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終末の血族  作者: 天津千里
12章:蒼海への船出
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第91話 蒼海への船出II

GW特例投稿

【帝国紀元1800年2月28日 11:00】

【クルキア平原・クルキア城館会議室】


 クルキア各地での現地調査を終えた幹部たちが情報を持ち寄り、会議室に集まっていた。


「すまない、遅くなった」


 バフラームが翼を畳みながら席についた。


「待っていたわ。始めましょうか」


 ユリアが地図を広げる。


「では私から」


 ルシアが立ち上がり、地図を指し示した。


「クルキア平原とその周辺の情勢についてまとめてあるわ。元々ここは帝国直轄領だった土地だけど、ゾンビ禍で壊滅、先日の奪還作戦で支配権を回復した土地よ。主要都市はアルメリア、クルキア、コメルキア、アグラポルタ、サマンディウム」

「クルキアとコメルキアは前回の進軍で通ったわね。他の都市はどうなの?」

「この中で現在も残っているのはサマンディウムのみ。ただ、街道から外れた村は多くが生き残っているわ」

「そう……今回の私の任務はこのクルキア平原一帯を復興させることよ」


 ユリアが地図の上に視線を落としたまま続けた。


「それはいいんだが、将来的にはここを領地にするとかいう話を聞いたが?」


 カリスが腕を組む。


「らしいわね。ただ叙爵も推薦というだけでまだ決定ではないわ」

「さすがにあれだけの貴族が推薦したものを取り消すということはないでしょうけど……思い切りましたね……」


 フィリオが感慨深そうに呟いた。


「交通の要衝よね?……都市は壊滅していて、アダリウムの脅威も残っているけれど」


 ルシアが地図上の各都市を指でなぞる。


「最前線の復興任務と聞くととんでもない外れくじだが、交通の要衝を領地として与えられると思うとやる気も出てくるってもんだな」


 カリスが笑みを浮かべた。


「一応、私たちは寄騎という扱いですよ?」

「おいおい、今更そんな他人行儀になってどうするんだ? 隊長殿に賭けたんならしっかり最後まで賭け通せよ?」

「それはそうですが……」


 フィリオが苦笑する。


「しっかり働いてもらうから。期待しているわよ」

「ハッ」

「これらの都市を全て一気に復興することはできないわ。重点的に復興させる都市を選んでいかないといけないわね」


 ルシアが説明を続けると、ユリアが地図上の一点を指差した。


「それについては決まっているわ。ここ、クルキアを最優先とする」

「ほう。平原の真ん中のコメルキアでも、港町のアルメリアでもなくか?」


 カリスが眉を上げる。


「アダリウムの敵を排除しないことにはアルメリアは復興困難。アダリウムの敵を防ぐのはクルキア裏の峠が最適。そして、このクルキア一帯で最大の消費者は私たちの軍よ」

「たしかにその通りだ。了解した」


 カリスが頷いた。


「クルキア裏の峠……たしか古くはクルキア門と言われていたとか。今でも城塞跡が残っているはずです」


 フィリオが地図を覗き込みながら言う。


「そちらについては調査済みだ」


 レオニダスが口を開いた。


「城塞跡は復旧は厳しいが、地形は非常に守りやすく、簡易な砦でもかなりの防御力を持つだろう」

「上空から見た限りでは、峠の両側のクルキア山脈は非常に険しく、軍が動けるような間道はないようだ」


 バフラームが続けた。


「峠のまわり、歩いてみた。木多くて、歩きにくい」


 オルフェンが太い腕を組んで言う。


「この峠で守れば相当数が攻めてきても耐えられるだろう」


 レオニダスが力強く頷いた。


「峠を越えた先のアルメリアはゾンビの数も多く、奪還には一仕事が必要そうだ。ただ、防御施設は色々残っているみたいだが……」

「最初にそこで防衛していたのでしょうね。それでもアダリウムの敵を防ぐことはできなかった……」


 バフラームの報告に、ルシアが静かに言った。


「当時はアルメリアの住民もいたでしょうからね。捨てるわけにはいかなかったのでしょう」

「そう……でしょうね」


 ユリアの言葉に、フィリオの声が沈む。


「貴族や軍人にとって、領地に見切りをつけて引き下がるなど耐えがたいことです。ましてやそこに多くの住民がいるとなると……」


 しばらくの沈黙の後、ユリアが口を開いた。


「アルメリアには不用意に手を出さないわ。サマンディウムで物資を揚陸して、コメルキアを通ってクルキアで軍に引き渡す……まずはこの道を安定させるわよ」

「承知した。担当はどうする?」

「まず、クルキア門の砦の建設をベルンハルト。その護衛と峠の防衛をフィリオ。補佐としてオルフェンね」

「拝命しました」

「おう、わかった」


 ベルンハルトが短く答えた。


「クルキアはクラリッサが都市計画を主導して。城壁はすべて撤去。道幅は広く、直線に。鉄道も利便性の高い場所に広く土地を確保して移転させるわ。詳細はあとで話し合いましょう」

「承知しましたわ」


 クラリッサが静かに頷いた。


「城壁を壊すのか?」


 カリスが驚いた表情を見せる。


「もう城壁で守れる時代は終わるわ。それに、街だけ守ってもね……」

「そう、だな……わかった」


 カリスが少し考えてから頷いた。


「レオニダスはクルキアの治安維持と防衛、それとクルキア門の予備を担当して」

「承知」

「コメルキアは物資輸送の中継地として治安維持と街道警備の拠点とするわ。これは姉さんお願い」

「ええ。わかったわ」

「それと、瑞希も姉さんについていって勉強して」

「は、はい! わかりました! ルシアさん、よろしくお願いします」

「よろしくね」


 ルシアが微笑んだ。


「最後にサマンディウム。担当はカリス。長期間に渡って管理が行き届いていないから、治安の悪化が考えられるわ。治安の回復を最優先にして」

「ああ、了解だ」

「アグラポルタは後回しね。姉さん、街道警備の一環として治安維持をお願い」

「了解したわ」

「それと、バフラームはクルキア山脈に居住可能な土地を探して。そこに一族の居住を許可するわ」

「いいのか!?」


 バフラームが目を見開いた。


「ええ。できたら、北側をダムール族の居住区にして、南側をオルフェンのバルンカル族の居住区という形にしたいのだけど……」

「住んでいいのか?」


 オルフェンが身を乗り出す。


「いいわよ。できたら一族から人を呼んで、ある程度は移住をして欲しいわね」

「すぐ連絡する!」


 オルフェンが勢いよく立ち上がりかけた。


「お願いね。バフラームもできたら人を集めて欲しいわ」

「承知した。居住地はいくつかにわけても?」

「もちろんよ。居住区の範囲や移住人数についてはあとで相談しましょう」

「わかった」

「そんなところね。リオフェルとセリーヌは魔導具の研究のことで話があるから残ってね」

「魔導具か? あいわかった」


 リオフェルが興味深そうに目を輝かせる。


「私も!?」


 セリーヌが驚いた顔をした。


「ええ、もちろんよ。弟子でしょう?」

「わ、わかりました……」

「じゃあ、ユリア。私たちは早速仕事に取り掛かるわ」


 ルシアが立ち上がりながら告げた。


「よろしく。何かあったらすぐに連絡してちょうだい」

「ええ」


 ルシアを先頭に、各将たちが会議室を退出していく。扉が閉まり、部屋にはユリア、リオフェル、セリーヌの三人が残った。


 ユリアは瑞希が用意してくれた紅茶を一口飲んだ。


「ふう……。さて、じゃあ早速進めていきましょうか」

「今は魔力感知器の改良に努めているが、それ以外にも……というわけじゃな?」


 リオフェルが顎に手を当てた。


「そういうことよ。せっかく正規軍から潤沢な資金がもらえるのだもの。技術開発に回さないとね」

「復興資金ですよね……? いいんですか?」


 セリーヌが心配そうに尋ねる。


「わしの研究は世界の未来につながる研究じゃぞ? いいに決まっておろう」

「先生は黙ってて!」

「ちゃんと復興のための研究にするから大丈夫よ」


 ユリアが笑みを浮かべた。


「軍用じゃなくていいのか? わしとしては軍用だろうが民生用だろうが、温めている案はいっぱいあるから構わんのじゃが」

「どちらにも使えるものよ。通信魔法の改良をお願いしたいのよね」

「ほう、通信魔法……帝国のそれは音と光魔法の応用で、かなり進んでいるはずじゃが?」


 リオフェルが首を傾げた。


「それこそ帝都の学者さんが研究するようなものじゃ……あ、先生が帝都の学者さんに負けるとは思わないですけど」


 セリーヌが慌てて付け加える。


「そんなに大したものではないわ。通信魔法を決まった方向に飛ばして、それを次の決まった方向にそのまま飛ばす……そういうものを作って欲しいの。大都市の間には定時通信魔法があると聞いたわ。あれの小さなものが欲しいのよ」

「む……たしかに原理は知っておるが……あれは高度な暗号を強力な魔力で遠くまで飛ばしておるから、小さくしたらそんなに遠くまでは飛ばせんぞ?」

「通信魔法を決まった方向に飛ばすのはそんなに難しくないし、むしろ、魔力の節約になるでしょうけど……」


 セリーヌが考え込むように続けた。


「数百ミルくらい飛ばせればいいわ。なんなら、今の通信魔法より狭くてもいい。情報の発信側と受信側で暗号にするから暗号化も必要なし。魔力の消費を抑えられるようにして、魔道具としても簡単なものがいいわ」

「そんな性能でいいんですか?」


 セリーヌが目を丸くした。


「ただし、魔力消費の小ささと、正確性、維持の簡単さは譲れないわ」

「つまり、余計な性能を削って、安くて頑丈なものが欲しいわけじゃな?」

「そういうことよ」

「でも、なんに使うんですか? 数百ミルじゃ街中でも満足に使えませんけど……」

「街と街の間に何百と設置して、それを辿って隣街まで通信魔法を届けたいのよ」

「何百も!?」


 セリーヌが声を上げた。


「ほーう、それならたしかに維持の簡単さは必須じゃな……それも異界の社会かの?」


 リオフェルが身を乗り出す。


「地球では個人と個人が世界中いつでも通信できるわよ。今回のはその始めの一歩よ」

「世界中いつでもじゃと!?」

「ここから帝都でもすぐ届くってことですか?」

「異界ではこれから作ろうとしているものが世界中にあるということなのかの?」

「もっと高度で範囲も広いけど、そういうことよ」


 リオフェルが唸りながら腕を組んだ。


「むむむ……そんな規模でどうやって……」

「そういうわけだから、まずはこの魔道具を作って、最初の通信網を作りたいのよ」

「いいじゃろう! 腕が鳴るのう!」


 リオフェルが膝を叩いた。


「先生ならすぐできますよ!」


 セリーヌが愛想笑いを浮かべ、そそくさと会議室の扉へ後ずさりする。しかし――。


「なにを言っとる。実地実験はお前も参加するんじゃぞ!」


 ガシッ、とリオフェルが逃げようとした弟子の襟首を鷲掴みにした。


「えええ!?」

「軍としても早期警戒網を作ることにつながるから、正式な軍務として開発に関わっていいわよ、魔導小隊長?」


 ユリアが意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「お墨付きというわけじゃな。行こうかのう、魔導小隊長殿?」


 リオフェルが楽しそうにセリーヌへ顔を向ける。


「いっぱい仕事あるんですよ!」


 バタバタと腕を振って抵抗するセリーヌに、ユリアは満面の笑みでトドメを刺した。


「後に回せるのは全部後でいいわ」

「そんなあー」


 ずるずると引きずられていくセリーヌの嘆き声が、会議室に虚しく響き渡った。


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