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風待ちの魔女郵便  作者: Loui.Sue
Letter2 返らない手紙
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7/46

午後三時十二分①

午後二時四十分。


 北方第六風路は、予定どおり閉鎖された。


 最後の貨物船が該当区間を抜けると、北と南の管理塔から赤い信号弾が打ち上げられ、空中に進入禁止を示す光の幕が広がった。


 つい先ほどまで絶え間なく船影の行き交っていた空が、急に広くなる。


 遠ざかる貨物船の後部には、色鮮やかな信号旗が揺れていた。あの船が予定より数分遅れていれば、午後三時十二分にも、この区間を飛んでいた可能性がある。


 リンは考えないようにした。


 まだ、何も起きると決まったわけではない。


 リンとエルナは、北方第六風路から東へ離れた空中で、箒を停止させていた。


 風路の外では、箒を前へ進める力も、空中へ浮かせておく力も、すべて乗り手自身の魔力で賄わなければならない。飛ばずに留まっているだけでも魔力は削られるため、二人は自然風に押し流されるたびに位置を修正し、ゆっくりと円を描きながら観測地点を維持していた。


「北側の塔は?」


 リンが尋ねる。


「異常なし。南側も同じ」


 エルナは掌ほどの携帯観測器から顔を上げずに答えた。


 風路管理塔にも同じ仕組みの大型計器が設置されており、風路を流れる魔力の濃さと速さを常時測定している。二人は管理塔から送られる光信号と、手元の計器の数値を照らし合わせていた。


「リンのほうは?」


 右手の手袋を外し、風路へ指先を向ける。


 自然の風が肌の表面を撫で、そのさらに奥を、整えられた魔力の帯が流れていた。太く、均質で、流れの中に引っかかりも淀みも感じられない。


「何もありません。北東第三風路が消える前と同じです」


「それ、安心していいのか迷う報告ね」


「私も迷ってます」


「正直でよろしい」


 午後三時を過ぎても、変化はなかった。


 雲は高く、自然風も穏やかだった。山の稜線を越えてきた鳥の群れが、閉鎖された風路を横切って南へ消えていく。


 鳥たちにも、異常を感じている様子はない。


 午後三時十分。


 北側の管理塔から、正常を示す白い信号が二度点滅した。数秒遅れて、南からも同じ光が上がる。


 エルナが返信の信号を送った。


「残存魔力は?」


「九十一です」


「私は八十八。思ったより減ったわね」


「風路の外で三十分以上待ってますから」


「分かってる。数字に文句を言ってみただけ」


「減らなくなるなら、私も言います」


「そこは一緒に祈ってくれてもいいでしょう」


 リンは少しだけ笑った。


 緊張が解けたわけではない。


 けれど、エルナがいつもどおりに話してくれていることが、ありがたかった。


 午後三時十一分。


 エルナが懐中時計を開いた。


 リンは風路へ手を伸ばしたまま、その流れを確かめ続ける。


 これほど確かに存在しているものが、あと一分も経たないうちに消えるとは、やはり思えなかった。


 けれど三日前も、同じだった。


 地図の上にも、計器の上にも、空の中にも道はあった。


 次の瞬間には、何もなくなった。


「十一分五十秒」


 エルナの声が、静かな空へ落ちる。


 リンは箒の柄を握り直した。


「五十五秒」


 流れはある。


「五十八」


 何も変わらない。


「五十九」


 午後三時十二分。


 音が消えた。


 自然の風は止まっていない。


 リンの髪も、箒の穂先も、変わらず東から西へ揺れている。


 それなのに、風路の中で絶えず響いていた低い唸りだけが、空から切り取られたように途絶えた。


 指先に触れていた魔力の帯が消える。


「――消えた」


 言葉にした直後、エルナの観測器から三本の針が一斉に落ちた。

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