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風待ちの魔女郵便  作者: Loui.Sue
幕間③ 十五日目
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監査視察②

  視察が終わったのは、昼を少し過ぎた頃だった。


 フィオナは作業用の前掛けを外し、十五日間使っていた部屋へ戻った。


 狭い部屋には、持ち込んだ毛布と着替えのほかに、見慣れないものが、増えている。


 窓辺に置いた小さな乾燥花。


 三号の記録板から書き写した、局内設備の一覧。


 壁には、窓の隙間を塞ぐためにフィオナが縫った厚布が掛かっていた。


「置いていくの?」


 荷造りを手伝っていて、気になった。


「置いていくよ。次に来たときも寒いから」


 フィオナは小さな布包みを持って戻ってきた。


「何、それ」


「三号の右腕から落ちた金具なんだけど……。同じものがないか見てもらいたいんだ」


 普通なら、それすらも仕事と捉える人が多いんだろうな。


 休養に入る前から、次に来る準備をしているのは、すごく尊敬できる。


 フィオナがこちらへ振り返る。


「ちゃんと休むから、大丈夫!」


「まだ何も言ってないんだけど」


「顔に書いてあったから」


「……そんなに分かりやすいかなぁ」


「うん、すっごく」


 フィオナは笑い、最後の着替えを鞄へ入れた。


 発着場では、ユリウスが三号の停止記録を読み直してる。私たちが荷物を持って出てくると、記録板を閉じた。


「ファルンさんは、レイさんを第四支局へ連れ帰ってください」


「ユリウスさんは?」


「私は、明朝までこちらへ残ります」


「風路、消えちゃうかもですけど」


「承知しています」


「では、何故」


「レイさんがいない時、この施設が実際にどう動くかを見たいんです」


「監視継続、と」


 ハインさんが言う。


「……そういう事でも、構いませんが」


 ハインさんはしばらくユリウスさんを見たあと、局舎の方へ顎を向けた。


「……空いてる部屋を好きに使ってくれ」


「ありがとうございます」


 ハインさんは面倒そうに息を吐いた。三号の胸元へ文字が流れる。


「宿泊者、一名を仮登録します」


「夕食は各自準備することになってるからな」


 好きに使え、と言ってハインさんは部屋を出ていこうとしている。どこか、不機嫌そうにも見えるのは、それだけ、ここを守りたいからと言う風にも思えた。


「ハインさん」


 フィオナが鞄を持ち直す。


「三日間、お願いしますね」


「……ああ、任せておけ」


「処置待ちは二件。赤い棚のものは、触らないでください」


「承知した」


「三号は偉いね、ハインさんが無理に屋根へ上がったら止めてね」


「職務範囲外です」


「そこは覚えてくれないんだ」


 少し残念そうに言うと、ハインさんが布包みを一つ差し出した。


「持ってけ」


「何ですか?」


「乾燥果実だ。携帯できる食料がこれくらいしかない」


「ありがとうございます」


「次は細い針を。防湿布に使えるやつだ」


「ああ、そうでしたね」


 別れの挨拶を済ませて、私たちは箒へ跨がった。やはり、どこか後ろ髪を引かれるような感覚に襲われる。ここを出るときは、いつもそうだ。


「明日、迎えに来ますけど」


「ええ、時間は都合がよろしいときにで構いませんので」


「なるべく早めに頼む」


 ……ハインさん、本当に嫌なんだな。


 二人の箒が旧風路へ入り、局舎と三人の姿が霧の向こうへ消えていった。




 第四支局へ戻ると、発着場にはアデルがいた。


 何でもないような澄ました顔をしているが。きっと楽しみだったり、不安だったりで待っていたのだろうなとも思う。可愛い奴め。


 リンの後ろからフィオナが現れた瞬間、持っていた経路表を閉じる。


「おかえり」


「ただいま」


 フィオナが地面へ降りるより先に、アデルは荷物の方を受け取った。


「おろ、いいの?」


「いいよ、これくらい」


 アデルはそれ以上言わず、フィオナの鞄を肩へ掛けた。


「食堂、まだ昼のスープ残ってるよ」


「アデルが取っておいてくれたの?」


「……まぁ」


「ふふ、ありがと」


 否定しきれないまま、アデルは先に歩き出した。


 三人が同じ食卓へ揃ったのは、十五日ぶりだ。なんだか、とてもなつかしいように思えてしまう。


 フィオナは豆と根菜のスープを食べながら、風待ちでの暮らしを話した。


 最初の三日は、夜中に三号の時報で目が覚めたこと。


 ハインさんは食事を取るのを忘れる程没頭癖があるみたいだ。それなのに、蜂蜜の瓶だけは毎日少しずつ減っていたらしい。


 窓を塞いだ翌朝、部屋の温度が四度も上がったこと。途中で口を挟まずに聞いている。


 フィオナの席へ、フィオナが座っている。


 それだけで、安心できる。

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