届いたもの③
二日後。
発着場には、フィオナが用意した荷物が四つも並んでいた。
「これ、増えてない?」
自分たちだけで運びきれるとは、思えないのだが、一体何故こうなったんだ。
「ほら、ハインさんの好みが分からないって言ったじゃん?」
「それで……二箱?」
「一つは食料だけど。もう一つは毛布と湯沸かし器!」
「あー……、なるほど。うん、いいと思う」
「えへへ、でしょ?」
フィオナは楽しそうに箱の蓋を開けた。まるでピクニックにでも出かけるみたいに。
乾燥肉、豆、茶葉、固いパン。小さな瓶へ詰めた蜂蜜まで入っている。
「温かいものを食べたいと思うんだよねぇ……。」
「うん、だね。でもハインさん、甘いもの食べるのかな」
「ふふ、聞いてみないとだね! 食べなかったら、私が食べるよ」
フィオナはこちらに満面の笑顔を向けて、蓋を閉じた。
それで良い……のだろうか。うーむ。よくわからない。
少し離れたところでは、アデルが長距離用の箒を点検しているのが見える。
ああいう所は私も見習わないとな、と思う。
今日は郵便鞄を持たず、私とフィオナを旧風路の入口まで送る役目。
「その箱、こっちに積んじゃって」
アデルが食料箱を指した。
「一番重いけど、大丈夫?」
「リンに持たせるよりは、マシ」
「ちょっとぉー、どういう意味よ、それ」
不機嫌は隠さず、抗議の声をあげる。アデルの方が雑なところも多いじゃないか。
「うーん、それもそっか」
フィオナが少し悩んでから、同意する。二人は食料箱をアデルの箒へ固定していく。
とっても不愉快だ。いったい、私のことをなんだと思っているのか。
フィオナが、その結び方を見て首を傾げる。
「もう少し右」
「これで?」
「あとちょっと。飛んだら左へ傾くよ」
「細かいなあ。そんなに変わる?」
「落ちたら、私たちのご飯が無くなるでしょ!」
「……ごめん」
アデルは言われたとおりに固定し直す。
フィオナは最後に紐を引き、満足そうに頷いた。
「うん。これなら大丈夫」
エルナさんが運航票を持って近づいてくる。
「フィオナは、本日から試験期間終了まで風待ちへ滞在」
フィオナが頷いた。
制服姿はいつもと同じなのに、腰には普段より大きな旅行鞄が提げられている。
「リンは荷物を運び込み、局内の状況と帰路を確認したあと単独で帰投。帰路に異常があれば、無理に戻らず風待ちへ残ること」
「はい」
「期限や予定を理由に、細くなった流れへ入らない」
「分かってますってばぁ……」
エルナさんはそれ以上繰り返さず、静かに頷いた。
代わりに、運航票の端を指で叩く。
そこには、帰投限界、待機時間、合図の回数がすべて書かれている。
言葉で念を押されるより、紙に残った条件の方が重く見えた。
「アデルは、帰還予定を三十分過ぎてもリンが戻らなければ、第四支局へ報告。勝手な判断は避けるように」
「はい」
アデルは短く答えた。付き合が長いからだろうか、なんだか機嫌が悪そうに思える。
私の箒に結ばれた標識紐を一度だけ確かめる。
「何よ」
「別に。結び目が気になっただけ」
「え、ほつれてた?」
「直したよ、もう」
「ありがと」
アデルは目をそらした。
「仕事だから」
フィオナが自分の箒を引き寄せる。
「大丈夫。十五日したら帰ってくるよ」
「道があれば、でしょ」
「アデル!」
「……ごめん」
アデルは少しだけ耳を赤くした。
言った自分でも、今の言葉が余計だったと分かっているらしい。
フィオナは怒らず、アデルの肩を軽く叩いた。
「戻ったら、包装室に置いてある砂糖菓子、三人で食べよう」
「……うん。そうだね。」
フィオナが笑う。
「じゃあ、エルナさんに預けておきます」
「私が管理するの?」
「一番安全なので」
エルナさんは呆れたように息を吐いたが、拒まなかった。
「帰ってきたら、渡します」
「約束ですよ」
フィオナの声が少し弾んだ。
赤い出発信号が上がる。
三騎は、朝の第四支局を離れた。
風待ち郵便局へ続く流れは、北東の岩山、その裏側に残された旧中継塔の上で見つかった。
薄い雲が、同じ場所を何度も巡っている。
リンは手袋を外し、指先を風へ差し入れた。
「見つけた」
アデルがすぐ横へ並ぶ。
「切れてない?」
「局までは続いてそう。幅は狭いけど、フィオナ一人なら連れていける」
「帰りは?」
「わかんない、けど、たぶん大丈夫」
アデルは、流れの見えない空を睨んだ。
リンはフィオナの箒へ誘導索をつなぎ、留め具を二度確かめる。
「中に入ったら、私のすぐ後ろにいて。箒が横へ引かれたら、索を二回引いて」
「二回ね」
フィオナも自分の手で留め具を確かめた。
いつもどおりに動いていた手が、金具を閉じたあと、ほんの少しだけ止まる。
「緊張してる?」
「してるよ」
フィオナは笑った。
「十五日も、リンとアデルの顔を見ないのは初めてだもの」
「郵便の方が心配なんじゃなかった?」
「どっちも心配していいでしょう?」
フィオナはリンが落とした手袋を拾い、手渡した。
「リンは帰る途中で、残りが少ないと思ったら、ちゃんと戻ってきてね」
「戻ったらアデルに怒られるよ」
「怒られるくらいならいいの」
フィオナの声が少しだけ静かになる。
「帰れなくなるより、ずっといいでしょう?」
リンは手袋をはめた。
「うん」
短く答えた。
それ以上軽く返すと、フィオナの顔を見られなくなる気がした。
「リン」
アデルが呼んだ。
「何?」
「十五日分のフィオナを預けるんだからね」
「人を荷物みたいに言わないでよ」
フィオナは笑った。
「忘れ物しないで」
アデルは笑わなかった。
リンも、今度は笑わなかった。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
アデルは旧中継塔の屋根へ降りた。
リンとフィオナは、細い風の中へ入っていく。




