、今回は少し違う。
未公開写真が存在することは確認できた。
そこに、左端の子どもの顔が写っているかもしれない。
俺は資料番号をノートに書き込んだ。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の記録を整理していた。
『写真原本の左端に、もう1人の子ども』
『A-015では、俺がその子を見ている』
『施設長・早川恵子らしき人物が写真に写っている』
『未公開写真が存在する』
そして、最後に書き加える。
『左端の子どもは、俺に何かを渡そうとしていた可能性がある』
ペンを置いた。
そのとき、端末が震えた。
『STORE Xよりお知らせ』
新しい情報商品が追加された。
『INFO-008:地域交流イベント・未公開写真について』
価格は、60,000円。
ユウキ:「……写真まで売るのかよ」
思わず声が出た。
だが、商品説明を読むと、少し違った。
『本商品では、未公開写真1枚の閲覧権限を開放します』
1枚。
どの写真が開放されるかは、購入前には分からない。
俺は購入画面を閉じた。
今は、120,000円の父さんの証言記録も残っている。
何でも買えばいいわけじゃない。
そう考えた直後。
端末に新しい通知が届いた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『今日、あなたは写真の左端を確認しました。』
俺は息をのんだ。
続けて、文章が表示される。
『そこに写っていた子どもは、あなたに何かを渡そうとしていました。』
心臓が跳ねた。
俺たちが写真から推測したことと一致している。
だが、何を渡そうとしていたのかは分からない。
次の文章が表示された。
『その子が持っていたものは、青い飾りではありません。』
俺は写真を開いた。
左端の子ども。
紙袋。
ぼかされた手元。
青い飾りではない。
では、何だった?
最後の1行が表示された。
『あなたは、その日、約束を2つしました。』
俺は動けなくなった。
約束。
2つ?
青い飾りの女の子と、何か約束したのか。
それとも、左端の子どもとも?
俺は目を閉じた。
12年前の春。
庭。
笑い声。
青いビーズ。
そして――。
誰かの声が、頭の奥でかすかに響いた。
『忘れないでね』
俺は目を開けた。
今の声は、誰のものだった?
DAY10。
第1回投票まで、あと20日。
俺はまだ、2つの約束を思い出せない。
だが、その約束が、12年前の事件につながっている気がした。
第1章 第16話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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