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終末の血族  作者: 天津千里
10章:蒼海へと至る道
73/96

第73話 蒼海へと至る道I

【帝国紀元1799年11月25日 15:00】

【ガゼリウム軍用駅】


 ユリアは援軍到着の先触れを受けて、修理されたばかりのガゼリウム軍用駅に出迎えに来ていた。

 東の丘の向こうから黒煙が見え、黒い機関車が見えたと思うとあっという間に大きな汽笛とともに長い輸送車両がホームに入ってきた。

 車列からは多くの兵が降りてきた。その中にユリアは見慣れた軍服姿を見つけた。


「リディア!」


 向こうもこちらに気が付いたようで、こちらに歩いてくる。


「ユリア、久しぶり。夏以来かしら」

「エルズリウム以来だからそれくらいになるわね」


 二人が握手を交わす。


「こっちでも活躍したみたいね」

「リディアのほうこそ。でも、向こうも戦況に余裕はないでしょう? よくこちらに援軍を送ってくれたわね」

「ガゼリウム侯の戦況を聞いて、北方解放作戦用に準備していた部隊を急遽こちらに回すことになったのよ」

「それでこんなに早く……」

「ええ。それに、北岸の冬季作戦を強行するよりも南岸のこちらのほうが負担も軽く勝算が高いという目算もあったみたい」

「たしかに北岸よりはこちらのほうが過ごしやすいものね」


 ユリアが頷く。


「私たちとしても、寒い場所で戦わずに済んでよかったわ。部隊もテレンティウス・アルデリス伯爵を筆頭に、準備していた遠征部隊七千をそのままこちらに回してもらえたわ」

「七千! 結構な規模だったのね」

「これにアルトゥインに駐留している兄の一万が加わる予定だったのよ。でも、兄も冬の間に侵攻せずに済んでほっとしているんじゃないかしら」

「まあ冬の間は街であったかく待っておいてもらいましょう」


 ユリアが笑う。


「それがいいわね。軍を率いてとても張り切っていたからちょうどいい休憩ね」

「さ、兵を待たせちゃうわね。早く中に行きましょ。案内するわ」

「ありがとう」


 リディアが軽く頭を下げた。


【同日 20:00】

【ガゼリウム城館会議室】


 あの後も続々と到着した軍用列車の車列によって、増援部隊の将校の多くがガゼリウムの地を踏んだ。

 ガゼリウム城館の使い込まれた会議室には、ユリアを始めとしたセルギウス旅団の面々、リディアやテレンティウスといった増援部隊の将校、アウルス・ガゼリウムを筆頭にしたガゼリウム侯爵家の若き指揮官たちが夜にも関わらず集まっていた。

 壇上に立つセルギウスが丁寧に一礼する。


「お集まりいただきありがとうございます。この度、ラティアへの補給線確保にあたって、私が戦時昇進によって師団長として帝国戦時法に則って指揮を担当します。よろしくお願いします」


 セルギウスが姿勢を正した。


「では、戦況をガゼリウム侯爵、お願いします」

「まず、この度の増援、真に感謝します」


 アウルスが立ち上がり、一礼する。


「現在、ガゼリウム領は西のアダリウム方面と、南のアスミノール方面に防衛線を抱えています。これまでは南西方面からラティア伯爵によって軍需物資が届けられていました。しかし、二か月ほど前に道中のクルキア子爵領が陥落、それ以降連絡が取れていません」

「当初、クルキア平原全体に四万程のゾンビが散らばっていました」


 アウルスが地図を指し示す。


「先日のユリア大隊の偵察により、都市部に約一万、平原の村落に約一万が点在していることが判明。残る約二万は消息不明です。東に抜けてアスミノールに合流したか、南に抜けてラティアに向かったものと思われます」

「ありがとうございます」


 セルギウスが頷いた。


「この状況のため、増援として来ていただいたテレンティウス旅団七千と、ガゼリウム侯爵軍三千、鉄道修復部隊のユリア大隊一千の計一万一千にてラティアへの道中のゾンビの掃討を行います。まずはこのクルキア平原一帯を一掃することになります。前線部隊の指揮はテレンティウス・アルデリス伯爵、よろしくお願いします」

「拝命いたしました」


 テレンティウスが立ち上がる。


「今回は敵勢の詳細な情報がありますので、この場で作戦概要を説明させていただきます」


 そう言うとテレンティウスは広げられた地図を指さし説明し始めた。


「ここ、クルキア平原の北の街道から平原に侵入します。本隊七千は私とユリア殿を中核とし、クルキア市街地の北東城門と東城門から突入、市街地を掃討します。別動隊としてリディア殿が三千を率いて郊外の村落を順次解放してください。残る一千で市街地と郊外を結ぶ平原を進軍し、本隊と別動隊の連絡線を維持します」

「では私の部隊は騎兵が多いので連絡線の維持にあててください。残る歩兵は市街地の突入部隊へ。クルキアは土地勘がある者も多いので役に立てると思います」


 アウルスが提案する。


「私の部隊は直轄部隊の三千をそのまま別動隊にします。連携の面からいってこれが戦いやすいでしょう」


 リディアが続ける。


「ありがとうございます。市街地突入についてはユリア殿に先鋒をお願いしたく」

「任されました。期待に応えましょう」


 ユリアが力強く頷く。


「ユリア殿に任せるのですか?」


 アウルスが少し驚いた表情を見せる。


「ええ。彼女は実績が抜群ですので……エルズリウムでも市街地を最初に駆け抜けたのは彼女の部隊なのですよ」

「そうでしたか! 噂には聞いていましたが、かの指揮官はユリア殿でしたか。それなら適任ですね」


 アウルスが感心したように頷いた。


「部隊の後方の安全については東部方面軍にお任せください。補給と護衛は私の部隊で担います。ただ、魔導部隊は同行させることができず、申し訳ない」


 セルギウスが申し訳なさそうに言う。


「獣人が動いている以上、前線からは外せませんからね。仕方ありません」

「獣人が?」


 アウルスが眉をひそめる。


「はい。ここ数か月、国境付近で活発に動いています。ただ、部族間での抗争も激しいので、獣人帝国内の政争ではないかという見方が強いです」

「そうですか……正規軍の魔導部隊の火力がないのは厳しいですね」

「あるもので対処するしかありません。幸い、カラディン軍は対ゾンビでいくつも都市を解放している経験がありますから」


 テレンティウスが自信を見せる。


「尽力しましょう」


 リディアが頷く。


「期待しております。我々も負けないよう努力しましょう」


 アウルスが力強く応える。


「以上を持って作戦概要となります。出発は明後日です」

「応!」


 一同が声を揃えた。

 会議を終えて帰路の廊下で、瑞希がユリアに声をかけてきた。


「ユリアさん、今度のクルキアでの戦い、私も参加させてもらえませんか?」

「瑞希? 無理しなくていいのよ」


 ユリアが心配そうに瑞希を見る。


「ユリアさんもルシアさんも戦っているのに、私だけ後ろで待っているだけってのが嫌なんです」

「だからって戦わなくても……いつも補佐をしてもらってるだけでも十分助かってるわよ」

「えへへ、ありがとうございます。でも、私がやりたいんです。それに、レオニダスさんから一本とれるくらいにはなったんですよ?」

「レオニダスから? それは……ちょっと考えておくわ。でも、私の目が届く範囲でしか許可は出さないからね」

「はい!」


 瑞希が嬉しそうに頷く。


「それにしても、前は怖がっていたように見えたけど……もう怖くないの?」

「それが不思議と怖くないんですよね。むしろ、戦わないとって使命感? があるくらいで」

「使命感……?」


 ユリアが眉をひそめる。


「はい。それに、夢で猫ちゃんが出てきたんです。首輪にツキカゲって書いてあったので……ツキカゲちゃんが『お前なら大丈夫』って言ってくれて。なぜかちょっと腰が引けてたのは気になりましたけど」

「あの猫……」

「ツキカゲちゃんです」


 瑞希が訂正する。


「……ツキカゲは大丈夫な存在なのかしら? 変なのじゃないわよね?」

「応援はしてくれますけど……」

「そう……まあいいわ。決して無理はしないこと。何か変なことがあったら隠さず言うのよ」

「はい!」


 瑞希が元気よく返事をした。廊下の窓からは、夜空に浮かぶ月が二人を静かに照らしていた。




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