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風待ちの魔女郵便  作者: Loui.Sue
Letter6 春を待たない手紙
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始まりの手

 フィオナは、灰白色の保護袋へ直接触れず、外側から薄い保全板を差し入れた。


 手は早い。けれど、急いでいるようには見えない。その速さが逆に嘘と思えるほど、正確で丁寧だ。


 封蝋のある側だけ空間を少し広く取り、袋の形を潰さないよう、防湿布の端を折る。


 布の折り目は、まっすぐではなかった。


 封筒の厚みと、管理札の浮き方に合わせて、少しずつ逃がしてある。


 同じことをやれと言われたら、私は間違いなく、怒る。その自信がある。


「終わった?」


「うん。これで大丈夫だと思う、けど……」


 フィオナは留め具を一つ締めた。


「分かってる、取扱注意には変わらない、でしょ」


「おお、よくわかったね……」


 私のことを、なんだと思っているのか。心底意外そうにこちらを見ているのは、おそらく演技ではない。 


「もう!」


 フィオナは私の抗議には取り合わず、最後の留め具を締める。


「暖かい場所に長く置かないで。第四支局へ戻ったら、包装室。北西郵便局へ行くなら、途中で冷却布を外さないこと!」


「えっと、うん」


「あと、雪枝印の面は上。鞄の中で下にしないで」


「うん……、うん?」


「リーンー」


「あの……、えへ」


 言おうとしたことを、飲み込んだ。全く覚えられない。いや、矢継ぎ早に全てを詰め込まれてはだれしも、こうなるというものだ。


 フィオナは深いため息を一つ、吐いた。


「書いておくから、きちんと目を通してね」


 黙って頷く。申し訳ないなとは思うが、万が一、を考えてしまうと、そっちのほうが確実だと思えるのだ。


 フィオナはそれ以上は何も言わず、紙にまとめ始めた。


 三号が新しい管理札を発行する。


「仮管理番号、風待ち試験一号。搬出者、リネット・ファルン。保全担当、フィオナ・レイ」


「試験一号……?」


 聞きなじみのない言葉に、思わずその文字を見た。


「三号、到着時の状態記録を複写して」


 フィオナはあまり気に留めていないらしい。結構こういう所は懐が深いというか、大雑把なところは相変わらずだ。


「複写を実行します」


 フィオナが受け取った記録票を、防湿布の外側へ差し込む。


「第四支局で、エルナさんと支局長に見せて。現地へ出す判断は、たぶんそのあとになる……のかな?」


「あー……、たぶん、そう、だよね」


 黙って持ち出すわけには、いかないのは少し面倒だ。そう考えながら保全袋を郵便鞄へ収めた。


 ハインさんが受入台の横で腕を組んでいる。


「北西郵便所へ行くなら、ネルカ・オルセンを訪ねてみるといい」


「ネルカさん?」


「あそこの郵便官だ。雪枝印の扱いなら俺より、詳しい。というか、俺も彼女に教えてもらった」


「お知り合いですか」


「と、言っても最後に会ったのはしばらく前だがな。」


 ハインさんは受付の奥に積まれた古い目録帳へ目を向けた。


「まだいるかは、わかんないんだね」


「リーンー」


「……ゴメン」


 少し、迂闊だったろうか。ハインさんは気にする様子もなく灰白色の保護袋を見る。


「居なければ居ないで、かまわない。とにかく、向こうの指示を一度仰いだ方が良い」


 郵便鞄の蓋を閉じる。


「わかりました」


 ハインさんは少し微笑んでから、頷いてくれた。それから、発着場の方を見た。


 箒を取り、そちらへ向かう。


「それでは、また」


 建物から外へ出ると、霧はさっきより薄くなっていた。


 旧風路はまだ残っている。ただし、入口の形は来たときより細くなっているように感じる。


 発着場の端で一度振り返る。フィオナが扉の前に立っているのが見えた。


 作業用の前掛けは、もう紙粉で白くなっていた。手を振るわけではない。ただ、リンの郵便鞄と箒の穂先を順番に見ている。


「行ってくる」


「うん」


 フィオナは少し笑った。


「リンは帰ったらすぐ報告と記録、だね」


「分かってる……。うーん、何とかならないかな」


「そんなことばっかり言うから……」


 フィオナは呆れたように、わざとらしく深いため息をついた。


 ハインさんはフィオナの後ろで、窓枠を持ち上げていた。


「戻るなら、次は釘も持ってきてもらえるか」


「なんでもいいの?」


「長いのだ。屋根に使う」


「分かりました」


「それと、茶葉は多めでいい」


 フィオナが横から言った。


「もう飲みました?」


「味を見ただけだ」


「それを飲んだって言うのでは?」


 ハインさんは答えず、窓枠を抱えて奥へ引っ込んだ。


 リンは少しだけ笑ってから、箒へ跨がった。


 風待ちに残るのは、フィオナ。


 ここから先は、私の仕事である。


 箒が風を掴む。霧の中へ入る直前、三号の声が受付から聞こえた。


「出発時刻を記録します」


 私は振り返らず、片手だけ上げて、返事をした。

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