第1章 第15話「写真に写った証言者」
DAY9。
午前6時42分。
俺は昨夜から、ほとんど眠れていなかった。
端末には、差出人不明のメッセージが残っている。
『あなたのお父さんが最後まで送金先を明かさなかった理由を知っている人物が、この島にいます。』
『その人物は、あなたと同じ写真に写っています。』
俺は地域交流イベントの写真を開いた。
12年前。
8歳の俺が、青いビーズの飾りをつけた女の子と手をつないでいる。
昨夜は、この子が父さんの秘密を知っているのだと思った。
だが、冷静になってみると、メッセージには「女の子」とは書かれていない。
俺と同じ写真に写っている人物。
それだけだ。
集合写真には、ほかにも大勢の子どもや大人がいる。
しかも、差出人不明のメッセージが真実だという保証もない。
ユウキ:「……まず、写真を調べ直そう」
俺はベッドから立ち上がった。
◇
午前8時。
食堂でレンに事情を話すと、彼はパンを持ったまま固まった。
レン:「えっ。写真に写ってる人が、この島にいるの?」
ユウキ:「メッセージにはそう書いてあった。でも、まだ確認できてない」
レン:「じゃあ、写真の全員を調べる必要があるってことか」
ユウキ:「そうなる」
レンはパンを皿に戻した。
レン:「俺、昨日まで青い飾りの女の子だけ見てたわ」
ユウキ:「俺も」
レン:「写真って怖いな。目立つものがあると、ほかを見なくなる」
レンは少し考え、真顔になった。
レン:「ちなみに、俺の昔の写真には、だいたい変なポーズの俺が写ってる」
ユウキ:「それは目立つものじゃなくて、お前が原因だろ」
レン:「じゃあ俺、証言者に向いてるな。絶対見落とされない」
朝から少し笑えた。
俺は端末を閉じ、資料閲覧室へ向かった。
◇
午前9時。
ヒナに写真を見せると、彼女はすぐに意図を理解した。
ヒナ:「女の子だけじゃなくて、写真全体を確認したいんだね」
ユウキ:「うん。撮影された場所も含めて」
俺たちはイベントの写真を並べた。
庭で遊ぶ子どもたち。
折り紙をする子どもたち。
昼食を取る子どもたち。
そして、俺と女の子が手をつないでいる写真。
ヒナは1枚ずつ拡大し、背景を確認していった。
ヒナ:「この写真、右端に人がいるね」
画面の端に、白いエプロンをつけた大人が写っていた。
顔は半分しか見えない。
別の写真では、同じ服装の人物がテーブルの近くに立っている。
ユウキ:「職員かな」
ヒナ:「そうかも。でも、ボランティアもいたみたいだから、服装だけじゃ分からないね」
俺は頷いた。
さらに、集合写真を開く。
そこには子どもたちが横1列に並び、その後ろに大人が数人立っていた。
俺も写っている。
青い飾りの女の子もいる。
そして、端には顔を横に向けた別の子どもがいた。
写真に写っているのは、俺とあの子だけではない。
当たり前のことなのに、昨夜の俺は見落としていた。
◇
午前10時17分。
リナとシオンも調査に加わった。
シオンはホワイトボードに、写真の人物を分類していく。
『子ども』
『職員と思われる大人』
『ボランティアと思われる大人』
『身元不明』
シオン:「メッセージが正しいとしても、どの写真を指しているか分からない。まずは候補を広げておこう」
リナ:「あと、写真に写っていた人が今この島にいるとしても、その人が主催者Xとは限らないよね」
ユウキ:「うん。父さんの秘密を知っていることと、Xであることは別だ」
シオンは頷いた。
シオン:「それに、12年前の出来事を知っている人が、当時8歳だった子どもとは限らない。写真に写った大人の可能性もある」
俺はホワイトボードを見た。
この島の参加者は全員20歳。
12年前は全員8歳だった。
もしメッセージが「13人の参加者の中にいる」と言っているなら、写真に写る大人は該当しない。
だが、実際の文面は「この島にいます」だ。
運営側の人間を含んでいる可能性も残る。
ユウキ:「……言葉の範囲が、また問題になるのか」
ソウタ:「差出人不明のメッセージだからな。STORE Xの商品と違って、内容が真実だという保証すらない」
ソウタの言葉に、俺は頷いた。
焦るほど、文章を自分に都合よく読んでしまう。
それだけは避けたかった。
◇
午前11時。
ヒナが別の資料を見つけた。
ヒナ:「これ、イベントの運営記録!」
画面には、当日の活動内容が並んでいた。
受付。
昼食準備。
記念品制作。
写真撮影。
その下に、担当者の欄があった。
ただし、氏名の一部は伏せられている。
ユウキ:「写真撮影の担当者もいたんだな」
ヒナ:「うん。ってことは、写真を撮った人は基本的に写ってないはず」
俺は思わず顔を上げた。
昨夜のメッセージは、写真に写っている人物だと言っている。
撮影者は、通常その写真には写らない。
もちろん、別の写真には写っているかもしれない。
だが、少なくとも、誰が撮影したのかも調べる価値はある。
俺たちは運営記録を確認した。
すると、撮影担当の欄に、短い注記があった。
『記録写真は、施設保管用と広報掲載用に分けて管理』
ユウキ:「……施設保管用?」
ヒナが目を輝かせた。
ヒナ:「つまり、今見てる写真以外にも、元の写真があるかもしれない!」
俺たちはすぐに検索した。
『青風こども生活支援センター 記録写真』
検索結果は2件。
1件は、すでに見ている公開写真。
もう1件は――。
『地域交流イベント・写真原本』
『閲覧制限中』
俺は椅子の背にもたれた。
ユウキ:「……また鍵か」
レン:「この島の資料、鍵かけるのが趣味なのか?」
ヒナ:「写真にまで値段つけられたら、私ちょっと怒るよ」
だが、写真原本が存在することは分かった。
公開用に切り抜かれる前の写真なら、写っている人物が増える可能性もある。
◇
昼休み。
食堂へ向かう途中、俺はナナとすれ違った。
ナナ:「ユウキくん。今日も調べてたの?」
ユウキ:「うん。昔の交流会の写真を」
ナナの足が止まった。
ナナ:「……写真?」
ユウキ:「青風の春の交流会。俺も写ってた」
ナナは少し目を伏せた。
ナナ:「そっか」
俺は迷った末に、尋ねた。
ユウキ:「ナナは、青風の交流会に行ったことある?」
彼女はしばらく黙っていた。
やがて、小さく答えた。
ナナ:「……行ったことはあるよ」
心臓が跳ねた。
ユウキ:「本当に?」
ナナ:「うん。でも、どの交流会だったかは、今すぐには思い出せない」
俺は端末を開きかけた。
写真を見せれば、何か分かるかもしれない。
だが、ナナは不安そうに俺を見ていた。
ナナ:「ごめんね。まだ、ちゃんと話せなくて」
ユウキ:「……分かった。無理に聞かない」
彼女は小さく頷いた。
俺は端末を閉じた。
ナナが青風に関係していたことは、これで分かった。
でも、写真に写っているかどうかは別だ。
それに、彼女が父さんの秘密を知っているとも限らない。
◇
午後1時30分。
俺は資料閲覧室へ戻り、父さんの証言記録をもう1度開いた。
『証言者D:神崎直人』
『閲覧制限中』
INFO-007の価格は120,000円。
昨日90,000円を共同購入したばかりだ。
今すぐ全員に、また金を出してくれとは言えない。
俺は商品説明を読み直した。
『神崎直人の証言記録の一部を開示します』
全部ではない。
120,000円払っても、どこが開示されるかは分からない。
俺は購入画面を閉じた。
今は、無料で調べられることを続けよう。
そのとき、隣にレイが座った。
レイ:「買わないの?」
ユウキ:「……まだ。120,000円は高いし、どこまで分かるかも不明だから」
レイ:「そう」
レイは俺の端末を見た。
レイ:「証言記録が読めなくても、証言した事実は確認できるんだね」
ユウキ:「ああ」
レイ:「だったら、その人が何を話したかだけじゃなくて、誰が聞いたのかも調べたら?」
俺は顔を上げた。
ユウキ:「誰が聞いたか?」
レイ:「証言には、聞き取る側がいるでしょ」
そう言って、レイは立ち上がった。
俺はすぐに資料一覧へ戻った。
証言者D。
神崎直人。
その下に、小さな項目があった。
『記録作成担当:非公開』
俺は息を吐いた。
だが、今まで見ていなかった欄が、もう1つある。
『記録管理部署』
そこには、こう書かれていた。
『青風未来基金 事務局』
証言を管理していたのは、基金の事務局。
つまり、当時の関係者の中には、父さんの証言を記録として扱った人物がいたはずだ。
父さんが何を話し、何を話さなかったのか。
その人物なら、知っている可能性がある。
◇
午後3時。
シオンたちに調査結果を共有した。
ホワイトボードには、新しい項目が加わった。
『写真原本が存在する』
『ナナは青風の交流会に参加した経験がある』
『神崎直人の証言記録は基金事務局が管理していた』
ソウタが腕を組んだ。
ソウタ:「ただし、これで誰が秘密を知っているかは特定できない」
ユウキ:「分かってる」
リナ:「写真の人物と、証言を管理していた人物。両方の線で調べよう」
俺は頷いた。
写真に写っていた人物が秘密を知っているというメッセージ。
それが本当なら、2つの手がかりはどこかでつながるはずだ。
だが、今はまだ線が交わらない。
◇
午後5時。
資料閲覧室の閉室が近づいた頃、ヒナが俺を呼んだ。
ヒナ:「ユウキくん、これだけ見て!」
彼女の画面には、公開写真の詳細情報が表示されていた。
撮影日。
掲載媒体。
管理番号。
そして、備考欄。
『広報掲載に際し、一部を切り抜き』
俺は目を見開いた。
ユウキ:「やっぱり、元の写真はもっと広いんだ」
ヒナ:「うん。だから、今の写真の端に写ってない人がいるかもしれない」
俺は画面を見つめた。
あの写真。
8歳の俺と、青い飾りの女の子。
俺たちは、ずっと2人の顔を見ていた。
だが、写真の外側には、まだ誰かがいたのかもしれない。
◇
夜。
自室に戻った俺は、今日の記録を整理した。
『青風の交流会写真には、施設保管用の原本がある』
『公開写真は一部切り抜かれている』
『ナナは青風の交流会に参加したことがある』
『父さんの証言記録は、基金事務局が管理していた』
そして、最後に書き加える。
『写真に写っている人物を、女の子1人に限定しない』
ペンを置いた。
そのとき、端末が震えた。
『資料閲覧室よりお知らせ』
俺は画面を開く。
『DAY10より、地域交流イベント・写真原本の一部を公開します』
俺は立ち上がった。
写真原本。
明日、見られるのか。
続けて、説明が表示される。
『公開対象は、個人情報保護処理済みの画像です』
顔が隠されている可能性はある。
それでも、公開写真より広い範囲を確認できるかもしれない。
俺は明日の予定を書き込んだ。
『DAY10:写真原本を確認』
その直後。
端末がもう1度震えた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『あなたは、写真の中で手をつないでいる相手ばかり見ています。』
俺は息を止めた。
続けて、文章が表示される。
『でも、12年前のあなたが本当に見ていたのは、その人だけではありません。』
俺は写真を開いた。
8歳の俺。
青い飾りの女の子。
後ろに並ぶ子どもたち。
端に立つ大人。
誰だ。
俺は、誰を見ていた?
最後の1行が表示された。
『明日、写真の左端を確認してください。』
俺は画面を握りしめた。
左端。
公開写真では、途中で切れている部分だ。
そこに、誰が写っている?
そして、その人物は――。
父さんが送金先を明かさなかった理由を知っているのか?
DAY9。
第1回投票まで、あと21日。
俺はまだ、主催者Xの正体を知らない。
だが、明日。
12年前の写真に隠されていた何かが、ようやく見えるかもしれなかった。
第1章 第15話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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