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風待ちの魔女郵便  作者: Loui.Sue
Letter7 声の手紙
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真っ直ぐ届いてほしい

 報告は、奥の小部屋で行われた。


 カルファ交換所の所長と、ナハル側の風路管理官が同席している。私たちは配達完了の記録と、再生完了の保全記録を提出の義務がある。


 その後で、第三風路の話になった。


 壁に掛けられた砂海の大きな地図には、黒塩丘から先へ伸びる青い線がある。


 けれど、実際にはそこに道はない。少なくとも、ハサンさんが事故に遭った時点では。


「調査隊は?」


 私が気になったのは、そこだ。何か少しでも進んでいるのであれば、良いのだけど。


「黒塩丘の手前まで」


 風路管理官が答える。


「風標は残っています。井戸札も、季節路の標識も。その周囲に大きな砂崩れはありません」


「郵便袋は」


「まだ見つかっていません」


 果たして、これはどういうことなのだろうか。あるべきはずのものが見つからず。使えるはずのものが使えない。


 たしかに、私たちの配達は無事、完了している。


 けれど、同じ便で運ばれた郵便袋は戻っていない。


 誰かが受け取るはずだったもの。まだ、どこかで届くのを待っているもの。それらすべてが、見つからない。


「風路が乱れた形跡は?」


 風路管理官は首を横に振った。


「確かにあるはある、と言うか、実際にけが人も出ていますし、現に復旧もしていないわけで」


「それも、そうですね」


 少し、軽率だった。何度もみた、ハサンさんの腕と、少し悔しさの滲んだ表情が胸に戻る。


「確証はありません。遠すぎて、私にも詳しくはわかりませんが。」


 うまく、言葉にできていないのが、自分でもわかる。これは、感覚の話でしかない。実際に目で見てものを話しているわけでは、無いから。


「ただ、なんでしょう、穴が開いたような、そんな感じがするんです」


 風路管理官は、地図の青い線を見つめた。


 「念のため、記録をしておきますが……」


 ここで調査を進めるのは、この国の人たちの仕事だ。私が話したことで、現場の判断を乱してしまうのも申し訳ないと、今更思った。


 風路が消える。何もなかったかのように、ぽっかり穴が開く。


 もし同じことが別の場所でも起きているなら……。


 いや、止めよう。今はまだ、想像で結論を出す段階ではないから。


 ただ、未回収の郵便袋がある。それだけは、事実なわけで。とても、悲しくて、悔しい。


 夕方、カルファ交換所を発った。


 戻りの風は変わらず、乾いていた。


 砂海の上を離れるとき、アデルはしばらく下を見ていた。朝に通った岩の影も、谷も、井戸も、上空からはもう見分けにくい。


「砂って、すぐ消えると思ってた」


 アデルが言った。


「うん」


「でも、残るんだね。ちゃんと見れば」


 返事は、しなかった。アデルの言葉は、ただの感想ではないんだとわかったから。痕跡を追った彼女だからこそ、余計にその違和感が分かるのだろう。


 やがて、アデルが前を向いた。


「でも、まぁ、無事届いたから」


「うん」


「全部は戻らなかったけど」


「うん」


 マリヤさんの三年間は、消えない。


 ハサンさんが筒を手放した事実も、未回収の郵便袋も、第三風路の空白も、そこに残っている。




 第四支局へ戻った翌日、二人分の報告書を持って、風待ち郵便局へ入った。


 砂海で書き込んだ経路板の写し、カルファ交換所から受け取った第三風路の事故記録、未回収郵便袋の照会票。そちらは支局側で整理する必要があった。


 自分が持ってきたのは、黒い口述筒の配達完了報告と、保全記録の写し。


 発着場へ降りると、フィオナが局舎から出てきた。


「おかえり、リン」


「ただいま」


「届いた?」


「もちろん」


「状態は、問題なさそうだったの?」


「うん、たぶん。同席したわけじゃないけど」


 それを聞いて、フィオナはようやく息を吐いた。


「よかった」


 リンは報告書を渡した。


「お姉さんは、何て?」


「それは、知らないし、言えない」


 フィオナは報告書を胸へ抱える。


「そっか、そうだね。次は、こっちへ来ないといいね」


「うん」


「今度は、まっすぐ届いてほしい」


 二人は並んで局舎へ入った。


 仕分け室には、まだ届け先を待つ郵便が幾つも残っている。いつか、届く日を夢見て。

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