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辺境の暗殺者はハッタリで生き抜きたい〜「神王の遺骸」なんて無いのに三大勢力が攻めてきた。えっ、俺の血が最強の聖遺物!?〜  作者: ユーディ


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第16話:二日酔いと魔改造

――『無明院・家計簿(兼・被害報告書)』より抜粋。


昨日の鉄くず売却により、特上の白米百俵と高級食材を確保。これにて我が家の食糧危機は完全に脱した……はずなのだが。

なぜ今、うちの縁側には空になった一升瓶が十本も転がっているのだろうか。そしてなぜ、居間では巨乳の美少女たちが屍のように雑魚寝してうめき声を上げているのだろうか。

誰か俺に、昨日の夜から朝にかけての記憶と、麓の裏道具屋の扉修理代の領収書について説明してほしい。


(のちの歴史家は、この狂乱の一夜を『神王が帝国最高峰の魔導鍛冶師を迎え入れ、無明院の近代要塞化を決定づけた伝説の「百升の盟約」』と呼び称えたが、当の神王は割れるような頭痛の中でただ胃薬を求めていただけである)

「……うぅ、頭が割れる……。俺は一体、どうやって山まで帰ってきたんだ……?」


無明院に朝日が差し込む頃。レオンはガンガンと響くこめかみを押さえながら、重たい瞼をこじ開けた。

昨日の夜、麓の『黒鉄堂』でクルミが一升瓶の栓を抜いたところまでは覚えている。だが、その後の記憶は「飲めーっ! 歌えーっ!」という嵐のようなコールと、荷馬車に積まれた大量の米俵の上で揺られていた断片的な映像しかなかった。


レオンがよろよろと居間へ這い出ると、そこには戦場のような惨状が広がっていた。


「うぅ……レオン様ぁ、世界がぐるぐる回っておりますわ……。どなたか、この回る天井を止めてくださいまし……」

「ぐぬぬ……不覚だ。このトモエ、酒という名の無形の暗殺者に背後を取られるとは……お、お水を所望する……」

「ひっく……もう飲めませんよぉ……。私の素敵な彼がいっぱい分裂して見えますぅ……」


居間の畳の上で、ルナ、トモエ、マリエットの三人が、だらしない格好で屍のように転がっていた。

普段は隙のない王女と屈強な女騎士、そして清楚ぶっている聖女が、揃いも揃って重度の二日酔いで完全に戦闘不能に陥っている。


「お前ら、あれだけ他人の家で飲むなと止めたのに……」

レオンが呆れてため息をついた、その時だった。


「――あら、ようやく起きたのね、三白眼。ずいぶんと遅いお目覚めじゃない」


縁側の方から、涼やかで一切の疲れを感じさせない声が響いた。

振り返ると、そこには白いさらしに革エプロンを羽織った長身スレンダー美女――クルミ・クロガネが、朝の爽やかな風を浴びながら仁王立ちしていた。

その片手には、湯気の立つお椀が握られている。


「クルミさん……あんた、あんなに一升瓶をラッパ飲みしてたのに、二日酔いじゃないのかよ!?」

「はぁ? あの程度の『水』で酔い潰れるわけないでしょ。それよりあんたのところの牛ども、胸の脂肪ばっかり蓄えて肝臓はてんで軟弱なのね。見ていて笑っちゃうわ」


クルミは畳の上でうめいている巨乳三人衆を冷ややかなジト目で見下ろし、鼻で笑った。

すると、台所の方からトコトコと小柄な影が現れた。筆頭メイドのシノである。


「クルミ様、お代わりのお味噌汁でございます。特製のしじみをたっぷり入れておきました」

「あら、気が利くわねちんちくりん。あんた、見かけによらずいい腕をしてるじゃない。昨夜のおつまみの塩辛も最高だったわ」

「光栄です、クルミ様。それにしても、あそこで転がっている無駄に胸部装甲の厚い雌牛どもの醜態……実に嘆かわしい限りですね。あいつらには冷たい井戸水と苦い薬草茶でも飲ませておきましょう」

「ふふっ、違いないわね。やっぱり時代は、無駄な肉のない機能美(スレンダー)よね!」


――ガシッ!


長身スレンダーなクルミと、中学生体型のシノが、縁側で固い握手を交わした。

一晩の酒盛りを経て、無明院における『貧乳&実務派(酒豪)同盟』が完全に結成された瞬間である。


(なんか知らんが、一番毒舌でヤバい二人がめちゃくちゃ意気投合してるぞ……!?)


レオンが新たな派閥の誕生に戦慄していると、シノの味噌汁を飲み干したクルミが、パシッと自分の頬を叩いて気合を入れた。


「さて、腹ごしらえも済んだことだし……『無明院・技術主任』としての最初の仕事を始めましょうか」


クルミは腰の道具袋から採寸用の魔導具を取り出し、不敵な笑みを浮かべた。


「あんたが覇王軍の精鋭を『火遊び』で返り討ちにしたこの拠点、隅から隅まで視察してあげるわ。案内しなさい、三白眼!」


「……はぁ。あんたがどんな凄い城に住んでるのかと思えば、呆れて言葉も出ないわね」


無明院の境内に出たクルミは、採寸用の魔導具を片手に、ゴミを見るような冷ややかな目で周囲を見渡した。


「まず、木々の間に張り巡らされたこの極細の鋼鉄ワイヤー! 殺傷力だけは高いけど、風向きや樹木の揺れをまったく計算してないから、強風が吹いたら同士討ちになるわよ!」

「むっ……!? そ、それは当主様に近づく害虫を瞬時に細切れにする、バシリカ本家秘伝の迎撃網なのですが……」

「黙りなさい、ちんちくりん。そしてこっちのバカみたいに深い空堀と、入り口に無理やり建てられた悪趣味な太陽模様の白い柱! 和風のボロ寺に暗殺罠と西洋の神殿装飾をごちゃ混ぜにするなんて、なによこの統一感ゼロのキメラ建築は! 美的センスがドブ以下ね!!」


クルミの容赦ない技術的ダメ出しに、シノが悔しそうに唇を噛み、居間から這い出てきたトモエとマリエットが「うぐっ……私の力作の空堀が……」「愛のモニュメントがドブ以下だなんて……」とさらなるダメージを受けて蹲る。

一方、レオンだけは(だろ!? 俺も毎日このカオスな庭を見るたびに胃が痛かったんだよ! もっと言ってくれクルミさん!)と、心の中でスタンディングオベーションを送っていた。


「まったく、素人が思い付きで増築するからこんなみっともないことになるのよ。まずは建物自体の基礎強度を測り直すわ」


クルミは呆れ果てた様子で本堂へと上がり込むと、部屋の真ん中でしゃがみ込み、古びた畳と床板を一枚、バキッと無造作に剥がした。


「ちょ、おいクルミさん! うちの大事な床板を勝手に引っ剥がすなよ! ただでさえ隙間風が寒いんだから……」


レオンが慌てて駆け寄る。

だが、床下を覗き込んだクルミは、採寸具を持ったままピタリと動きを止めていた。


「……クルミさん? どうした、ネズミの巣でもあったか?」

「…………な、なによ、これ」


クルミの声が、かすかに震えていた。

レオンがひょいと肩越しに床下を覗き込むと、そこには無明院の土台代わりに埋まっている、直径二メートルほどの『鈍い黄金色の球体』があった。表面には幾何学的な溝が無数に彫られており、その隙間から淡い青白い光が脈打つように漏れている。


「う、嘘でしょ……!? この幾何学紋様、自己再生する神代金属(オリハルコン)の外殻、そして大気中の魔素を無限に変換するこの波動……ッ!」


元・宮廷筆頭魔導技師であるクルミは、震える指でその球体を指差し、裏返った声で叫んだ。


「こ、これ……失われた超古代文明の最終遺産、都市一つを天空へ浮かべることができるっていう神話級の永久機関――『天翔ける神の炉心(エンシェント・ドライブ)』じゃない!! なんで世界を滅ぼしかねない伝説の超古代炉が、こんなボロ寺の床下にむき出しで埋まってるのよぉっ!?」


顔を真っ青にして、レオンの胸倉をガクガクと揺さぶるクルミ。

しかし、レオンは「えっ、なにをそんなに大げさな……」と目をパチクリさせ、ぽりぽりと頬を掻いた。


「ああ、その丸くて光る石か? 俺がここに越してきた時から埋まってたんだよ。冬場になるとさ、その石の周りだけほんのりポカポカして気持ちいいから、俺はいつも『天然の床暖房(オンドル)』代わりにして、その真上で昼寝してるぞ」


「「「ゆ、床暖房ぉぉっ!?」」」


クルミだけでなく、後ろから覗き込んでいたシノやトモエたちまでが驚愕に目を見開いた。

レオンは呑気に言葉を続ける。


「しかもさ、その石の上にヤカンを置いておくと、火を使わなくても勝手にお湯が沸くから薪代の節約になるんだよな。……えっ、もしかしてそれ、急に爆発したりするヤバい石なのか!?」


「……っ、あ、あんたねぇ……!!」


クルミは開いた口が塞がらず、ついにはプシューッと頭から湯気を出して白目を剥きかけた。

大陸中の魔導師が血眼になって探し求め、一国が傾くほどのエネルギーを秘めた神話級の『浮遊炉心』。それを、この三白眼の男は「昼寝にちょうどいい床暖房」「ヤカンのお湯沸かし器」として日常的に使い倒していたのである。


(こ、こいつの神経、一体どうなってるのよ……!? 神話級の超古代兵器をただの生活家電扱いするなんて、底知れないにも程があるわ……!)


クルミは額の冷や汗を拭うと、魔導鍛冶師としての闘志に再び火をつけ、ギラリと瞳を輝かせた。


「――で、どうだクルミさん。そのスゴイ石が爆発しないなら、俺はそろそろ畑仕事に戻りたいんだけどさ」


冷や汗を拭うレオンに、クルミはしばらく言葉を失ったまま見つめ返していた。

大陸中の国家が喉から手が出るほど欲しがる超古代の永久機関を、ただの「床暖房」と「湯沸かし器」として愛用していた男。その底知れぬ器(という名の無知)を目の当たりにし、クルミの中でレオンの格付けが「とんでもない大物(神王)」から「宇宙の真理を悟りすぎて逆にバグった超越者」へと急上昇していた。


「……わかったわ、三白眼」

クルミはゴクリと唾を飲み込み、キリッとした表情で床板を元通りにバタンと閉めた。

「あんたが何を考えているのか、ようやく腑に落ちたわ。外見はただのボロ寺に偽装しつつ、その地下で神話級の永久機関を完全稼働させる……。つまり、そういうことね?」


「は? いや、だから俺としてはだな……」

レオンは慌てて両手をブンブンと振った。


「いいから聞きなさいよ! あたしに注文があるなら、今のうちに全部言いなさい! どんな無理難題でも、この天才魔導鍛冶師クルミ・クロガネが完璧に形にしてあげるわ!」


勢い込むクルミの気迫に押され、レオンは渋々といった様子で、心底切実な本音をポツリとこぼした。


「い、いや、要塞とか大砲とかマジで勘弁してくれよ……! 俺が望んでるのは、そういう物騒なもんじゃないんだ。……外から見たら罠も銃口も一切見えない、ただの『静かで普通のボロ寺』にしてくれ。あと、強いて言うなら……裏の畑に自動で水を撒く仕組みと、薪をくべなくてもいつでも温かいお風呂に入れる給湯システムがあれば、それだけで十分だよ」


その切実すぎる「普通の田舎暮らしの要望」を聞いた瞬間――。

クルミの脳裏で、雷鳴が轟いたような電撃が走った。


(――な、なんですって……!?)


クルミの切れ長の瞳が、限界まで見開かれる。


(外見は完全に『無防備なボロ寺』に偽装し、敵に一切の殺気や武装を察知させない……。これぞ、侵略者が完全に油断して踏み込んだ瞬間、地下の永久機関から全砲門が展開して敵を文字通り蒸発させる『完全隠蔽型・迎撃魔導要塞(ステルス・フォートレス)』の理論そのものじゃない!!)


さらに、レオンが口にした「自動の水やり」と「いつでも温かいお風呂」についても、クルミの天才的(かつ斜め上の)頭脳は恐るべき深読みを完成させていた。


(ただの農作業の自動化に見せかけて、古代炉の魔力を白山全体の水脈と完全に同期させ、拠点全体を巨大な『魔力循環防御陣』に昇華させる気ね……!? お風呂すらも地熱変換エネルギーによる『常時稼働型・要塞バリア』の冷却システムとして利用するなんて……! なんという恐ろしいまでの深謀遠慮……!!)


「……っ!!」

クルミはあまりのスケールの大きさに、胸を熱くしてプルプルと震え出した。

権力者たちは私欲のためにこの古代炉を兵器として利用しようとするが、この男は違う。彼は己のボロ寺を「究極の平和な隠れ家」に見せかけながら、その実、大陸全土を沈黙させるほどの防御システムを構築しようとしているのだ。


「素晴らしいわ……! そこまで高度な戦術的ステルス思想と、生活インフラの完全自動化を両立させる設計思想……! 技術者として、これほど燃える仕事はないわね!」


「えっ、いや、だからそんな大げさなものじゃ……」

「異議は認めないわよ、三白眼!」


クルミは腰に手を当て、フンッと鼻を鳴らしながら、満面の(そしてどこか誇らしげな)笑みを浮かべた。


「あんたがそこまで言うなら、あたしの持てる技術のすべてを注ぎ込んで、このボロ寺を世界で一番安全で、しかも最高に快適な『究極の隠れ家要塞』に魔改造してあげるわ! ――ただし!」


クルミはスッと顔を近づけ、レオンの鼻先に指を突きつけた。


「その代わり、毎日の美味しい白米と、あの甘い干し柿、そして夜の晩酌の相手は絶対に保証しなさいよね! ……べ、別にあんたの傍にもっといたいわけじゃないんだからね! あくまで『技術主任としての契約』よ、勘違いしないでよね、バカ!」


見事なまでのツンデレを炸裂させると、クルミは早速トンカチと魔導レンチを手に取り、テキパキと作業の指示を出し始めた。


「おい、ちんちくりん(シノ)! すぐに地下の配管図を出しなさい! それとそこのグロッキーな牛ども(巨乳組)! いつまで寝てるの、資材運びを手伝いなさいよ!」

「はっ、はい! クルミ様、ただちに!」

「うぅ……頭が痛いですが、レオン様のためなら……っ!」


クルミの圧倒的な手腕と毒舌によって、屍のようだったヒロインたちも強制的に叩り起こされ、無明院の「大魔改造計画」は怒涛の勢いで幕を開けたのであった。


のちに世界最大の帝国軍が白山を包囲した際、彼らが「なぜこの山には一切の罠が見えないのに、近づいた瞬間に山ごと消滅するのか」と恐怖に震えることになった伝説のステルス要塞――その全貌が、こうして音を立てて築かれ始めたのだった。

――『無明院・魔導改修計画書(最終稿)』より抜粋。


改装工事の初日。技術主任のクルミ氏により、本堂の床下から発掘された未知の永久機関を核とした『完全隠蔽型ステルス要塞化システム』が正式に採択された。

工事の過程において、当主様が「お風呂がすぐに沸くようにしてほしい」と発言された際、周囲の女性陣は全員「なんと慈悲深い……! 要塞の冷却炉を常に温泉気分にすることで、我が軍の士気を最高潮に保つご配慮だわ!」と激しく感動して涙を流していた。不肖シノ、この完璧すぎる要塞のなかで、今日もせっせと裏山の防衛網を強化する所存である。


(のちの歴史家たちは、この日の魔改造こそが、のちに神王陣営が『世界で最も快適で、かつ絶対に攻撃が通じない不可侵の楽園』を築き上げる決定的な転換点だったと語り継いでいる)

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