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終末の血族  作者: 天津千里
11章:灰燼のアスミノール
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第88話 灰燼のアスミノールVII

【帝国紀元1800年1月28日 16:00】

【アスミノール南街区・アスミノール中央公園北西】


 旧市街攻撃の準備で慌ただしいユリア大隊の本陣に、セリーヌが飛び込んできた。


「ユリア隊長! 敵、動きました! 南城門に集まってきてます!」


「全部隊、今の作業を中断してすぐに戦闘準備! 他の部隊にも警報を飛ばして!」


「ハッ」


 フィリオが即座に駆け出す。


「レオニダス、近接兵を前に並べて! 私も出るわ!」


「ただちに! 護衛兵、行くぞ!」


「姉さん、準備が終えた部隊を順次前線に!」


「わかったわ。気をつけて」


 ルシアの声を背に、ユリアはセリーヌへ向き直った。


「セリーヌは警戒を密に。リオフェルも叩き起こしていいわ」


「はい! 今すぐ叩き起こします!」


* * *


 部隊の北側では近接兵がすでに隊列を組み始めていた。ユリアが引き連れてきた銃兵たちもそのすぐ後ろに並び始める。


「間に合ったみたいね」


「はい。っと、ちょうど敵さんも到着みたいですな」


 レオニダスが前方に目を向けた。ユリアも視線を走らせる。


「騎士っぽいのがいるわね……」


「む、たしかにいますね。指揮官ということですか」


「分かりやすくて助かるわね」


「それは……まあ、そうなのですが……」


「なに?」


「いえ、なんでもありません!……ん?」


 騎士が剣を短槍に持ち替え、大きく振りかぶった。次の瞬間、ユリア目掛けて投げつけてくる。


「隊長!」


 レオニダスが押しのけようとするより早く、ユリアが一歩踏み出した。抜きざまの剣が飛んできた短槍を弾き飛ばす。槍が直撃したユリアの眼前では、展開されていたシールドがひび割れて明滅していた。


「挨拶ね」


 弾かれた短槍が宙を舞い、路面に落ちて甲高い音を立てた。


「ご無事ですか!?」


「問題ないわ。中衛、射撃準備!」


 呆気にとられていた銃兵たちが慌てて散弾銃を構える。


「撃て!」


 乱れた隊列から放たれた散弾はゾンビの群れに突き刺さったが、中央の騎士はシールドに守られていた。


「へえ。銃撃だとこうなるのね」


 ユリアは視線を騎士に向けたまま、レオニダスに告げた。


「射撃命令を続けて」


「ハッ! 中衛射撃準備急げ!」


 レオニダスの号令を聞きながら、ユリアは近くに落ちていた短槍を拾い上げた。騎士は歩幅を大きくしてどんどん迫ってくる。


「構え!」


 銃兵が構えた瞬間、ユリアが力を込めて短槍を投擲した。踏みしめた石畳が割れる。


 投擲に気づいた騎士が歩みを止めて盾を構える。しかし短槍は騎士が展開していたシールドを粉々に砕き、盾に刺さったままその体を弾き飛ばした。


「撃てぇ!」


 体勢を崩した騎士に、銃兵が放った散弾が浴びせられる。その多くは鎧に弾かれたが、衝撃はそのまま伝わり、騎士は地面に倒れ伏した。


 すかさず武装ゾンビが前へ出て盾になろうとするが、レオニダスの号令で放たれた第三射が前列をぼろきれのように崩した。


「前衛、突撃! 叩き潰せ!」


「「「応!!」」」


 ユリアの号令で近接兵たちが一気に突撃を開始した。


 最前線で近接兵と武装ゾンビがもみ合いになっているところをすり抜け、前に立ちふさがる武装ゾンビを一閃して斬り伏せると、奥から立ち上がった先ほどの騎士が姿を現した。


「あれで生きているなんて頑丈ね」


「……死ね」


 騎士は一言小さく呟くと、大きく横薙ぎを繰り出してきた。ユリアは半歩下がってそれを避け、騎士の剣を追うように薙ぎ払った。思わぬ方向からの衝撃に騎士が剣を取り落とす。


 刃を返し、騎士の兜を強打する。体勢を崩したところへ体ごとぶつかると、騎士はそのまま仰向けに倒れた。


 ユリアは騎士の胸甲を踏みつけ、体重をかけた。


 周囲の武装ゾンビがユリアへと近づいてくる。剣の間合いに入った者から順に薙ぎ払われ、受けようとしたゾンビも剣ごと弾き飛ばされて後ろへ倒れていく。ユリアが剣を振るうたびに、踏みしめられた胸甲が少しずつ歪んでいった。


 そうしているうちに、レオニダスを筆頭とした近接兵の精鋭がユリアの周囲に展開した。


 隙を見て払いのけようとした騎士の腕をユリアが強打する。金属のぶつかる鈍い音と、何かが折れる音が重なり、騎士の腕が動かなくなった。


「抵抗は無駄よ。さて、話でも聞かせてもらおうかしら」


 傍らの兵士が兜を無理やり外す。しかし中から現れたのは、腐りかけたゾンビの顔だった。手に噛みつこうとするゾンビに、兵士が慌てて飛び退く。


「こいつも人間じゃないわけか……。まあいいわ。言葉はわかる?」


「……死ね!」


 噛み合わない返答に、ユリアが騎士の腕に剣を突き立てた。


「死ね!」


「……ダメね。もういいわ」


 痛みすら感じていない様子を一瞥してから、ユリアは騎士の喉元に剣を突き立てた。


 その瞬間、周囲の武装ゾンビの動きが一斉に止まり、隊列が大きく乱れた。


「こいつらはもう終わりよ。全て斬り伏せなさい!」


「応!」


「レオニダス、後は任せるわ」


「ハッ、本陣に戻られますか?」


「そうするわ」


「承知致しました」


 踵を返したユリアのもとへ、セリーヌが駆け寄ってきた。


「ユリア隊長!」


「セリーヌ、どうしたの?」


「中央公園方面に多数のゾンビが! 味方から救援要請が多数出てます!」


「近くにいた部隊は? すでにかなりの部隊が集まっていたはずよね?」


「わ、わかりません……最初は救援に向かうという報告もあったんですが……今はもう……」


 セリーヌの声が途切れる。ユリアは即座にレオニダスへ向き直った。


「レオニダス、護衛は借りていくわ」


「承知しました! 聞いたな! 護衛は隊長殿に着いていけ! 近接中隊の第三分隊もだ!」


「ハッ」


「悪いわね。行ってくるわ」


「ご武運を!」


【帝国紀元1800年1月28日 16:45】

【アスミノール南街区・アスミノール中央公園北】


「どきなさい!」


 ユリアの横薙ぎで騎士の剣が弾き飛ばされ、首が落ちた。わずかに残った武装ゾンビも、騎士が倒れた瞬間の硬直の隙に護衛兵たちに始末された。


「中央公園まであとどれくらい?」


「次の街路を越えたら中央公園です!」


「もう少し……急ぐわよ!」


「ハッ」


 ゾンビの死体が散らかる街路を後にし、ユリアは石畳を走った。


 すぐに新手の武装ゾンビが現れる。その周囲には、ゾンビと兵士の死体が折り重なるように倒れていた。遠くではわずかに戦闘音が聞こえるが、もうその数は少ない。


(ここもすでに……。急がないと……)


 ユリアが一振り二振りするたびにゾンビが崩れ落ちていく。いくつかの集団を斬り捨てながら進んでいくと、大きなゾンビの群れに行き当たった。群れの向こう側からは、まだ激しい剣戟の音が届いてくる。


(この奥にまだ……。ここで止めないと)


「……私に着いてきなさい! 突撃!」


 号令に応えた護衛たちが鬨の声をあげながら突撃を開始する。群れがこちらに振り向いた瞬間、ユリアを先頭にした護衛兵たちが突入した。


 乱れた隊列はたちまち切り崩され、ユリアの目の前には瑞希と対峙する騎士の姿があった。片膝をついた瑞希の周りには武装ゾンビが何体も転がっている。瑞希に庇われたアウレリアは、それでも瑞希に光魔法をかけ続けていた。


「瑞希!」


「ユリアさん……来てくれたんですか?」


「なんだ、帝国軍はいつから女子供が中心になったんだ?」


「……あなたが指揮官なのね?」


「いかにも。貴様もなかなか手練れのようだが……そこの小娘程度にはやれるのか?」


「ユリアさん、気を付けてください……! こいつ、めちゃくちゃ強いです……!」


 瑞希の声に、ユリアは騎士を一瞥してから答えた。


「その小娘一人倒せていない癖によくしゃべる口ね」


「フンッ、他が弱すぎたからな。少し遊んだだけだ……さあ、死んでもらおうか」


 騎士が一気に距離を詰め、逆袈裟に斬りかかってくる。ユリアはそれを躱し、即座に剣で騎士の喉元を突く。騎士は振り上げた剣をそのままユリアの剣に叩きつけ、軌道を逸らした。


 逸らされた剣を横に薙ぐ。騎士が剣を立てて防ぐ。


 二人とも半歩下がり、同時に袈裟に斬りかかる。剣と剣がぶつかり合い、激しく火花を散らして鍔迫り合いになった。


 騎士が体格を活かして押し込もうとする。しかしユリアはびくともせず、むしろ押し返し始めた。


「貴様もか……! なんなんだ貴様らは……!」


「ただの女子供よ? あなたが弱いだけじゃないの?」


「抜かせ……!」


 騎士が吐き捨てると、後ろへ大きく下がった。上段に構えてから飛び掛かってくる。ユリアは剣でそれを受け止めた。騎士が両手で押し込もうとした瞬間、ユリアは剣から片手を外して拳を握りしめた。


 そして、一撃。


 胸甲に刺さった拳が鎧を歪め、騎士を後ろへ大きく突き飛ばした。


「ガハッ……な、なにが……まさか殴られたのか……!?」


 なんとか体勢を立て直して剣を構え直した騎士は、動揺を隠せなかった。


「き、貴様……なぜだ! たかが十数年しか生きていないような小娘になぜ俺が力負けするというのだ……! この力は人間如きに負けるようなものじゃないはずだ……!」


「小娘小娘とうるさいわね。あなたもそこらへんにいるゾンビと同じ、たかが一年程度の子供じゃないの」


「黙れ! このグラックス・ヴィギリアス、馬鹿にされるような武功ではないわ!」


「小娘に手も足も出ない程度の武功じゃない。たかが知れてるわね。その力もどこで拾ったのか知らないけど、醜悪なだけね」


「おのれ……! あの方まで馬鹿にするなど……許されんぞ……!」


「戦場では力がない者ほど口に頼るのよね……情けない」


「貴様……!」


 我慢の限界が来たのか、騎士が大きく斬りかかってくる。ユリアはそれを剣で弾き、そのまま横に薙いだ。激しく金属のぶつかる音が響き、続いて肉を引き裂く音と骨を砕く音が重なった。


 周囲のゾンビが動きを止め、それまでと比べて明らかに精彩を欠いた動きへと変わった。


 ユリアは崩れ落ちた騎士を一瞥してから、瑞希のもとへと向かった。


「瑞希、よく頑張ったわね。アウレリアもありがとう」


「ユリア様……」


「あ、ありがとうございます。……あの、ユリアさん、その髪は……」


「髪? ああ、つい力を込めちゃってたわね」


 ユリアは短く答えてから、二人を促した。


「さあ、早く医療班に診てもらいましょう」


「え、あ、はい」


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