006
すっかり日も暮れ、辺りが薄暗闇に包まれた辺りで、私は一旦捜索は打ち切る事にした。真っ暗闇の中、動けるような技能はまだ開発していなかったことを思い出したのだ。
(近いうちに開発しておこうっと)
どんなタイプの技能が暗闇の中でも上手く活用できるか、頭の中で妄想しながら、草木がうっそうと覆い茂る森の中、テントを設置するのに丁度良さそうなスペースを確保する。ちなみに、<索敵>で周りには私を害しそうな生命体がいないことは既に確認済みである。
そして、背負ったリュックサックの中から、長さにして30センチ、高さは20センチくらいの箱を取り出した。
実はこれ、クレイさんから貰った『キャンプセット』である。クレイさんに師事するにあたり、報酬もなくタダで教えを乞うのを心苦しく思った私は、何か出来る事は無いかと尋ねた。
すると、私の世界――地球や日本――の事を詳しく教えて欲しい、とキラキラした目で迫られた。それが報酬代わりになるのであれば、という事で、私が知っている限り、クレイさんが興味を引きそうなこと――例えば、モノづくりの技術などを事細かに教えた。
趣味の工場巡りや大量に読んでいた本の知識がこんな所でお役立ちですよ。
クレイさんは私の話を話を聞くたびに、パッと居なくなっては何時間後かに戻ってきて、話したモノの試作品らしきものを作って持ってくる。そして、私にそれを見せて意見を求め、その後細かい微調整をかけて完璧なモノに仕上げる。
その再現性の高さに毎回毎回私は驚かされるのだけど、更に凄いのが再現したモノをより使い易く、より便利に改造していくその手腕も称賛ものだった。流石は魔道具開発のスペシャリストですよ。
その中の一つが、今回の最終試験をするにあたり、譲って貰ったこの『キャンプセット』なのである。その内訳は『簡易テント』『寝袋』『食器セット』『アーミーナイフ』『水筒』『簡易コンロ』等、野営するには必要最低限のアイテムばかりで、すごく助かった。
このキャンプセットのアイテム詳細は以下の通り。
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簡易テント:魔物・魔獣除け結界が組み込まれたワンタッチ式一人用テント。撥水処理もしてあるので急な雨でも大丈夫!
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寝袋:コンパクト性に優れ、超軽量の一人用寝袋。寝袋の外側には快適温度を保つ性質の魔物の皮を使用しているため、どんなに寒い場所や熱い場所でも快適に眠れます。
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食器セット:スプーン、お箸、お皿、マグカップ、小型鍋のセット。一人用。使い終わったら手のひらサイズの専用ケースに収納しておけば、自動で綺麗になる優れもの。
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アーミーナイフ:ナイフ、ハサミ、ヤスリや、火の魔晶石が組み込まれたライター等がある、いわゆる十徳ナイフ。
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水筒:<湧水>の魔法が組み込まれている水筒。いつでも綺麗な水が飲める。
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簡易コンロ:<焚火>の魔法が組み込まれている小型コンロ。
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見てお分かりの通り、実はコレ、全部魔道具なんだよね。お手入れいらずだし、めちゃくちゃ軽いし、箱にさえちゃんと入れて置けば、さばらないし。いいことづくしの三拍子。クレイさん神! ってこっそり崇めたのは内緒です。――こっそりじゃなくて、ちゃんとお礼しろって? ……あまりクレイさんに接しすぎると、オーロラさんからの威圧がビシバシ来て怖いんだよ!!
さて、既にお気づきの方もいらっしゃるとは思うんだけど、魔力のない私に『魔道具』は使えないんじゃないかって? そう、以前クレイさんが言っていたように、魔力をスイッチ代わりにして魔道具の起動をしているから、本当なら私には魔道具は使えないんだけど、そこは流石のクレイさんです。
魔道具に魔晶石を組み込んで、そこから流れる魔力を使って魔道具が起動するように改造してくれたんだよね! まぁ、この世界では誰でも魔力はあるらしいから、起動するためだけに魔晶石を使うなんて事はしない、との事。魔道具で魔晶石を使う場合、通常はエネルギー用やブースト用としてしか使わないんだって。
ちなみに、魔晶石っていうのは、魔力が結晶化したもので、さっき言ったみたいに魔道具のエネルギー用として使ったり、魔法を発動する時にブースト用として使ったりするらしい。
入手方法は、マナの濃い所で自然に結晶化したモノを探すか、魔物や魔獣の体内から稀に入手できる。ちなみに、魔物や魔獣から入手できる魔晶石は、その魔物や魔獣の祝福によって属性が変わる。昼間倒したバジリスクのように、緑色がかった魔晶石なら『風』の祝福がかかった魔晶石。赤色なら『火』、水色なら『水』、茶色なら『土』という感じ。
石のサイズが大きければ大きいほど、込められている魔力は多くなるので、価値も高くなるし、逆に小さいと価値は低くなる。昼間ヒューくんに上げたサイズの石だと、たぶんそんなに価値は高くないんじゃないかな、と思う。ただ、精霊石には何倍も劣るものの、魔晶石も魔力の塊みたいなものだから、魔力が無い私が手放すにはちょっともったいなかったかな? ま、今更だからいいけどね。
私は、キャンプセットの入っている箱から、直径20センチ程の、丸くて少し厚みのある平べったい、カーキ色の布地の塊――簡易テントを取り出した。
そのテントをパッと開いて地面に設置し、中に寝袋を敷いて寝床を確保。テントの入口に縫い付けてある茶色の魔晶石に触れると、テントが淡く光り出す。これで結界も張れたので、ひとまず安心である。
そして、テントから少し離れた場所に簡易コンロと、食器セットの中にあった小型鍋をセットし、水筒から水を入れる。お湯が沸いたところで、コップの中に入れてあったフリーズドライのブロックにかけると、あっという間にカニ雑炊の出来上がりである。
(やっぱり日本人にはお米ですよね!!)
ニヤニヤ緩む顔で、スプーンに掬った雑炊をフーフーと適温まで冷まして口に入れる。和風だしと、カニのうまみが口の中に広がって、なんだかホッとする。
ちょっと大き目のマグカップくらいの量はあった雑炊をゆっくり味わいながら食べ終わると、私は少し考えた後、食器やコンロ、鍋をケースに片づけた。
(後はテントに入ってゆっくり寝るだけ――のはずだったんだけどなぁ)
そして、私はゆっくりと背後の茂みに視線を向ける。
「それで、なんか用ですか?」
そう、<索敵>でご飯を食べる前からそこにいる事には気がついていたし、害意はなさそうなのでほおっておいた。けど、私がご飯も食べ終わっても声をかける様子もないし、私にはこのまま監視される趣味はない。何か要件があるなら、サッサと聞いて終わらせてしまいたい。
しばらくじっと茂みを見つめていると、ガサガサと、草木が揺れ、気まずそうな顔をした身長が幼稚園児くらい黒猫が二足歩行で現れた。その足には黄色のブーツ。両腕には金色のバングルをはめている。
そう。ヒューくんのお父さん、その人だった。




