第百六十三話「姉妹」
少し嘘をついてしまった。
今度帰ってきた時に裏のおばあちゃんとは楽しくお話しできれば嬉しいなぁ。
和栞は玄関を出て、彩葉が出てくるのを待つ。
「お姉ちゃん、お財布ある? 急いで出てきたから忘れちゃったぁ……」
「そんなことだと思いましたよ~っとっ」
和栞は彩葉に財布をチラつかせて指し示すと、彩葉は明るい笑顔で恐れ入った。
「さっすがぁっ」
「いくよ、いろちゃん? 制限時間は三十分……行って帰ってきてギリギリなんだからっ」
「うんっ」
仲のいい姉妹は秋の快晴を味方に、小走りに駆けて行った――
◇◆◇◆
住宅地から街の方へ抜ける途中に、小さい頃からよくお世話になっていた花屋がある。
和栞は彩葉の思い付きを誇らしげに誉める――
「いろちゃん、いいこと、思いついたねえ?」
いつも優しいいろちゃんは、お母さんだって頑張った日なんだからこっそり準備してお花を贈るのはどう?って耳打ちして来てくれた。勿論迷うことなんてなかったし、きっと喜んでくれると思えたからすぐに行動したかった。
彩葉はクスクスと目を細めて笑った。
「ママ……ビックリして泣いちゃうんじゃないっ?」
楽しそうに笑って心を弾ませているいろちゃんを見ていると、自分の頬も綻んできたのが分かった。
「ふふっ、ちょっと想像できるかもっ!」
『あははっ』
和栞と彩葉は顔を見合わせて母――美鈴がサプライズを受けた時の様子を想像すると、静まり返った住宅街に乙女二人の可憐な笑い声が染み込んでいった。
◇◆◇◆
道中、車に気を付けていろちゃんを置いていかないように歩く。久しぶりに姉妹でお買い物できるだけでこんなにも嬉しいなんて――
すると、いろちゃんは猫なで声で遠慮がちに聞いてきた。
「おねえちゃんさあ……彼氏さんとは……」
「ん~……?」
少し言いづらい思いもさせているのかな。
和栞は彩葉の言葉を引き出すように待っていると――
「手ぇ……繋いだ?」
和栞は目を丸くして、恥ずかしがるように話す彩葉の顔を見る。
なに……それ、可愛い私の妹……。そんなに恥ずかしがらなくても、いつだって答えてあげられるのになんて思ってしまうのは、経験したからなのかな。
「うんっ」
和栞は伊織の大きくて温かな手を思い出しながら、愛らしく返事をした。
「はあぁぁああっ……」
あからさまに顔を隠して私の方を見てくれない。そういえば私だって高校生になるまで、そういった経験は無かったし、気になってしまう気持ちが少しわかる気がした。
あわあわとしている彩葉に対して、和栞は嬉々とした笑顔で見つめる。
「大丈夫だってぇ、こんなかわいい子、男の子は黙っていられませんっ」
和栞は彩葉を励ますように手を取って歩く。
「わたしも、高校生になったらできる? 彼氏さん」
不安に満ちた上目が和栞に刺さる。
「お母さんの言うことをよく聞いて、いい子にしていたら、大丈夫かなぁ……?」
「ほんとにぃ?」
いろちゃんは自身無さげに手をぎゅっと握ってきて放さない。
私が入院していた頃、きっと沢山の我慢を強いてしまっていたから、いろちゃんには今を楽しんで欲しいと思っている。けど、ほんの少しだけ引っ掛かりがあった。わたしがお手本にならないと――
「そうだよ~。でもね、順番がちょっと違うかなぁ……?」
和栞は心の引っ掛かりを丁寧に紐解いていく。
「じゅん……ばん?」
「そうだよ~順番があるの。わたしと伊織くんはね、交際しようと思って一緒に居るようになったわけじゃないよ?」
「彼氏さんが欲しいって思った訳じゃないってこと?」
物わかりが良いいろちゃんは、わたしの言葉の意味をちゃんと掬い取ってくれた。
「そう。いろちゃんも、大好きでこの人ともっと一緒に居たいって思える人ができるといいね」
和栞の言葉を聞いた彩葉は、交際することが目標であるわけではないと納得できて、ハッとした。
なにも、そんなに焦らなくったって、いろちゃんには大切に思える人が出来て欲しいなぁと思う。
「そっかぁ」
和栞は腑に落ちたような顔をする彩葉の顔をじっと見る。
「そんないろちゃんは、気になっている人はいないのぉ~?」
和栞は悪戯に微笑んだ。
お読みいただきありがとうございました。
久しぶりのヒロイン視点( *´艸`)




