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僕らの一億円ゲーム〜この中に、主催者Xがいる〜  作者: こよみん
第1章

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第1章 第12話「承認されなかった送金」

挿絵(By みてみん)


 DAY7。

 午前8時12分。

 俺は食堂で朝食を食べながら、昨夜届いたメッセージを読み返していた。

『資金を移動できた人物と、資金の移動を承認できた人物は、同じとは限りません。』

『次に調べるべきは、送金先ではなく、承認記録です。』

 父さんは、青風未来基金の会計担当者だった。

 資金移動への関与も認めていた。

 だが、基金の運営規程には、一定額を超える支出には理事会の承認が必要だと書かれていた。

 父さんが金を動かしたとして、その承認はあったのか。

 俺はそこを確かめたい。

レン:「ユウキ。トースト、焦げてるぞ」

ユウキ:「え?」

 皿を見る。

 確かに、焼きすぎたトーストが黒くなっていた。

レン:「何考えてたんだ?」

ユウキ:「承認記録」

レン:「朝食の?」

ユウキ:「違う」

レン:「じゃあ俺が承認する。食べてよし!」

 レンが親指を立てる。

 俺は思わず笑った。

ユウキ:「ありがとう。でも、焦げた部分はお前にやる」

レン:「その承認は取り消します」

     ◇

 午前9時。

 資料閲覧室へ入ると、シオンとリナがすでに端末を操作していた。

シオン:「おはよう。昨日の運営規程、続きを調べてたよ」

ユウキ:「俺も見たいものがある」

 俺は昨夜のメッセージを2人に見せた。

 シオンが文章を読み、少し考える。

シオン:「承認記録か。確かに、送金の手続きが適切だったかを確認するには必要だね」

リナ:「ただ、承認がなかったからといって、送金先が不正な相手だったとは限らないよ」

ユウキ:「……うん。そこは分けて考えたい」

 俺たちは検索端末に向かった。

『青風未来基金 理事会議事録』

 検索結果は9件。

 公開されている議事録は、年度ごとに整理されていた。

 俺は事件が起きた年の資料を開く。

 そこには、施設の運営費や事業計画についての記録が並んでいた。

 だが、肝心の資金移動については見つからない。

ユウキ:「……載ってないな」

シオン:「別の会議で決めた可能性もある。日付を広げてみよう」

 事件の前後3か月。

 俺たちは手分けして、議事録を確認した。

     ◇

 午前10時26分。

リナ:「……あった」

 リナの声に、俺とシオンは顔を上げた。

 彼女の画面には、事件発覚後に開かれた臨時理事会の議事録が表示されていた。

『議題:基金資金の移動に関する調査』

 俺は息をのんだ。

 文章を読み進める。

 問題となった資金移動について、当時の承認手続きを確認した記録だった。

 そして、途中に短い一文があった。

『当該資金移動について、事前の理事会承認を確認できず。』

ユウキ:「……承認が、ない?」

 胸の奥が冷たくなった。

 父さんが動かした金。

 その送金には、必要な承認がなかったのかもしれない。

 シオンが画面を確認する。

シオン:「正確には、議事録上で事前承認を確認できなかった、だね」

ソウタ:「その違いは重要だ」

 いつの間にか、ソウタが後ろに立っていた。

 彼は画面を読み、続けた。

ソウタ:「承認記録が見つからないことと、承認が絶対になかったことは同じじゃない。ただし、正式な手続きが確認できないのは重大な問題だ」

 俺は頷いた。

 父さんを信じたい。

 でも、記録に残っている事実から目を背けるわけにはいかない。

     ◇

 議事録をさらに読み進めると、別の記述が見つかった。

『関係職員への聞き取りを継続する。』

『送金先および資金の最終的な使途について、追加確認を要する。』

 俺は画面を見つめた。

ユウキ:「父さんは、移動先を明らかにしていなかったんだよな」

リナ:「新聞記事にはそう書かれていたね」

ユウキ:「なのに、どうして?」

 答えは出ない。

 金を盗んだから、説明できなかったのか。

 それとも、説明できない別の理由があったのか。

 俺はノートに書き込んだ。

『事前承認の記録なし』

『送金先の確認が必要とされていた』

 そして、少し迷ってから、もう1行。

『父さんの行動には、手続き上の問題があった可能性』

 書き終えると、手が止まった。

 こんなことを自分で書く日が来るとは思わなかった。

     ◇

 昼休み。

 俺は資料閲覧室の外にあるベンチに座っていた。

 手には、買ったばかりの缶コーヒー。

 だが、飲む気になれない。

ミオ:「ユウキ?」

 顔を上げると、ミオが立っていた。

ミオ:「隣、座ってもいい?」

ユウキ:「うん」

 ミオは俺の隣に腰を下ろした。

 しばらく、2人とも何も話さなかった。

 窓の向こうには、青い海が広がっている。

ミオ:「何か、分かったんだね」

ユウキ:「……父さんが動かした金、事前の承認記録が見つからなかったらしい」

 口にすると、現実味が増した。

ユウキ:「父さんは盗んでないって、あの封筒には書いてあった。でも、だからって何も問題がなかったわけじゃないのかもしれない」

 ミオは静かに聞いていた。

ユウキ:「俺、父さんが悪くなかったって証拠を見つけたかったんだと思う」

ミオ:「うん」

ユウキ:「でも、調べれば調べるほど、簡単な話じゃなくなる」

 俺は缶コーヒーを見つめた。

ユウキ:「もし父さんが、何か間違ったことをしてたら……俺はどうすればいいんだろうな」

 ミオは少し考えてから、口を開いた。

ミオ:「間違ったことがあったとしても、それだけで全部が分かるわけじゃないと思う」

 俺は彼女を見る。

ミオ:「何をしたのか。どうしてそうしたのか。その結果、誰がどうなったのか。全部、別々に確かめないと」

 その言葉は、妙に胸に残った。

ユウキ:「……そうだな」

ミオ:「ユウキが知りたいのは、きっと、そういうことなんだと思う」

 俺は小さく頷いた。

 父さんを無条件に許したいわけじゃない。

 ただ、何があったのか知りたい。

 そのうえで、自分で考えたい。

     ◇

 午後1時30分。

 資料閲覧室へ戻ると、ヒナが俺を呼んだ。

ヒナ:「ユウキくん! こっち!」

 彼女の端末には、昨日見つけた地域交流イベントの写真が表示されていた。

 8歳の俺と、青い飾りをつけた女の子。

 その写真の横に、別の資料が開かれている。

ヒナ:「同じイベントの案内チラシがあったの!」

 俺は画面をのぞき込んだ。

『青風こども生活支援センター 春の交流会』

 開催日。

 場所。

 催しの内容。

 そして、参加者向けの案内文。

 そこには、こう書かれていた。

『当日は、子どもたちが作った記念品を配布します』

ユウキ:「記念品……?」

ヒナ:「これ、もしかして青い飾りのことじゃないかな?」

 俺は写真を見た。

 女の子の手首にある青いビーズ。

 船の写真に写っていたバッグの飾り。

 似ている。

 だが、もしイベントの記念品だったなら。

 同じものを持っている人が、ほかにもいるかもしれない。

ユウキ:「……あの飾りだけじゃ、持ち主を特定できないな」

ヒナ:「うん。でも、逆に分かったこともあるよ」

ユウキ:「何?」

ヒナ:「あの飾りを持ってる人は、昔、このイベントに関係していた可能性があるってこと」

 俺は頷いた。

 確かにそうだ。

 ただし、記念品が誰かから譲られた可能性もある。

 飾りを持っていることと、本人がイベントに参加したことは同じではない。

 俺たちは、その点もメモに残した。

     ◇

 午後3時。

 シオンが資料閲覧室の中央テーブルに、調べた内容をまとめた。

 集まったのは、俺、シオン、リナ、ソウタ、ヒナ、レン、カイト。

シオン:「今日分かったことを共有しよう」

 モニターに3つの項目が表示される。

『1.問題の資金移動について、事前の理事会承認を確認できない』

『2.送金先と最終的な使途は、当時の調査対象だった』

『3.青い飾りは、施設の交流イベントの記念品だった可能性がある』

カイト:「つまり、ユウキの親父さんが金を動かしたとしても、それで全部説明できるわけじゃねえってことか」

ソウタ:「そうだ。送金の実行、承認、最終的な使途は、それぞれ確認する必要がある」

レン:「……金って、動かすだけでも大変なんだな」

リナ:「額が大きいほど、手続きも重要になるからね」

レン:「俺、70,000円の情報買うだけでも手が震えると思う」

ユウキ:「それは俺も」

 小さく笑いが起きた。

 だが、俺はモニターから目を離せなかった。

 父さんがしたこと。

 父さん以外の誰かがしたこと。

 その境界線が、少しずつ見え始めている。

     ◇

 午後5時。

 俺はもう1度、基金の運営規程を開いた。

 事前承認が必要だった資金移動。

 では、承認する立場にいた人物は誰なのか。

 役員名簿を開く。

 理事長。

 財務担当役員。

 その他の理事。

 名前は並んでいる。

 だが、実際に誰がどの手続きに関わったのかは分からない。

 俺は検索欄に入力した。

『青風未来基金 承認権限』

 結果は3件。

 そのうち1件には、鍵のマークがついていた。

『資金支出承認記録』

『閲覧制限中』

 俺は画面を見つめた。

 見たいものが、そこにある。

 だが、開けない。

ユウキ:「……ここまで来て、制限かよ」

 思わず声が漏れた。

 そのとき、背後からシオンが声をかけた。

シオン:「見つけた?」

ユウキ:「承認記録。でも、閲覧制限がかかってる」

 シオンは画面を確認した。

シオン:「解除条件は表示されてないね」

ユウキ:「STORE Xで売られそうだな」

シオン:「あり得る」

 俺たちは顔を見合わせた。

 この島では、知りたいことに近づくほど、金が必要になる。

 まるで、真実そのものに値札がついているみたいだった。

     ◇

 夜。

 自室に戻った俺は、今日の記録を整理した。

『事前の理事会承認を確認できず』

『送金先と使途は未判明』

『資金支出承認記録は閲覧制限中』

 そして、最後に書き加える。

『父さんが金を動かしたことと、1億円すべてを盗んだことは同じではない』

 俺はペンを置いた。

 父さんが何をしたのか。

 まだ分からない。

 でも、少なくとも、12年前の報道だけで結論を出すべきではない。

 そのとき、端末が震えた。

『STORE Xよりお知らせ』

 新しい情報商品が追加された。

『INFO-006:青風未来基金の承認記録について』

 俺は画面を開く。

『本商品では、12年前の資金移動に関する承認記録の確認結果を1件開示します』

 価格は、90,000円。

ユウキ:「……高すぎるだろ」

 思わず声が出た。

 今月の生活費は100,000円。

 90,000円を払えば、残りはほとんどない。

 しかも、俺はすでにINFO-001の共同購入で5,000円を使っている。

 食事代も払っている。

 今の残高では、1人で買えない。

 俺は端末を閉じようとした。

 だが、その直前。

 新しい通知が表示された。

『INFO-006について、共同購入の申請が可能になりました』

 俺は目を見開いた。

 共同購入。

 今まで、俺たちは代表者が購入するために金を出し合っていた。

 だが、参加者間の残高移転はできないはずだ。

 画面を開く。

『共同購入では、参加者がそれぞれ指定額を支払い、合計額が商品価格に達した時点で情報を開示します』

『支払額は参加者ごとに設定できます』

『購入成立後、情報は参加者全員へ共有されます』

 俺は画面を見つめた。

 なるほど。

 参加者同士で金を送るのではなく、STORE Xへ直接支払う仕組みなのか。

 だが、なぜ今になって追加された?

 俺たちが共同購入について話し合っていたからか。

 それとも、最初から予定されていたのか。

 分からない。

 ただ、1つだけ確かなことがある。

 これなら、90,000円の情報を1人で買う必要はない。

 俺は共有リビングへ向かった。

 みんなに相談しよう。

 そう考えた瞬間、端末がもう1度震えた。

『神崎ユウキ様へ』

 個別通知だった。

 俺は足を止め、画面を開いた。

『承認記録を確認する前に、1つだけ覚えておいてください。』

 続けて、文章が表示される。

『承認されなかった送金が、すべて盗難とは限りません。』

 俺は息をのんだ。

 父さんが動かした金。

 承認されなかった送金。

 そして、1億円の内訳。

 すべてが、少しずつつながり始めている。

 だが、最後の1行を見た瞬間、俺は動けなくなった。

『誰かを守るためだったとしても、許されるとは限りません。』

 俺は画面を見つめた。

 誰かを守るため。

 その言葉が、なぜか胸に刺さった。

 父さんは、誰を守ろうとしたんだ?

 そして、そのために何をした?

 DAY7。

 第1回投票まで、あと23日。

 俺はまだ、父さんの真実を知らない。

 けれど、真実を知ったとき、俺が何を思うのか。

 それだけは、少し怖かった。

第1章 第12話 完

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


この作品では、物語の中に少しずつ「主催者X」につながるヒントを散りばめています。


ぜひ皆さんの推理を聞かせてください!


**「Xはこの人だと思う!」**


**「このセリフが怪しい!」**


**「この行動、もしかして伏線?」**


**「この人物は逆にXではなさそう」**


など、どんな予想・考察でも大歓迎です。


もちろん、物語そのものについての感想や「このキャラが好き!」といったコメントも、とても嬉しいです。


皆さんが現時点で**誰をXだと予想しているのか**、ぜひ感想欄で教えてください。


そして「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、評価やレビューで応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!


果たして――


**13人の中に潜む主催者Xは誰なのか?**


あなたの推理、お待ちしています!


毎日19時10分と20時10分更新予定です!!


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