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風待ちの魔女郵便  作者: Loui.Sue
Letter10 飛ぶための手紙
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飛ばない魔女への配達報告①

 郵便魔女養成学校の門をくぐったのは、お昼の少し前だったかな。


 自分が通っていた学校に、配達に出るというのは、少し変な感じがするなぁ、と思ったのを覚えている。


 配達物は定期便のようなもので、東部第四支局から養成学校宛ての連絡書が二通。どちらも急ぎではないらしい。エルナさんに、ついでで構わないから、と今朝渡された。


 午前の便が北回りへ寄ったせいで、経路は養成学校の上を通る。急ぎでないのであれば、わざわざ今日、私に持たせる意味もないだろうに。


 それでも、エルナさんはわざわざ連絡書を持たせた。降りてからいけ、という意味だ、きっと。まったく、そんな回りくどいことをしなくても、と思い、少しため息が出る。


 石畳の坂を上がると、発着場が見えた。支局の発着場とは、まるで違うが、それが少し懐かしさを感じさせる。


 箒が、あちこちに寝かせてあるのは、相変わらず。整然と並んでいるのは最初の一列だけで、二列目から先は、置いた者の性格がそのまま出ている。穂先の向きも、柄の角度も、揃っていない。


 石床には、擦れた跡がいくつも走っている。着地の下手な穂先が、何度も同じ場所を削ったのだろう。こういうのは、本当に変わらないなぁ。


 訓練用の飛行帽を片手で押さえながら、生徒が一人、発着線へ走っていく。


 その横で、手袋を片方なくした生徒が、友人に何か言われて頭を下げていた。


 飛び立った瞬間に姿勢を崩して、名前を叫ばれている生徒もいる。


 もう帰ってきて、壁際に座り込んだまま動かない者もいた。


 支局の発着場は、仕事として洗練されている。誰も無駄に転ばないし、無駄に叫ばない。けれどここは、失敗する人間がたくさんいる。


 自分も、ここでたくさん転んだ。


 懐かしい、と思うと同時に、少し眩しかった。


 その眩しさの中に、一人の女の子が目に付いた。


 その子は、帰ってきた生徒の箒を、下から受け止めていた。


 生徒は着地したあとも、膝が笑っている。地に足はついているのに、その足が自分のものだと信じきれていないように見えなくもない。


「大丈夫です」


 生徒はそう言った。


 めっちゃわかる。なんかついつい、言っちゃうんだよね。


「じゃあ、手を離すよ?」


 掴んでいた腕を、ほんの少しだけ緩める。


「やっぱ、ちょっと待って!」


「大丈夫っていったじゃん」


「……ちょっとだけ、大丈夫じゃない」


「……だろうよ」


 その子は笑って、生徒を壁際まで連れていった。だいぶ、慣れているように見える。急がず、けれど途中で放しもしない。よろけた重心を、自分の側へ少し引き受けるような支え方。


 壁際に座らせると、腰の水筒を外して渡す。


 生徒が飲んでいるあいだに、女の子はその箒を膝へ乗せ、穂先へ絡んだ枯れ草を取り始めた。一本ずつだ。引き抜くのではなく、絡んだ向きを戻してから外している。


 別の生徒が、横から箒を差し出した。


「私のも」


「自分でやってよ~」


「いやー、上手くできなくて」


 遠くから、教師の声が飛んだ。


「あんたは元気でしょ! 自分でやれ!」


 女の子が、吹き出した。


 つられて、そちらを見てしまう。声のした方では、飛行服の教師が、別の生徒を前に立たせて何か言っている。距離があって言葉は届かないが、腕の振り方だけで、かなり本気で叱っているのが分かった。


 女の子は、笑いを収めきれないまま、差し出された箒を受け取った。


 教員、ではないだろうが。かといって生徒なら、同じように飛行訓練をするはずだが。不思議な女の子だ。


 風が一度、発着場を横へ抜けた。


 干してあった訓練用の布標が、留め具から外れて、石床を転がる。白い布が、風に押されて、まっすぐ足元まで来た。


 しゃがんで、拾う。


 同時に、別の手が伸びてきた。


 顔を上げると、さっきまで目で追っていたあの子。箒を膝から下ろし、布を追ってきたらしい。二人の手が、白い布の上で重なる。


「ありがとうございます」


「いえ」


 布を渡した。


 彼女は受け取りながら、外套と、肩にかけた箒を見た。


「えっと、現役の方、ですか?」


「東部第四支局所属のリネットです」


「お疲れ様です……!?」


 ……ガッシリと両手を掴まれた。


「リネ、リネットさん!? あの!? あのリネットさん!?」


「ええと……」


「す、すいません! お疲れ様です! ボクはこれで!」


 学校の誰も、彼女を、珍しいものとして扱っていないのは理解できた。生徒は当たり前のように箒を見せに来るし、教師は当たり前のように、それを跳ねのける。彼女のほうも、ここにいることに、すっかり慣れている。


 彼女の隣の箒。とても、綺麗に見える。自分も手入れは欠かさない方だけど。


 本当によく、手入れがされている。柄には使い込んだ傷があるから、新品ってわけではない。革紐は新しく、締め直したばかりかな。穂先も整っているし、使われなくなって立てかけられたものではないような。


 あれは、彼女のものだろうか。ともすれば、やっぱり生徒なのだろう。どこか怪我でもしているか、具合がすぐれないのかもしれない。


 ……そんな風には、見えなかったけれど。


 直後に、また別の生徒がやってきて、飛行前の留め具を見てほしがった。


「片方だけ、緩んでるね~。反対も外して、両方やり直し」


「両方ってマジ~!? 結構頑張ったんだよ~?」


「片方だけ直すと、反対側、ぶっ飛ぶよ?」


 いたずらっ子のように笑うその笑顔が、印象的だ。


 おっと、いけない。自分の用事を、思い出す。連絡書は、まだ鞄の中にある。


 校舎の入口で、出てくる人とすれ違いかけた。


 背は、私より少し小さい。黒色の長い髪を美しくまとめている女性。年齢も私とそう変わらないように見える。が、それは見えるだけで。実際は100歳を超えている、なんて噂が実しやかにささやかれていた。


 私からしたら少し苦手な相手。怒られた回数はたぶん、髪の毛の本数よりも多い。


「あら、来てくれたのね」


「ゴブサタシテイマス……」


 ついつい、緊張してしまう。校長先生と二人で話すときは、大抵叱られる時だった。やれ、周囲をよく見ろだの、やれ、自分を大切にしろ、だの。


 それをおざなりに聞き流してきたせいで、先日、私は友人を傷つけた。それと向き合わされるような気がして、朝からずっと、足が重かったんだ。


「元気がなさそうですね。昔のあなたは、もっと反抗的だったと思いますが」


「……東部第四支局所属、リネットファルンです」


「郵便魔女養成学校、校長のレオナ・グライスです」


「支局より連絡書を二通、お届けに上がりました、確認をお願いします」


 郵便鞄から、連絡書をとりだし、そのまま手渡す。校長先生はそれを受け取って、受領表にサインを書く。


「アデルとフィオナも、元気にしてる?」


「えっと、はい。元気、です」


「そう」


 それだけ言って、先生は少し遠くを見つめている。少し元気が無いのは、おそらく私の方じゃなくない?


「えっと」


「ごめんなさい、少し考え事をしていたの。」


 明らかに回りくどい。こんなに勿体ぶった話し方をするような人だったかな。


「ねぇ、リン。少し、力を貸してくれないかしら」

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