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辺境の暗殺者はハッタリで生き抜きたい〜「神王の遺骸」なんて無いのに三大勢力が攻めてきた。えっ、俺の血が最強の聖遺物!?〜  作者: ユーディ


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第28話:機甲部隊の初体験

――『ガルドニア魔導帝国・第零特務偵察隊・作戦行動記録』より抜粋。


「黒狼城を落とした謎の武装勢力を調査するため、我が精鋭機甲部隊は最新鋭の『多脚型・雪上魔導装甲車』三両を駆り、極寒の白山へと侵入した。氷点下三十度の猛吹雪の中、いかなる生命も存在し得ないはずの山頂付近にて、我々は信じがたい光景を目撃した。雪山のど真ん中に、突如として『緑豊かな常春の楽園』が出現したのである――」


この記録は、のちに編纂された『大陸大戦史・北方戦線篇』において、ガルドニア魔導帝国軍と白山神王軍の最初の接触(ファースト・コンタクト)を記した貴重な史料である。後世の軍事史家たちは、帝国が誇る最新鋭の雪上機甲部隊が、戦闘開始からわずか数分で「農作業の邪魔」として無力化されたこの事件を『白山・大根抜きの悲劇』と呼び、神王軍の異常なまでの領域支配力と、常識外れの迎撃手段を示す好例として引用した。

翌朝――。

昨夜は伝説の神酒『天叢雲・百年氷吟』を酌み交わし、大広間がひっくり返るほどの大騒ぎを演じた一行であったが、驚くべきことに二日酔いで頭を抱える者は一人もいなかった。


それどころか、神酒の浄化作用と『寒イワナ』『霜降り角煮』の膨大な生命エネルギーが完全に定着したことで、ヒロインたちは全員、朝から肌が発光するほどツヤツヤに輝き、身体から黄金色の魔力オーラを湯気のように立ち昇らせていたのである。


「ふぁ〜あ、よく寝た! あれだけ飲んだのに、頭がスッキリして身体が羽みたいに軽いぞ。さて、クルミが作ってくれたビニールハウス(魔導温室)の畑の様子でも見に行くか!」


腕を伸ばしながら裏庭へと出たレオンの後を、オルハ、ニコル、トモエ、そして興味津々のルナたちがぞろぞろとついてきた。

だが、温室ドームの畑へと足を踏み入れた瞬間、レオンは目をパチクリとさせて立ち止まった。


「……お、おいニコル。なんかうちの畑、一晩でジャングルみたいになってねえか!?」

「うふふっ、本当ですねぇ♪ 昨日植えたばかりの冬野菜さんたちが、聖魔結晶のポカポカ陽気とレオン様のジョウロのお水を吸って、とっても元気に育っておりますよ♪」


ニコルが笑顔で指差した畝(うね)には、人間の胴体ほどもある極太の純白大根が、地面から半分ほどせり出すようにしてズラリと並んでいた。

さらに、その隣の区画では、青々とした立派な葉を茂らせた『長ネギ』の群生が、なぜか風もないのに「モゾモゾ……」と小刻みに揺れている。


「大根のデカさも異常だけど、こっちの長ネギも妙に太いな。よし、まずはネギから引っこ抜いてみるか――よっと!」


レオンが太い長ネギの根元を掴み、グイッと力任せに地面から引き抜いた、その瞬間だった。


――スポォンッ!!

『『『ギャアアアアアアアアアッ!!』』』


「「「うわあああああっ!?」」」


抜かれた長ネギの白い根っこ部分が、まるで二本足と二本腕を生やしたマッチョな小人のような『人型』になっており、葉っぱの隙間にある裂け目から、鼓膜が破れそうなほどの断末魔の奇声を張り上げたのである。


「な、なんだこの長ネギはぁぁっ!? 手足が生えてる上に、抜いた瞬間にめちゃくちゃ悲鳴を上げてビチビチ暴れてるぞぉぉっ!?」


レオンがギョッとして人型長ネギを掴んだまま硬直する横で、駆けつけてきたクルミがゴーグルをずらして目を剥いた。


「ちょ、ちょっと待って三白眼!! それ、ただの長ネギじゃないわよ! 一万年に一度、高濃度の神聖魔力が溜まった霊脈にだけ自然発生すると言われる幻の霊草『マンドラ・白ネギ』じゃない!? 普通は抜いた瞬間の絶叫(デス・スクリーム)を聞いただけで人間が気絶する特級危険植物なのに、なんであんた平気な顔して首根っこ掴んでるのよ!?」


「えっ、ただのうるさい長ネギじゃないのか? でもほら、折れた葉っぱのところから、すっごく甘くていいネギの匂いがするぜ?」


レオンがくんくんと匂いを嗅いでから、暴れる人型長ネギの頭を「よしよし、静かにしろ」と軽くペチッと撫でると、レオンの指先の魔力に当てられたマンドラ・白ネギは「キュウウ……」と大人しくなり、極上のツヤを放つ美味しそうな太ネギへと落ち着いた。


「ふむ……こんなにトロッとした甘い蜜が出ているネギなら、刻んで薬味にするだけじゃもったいないな。そうだ! 昨日黒狼城から持ってきた豚と鶏の新鮮なモツ(内臓)があるから、このデカい大根と一緒に大鍋でグツグツ煮込んで、特製『豚と鶏の濃厚もつ煮込み』の香味野菜と調味料に使おうぜ!」


「まあ、もつ煮込みですか! レオンくんが作るもつ煮は、臭みがまったくなくて生姜とネギの風味が最高なんですよね♪ 私、たくさん抜くのを手伝いますよ!」


オルハが三白眼をキラキラさせながら、神速の暗殺歩法で畑へと滑り込み、次々と人型長ネギを引っこ抜いていく。


――スポスポスポォンッ!!

『『『ギャアアアッ! アベシッ! ヒデブッ!!』』』


「たぁぁぁっ! ならば私も負けられぬ! この巨大大根ども、一刀両断で収穫してくれるわ!」

「うふふっ、皆さん、もつ煮込みの具材になるために、大人しく抜かれてくださいねぇ♪」


トモエとニコルも加わり、断末魔の奇声がこだまする世にも奇妙で賑やかな「マンドラ・白ネギ&巨大大根の収穫祭」が繰り広げられていく。


――だが、その時だった。


――ゴチンッ!! ガガガガガッ!!


畑のすぐ外側、透明な『白山神域ドーム』の境界線に、吹雪の向こうから何かが激しく衝突し、鈍い金属音を響かせたのである。


数分前――白山の山頂へと続く猛吹雪の雪原。


氷点下三十度の凍てつく暴風雪を切り裂きながら、三両の異様な鋼鉄車両が斜面を這い上がっていた。

八本の機械脚を蜘蛛(クモ)のように蠢かせ、黒鉄の重装甲に大口径の魔導砲を搭載したガルドニア魔導帝国の最新鋭兵器――『多脚型・雪上魔導装甲車(タランチュラ)』である。


「フン、黒狼城を一夜で落とした謎の武装勢力とやらも、所詮は辺境に巣食う野盗の群れよ。我がガルドニア魔導帝国・第零特務偵察隊の機甲戦力の前に、ひとたまりもないわ!」


先頭を行く隊長機のコックピットで、冷徹な目つきをした帝国軍のエリート魔導士官・ヴァイス大尉が、スコープを覗き込みながら鼻で笑った。


「大尉! 前方に目標である古寺『無明院』の座標を確認! ……ですが、何かがおかしいです! 魔力探知機が振り切れて、前方の空間データが完全にバグを起こしております!」

「なに、計器の故障か? ええい、構わん! そのまま最大戦速で突っ込み、寺の門ごと踏み潰せぇぇっ!!」


ヴァイス大尉の号令とともに、三両の多脚装甲車が魔導エンジンを唸らせて猛突進を開始した。

――だが、その直後だった。


――ゴチンッ!! ガガガガガッ!!


何もないはずの空間――無明院の敷地を覆う不可視の『白山神域ドーム』の外壁に、先頭の隊長機がフルスピードで顔面から激突したのである。


「ぐわあああっ!? な、なんだ、見えない壁に阻まれたぞ!? しかも……おい、あれを見ろ!!」


衝撃で揺れる光学迷彩の膜の向こう側。

吹雪が吹き荒れる極寒の雪山のど真ん中だというのに、そこには青々とした野菜畑が広がり、暖かそうな春の陽射しの中で――人の胴体ほどもある巨大な大根と、手足をバタつかせて『ギャアアアッ!』と断末魔の奇声を上げる人型長ネギを次々と引っこ抜いている謎の集団の姿があったのだ。


「な、なんだあの光景はぁぁっ!? なぜ真冬の白山に緑の畑がある!? そしてあの連中が素手で引き抜いているのは、一万年に一度しか現れない特級危険植物『マンドラ・白ネギ』ではないか! なぜあの致死性の絶叫を浴びて平然と笑っていられるのだぁぁっ!?」


帝国軍の兵士たちがコックピットの中で目を剥いてパニックに陥る一方。

ドームの内側――畑の真ん中では、レオンが抜いたばかりのマンドラ・白ネギを片手にぶら下げたまま、ドームの外壁に張り付いている黒い八本脚の鉄塊を目を細めて眺めていた。


「……お、おいニコル、オルハ先輩。なんかビニールハウス(魔導温室)の網戸の外側に、すっげえデカい真っ黒なカブトムシ(害虫)が三匹もぶつかって張り付いてるぞ!」


吹雪と光学迷彩の屈折のせいで、多脚装甲車のシルエットが「巨大な甲虫」に見えたレオンは、純粋な農家としての危機感を募らせた。


「せっかく豚と鶏の濃厚もつ煮込み用に育てた美味しい大根と長ネギを、あんなデカい害虫に食い荒らされたらたまらねえ! それに、ハウスに穴でも開けられたら寒い隙間風が入ってくるじゃねえか!」


「まあ、本当ですねレオンくん! こんな立派なお野菜を狙うなんて、とっても食いしん坊で悪い虫さんですこと♪」


オルハが漆黒のロングメイド服の裾を翻し、切れ長の『三白眼』をギラリと光らせながら一歩前へと進み出た。

その隣では、ニコルが愛用の大鍬(おおぐわ)を肩に担ぎ、トモエが身の丈を超す大剣の柄に手をかけている。


「うふふっ、畑の害虫さんは、早めに駆除してそのまま土の栄養(肥料)になっていただくのが一番ですねぇ♪」

「うむ! 神王様が丹精込めて育てられた大根を守るため、あの鉄蟲(てっちゅう)どもを真っ二つにしてくれるわ!」


「よし、ハウスが傷つかないように、外へ追い払うだけでいいからな! 俺もこのうるさいネギと大根で威嚇してやるぜ!」


こうして、帝国軍が誇る最新鋭の機甲偵察部隊に対する、無明院一同の容赦なき「冬の害虫駆除」が幕を開けたのだった。


「――当主様、ルナ様。宝物庫の奥にあったゲオルグの隠し金庫から、このような密書が見つかりました」


クルミたちが戦利品の運び出しに夢中になる中、シノが険しい表情で一束の羊皮紙を持ってきた。

封蝋(ふうろう)には、双頭の魔竜を模した禍々しい紋章が刻まれている。それを見た瞬間、ルナとオルハの表情がピタリと引き締まった。


「この紋章は……大陸の北方を支配する三大勢力の一つ、『ガルドニア魔導帝国』の軍務省のものですわね」

「ええ、ルナ様。どうやらゲオルグは、自分たちだけでは白山の神王軍に勝てないと踏んで、外部の大国にまで尻尾を振っていたようです」


オルハが三白眼を細めながら羊皮紙の文面を読み上げる。


「『バシリカ分家が白山の神王の遺骸を確保した暁には、我がガルドニア魔導帝国の最新鋭・機甲魔導師団を派遣し、バシリカ本家の残党を根絶やしにする手助けをしよう。なお、約束の期日までに連絡がなければ、我々自身が白山へ侵攻する』……だそうですよ」


「な、なんだと……!? 分家の次は、北の『魔導帝国』が直接白山へ攻めてくるっていうのか!?」


レオンの背中を、氷室以上の冷たい汗がツーッと流れ落ちた。

天陽教の聖女と暗部、王国の狂戦士、そしてバシリカ分家だけでも胃に穴が開きそうだったというのに、今度は「最新鋭の機甲魔導師団」を擁する軍事大国が相手である。


(や、やべえぞこれ……! そんなガチの正規軍に攻め込まれたら、俺に『神王の遺骸』なんて無いことが今度こそバレて、嘘つきとして縛り首にされちまう!!)


恐怖のあまり、レオンの膝がガクガクと小刻みに震え出し、手の中の密書がギリギリと音を立てて握り潰された。


(こうなったら、帝国軍が雪山を越えてくる前に、今日手に入れたあの聖魔結晶と魔導エンジンを使って、無明院の周りに絶対誰も入ってこられないような分厚い壁とトラップを張り巡らせて、春まで完全に引きこもるしかねえ!!)


レオンは必死の防衛本能(引きこもり決意)から、鋭い三白眼をカッと見開き、震える低い声で唸るように宣言した。


「……すぐに白山へ帰るぞ。あの聖魔結晶と古代エンジンをすべて注ぎ込んで、無明院を大改造してやる……! 魔導帝国の連中がどれだけ大軍で押し寄せようと、指一本触れられないようにしてやるぜ……!」


――ズオオオオオォォンッ!!


恐怖で震えているだけのレオンだったが、先ほど古代機兵を一撃で成仏させたばかりの彼が、密書を握り潰しながら放ったその言葉は、周囲のヒロインたちの耳には「覇王による大陸制覇の宣戦布告」として響き渡った。


「ああっ……! なんという気高き覇気! 帝国が攻めてくるのを待つのではなく、無明院を対帝国用の『絶対迎撃要塞』へと進化させ、返り討ちにして魔導帝国まで呑み込むおつもりですわね!」

「ふふっ、お見事ですレオンくん♪ 私なんかがお手伝いできることは少ないかもしれませんが、帝国の兵士さんたちを全員『アットホームに再教育』する準備をしておきますね♪」

「よし、そうと決まれば善は急げよ! この聖魔結晶と古代炉心があれば、無明院の地下と畑と露天風呂を、帝国軍が百万人来てもビクともしない超要塞に魔改造してあげるわ!!」


ルナ、オルハ、クルミの三人が目を輝かせて盛り上がる中、カガリとニアも「くっ、これより神王軍は対帝国フェーズへ移行するのだな……!」「……ん、帰ったらまず角煮と熱燗で英気を養わなきゃね……」とすっかりその気になって頷いている。


(ちがう、俺はただ平和に引きこもりたいだけなんだってばぁぁっ!!)


心の中で涙のツッコミを入れつつも、すでに全員が荷物を積み終えて「「「いざ、白山へ凱旋ですわーっ!!」」」と透明な装甲馬車へ乗り込んでしまったため、レオンも観念してタラップへと足を踏み入れた。


かくして、莫大な戦利品と幻の銘酒、そして『三白眼の頼れる(?)先輩メイド』という新たな家族を加えた一行は、さらなる大騒動が待つ白山の無明院へと、ホカホカの湯気を立てながら帰還していくのだった。

――『ガルドニア魔導帝国・北方諜報部緊急電文』より抜粋。


「緊急報告! 我々が裏で支援していたバシリカ分家の拠点・黒狼城が、わずか一日にして謎の武装集団により完全制圧された! 地下宝物庫に眠っていた古代魔導エンジンや特級魔鉱石、さらには王家秘蔵の銘酒に至るまで根こそぎ持ち去られており、現在、正門跡には『これより当城は白山神王軍・北方ホワイト営業所とする』という不気味な看板が掲げられている……!」


この緊急電文は、のちに編纂された『大陸大戦史・北方戦線篇』において、ガルドニア魔導帝国と白山神王軍の全面衝突の発端として記録されている。当時の帝国軍上層部は、難攻不落の黒狼城を無傷で接収したばかりか、略奪ではなく「営業所の開設」を宣言した神王レオンの意図を測りかねて極度の混乱に陥ったという。のちに帝国が誇る機甲魔導師団が白山へと進軍し、そこで待ち受けていた「世界一過酷で極楽な魔導温泉要塞」の前に戦わずして壊滅することになるのだが、それはまた別の記録で語られる物語である。

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