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風待ちの魔女郵便  作者: Loui.Sue
Letter6 春を待たない手紙
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時間はあるのに

 第四支局へ戻ったとき、アデルは発着場の端で待っていた。


 旧中継塔で待機していたはずのアデルは、私の姿を見つけると、時計をしまうより先に箒を蹴った。


 風の上を滑るように近づいてくる。


「時間、ギリギリ」


 本当に、こういうところは細かい。ただ間に合ったから、だけで納得してくれない。


「到着早々、色々あってさぁ……。」


 何から話したものだろうか。うーん、こういう時、すらっと上手に説明ができたらなと思う。


「……トラブルでも?」


「トラブル、とも、言うのかな? ちょっと手のかかりそうな手紙が届いてさ」


「ふーん? とりあえず、戻りながら教えてよ」


 アデルは言いながら、私を嘗め回すように見てから、私の前を飛んでいく。


 怪我をしていないか。鞄の留め具が外れていないか。おそらく、そう言う確認をしてくれたんだろう。


「……ありがと。大丈夫だよ」


 小さく、つぶやいた。


 アデルは少しだけ息を吐きながら頭をかいた。聞こえないと思ったんだけど。


 安心したようにも思えるし、照れ隠しのようにも思えた。


「それで、届いたのは?」


「一通。アルネリア公国行き」


 リンは鞄を押さえた。


「本人限定、期限指定。成人登録日までに。雪枝印つき」


 アデルは少し困ったような、何か深く考え込むような仕草をとってみせた。


「冬季閉鎖中……だったと思うんだけど」


「あー……、忘れていた」


 アルネリア公国へ繋がる最短経路は春~夏頃に限定された季節支線。主要幹線は少しそれより迂回の形をとる。間に合うことに、変わりはないのだが……。


「すっごい冷えるんだよねえ……」


 寒いのは、あまり得意ではない。


「そろそろ着くよ!」


 話しているうちに、発着場が見えた。アデルが先に降りていく。自分もそれに続いた。


 発着場に降りてすぐ、鞄からフィオナに書いてもらったメモを取り出す。


「……ごめん、少し、急ぐから!」


 アデルにそれだけ伝えて、急いで包装室へ向かう。


「一緒に行くよ」


 顔は見えなかったが、なんとなく、呆れ顔をしているのだろう。


 包装室へ入ると、フィオナの作業机だけが少し空いていた。


 机の端には、昨日まで使っていたであろう、小さな針山が置かれている。


 その針山の横に、砂糖菓子の入った缶があった。


 エルナさんへ預けると言っていたはずだが、まだ置きっぱなしになっている。


「まさか、盗み食いに来ただけ?」


 どうやら見ていたのがバレたらしい。


「いや、エルナさんに

より先に箒を蹴った。


 風の上を滑るように近づいてくる。


「時間、ギリギリ」


 本当に、こういうところは細かい。ただ間に合ったから、だけで納得してくれない。


「到着早々、色々あってさぁ……。」


 何から話したものだろうか。うーん、こういう時、すらっと上手に説明ができたらなと思う。


「……トラブルでも?」


「トラブル、とも、言うのかな? ちょっと手のかかりそうな手紙が届いてさ」


「ふーん? とりあえず、戻りながら教えてよ」


 アデルは言いながら、私を嘗め回すように見てから、私の前を飛んでいく。


 怪我をしていないか。鞄の留め具が外れていないか。おそらく、そう言う確認をしてくれたんだろう。


「……ありがと。大丈夫だよ」


 小さく、つぶやいた。


 アデルは少しだけ息を吐きながら頭をかいた。聞こえないと思ったんだけど。


 安心したようにも思えるし、照れ隠しのようにも思えた。


「それで、届いたのは?」


「一通。アルネリア公国行き」


 リンは鞄を押さえた。


「本人限定、期限指定。成人登録日までに。雪枝印つき」


 アデルは少し困ったような、何か深く考え込むような仕草をとってみせた。


「冬季閉鎖中……だったと思うんだけど」


「あー……、忘れていた」


 アルネリア公国へ繋がる最短経路は春~夏頃に限定された季節支線。主要幹線は少しそれより迂回の形をとる。間に合うことに、変わりはないのだが……。


「すっごい冷えるんだよねえ……」


 寒いのは、あまり得意ではない。


「そろそろ着くよ!」


 話しているうちに、発着場が見えた。アデルが先に降りていく。自分もそれに続いた。


 発着場に降りてすぐ、鞄からフィオナに書いてもらったメモを取り出す。


「……ごめん、少し、急ぐから!」


 アデルにそれだけ伝えて、急いで包装室へ向かう。


「一緒に行くよ」


 顔は見えなかったが、なんとなく、呆れ顔をしているのだろう。


 包装室へ入ると、フィオナの作業机だけが少し空いていた。


 机の端には、昨日まで使っていたであろう、小さな針山が置かれている。


 その針山の横に、砂糖菓子の入った缶があった。


 エルナさんへ預けると言っていたはずだが、まだ置きっぱなしになっている。


「まさか、盗み食いに来ただけ?」


 どうやら見ていたのがバレたらしい。


「いや、エルナさんに預けたんじゃ、と思って」


「まぁ、別にいいけどさ。それで、なんでここに?」


 アデルはそう言いながら、缶を高い棚へ移した。


 少しだけ口を尖らせ、不満を伝えてみる。どうやら、効果はあまりないようだ。


 あきらめて、郵便鞄を作業台へ置いた。


 エルナさんと支局長が示し合わせたように入ってくる。


 エルナさんはまずリンを見た。


 次に鞄。


「先に報告でしょ!! 何をしてるの!」


「……はい」


 まったくもってその通りだった。いたずらっぽく笑うアデルの姿が目に入る。


「アデル、あなたも! じゃないと付けた意味がないでしょう!」


「すみません」


 当たり前だ。なんでそんな余裕があったのかわからない。


 支局長は一度、軽いため息をついてから


「報告を」


 とだけ言った。


 私は頷いて、風待ちでの受入状況を説明した。


 到着物は一件。


 灰白色の一通用保護袋。


 濡れ、凍結、封印破損なし。


 アルネリア公国行き。


 本人限定、成人登録日までの期限指定。


 雪枝印。


 フィオナが保全処置を行い、風待ち仮管理番号を付与。


 説明している間、アデルはすでにアルネリアの郵便地図を開いていた。


 冬季閉鎖期の経路は、通常の地図とは別になっている。


 雪の多い国境では、冬になると風路の一部が閉じられ、郵便は季節中継所を経由する。人の移動も制限される。


 ただし、医療、行政、本人限定の一部郵便だけは、現地郵便官の判断で例外として扱うことができる。


「北西郵便局管内」


 アデルが言った。


「受取人の成人登録なら、集落の登録所で本人確認が必要。郵便局だけでは完結しない」


「現地に確認が必要ね」


 エルナさんが言う。


「照会票を作ります」


「照会を待っていたら間に合う?」


 エルナさんも気づいた。


「通常の照会だけなら、難しいでしょうね……」


 アデルが地図を見たまま答えた。


「冬季閉鎖中だから、返答便も遅い。となれば」


「行った方が早いよね、コレ」


「行ける経路も、ちゃんとある」


 アデルは鉛筆で国境近くを指した。


「ただし、ここから先はアルネリア側の冬道。現地郵便官の案内なしで入ると、規則違反になる」


「まず北西郵便局まで」


「そう。そこまでなら組める」


 支局長が腕を組む。


「一通目から面倒なものが来たな」


 エルナさんが受入記録を読みながら言う。


「雪枝印なら、扱いを急がない方がいいでしょうね」


「でも、期限指定、なんですよね」


 届けたい。


 まだ、その気持ちは消えていない。


 でも、今ここで言えるのはそれではない。


 差出人の指定。受取人の意思。現地の慣習。


 それを確認するために、運ぶ。そう自分に言い聞かせた。


 アデルが地図の上に別紙を重ねる。


「北西郵便局までの経路は二つ。通常の北回りは冬季閉鎖で使えない。西側の国境灯台を経由する遠回りなら入れる。ただ、途中で一泊」


「一泊する余裕くらいはある、ね」


 アデルは地図の上に慣れた手つきで、出発時刻、中継所、経過予定などを次々と書き込んでいく。


「今日の午後便で国境灯台まで。そこで一泊。明朝、アルネリア北西郵便局へ入る」


「成人登録日までは?」


「アクシデントが何もなければ、到着時点で、三日くらい残るはず」


「ある程度不測の事態が起こっても、大丈夫なくらいはあるんだね」


 これならば、問題はないだろう。何とかなりそうで、よかった。


「急ぐのは、北西郵便局まで。そこから先は、現地確認」


「うん、大丈夫」


 エルナさんが書類を閉じた。


「リンとアデルで行くこと。単独での配達は許可しません。加えて、現地の指示に従うこと」


「はい」


「郵便鞄から出すのは、北西郵便局の管理下に入ってから。途中で封を確認しない。寒冷地では、急な温度変化で封蝋が割れる可能性があります」


「フィオナにも、散々言われましたよ、それ」


「よろしい」


 言い返すことではないんだろう。けれど、信用がないみたいで、面白くない。


 アデルが地図を畳む。


「午後便まで一時間。リンは食事と休憩」


 エルナさんの視線が怖い。ここは従うほかなさそうだ。


 アデルは高い棚へ移した砂糖菓子の缶を見た。


 リンは少しだけ笑った。


 さっきより、胸の中の急ぎ方が落ち着いている。


 急いでいることに変わりはないはずなんだけどな。

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