第1章 第14話「証言の空白」
DAY8。
午前7時21分。
目が覚めて最初に確認したのは、端末に残された昨夜のメッセージだった。
『その送金によって、守られた人たちがいます。』
『ただし、守られなかった人もいます。』
俺はベッドに座ったまま、何度も読み返した。
父さんが動かした金は、誰かを守るためのものだったのか。
だとしても、なぜ理事会の承認を得なかったのか。
そして、守られなかった人とは誰なのか。
差出人不明の言葉を、そのまま事実だと信じるわけにはいかない。
今日は資料閲覧室に、12年前の関係者証言記録が追加される。
そこに答えがあるかもしれなかった。
◇
午前8時。
食堂でレンと合流した。
レン:「おはよう。今日の予定は?」
ユウキ:「資料閲覧室。証言記録が公開される」
レン:「じゃあ俺も行く。昨日90,000円も払ったしな」
ユウキ:「レンが払ったのは10,000円だろ」
レン:「気持ちとしては90,000円払った」
ユウキ:「残り80,000円は誰の気持ちだよ」
レンは真剣な顔でコーヒーを飲んだ。
レン:「みんなの気持ち」
妙にきれいにまとめられてしまった。
だが、昨日の共同購入は本当にありがたかった。
俺1人では、INFO-006を買うことすらできなかったのだから。
◇
午前9時。
資料閲覧室には、すでにシオン、リナ、ソウタ、ヒナがいた。
俺たちが入ると、シオンが手を上げる。
シオン:「追加資料、公開されたよ」
中央のモニターには、新しい資料一覧が表示されていた。
『青風未来基金・関係者証言記録』
公開件数は8件。
そのうち、全文を読めるものは3件。
残り5件には閲覧制限がかかっている。
ソウタ:「最初から全部見せる気はないらしいな」
レン:「この島、秘密に鍵かけるの好きすぎない?」
リナ:「まずは読めるものから確認しよう」
俺たちは手分けして資料を開いた。
俺が選んだのは、施設の元職員による証言だった。
氏名は伏せられている。
『証言者A:当時、青風こども生活支援センターに勤務』
記録には、施設が閉鎖される前の状況が書かれていた。
『資金問題が表面化する以前から、施設運営の継続について不安があった。』
『一部の職員は、子どもたちの生活環境が変わる可能性を認識していた。』
俺は文章を追う。
青風こども生活支援センター。
12年前、俺が通っていた場所。
あの頃の俺は、そこがなくなるなんて考えたこともなかった。
遊んだ庭。
昼食を食べた部屋。
友達と過ごした時間。
それが、ある日突然終わった。
俺は続きを読んだ。
『閉鎖に伴う子どもたちの移動先について、職員間で十分な情報共有が行われていなかった。』
そこで手が止まった。
ユウキ:「……移動先?」
俺はシオンを呼んだ。
◇
午前10時。
中央テーブルに集まった俺たちは、3件の公開証言を照らし合わせた。
1件目は、施設の元職員。
2件目は、基金の事務担当者。
3件目は、地域交流イベントに関わったボランティア。
証言には、それぞれ違う視点があった。
元職員は、子どもたちの生活環境について話している。
事務担当者は、基金の会計処理について話している。
ボランティアは、閉鎖前後の施設の様子について話している。
シオン:「この3件だけでも、当時の状況が少し見えてきたね」
リナ:「でも、同じ出来事について話しているとは限らない。日付も確認しよう」
俺たちは記録の作成日を整理した。
事件発覚前。
事件発覚直後。
施設閉鎖後。
証言が取られた時期も、内容も違う。
ソウタ:「あとから知ったことを、当時から知っていたように話している可能性もある。証言だけで事実を確定させるのは危険だ」
俺は頷いた。
だが、1つ気になる言葉があった。
『子どもたちの移動先』
昨夜のメッセージ。
『守られた人たちがいます。』
もし、その人たちが青風の子どもたちだったら。
俺はそんな考えをノートに書きかけ、手を止めた。
まだ証拠はない。
想像を事実のように扱うのはやめよう。
◇
午前11時18分。
ヒナが、ボランティアの証言を指さした。
ヒナ:「ここ、見て」
『閉鎖後、交流会で顔を合わせていた子どもたちと連絡が取れなくなった。』
俺は文章を読んだ。
交流会。
8歳の俺と、青い飾りをつけた女の子が写っていたイベントだ。
ヒナ:「この人、あの写真に写ってた子たちのことを話してるのかもしれない」
ユウキ:「……そうかもな」
俺は写真を開いた。
手をつないで笑う、幼い俺と女の子。
名前を思い出せない。
でも、あの子と連絡が取れなくなったことは、ぼんやり覚えていた。
ある日から、会えなくなった。
それが施設の閉鎖と関係していたのか。
俺は写真を見つめる。
ユウキ:「あの子、どこへ行ったんだろう」
ヒナはすぐには答えなかった。
ヒナ:「……見つかるといいね」
俺は頷いた。
◇
昼休み。
食堂へ向かう途中、ハルカとセナに会った。
ハルカ:「資料、何か分かった?」
ユウキ:「少し。施設が閉鎖されたとき、子どもたちの移動先について、職員にも十分な情報が伝わってなかったらしい」
ハルカは表情を曇らせた。
ハルカ:「それは、子どもたちも不安だっただろうね」
セナ:「新しい場所に移ること自体が必要だったとしても、説明が足りなければ怖いと思う」
俺は頷いた。
12年前の俺も、何も分からなかった。
ただ、いつもの場所に行けなくなった。
会えなくなった人がいた。
それだけは覚えている。
セナ:「ユウキくん、無理しすぎないでね」
ユウキ:「ありがとう。でも、今日はもう少し調べたい」
セナは小さく頷いた。
◇
午後1時。
俺は基金の事務担当者の証言を読み直した。
そこには、会計処理に関する短い記述があった。
『問題となった資金移動について、担当者間で認識に相違があった。』
『一部の取引は、通常の事業支出と異なる手続きで処理されていた。』
俺は画面を見つめた。
通常と異なる手続き。
それが、昨日確認した事前承認のない送金と関係しているのだろうか。
だが、証言には具体的な取引番号も金額も書かれていない。
俺は検索機能で『神崎直人』と入力した。
結果は2件。
1件は、昨日までに読んだ新聞記事。
もう1件は、閲覧制限中の証言記録だった。
『証言者D:神崎直人』
俺は息をのんだ。
父さんの名前だ。
12年前の証言が、ここに残っている。
俺は迷わず開こうとした。
『閲覧制限中』
画面は変わらない。
ユウキ:「……くそっ」
思わず机を握った。
そこへシオンがやってきた。
シオン:「見つけた?」
ユウキ:「父さんの証言記録。でも、読めない」
シオンは画面を確認した。
シオン:「解除条件は?」
ユウキ:「表示されてない」
俺は椅子に深く座り直した。
目の前にあるのに、届かない。
父さんが何を話したのか。
どうして送金先を明かさなかったのか。
そこに答えがあるかもしれないのに。
◇
午後3時。
俺たちは公開証言の内容をまとめた。
モニターには、シオンが作った一覧が表示されている。
『施設閉鎖前から、運営継続への不安があった』
『閉鎖時、子どもたちの移動先について十分な情報共有がなかった』
『問題の資金移動について、担当者間の認識に相違があった』
『一部の取引は通常と異なる手続きで処理された』
ソウタが腕を組む。
ソウタ:「まだ、金の行き先は分からないな」
リナ:「でも、資金問題と施設閉鎖が、同じ時期に起きていたことは確認できた」
カイト:「じゃあ、その金が子どもたちのために使われた可能性もあるのか?」
シオン:「可能性はある。ただ、今の資料だけでは言えない」
俺は頷いた。
父さんが誰かを守った。
昨夜のメッセージには、そう書かれていた。
だが、それを裏づける記録は、まだ見つかっていない。
◇
午後5時。
資料閲覧室を出ると、廊下にレイが立っていた。
レイ:「神崎直人の証言、見つけた?」
俺は足を止めた。
ユウキ:「……何で知ってる?」
レイ:「資料一覧に名前があったから」
確かに、検索すれば表示される。
だが、レイがその名前を気にしていたことが引っかかった。
ユウキ:「閲覧制限がかかってた」
レイ:「そう」
レイは少し考えたあと、口を開いた。
レイ:「証言って、何を話したかだけじゃなくて、何を話さなかったかも大事だと思う」
ユウキ:「……どういう意味?」
レイ:「話さなかった理由が、必ずしも本人のためとは限らないってこと」
俺は息をのんだ。
昨夜のメッセージが頭をよぎる。
『その送金によって、守られた人たちがいます。』
ユウキ:「レイは、父さんが誰かを守ってたと思うのか?」
レイはすぐには答えなかった。
レイ:「僕がそう思うかどうかより、君が何を確かめられるかだよ」
そう言って、歩き去った。
俺はその背中を見送った。
レイは、何か知っている。
だが、まだ話してくれない。
◇
夜。
俺は自室で、今日の記録を整理していた。
『父・神崎直人の証言記録が存在する』
『ただし、閲覧制限中』
『施設閉鎖時、子どもたちの移動先について情報共有が不十分だった』
『一部の資金移動は通常と異なる手続きで処理された』
そして、最後に書き加える。
『父さんが話さなかった理由を知りたい』
ペンを置いた。
そのとき、端末が震えた。
『STORE Xよりお知らせ』
新しい情報商品が追加された。
『INFO-007:神崎直人の証言記録について』
俺は画面を開く。
『本商品では、神崎直人の証言記録の一部を開示します』
価格は、120,000円。
ユウキ:「……120,000円?」
思わず声が出た。
今月の生活費は100,000円。
1人では、最初から買えない金額だ。
共同購入は可能。
だが、昨日90,000円を使ったばかりだ。
みんなに、また金を出してくれとは言いにくい。
俺は端末を閉じようとした。
その直前。
新しい通知が届いた。
『神崎ユウキ様へ』
差出人不明の個別メッセージ。
俺は開いた。
『証言記録を読む前に、1つだけ確認してください。』
続けて、文章が表示される。
『あなたのお父さんは、最後まで送金先を明かしませんでした。』
俺は息をのんだ。
新聞記事にも、そう書かれていた。
だが、次の文章は違った。
『その理由を知っている人物が、この島にいます。』
俺は立ち上がった。
この島に?
13人の中に?
それとも、運営側の人間なのか?
俺は画面を見つめる。
最後の1行が表示された。
『その人物は、あなたと同じ写真に写っています。』
俺は動けなくなった。
同じ写真。
8歳の俺。
青いビーズの飾りをつけた女の子。
まさか。
俺は急いで写真を開いた。
そこには、手をつないで笑う2人の子どもがいた。
12年前、俺の隣にいた女の子。
その子が、父さんの秘密を知っている?
それとも、写真に写っている別の誰かなのか。
俺は画面を握りしめた。
DAY8。
第1回投票まで、あと22日。
父さんの秘密を知る人物は、この島にいる。
そして俺は、まだその人物の名前を思い出せない。
第1章 第14話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。
ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!
**「Xはこの人だと思う!」**
**「このセリフが怪しい!」**
**「この行動、もしかして伏線?」**
**「この人物は逆にXではなさそう」**
など、どんな予想・考察でも大歓迎です。
もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。
皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。
そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!
果たして――
**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**
あなたの推理、お待ちしています!
毎日19時10分と20時10分更新予定です!!
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