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風待ちの魔女郵便  作者: Loui.Sue
Letter2 返らない手紙
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12/46

風待ち郵便局④


「さっき、道が分かると言ったな」


「旧風路の痕跡なら」


「外へ続く流れも?」


「残っていれば、感じられます。ただ、必ず見つけられるとは言えません」


「俺には、何も分からなかった」


 ハインは棚へ背を向けたまま言った。


「風が来る。荷物が届く。たまに外へ向かう流れができる。でも、乗れば途中で消える。どこへ曲がったかも分からん」


「人形は外へ出せないんですか」


「局務人形は、登録された敷地と運搬路から離れると止まる。盗難防止らしい。今の型も同じか?」


「行動範囲の制限はあります。ただ、管理者権限で一時解除できます」


「ここの管理者は、四十二年前の局長のままだ。俺に権限はない」


 局務人形はハインの指示に従っていても、正式な局員として認識しているわけではないらしい。


 彼ができるのは、一般利用者にも許された操作と、十一年かけて覚えた人形の扱いだけだった。


「だから、俺にできるのは、ここへ来たものを駄目にしないことだけだ」


 ハインはリンへ向き直り、片手で仕分け室を示した。


「これ、外へ出せるのか」


 リンは、すぐには答えられなかった。


 帰り道さえ見つかっていない。


 仮に外へ戻れたとしても、四十二年前に廃止された郵便局の保管物を、東部第四支局所属の自分が勝手に持ち出すことはできない。封印と記録を確認し、管理権限を整理し、現在の宛先を照会する必要がある。


 自分には、自分の担当する仕事もあった。


 明日届けるはずの郵便を後回しにして、ここにあるものだけを選ぶこともできない。


 それでも、届けられない理由を並べて終わるのは嫌だった。


「今すぐは、無理です」


 リンは仕分け室を見渡した。


「私の判断だけで持ち出せません。帰ったら支局へ報告して、ここの扱いを決めてもらう必要があります」


「そうか」


「でも、届けられないと決まったわけじゃありません」


 声に力が入った。


「まず帰れる道を探します。それから、ここに郵便が残っていることも、今も新しい郵便が届いていることも、全部報告します」


「許可が出なかったら?」


 リンは少しだけ唇を尖らせた。


「出るように説明します」


「簡単に言うな」


「配達より、そっちのほうが苦手です」


 ハインが、初めて小さく笑った。


 そのとき、背後にある受入台から、低い駆動音が鳴った。


 石の表面へ刻まれた術式が、一つずつ青く灯っていく。


「下がれ」


 ハインがリンの前へ腕を出した。


 空気が台の上へ集まり、見えない渦を作る。蓄風槽へ流れていた魔力の一部が逆流し、室内に雨と濡れた紙の匂いが広がった。


 次の瞬間、郵便袋が一つ、石台の上へ落ちた。


 重い音が仕分け室へ響く。


 袋は泥と雨水で汚れていたが、封印は破られていない。


 結ばれた札は新しく、そこに記された日付は今日だった。


 三号が仕分け室へ入ってくる。


「到着郵便、一袋。外装破損なし。受付処理を開始します」


 局務人形が袋を持ち上げる前に、リンは宛先札へ目を落とした。


 北方第六風路経由。


 午後便。


 風路が消失していなければ、今日のうちに目的地へ届いていたはずの郵便物だった。


 風路は消えた。


 けれど、そこを運ばれていた郵便は、空から失われたわけではなかった。


 行き先をなくし、この場所へ流れ着いたのだ。


 リンは今届いたばかりの袋と、天井近くまで積み上げられた未配達郵便を見比べた。


 ここにあるのは、昔の郵便だけではない。


 今この瞬間にも、道を失った手紙が増え続けている。


「リン」


 医務室へ残してきたはずの声が、扉のそばから聞こえた。


 振り返る。


 三号が押してきた予備寝台に、エルナが横たわっていた。背の部分だけがわずかに持ち上げられ、上体を半分ほど起こした姿勢になっている。


 顔色はまだ悪い。頭には治療布が巻かれ、腰と胸元には、寝台から身体がずれないよう二本の帯が掛けられていた。


「寝てなくていいんですか」


「寝たまま来たでしょう」


「来ないでくださいって意味です」


「あなたが勝手な約束をしていないか、確認しに来たの」


「勝手にはしてません」


「今の話だけでも、かなり怪しいわ」


 エルナは言い返したあと、痛みを堪えるように目を閉じた。


 三号が寝台の脇で告げる。


「負傷者の頭痛増加を確認。会話の中断を推奨します」


「増加してないわ」


「否定は判断材料として採用しません」


「誰に似たのよ、この人形……」


 エルナは小さく息を吐き、改めて仕分け室を見渡した。


 呆れていた表情が、少しずつ消えていく。


「……ずいぶんあるわね」


「はい」


 リンは、今届いたばかりの郵便袋へ目を戻した。


 これを運ぶのは、まだ自分の仕事ではない。


 勝手に仕事へしてはいけないことも分かっている。


 けれど、これほど多くの手紙が待っている場所を見つけて、何もしなかったことにはできなかった。


「帰りましょう」


 リンが言うと、エルナが薄く目を開いた。


「ずいぶん素直ね」


「許可を取りに帰るんです」


「やっぱり、そっちね」


 リンは肩の痛みに少し顔をしかめながら、それでも郵便物の山から目を離さなかった。


 まずは帰る。


 それから、ここにある郵便を、もう一度動かす方法を探す。


 そのための説明なら、何度でもするつもりだった。

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