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終末の血族  作者: 天津千里
10章:蒼海へと至る道
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第74話 蒼海へと至る道II

【帝国紀元1799年12月4日 6:00】

【クルキア平原北端】


 およそ一週間の行軍を経て、ユリアたちの連合軍は目的地であるクルキア平原北端の丘陵まで到達した。

 連合軍は前日夜に集合し、翌早朝から偵察に向かう騎兵や出撃準備をする兵たちで慌ただしく動き始めた。

 そんな中、ユリアは本陣の天幕で最後の確認を進めていた。


「昨日のうちから先行して偵察していたバフラームから敵の詳細な配置が報告されているわ。夜間に多少の移動はあるでしょうけど、この配置を前提に話を進めるわ」


 地図にはクルキア市街地とその周辺が描かれており、ゾンビの密集地帯が赤い染みのように刻まれていた。

 レオニダスたち幹部が配置を記入された地図を覗き込む。


「おいおい、ここまで分かるのかよ」


 カリスが感心したように呟く。


「我々はこの丘から街道に沿って街の北東城門に行けばいいわけですな」

「ええ。城門と言っても、既に破壊されているし、そもそも城門を閉じるという発想もなさそうだけどね」

「この配置を見るに、西側から東側に抜ける大通りにかなり密集していますね」


 フィリオが地図を指さす。


「こちらに気付けばこの北に抜ける大通りから殺到してきそうだな」

「この大通りは私が直接指揮するわ。レオニダスの部隊もここに。両側面の市街地はカリス、フィリオに任せる」

「では全体の調整は私が。魔導部隊と予備兵力を持って城門付近に本陣を配置するわ」


 ルシアが地図に印をつける。


「第二陣としてカラディン軍の大隊が来ることになっているから、それらの振り分けもお願い」

「了解、任せて」

「敵が市街地に入り込んで来た場合はどうする?」


 カリスが確認する。


「通りを固めて予備の投入と、多数の場合は近接中隊を回すわ」

「大通りに殺到してきた場合は、側面から援護射撃でいいですよね?」

「ええ。期待しているわ」

「承知しました」


 フィリオが頷く。

 天幕の外からはすでに準備を始めた兵たちの足音と、馬のいななきが聞こえてきていた。


「問題ないわね? ……では、出撃」

「応!」


 一同が声を揃えた。

 出撃から半刻後、ユリア大隊はクルキアの北東城門に取りついた。丘から見えていた城壁は、間近で見ると苔や汚れが染みつき、長年手入れされていない様子が見てとれた。

 中からはこちらに気付いたゾンビが何体も出てくるが、近接部隊が素早く処理し、次々と城門内へと進んでいく。


「じゃあ姉さん、行ってくるわ。本陣はよろしくね」

「ええ。……瑞希さん、本当に行くの?」


 ルシアが心配そうに瑞希を見る。


「はい。意外と怖くないんですよ。ユリアさんの後ろだからかな?」

「もう。ちゃんと自分の身は自分で守らないとダメよ?」

「は、はい」

「姉さん、心配のしすぎよ……じゃあまたあとで」

「気を付けてね」


 上空ではバフラームが配下の鳥人たちを束ねながら、自ら最前線へ降りて情報を届ける手筈になっていた。

 ユリアが街へと向かう背を瑞希が追いかける。

 門扉の残骸を乗り越え、二人は大通りへと足を進めた。

 城門の周りでは道沿いの死体や残骸が片付けられ始め、オルフェンたち若熊が木材を積み上げ、即席のバリケードを組み上げていた。


「オルフェン! ここが終わったら大通りに向かって!」

「わかった」


 オルフェンが短く答える。


「大通りに何かあるんですか?」

「まだ確認したわけじゃないけど、敵が来る方向によっては即席陣地を作る可能性もあるからね」

「なるほど……」


 二人は大通りを進む。

 前方からは負傷した兵が本陣へと運ばれていく。

 瑞希は先日までの癖か、手が腰に下げていた医療鞄を探している。


「今日のあなたは私の護衛兵よ」

「そうでした……つい……」


 そう言うと瑞希は背中の大弓を背負いなおす。

 ユリアたちはほんの少し歩いただけで最前線に追いついた。

 最前線ではレオニダスが大声を上げて指示を飛ばしていた。


「右! 次の横道を封鎖しろ! 側面を突かれるぞ!」

「レオニダス」

「これは隊長殿。もう追いつかれてしまいましたか」


 レオニダスが振り返る。


「戦況はどう?」

「今のところは順調です。ただ、どこかで南の大通りのゾンビを迎え撃つ準備をしたいところです」

「後でオルフェンが来ると思うから、来たらすぐに陣地を作ってもらいたいわね」

「それはありがたい……ではここから見えるあの広場まで進みましょうか」

「あそこね……いいわね。ちょっと私が前に出て切り開くわ」

「ハッ! 隊長殿が出られるぞ! 野郎ども! しっかりついていけよ!」

「応!」


 近接兵たちが声を揃える。

 そのとき空からバフラームが下りてきた。


「ユリア殿、南のゾンビが動き始めたようだ。まだ少数だが、そう遠くないうちにここに来そうだ」

「あらそう。ならなおさら頑張らないといけないわね。引き続き動向を見ておいて」

「承知した」


 バフラームはすぐに上空へと戻った。


「さ、瑞希。行くわよ」

「は、はい!」


 こちらに向かって走ってくるゾンビをすっと横へ躱し、すれ違い様に足を斬り払って倒す。

 続けて来るゾンビに勢いのついた剣を振り下ろす。

 そっと横目で瑞希を確認すると、二階の窓から身を乗り出しているゾンビの頭部を正確に射抜いていた。

 弓を構える表情には動揺の欠片も見えない。


(……落ち着きすぎね)


 思考しているうちに近寄ってきたゾンビの胴を横払いで薙ぐ。

 横道から飛び出してきたゾンビを瑞希が剣で受け止め、そのまま押し返し、体勢を崩したところを袈裟切りにしている。


(どちらにせよ、今は集中しましょうか)


 すでに眼前には広場が広がっていた。

 広場にたむろしているゾンビは道中より明らかに多いが、まだ南からのゾンビは到着していないようだった。


「ここを占拠するわよ! 南側は私が抑える! 周囲の掃討を急いで!」

「聞いたな! 護衛兵は隊長に続いて南側だ! 他は広場を抑えろ! 建物の中も見逃すなよ!」

「応!」


 兵たちが散開する。

 広場に出ると一気に瑞希の弓を射る速度が上がった。

 一射ごとに確実に頭部や首を射抜いていく。首を射られたゾンビは一撃で胴と頭が切り離されていた。

 ユリアはそのまま広場の南側の出口へと急ぐ。

 上空からバフラームが再び降りてきて、低空を飛びながらユリアの元に来る。


「南側の敵は規模を拡大しながらこの広場に向かってきている。もう五分ほどで着く」

「間に合ったわね。迂回の警戒と、側面の部隊への情報提供へ移って」

「承知」


 広場の入り口にいた最後のゾンビを斬り捨てたとき、南側の大通りから何体ものゾンビが顔を出した。


「休む暇もないのはうんざりするわね」

「あはは……ほんとですね」


 瑞希がユリアに答えながらも弓を射っている。


「あなた、体調は問題ないの?」

「はい! むしろ居心地がいいくらいです!」

「そう……」

(戦場でハイになっているのかしら……緊張が切れたときに気を付けておかないと)


 南側からの敵の一団がユリアの元へ殺到する。

 ユリアのひと薙ぎで何体ものゾンビが胴を切り裂かれ、勢いをつけたまま地面へと散らばる。

 ユリアの周囲には護衛兵が集まり、南からの道を完全に封じていた。

 瑞希は近くに倒れていた馬車の上から弓を射続けている。

 道路横の建物には銃兵たちが入り、窓から大通りに向けて散弾をばらまいている。

 時折、飛び散った散弾がユリアたち前衛のシールドに弾かれてシールドが淡く光る。

 後ろを確認すると、広場にはオルフェンたちが到着し、一部はまだ開いていない建物の扉に戦槌を打ち付け叩き壊している。


「瑞希! オルフェンに伝令して! 近接兵のすぐ後ろにバリケードを築いて!」

「はい!」


 瑞希が返事をすると同時に馬車から飛び降り後ろに駆けていく。

 すぐにオルフェンたちが資材を持ってこちらに走ってくる。

 あっという間にバリケードが築かれ、その後ろに銃兵たちが射撃準備を終えて構えた。


「よし、前衛ゆっくり下がるわよ! 中衛は順次射撃開始!」


 ユリアたちがゆっくりとバリケードの方へと下がっていくと、射線の通った兵から次々と散弾が撃ち込まれ始める。

 周囲には絶え間ない射撃音が響き渡り、硝煙が白く漂っていた。

 広場を確保してから一刻ほどが経つ頃には、南から押し寄せる敵の数も目に見えて減っていた。

 最初のバリケードはすでに死体で埋まり、第二、第三と広場の奥へ食い込む形で新たな防衛線が作られていた。そのどれもが、夥しい骸の山を抱えていた。

 鳥人からの報告によると、側面部隊も順調に進撃できているという。

 また、南側の東西に抜ける大通りも、東側からテレンティウス率いる部隊が突入して掃討を始めていると連絡があった。

 鳥人からの報告書類を閉じたユリアの元へ、瑞希が走り寄ってきた。


「ユリアさん、レオニダスさんが近接兵を前に進めるそうです」

「分かったわ。……瑞希、あなた、少し休みなさい」

「え?」

「さっきからずっと動いているわよ。今は緊張で疲れを感じないかもしれないけど、後で動けなくなったときに敵襲があったら大変でしょう。適度に休むのも大切よ」

「あ……はい……」


 ユリアはわずかに目を細め、それだけ言った。


「今日は助かったわ。これからもよろしくね」

「……はい! 任せてください!」


 瑞希が休憩所へと駆けていく。


(前より体力が上がっている……? 気のせいかしら?)


 ユリアは瑞希の背を見送りながら、小さく首を傾げた。




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