↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らの一億円ゲーム〜この中に、主催者Xがいる〜  作者: こよみん
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/60

第1章 第10話「消えた金の内訳」

挿絵(By みてみん)


『1億円は、最初から1つの行き先へ消えたわけではありません。』

 昨夜届いた非公開メッセージ。

 俺はその文章を、朝になっても忘れられずにいた。

 12年前、青風未来基金から消えた1億円。

 父さんは、その資金移動に関わっていた。

 けれど、新聞記事には、どこへいくら移動したのか書かれていなかった。

 俺はずっと、1億円という金額だけを見ていた。

 父さんが1億円を盗んだのか。

 盗んでいないのか。

 その2つしか考えてこなかった。

 だが、もし資金の行き先が複数あったのなら。

 事件そのものを、最初から調べ直す必要がある。

     ◇

 DAY5。

 午前8時。

 食堂で朝食を取っていると、レンが俺の向かいに座った。

レン:「おはよう。今日も資料閲覧室?」

ユウキ:「ああ。昨日の続きが気になってる」

レン:「俺も行こうかな。古い新聞って、意外と面白かったし」

ユウキ:「昨日、何読んでたんだ?」

レン:「昔の地域イベントの記事。屋台の焼きそばが300円だった」

ユウキ:「事件じゃなくて物価を調べてたのかよ」

レン:「今の島の焼きそば、1,200円だぞ。4倍だぞ!」

 レンは真剣な顔で訴えた。

 確かに、そちらも事件かもしれない。

 ただし、今の俺にはもっと調べたいことがある。

 そこへシオンとリナがやってきた。

シオン:「ユウキ、昨日の記事を整理してみたんだけど、少し気になることがある」

ユウキ:「何?」

シオン:「報道で使われている言葉が、記事によって違うんだ」

 シオンは端末を見せた。

『使途不明』

『資金移動』

『不正流用の疑い』

 似ているようで、意味は違う。

リナ:「それに、1億円が一度に動いたとは、どの記事にも書かれていないんだよね」

 俺は顔を上げた。

ユウキ:「……やっぱり、そうなのか」

シオン:「何か知ってる?」

 昨夜のメッセージを思い出す。

 今まで、俺だけに届いた情報を隠していた。

 だが、これ以上1人で抱え込んでも、調べられることには限界がある。

ユウキ:「実は、昨日の夜にこんなメッセージが届いた」

 俺は端末を見せた。

 シオンとリナが文章を読む。

 レンも横からのぞき込んだ。

レン:「……1億円が、1つの行き先じゃない?」

リナ:「記事の内容とは矛盾しないね」

シオン:「ただ、このメッセージ自体が事実かどうかは確認できていない」

ユウキ:「分かってる。だから調べたいんだ」

 シオンは頷いた。

シオン:「じゃあ今日は、金額の内訳を探そう」

     ◇

 午前9時。

 資料閲覧室には、昨日より多くの参加者が集まっていた。

 ヒナは古い写真資料。

 ソウタは基金の公開記録。

 ハルカとセナは、施設の運営に関する記事を調べている。

 カイトは書架の前で、分厚い資料を手に取っていた。

カイト:「これ、全部読むのか?」

ソウタ:「必要な部分を探せばいい」

カイト:「その必要な部分が分からねえんだよ」

レン:「分かる。俺も昨日、焼きそばの記事にたどり着くまで大変だった」

ソウタ:「お前は目的からして違う」

 俺たちは笑いながら、それぞれの端末へ向かった。

 俺は青風未来基金の記録を検索した。

 昨日は新聞記事を中心に調べた。

 今日は、公開されている会計資料や事業報告書を探す。

 検索結果は12件。

 だが、開ける資料は半分ほどだった。

 残りには、灰色の鍵のマークがついている。

『閲覧制限中』

 俺は1つを選択した。

『本資料は、現在の公開範囲に含まれていません』

ユウキ:「……やっぱり、全部は見せてくれないか」

 隣でリナが頷く。

リナ:「公開されている資料だけで、どこまで分かるかだね」

     ◇

 午前10時15分。

 ソウタが俺たちを呼んだ。

ソウタ:「少し来てくれ」

 彼の端末には、12年前の青風未来基金の事業報告書が表示されていた。

ソウタ:「資金の移動先そのものは書かれていない。でも、支出の分類がある」

 画面には、複数の項目が並んでいた。

 施設運営費。

 教育支援費。

 生活環境整備費。

 外部支援事業費。

 俺は最後の項目に目を止めた。

ユウキ:「外部支援事業費?」

ソウタ:「ほかの団体と連携する事業に使う費用だと思われる。ただし、この資料には個別の送金先が載っていない」

シオン:「金額は?」

ソウタ:「この年度の予算額は確認できる。でも、事件で問題になった1億円との対応関係は分からない」

 俺は小さく息を吐いた。

 何か見つかったと思ったのに。

 ソウタは画面を閉じずに続けた。

ソウタ:「ただ、1億円を単純に現金の盗難として扱うのは危険だと分かった。少なくとも、基金には複数の支出経路があった」

リナ:「うん。資金移動の記録があれば、もっと具体的に調べられる」

 シオンがノートに書き込む。

シオン:「次は、送金記録か」

 俺は頷いた。

 まだ答えには届かない。

 でも、昨日よりは少しだけ近づいている。

     ◇

 昼休み。

 資料閲覧室を出ると、廊下でナナと会った。

 彼女は小さな紙袋を持っていた。

ナナ:「ユウキくん。今日も調べてるの?」

ユウキ:「うん。父さんの事件について」

 ナナの表情が、わずかに変わった。

ナナ:「……そっか」

ユウキ:「ナナは、青風こども生活支援センターって知ってる?」

 聞いた瞬間、彼女の手が止まった。

 紙袋の持ち手が、小さく揺れる。

ナナ:「……名前は、聞いたことがあるよ」

ユウキ:「そうなんだ」

 俺はそれ以上、すぐには聞かなかった。

 ナナは少し迷ったあと、口を開く。

ナナ:「でも、今はまだ、うまく話せない」

ユウキ:「分かった」

ナナ:「ごめんね」

ユウキ:「謝らなくていいよ」

 彼女は小さく頷いた。

 そのまま立ち去ろうとして、ふと振り返る。

ナナ:「……ユウキくん」

ユウキ:「何?」

ナナ:「新聞に書いてあることだけで、全部決めないでね」

 俺は息をのんだ。

 昨日、レイも似たようなことを言っていた。

 記事に書かれていることと、実際に起きたことは必ずしも同じではない。

 ナナも、何か知っているのだろうか。

 だが、彼女はそれ以上話さなかった。

     ◇

 午後1時。

 俺は資料閲覧室へ戻った。

 今度は、基金の関係者について調べる。

 施設長・早川恵子。

 会計担当・神崎直人。

 そして、基金の理事たち。

 公開されている古い役員名簿を開くと、複数の名前が並んでいた。

 その中に、昨日まで見落としていた役職があった。

『財務担当役員』

 俺は画面を見つめた。

 父さんは会計担当者だった。

 だが、基金の資金を管理する責任者が、父さん1人だったとは限らない。

 財務担当役員。

 理事会。

 会計職員。

 それぞれ、どこまで資金の移動に関わっていたのだろう。

 俺はシオンを呼んだ。

ユウキ:「これ、見てくれ」

 シオンが名簿を確認する。

シオン:「基金の組織図だね」

ユウキ:「父さん以外にも、金の管理に関わる人がいたんじゃないか?」

シオン:「その可能性はある。ただ、役職だけでは実際の権限は分からない」

 リナも画面をのぞき込む。

リナ:「送金の承認が誰に必要だったのか、そこが重要だと思う」

 俺は頷いた。

 父さんが金を動かした。

 それが事実だとしても、1人でできたことなのか。

 誰かの承認が必要だったのか。

 あるいは、承認を得ずに動かしたのか。

 調べるべきことが、また増えた。

     ◇

 午後3時。

 ヒナが俺のところへやってきた。

ヒナ:「ユウキくん、ちょっといい?」

ユウキ:「何か見つかった?」

ヒナ:「昨日の古い写真なんだけど、別の資料にも載ってたの」

 ヒナが見せてくれたのは、青風こども生活支援センターの地域交流イベントの記録だった。

 昨日、レンが見つけた新聞写真。

 俺らしき男の子と、青い飾りをつけた女の子が手をつないでいる写真だ。

 だが、今回の資料は新聞よりも大きく掲載されていた。

 写真の折り目もない。

 俺は思わず画面に顔を近づけた。

 男の子の顔が見える。

 間違いない。

 8歳の俺だ。

 そして、その隣の女の子。

 長い髪。

 白い服。

 青いビーズの飾り。

 俺は息を止めた。

 女の子は、こちらを向いて笑っていた。

 だが、12年前の写真だ。

 今の顔と簡単に結びつけることはできない。

ヒナ:「この子、知ってる?」

ユウキ:「……覚えてない」

 そう答えた瞬間、胸の奥が痛んだ。

 手をつないでいる。

 あんなに楽しそうに笑っている。

 それなのに、名前すら思い出せない。

 ヒナは写真を見つめた。

ヒナ:「この飾り、昨日のバッグについてたのと似てるね」

ユウキ:「うん。でも、同じものかは分からない」

ヒナ:「そうだね」

 ヒナは頷いた。

 俺たちは、写真を保存した。

     ◇

 夕方。

 資料閲覧室を出ると、レイが廊下のベンチに座っていた。

レイ:「今日も何か見つかった?」

ユウキ:「少しだけ。父さん以外にも、基金の資金管理に関わる人がいたみたいだ」

レイ:「そう」

 レイは静かに頷いた。

 俺は思い切って尋ねた。

ユウキ:「レイは、12年前の事件について何か知ってるんじゃないか?」

 彼はすぐには答えなかった。

 窓の外へ視線を向ける。

レイ:「知っていることはあるよ」

 心臓が跳ねた。

ユウキ:「何を?」

レイ:「でも、今の君が知りたいことに答えられるかは分からない」

ユウキ:「それでも聞きたい」

 レイは俺を見た。

レイ:「……じゃあ、1つだけ」

 俺は息をのんだ。

レイ:「君のお父さんが関わった事件を、1人の人間だけの問題だと考えないほうがいい」

 俺は言葉を失った。

 それは、今日調べていたことと重なる。

 父さん以外にも、資金管理に関わる人間がいた。

 レイは、それを知っていたのか?

ユウキ:「どうして、そう思うんだ?」

レイ:「今は、そこまで話せない」

 レイは立ち上がった。

レイ:「でも、調べ続ければ分かると思う」

 そう言って、廊下の向こうへ歩いていった。

 俺はその背中を見送った。

 レイは何を知っている?

 そして、なぜ今は話せない?

     ◇

 夜。

 自室に戻った俺は、今日の記録を整理した。

『基金には複数の支出経路があった』

『父さん以外にも、資金管理に関わる役職があった』

『ナナとレイは、事件について何か知っている可能性がある』

『8歳の俺と、青い飾りをつけた女の子の写真を確認』

 最後に、昨夜のメッセージを書き加える。

『1億円は、最初から1つの行き先へ消えたわけではない』

 俺はペンを置いた。

 まだ、具体的な金額は分からない。

 でも、1億円という数字だけを見ていた昨日までとは違う。

 父さんが何をしたのか。

 ほかの人間が何をしたのか。

 分けて考える必要がある。

 そのとき、端末が震えた。

『STORE Xよりお知らせ』

 新しい情報商品が追加された。

『INFO-005:青風未来基金の資金移動について』

 俺は画面を開いた。

『本商品では、12年前の資金移動に関する確認済みの情報を1件開示します』

 価格は、70,000円。

ユウキ:「……また高いな」

 思わず声が出た。

 だが、今回は迷いが少なかった。

 俺が知りたいことに、直接関係している。

 ただし、1人で買うには高すぎる。

 明日、みんなに相談しよう。

 そう考えた直後、端末に新しい通知が届いた。

『INFO-005が購入されました』

 俺は目を見開いた。

 誰かが、もう買った。

 そして、数秒後。

『購入者より、参加者全員への情報共有が申請されました』

 俺は確認ボタンを押した。

 画面に、白い文字が表示される。

『INFO-005:青風未来基金の資金移動について』

『12年前、問題となった1億円の資金移動は、単一の取引ではありません。』

 俺は息をのんだ。

 昨夜のメッセージと一致している。

 1億円は、1つの行き先へ消えたわけではない。

 だが、具体的な内訳は書かれていなかった。

 情報は、ここまで。

 俺は思わず天井を見上げた。

ユウキ:「……70,000円で、そこまでかよ」

 俺が払ったわけではない。

 それでも、購入者の財布が心配になった。

 すると、最後に購入者からのメッセージが表示された。

『1億円を、1億円のまま考えないでください。』

 俺は画面を見つめた。

 誰が買ったのか。

 なぜ、全員に共有したのか。

 そして、なぜこの事件について、そこまで知りたがっているのか。

 分からない。

 ただ、1つだけ確かなことがある。

 この島には、俺と同じように12年前の事件を調べている人物がいる。

 しかも、その人物は70,000円を払ってまで、全員に情報を届けた。

 DAY5。

 第1回投票まで、あと25日。

 1億円の謎は、まだ解けない。

 だが、俺たちはようやく、その金が1つの塊ではなかったことを知った。

第1章 第10話 完

第1章 第1話〜第10話 あらすじ・重要事項

【これまでのあらすじ】

無職の20歳・神崎ユウキのもとに届いた、謎の招待状。孤島に集められた男女13人は、365日間の共同生活を送りながら、参加者に紛れた「主催者X」を見つけるゲームに挑む。賞金は最大1億円。30日ごとの投票でXを特定しなければならない。

島では、差出人不明の黒い封筒や個別メッセージが届き始める。ユウキに告げられたのは、12年前、父が関与したとされる1億円の資金消失事件に関する言葉だった。

「あなたの父親は、1億円を盗んでいない。」

参加者たちは自己紹介を通じて少しずつ打ち解ける一方、全員が過去の一部を明かしていないことも判明する。やがて開放された資料閲覧室で、ユウキは父の事件と、幼い自分が写った写真を発見する。

【第10話までに判明した重要事項】

- ゲームのルール: 参加者は13人。主催者Xはその中に1人いる。第1回投票はDAY30。

- 黒い封筒: 13人のうち1人が島へ持ち込んだ。ただし、持ち込んだ人物と置いた人物が同じとは限らない。

- STORE X: 情報を有料で販売する。開示内容に虚偽はないが、知りたいことすべてを教えてくれるとは限らない。

- 12年前の事件: 青風未来基金の資金1億円が使途不明となり、ユウキの父・神崎直人が関与を疑われた。父は資金移動への関与を認める一方、私的に使った金はないと説明していた。

- 資金の謎: 1億円は単一の取引で消えたわけではない。具体的な内訳と行き先は未判明。

- 過去の写真: 8歳のユウキが、青いビーズの飾りをつけた女の子と手をつないでいた。女の子の正体は不明。

- 新たな手がかり: 施設長・早川恵子の名前が浮上。ナナとレイも事件について何か知っている様子を見せている。

父は何をしたのか。消えた1億円はどこへ向かったのか。そして、13人の中にいる主催者Xは誰なのか――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。