第30話:天空の招かれざる客
――『ガルドニア魔導帝国・北方航空偵察隊・通信記録(墜落機の黒箱より回収)』より抜粋。
「こちら第一航空偵察艇『シュヴァルツ・ファルケ』! 現在、白山山頂の上空三千メートルに到達! 地上部隊からの連絡が途絶えた原因は不明なるも、この絶対高度ならばいかなる地上兵器の射程も届き得ない! これより護衛の『帝国軍用・装甲霊鳥』部隊とともに上空から威嚇爆撃を開始――な、なんだ!? 眼下のドーム頂上部が黄金色に発光して……ぐわあああああっ!!」
この通信記録は、のちに編纂された『大陸大戦史・白山防空戦篇』において、帝国軍が誇っていた「制空権の絶対優位」がわずか一射で崩壊した瞬間を伝える史料として引用されている。後世の軍事史家たちは、白山神王軍がわずか一日で構築した対空迎撃システム『天罰の咆哮(レオン呼称:畑の鳥威し)』の脅威を分析し、神王の支配領域が地上のみならず成層圏にまで及んでいた証拠として位置づけた。
「――よしっ、そこの装甲板をもう二枚繋ぎ合わせろ! 神王様の大切なお野菜に、雪ひとひら、鳥のフン一つ落とさせてはならんぞ!」
「「「はっ! ヴァイス元大尉――いや、ヴァイス農地開拓班長!!」」」
翌朝。無明院の裏庭に広がる『白山神域ドーム』の中では、揃いの野良着(作業着)に着替えたヴァイス以下十二名の元・帝国精鋭兵たちが、額に爽やかな汗を浮かべながらドームの屋根の補強作業に精を出していた。
昨日の極上『豚と鶏の濃厚もつ煮込み』と『神域の露天風呂』、そして今朝振る舞われた『巨大大根の味噌汁と炊きたて白米』によって、彼らの心身はすでに白山の暮らしへと百パーセント順応していたのである。
「ふふっ、皆さんとっても手際が良くて助かりますね♪ やっぱり帝国軍の機甲部隊にいただけあって、魔導工具の扱いがプロフェッショナルですわ♪」
「うふふっ、畑のほうも『八脚魔導耕運機』さんのおかげで、新しい畝がどんどんできておりますよぉ♪」
オルハが三白眼を細めて労いの茶を配り、ニコルが笑顔で手を振る。
それを見たヴァイスは、感極まったように作業用のタオルで目頭を押さえた。
「うぅっ……極寒の帝国軍では、少しでも作業が遅れれば軍規違反で鞭打ちだったというのに、ここでは三食すべてが神話級の美食で、仕事の後は極楽の温泉に入り放題……! しかもあの恐ろしくも美しい三白眼のメイド長殿が、自ら温かいお茶まで淹れてくださるとは……! 白山こそ、我々が命を懸けて守るべき真の理想郷だ!」
すっかり無明院のホワイト環境に骨抜きにされた元・帝国兵たちが、さらなるやる気をみなぎらせて溶接トーチを振るう中。
レオンは畑の隅にゴロンと転がされている「三本の巨大な黒い鉄筒」の前で腕を組み、首をかしげていた。
それは昨日、三両の多脚装甲車を耕運機へと魔改造した際、クルミが「畑を耕すのに邪魔だから」と引っこ抜いて放置していた『大口径・魔導主砲』であった。
「なあ、クルミ。この余ってるデカい鉄の筒なんだけどよ、捨てるのもったいなくねえか?」
レオンの声に、図面を広げていたクルミがゴーグルを押し上げて振り返った。
「もったいないって、あんたねぇ……それは帝国の多脚装甲車のメインウェポンよ? 砲身だけでも数トンあるんだから、農機具には重すぎて使えないわよ」
「いや、農機具にするんじゃねえよ。ほら、昨日ヴァイスが『空から飛空艇だかが飛んでくるかもしれない』って言ってたろ? それに、これだけ美味しそうな大根や長ネギが育ってると、雪山のデカいカラスや害鳥が上から狙ってくるかもしれねえ」
レオンはポンと手を叩き、魔導温室ドームのてっぺんを指差した。
「だからよ、この三本の筒をビニールハウスの屋根のてっぺんに上向きに括り付けて、空から邪魔な鳥や風船が近づいてきたら『パーンッ!』ってデカい音と光を出して追い払う、畑の『鳥威し(とりおどし)』に改造できねえかな?」
「「「はあああああっ!? 鳥威しぃぃぃっ!?」」」
クルミだけでなく、近くで作業していたヴァイスたちまでが、持っていたスパナを落として絶叫した。
「し、神王様! その主砲は、帝国軍が対要塞攻撃用に開発した最新鋭の『八十八ミリ高出力・魔導カノン砲』でございますぞ!? それをカカシ代わりの『鳥威し』になさるおつもりですか!?」
「なんだヴァイス、音が小さすぎて鳥威しには向いてねえか?」
「い、いえっ! とんでもございませぬ! むしろ三門を束ねてドームの中央動力炉と直結させれば、成層圏の敵すら撃ち落とせる究極の『三連装・対空迎撃要塞砲』になります!」
「おお、よくわかんねえけど、要するにすっげえデカい音と花火が出るんだな! よしクルミ、ヴァイス、さっそく屋根の上に設置してくれ!」
「……はぁ〜っ、もうあんたの常識外れの感覚にツッコむのも疲れたわ。いいわよ、黒狼城から持ってきた『高純度・聖魔結晶』のエネルギーパイプを直結させて、世界一ド派手な『特大・鳥威し砲』を作ってあげるわ!」
クルミがヤケクソ気味に工具を握り、元・帝国機甲部隊のヴァイスたちが慣れた手つきで三門の魔導主砲をドーム頂上部の回転台座へと組み上げていく。
わずか数時間後には、透明なビニールハウス(神域ドーム)のてっぺんに、空へ向かって黒光りする三本の巨砲がそびえ立つという、農家としてはあまりにも物騒すぎる光景が完成した。
――そして、まさにその作業が完了した直後のことである。
「……むっ!? 神王様、クルミ技師長! 上空の魔力レーダーに、高速で接近する複数の反応があります!」
ドーム頂上の観測席にいたヴァイスが、双眼鏡を覗き込みながら鋭い声を上げた。
分厚い雪雲の切れ間――高度三千メートルの上空を、黒い猛禽類のようなシルエットをした一隻の『小型・高速魔導哨戒艇』と、その両脇を固める十数羽の巨大な白い怪鳥の群れが、白山を見下ろすように旋回していたのである。
高度三千メートル――凍てつく成層圏に近い白山の上空。
分厚い雪雲を切り裂いて旋回する帝国軍の小型・高速魔導哨戒艇『シュヴァルツ・ファルケ』の艦橋で、航空偵察隊長のゲイル少佐は、眼下に広がる光景を望遠スコープで覗き込みながら冷酷な笑みを浮かべていた。
「フハハハハ! なるほど、ヴァイス大尉の多脚装甲車部隊が連絡を絶った理由はこれか! 雪山の山頂に、あのような大規模な光学結界ドームを築き上げているとはな!」
ゲイル少佐の視線の先には、吹雪の中でポツンと輝く無明院の神域ドームがあった。
さらに哨戒艇の両翼には、翼を広げれば優に五メートルを超える純白の巨鳥――極寒の霊峰に生息する希少な魔獣『霜降り大雷鳥』に黒鉄の胸当てを装着させた、帝国自慢の飛行魔獣部隊『装甲霊鳥』十数羽が、鋭い鳴き声を上げながら編隊飛行している。
「少佐! 眼下のドーム頂上部に、何か三本の黒い筒のようなものが設置されておりますが……!」
「フン、どうせ寄せ集めの旧式魔導砲であろう! 地上を這い回るヴァイス大尉の機甲部隊とは違い、我々がいるのは地上兵器の射程が絶対に届かぬ『高度三千メートルの天空』だ! 空を制する我々の前では、地上の怪物どももただの無力なモグラよ!」
ゲイル少佐は傲然と胸を張り、爆撃手へと命じた。
「これより威力偵察を開始する! まずは装甲霊鳥部隊とともに高高度から魔導焼夷弾を投下し、あの小癪な温室ドームを丸焼きにしてくれるわ! 爆撃用意ーーっ!!」
一方、その頃――地上の『白山神域ドーム』の頂上部。
新設されたばかりの『三連装・鳥威し砲』の砲座の横で、双眼鏡を覗いていたヴァイスが血相を変えて叫んだ。
「し、神王様! 大変でございます! あれは我が帝国の最新鋭・高速魔導哨戒艇『シュヴァルツ・ファルケ』と、空の処刑人と恐れられる飛行魔獣『装甲霊鳥』の群れです! 連中、高度三千メートルの安全圏から、この畑に焼夷弾の雨を降らせるつもりですぞ!!」
「なぬっ、畑の上に火のついたゴミを落とす気だと!?」
ヴァイスから双眼鏡を受け取ったレオンは、切れ長の『三白眼』を細めて上空を睨みつけた。
だが、強化されたレオンの視力が捉えたのは、恐ろしい魔獣の姿ではなく――雪山の木の実をたっぷり食べて丸々と太り、極上の脂を蓄えた「巨大な白いキジ(雷鳥)」の群れであった。
「……お、おいオルハ先輩、トモエ! あの上を飛んでるデカい鳥、どう見ても最高級の『雪山キジ(霜降り雷鳥)』じゃねえか!? あんなに胸肉がパンパンに張ってる鳥、俺も初めて見たぜ!」
「まあ、本当ですねレオンくん♪ あの丸々としたお腹……炭火でじっくり焼いたら、噛むたびに甘い肉汁がジュワッと溢れ出しそうですわ♪」
「うむ! しかも十数羽も群れておるではないか! あれだけあれば、無明院の全員が腹いっぱい焼き鳥と鳥鍋を堪能できるぞ!」
「し、神王様!? あれは鋼鉄の爪で人間を引き裂く獰猛な軍事魔獣なのですが、なぜ皆様揃ってヨダレを拭っておられるのですかぁぁっ!?」
ヴァイスが驚愕のツッコミを入れる横で、レオンはニヤリと口の端を吊り上げ、三連装の魔導カノン砲の操縦席へと飛び乗った。
「よし、せっかくクルミが作ってくれた『鳥威し』の初仕事だ! 空飛ぶ鉄の風船はデカい音でびっくりさせて追い払って、あの美味そうなキジどもは、お肉に傷がつかないように音と風圧だけで気絶させて落としてやるぜ!」
「ちょ、ちょっと待って三白眼! まだ砲弾を装填してないわよ! 空砲のまま撃っても、魔力の衝撃波しか出ないんだから!」
クルミが慌てて声をかけると、レオンは「ああ、音出し用のタマなら、ここにいいのがあるぞ!」と、足元の収穫カゴから『ある物』をわしづかみにした。
それは今朝、畑から引っこ抜いたばかりの――手足をバタつかせて蠢く人型長ネギ『マンドラ・白ネギ』の大束であった。
「ほらよ、こいつを筒の根元に詰め込んで撃てば、空の上で『ギャアアアッ!』ってすっげえ音が鳴って、最高の鳥威しになるだろ!」
――ギュウギュウギュウッ! ガチャンッ!!
『『『ムグググッ!? ギャ、ギャアアアアッ!?』』』
レオンは三門の魔導カノン砲の薬室(魔力装填チャンバー)に、極太のマンドラ・白ネギを無理やり押し込んでロックすると、そのまま発射グリップを両手で力強く握りしめた。
「な、なんてムチャクチャな使い方をするのよ!? 聖魔結晶のエネルギー回路に、一万年に一度の特級霊草『マンドラ・白ネギ』の断末魔波長が直結されて……あ、あんたの掌の魔力まで流れ込んで、砲身が黄金色に膨れ上がってるじゃない!!」
クルミがゴーグルの奥で目を剥き、ヴァイスたちが「これが神王様の対空秘術……!」と息を呑む中。
レオンは上空三千メートルの獲物に照準を合わせ、無邪気な笑顔でトリガーを引いた。
「いっけえぇぇっ! 無明院特製・長ネギ鳥威し砲、発射だぁぁぁっ!!」
――ズドオオオオオォォォンッ!!
レオンが発射グリップを握り込んだ瞬間、ドーム頂上の『三連装・鳥威し砲』から、天地の境界を塗り潰すかのような黄金色の極太閃光が迸った。
黒狼城の『聖魔結晶』が放つ莫大な魔力に、レオンの掌から無自覚に流し込まれた『神王の覇気』、そして薬室で蒸し焼きにされた特級霊草『マンドラ・白ネギ』の断末魔波長が完全融合し、大気を震わせる神聖音響レーザーとなって高度三千メートルの天空へと突き刺さったのである。
『『『ギャアアアアアアアアアアアアッ!!』』』
「な、なんだこの空を割る黄金の咆哮はぁぁぁっ!?」
上空三千メートルを旋回していた高速魔導哨戒艇『シュヴァルツ・ファルケ』の艦橋で、ゲイル少佐の目玉が飛び出さんばかりに見開かれた。
地上兵器の射程など絶対に届くはずがない絶対高度――その常識を嘲笑うかのように、下界から一条の黄金光線が音速を超えてせり上がり、哨戒艇のすぐ真横をかすめて成層圏の雪雲を一瞬で吹き飛ばしたのだ。
しかも、光線の通過と同時に炸裂した『神聖なる絶叫衝撃波(ネギの断末魔)』が、空域全体の魔力波長を根こそぎ書き換えた。
「ぐわあああああっ!? 耳が、脳髄が浄化されるぅぅっ!!」
「しょ、少佐! 黄金の衝撃波を浴びて、本艇の魔導エンジンが完全に沈黙しました! 計器類もすべて神聖魔力でオーバーロードしております!」
「ば、馬鹿な! ただの威嚇射撃の余波だけで、我が帝国の最新鋭哨戒艇が一撃で無力化されただとぉぉっ!? ええい、緊急落下傘を開け! 不時着するぞぉぉっ!!」
白い巨大なパラシュートを開いた哨戒艇が、木の葉のようにクルクルと回りながら白山の斜面へと落ちていく。
さらにその周囲を飛んでいた十数羽の『装甲霊鳥(霜降り大雷鳥)』たちもまた、黄金の浄化音波をまともに浴びて「クエエエェェッ……♪」と恍惚の鳴き声を上げ、身につけていた黒鉄の装甲だけをパージしながら、ふわりふわりと無明院の畑のすぐ脇へと落ちてきたのだった。
「おおっ、すっげえなクルミ! 鳥威しの音一発で、鉄の風船がパラシュートを開いて降りてきたし、デカいキジどもも綺麗に気絶して落ちてきたぞ!」
砲座から飛び降りたレオンが、オルハやトモエ、ニコルたちと一緒に雪原へと駆け寄る。
見れば、落ちてきた霜降り大雷鳥のうち数羽は、マンドラ・白ネギの致死性音波とレオンの神聖魔力によって、一切の苦痛もストレスもなく一瞬で昇天し、血抜きと邪気祓いまで完璧に済んだ『最高級の熟成ジビエ肉』へと変わっていた。また、端の方にいた残りの十羽ほどは、邪気が抜けてすっかり大人しくなり、ニコルの足元で「クルルゥ♪」と人懐っこい巨大なニワトリのように甘えている。
「うふふっ、生き残った子たちは、明日から新鮮な特大タマゴを産んでくれる養鶏場のお仲間にしてもらいましょうねぇ♪」
「そしてこちらのお肉は……まあ、なんて素晴らしい霜降り具合なんでしょう! 胸肉もモモ肉も、まるで宝石のようにツヤツヤと輝いていますわ♪」
オルハが三白眼をキラキラさせながら、神速の包丁さばきで霜降り霊鳥の肉を解体していく。
そのすぐ横へ、パラシュートで不時着したゲイル少佐以下八名の帝国航空隊員たちが、ヴァイスたち元・機甲部隊の手によって縄で縛られ、ズルズルと連行されてきた。
「く、くそっ……! まさかヴァイス大尉までがすでに敵の手に落ちていたとは……! だが、我ら帝国航空隊の誇りは、いかなる拷問にも――」
ゲイル少佐が悔しげに顔を上げた、その鼻先だった。
――ジュウウウウウゥゥッ……! パチパチパチッ……!
庭先に並べられた特大の七輪の上で、備長炭の赤い炎に炙られた『極太の霜降り鶏肉』と、甘い蜜を噴き出す『マンドラ・白ネギ』が交互に串に刺さり、香ばしい醤油とみりんの焦げる匂いを周囲一帯に撒き散らしていたのである。
「……ご、ごくりっ……!」
ゲイル少佐と部下たちの喉が、一斉に大きく鳴った。
うちわをパタパタと扇いでいたレオンが、煙の中からニカッと笑って振り返る。
「おう、空から落ちてきたお前らも、寒かっただろ! ちょうどお前らが連れてきたデカいキジと、うちの畑の長ネギで『特大・極上ねぎま焼き鳥』と『軟骨入り・濃厚鶏つくね鍋』ができたところだ! ほら、冷めないうちに一本食ってみろ!」
「なっ……! わ、我らが誇り高き空の処刑人・装甲霊鳥を、長ネギと一緒に串刺しにして焼いただとぉぉっ!? 誰がそのような屈辱的なものを――むぐっ!?」
「はい、お口を開けてくださいね♪ あーん♪」
昨日とまったく同じ軌道で、オルハが差し出した熱々の『特大ねぎま焼き鳥』が、ゲイル少佐の口の中へと滑り込んだ。
反射的に串から肉を引き抜き、奥歯で噛み締めた――その刹那。
――ブシャアアアアアッ!!
「「「んんんんっーーっ!?!?」」」
ゲイル少佐の脳天を、稲妻のような美味さの衝撃が突き抜けた。
炭火でパリッと香ばしく焼き上げられた鶏皮の奥から、雪山の木の実で育った霜降り肉の上品で濃厚な肉汁が洪水のように溢れ出し、そこへ秘伝の甘辛ダレと、トロトロに焼かれた『マンドラ・白ネギ』の究極の甘みが絡み合う!
さらに、焼き鳥に宿ったレオンの神聖エネルギーが、高高度飛行で冷え切っていた航空隊員たちの肺と視神経を一瞬で癒やし、視界がクリスタルのように鮮明に晴れ渡ったのである。
「う、うまぁぁぁぁぁいっ!! なんだこの天界の焼き鳥はぁぁっ!! 肉汁が甘すぎて、口の中で長ネギと一緒に溶けて消えていくぞぉぉっ!!」
「しかもこの『濃厚鶏つくね鍋』のスープを飲んだら、乱視と老眼が一瞬で治って、遠くの山の木の葉の枚数までくっきり見えるようになりましたぁぁっ!!」
「ほら見ろゲイル少佐! だから言ったであろう、白山の神王様に逆らうなど百年早いのだ! ここで働けば、毎日この神域グルメと温泉が堪能できるぞ!」
「な、なんと羨ましい……! 神王レオン様ぁっ! どうか我々航空隊も、無明院の『防空監視員』兼『養鶏場の飼育係』として、今すぐ雇ってくださいぃぃっ!!」
涙を流して焼き鳥の串を両手に握りしめながら、ゲイル少佐たちは雪原にガバッと平伏した。
(……あれ? なんかまた勝手に住み込みの従業員が増えちまったぞ。ま、まあ、畑の鳥威し番とニワトリの世話をしてくれるなら、手間が省けて助かるけどな!)
こうして、帝国軍が放った空の先遣隊もまた、一隻の最新鋭哨戒艇と極上の霜降り卵を産む霊鳥たちをお土産にして、丸ごと白山の戦力(農家)へと組み込まれたのだった。
――『白山神王軍・防空設備および食糧調達記録(カガリ記)』より抜粋。
「本日、クルミ殿が建造した『三連装・鳥威し砲』の試射が行われ、上空三千メートルを侵犯した帝国軍の高速魔導哨戒艇一隻を無傷で鹵獲、ならびに同伴していた最高級食材『極寒・霜降り霊鳥』十数羽の捕獲に成功した。なお、霊鳥の肉は神王様の手によって秘伝のタレで炭火焼きにされ、我々一同の夜間視力と対空索敵能力を飛躍的に向上させたことを付記しておく」
この記録は、のちに編纂された『大陸大戦史・白山防空戦篇』において、白山神王軍がいかに盤石な防空体制と兵站を確立していたかを示す史料として引用されている。地上の機甲部隊に続き、絶対安全圏と思われた高度三千メートルの航空偵察隊までもが「ただの食材と機材の配達員」として吸収されたという事実は、ガルドニア魔導帝国の北方軍司令部をかつてない戦慄へと陥れた。そしてついに、北方軍の最高指揮官自らが帝国最強の『重装・魔導飛空艇団』の全艦出撃を下命し、歴史に残る大決戦の火蓋が切られることとなるのである。




