第134話 世の界隈
『月』からもらった寿命が尽きた魂たちは・・・
『海の人』となっていた魂たちは、体を捨て、とうに『地の星』を選択して、天然の人として地上に生まれるなり、待ちの列に加わるなりして『月』からは離れていました。
つるんでお手軽に地上を楽しもうと目論んでいた例の四つの魂たち・・・
(待ってたよ。やっぱりバラバラで帰ることになっちまったな)
(結局、地上を楽しめたのかどうかよくわからない。『人』にしてもらえなかったのはやっぱり損だったよな)
(そうだよな。やれることが全部変わっちまったみたいで)
(それにしてもよ、なんで、あいつだけ引き上げられたんだ?)
(そう言えば、あいつだけ引き上げられて月にいるんだよな?)
(そうだ、こんなとこに漂ってないで、月に行ってそこ、問い詰めようぜ)
『地の星』と『月』の中間あたりで互いを見つけて落ち合っていた三つの魂たちは、徒党を組んで月へと流れていきました。
しかし、月の上には誰もいませんでした。
(あれ? 一つ引き上げたんじゃないのか? どこへ行った?)
・・・・・・・
『月』は何も答えません。
(なんで一つだけ引き上げたんだ?)(そんな力が残ってたのか?)(誰もいないって、どういうことだ?)
三つは『月』に詰め寄りました。
事実、引き上げたことは引き上げたのですが、途中で力尽きたというか、この月の上まで引っ張り込むことができなかったのです。地上からは完全に抜けたものの、途中で力が拡散してしまい・・・どうなったのかわかりません。『人』にしたものを引き上げたのは、せめてもの『足掻き』というか『力試し』だったのです。これから自分は何もできないものになってしまうのか・・・この力がいずれ回復できるものなのか・・・。
結果としては、中途半端なものになってしまいました。うまく最後まで引き上げられれば、そこから回復するかも知れないという希望も持てたのかも知れませんが・・・。
寿命が切れて離れたのに、何だかわざわざ戻ってきて文句を言ってる連中がいるようだが、終わったのなら勝手にどこへでも行けばいい。どうせここにいる気はないんだろう───。
『月』はもうやってくる魂たちを相手にするのはやめようと思いました。どうせ『地の星』のようになれないのはわかりきったことなのですから。ただ、それを恨めしく思いながら、いつまでもそのまわりをくるくると巡るだけの『塊り』に成り下がるのも、ここで星となってしまた自分の運の悪さに過ぎないのです。『人にして地上へ降ろす』という力がなくなって、初めてそれが定めと諦めもつけられる、と。
『月』は、その思いを最後に、自身の地殻の奥深くへと落ちていき、自らをその中心に封じ込めました。
もう、何も、誰も、感じたくない───。
ただ、抜け殻となった岩の塊りだけが、地の星を巡り続けるだけ───。
(おい、何も答えないぞ)(どうなってるんだ?)(こら! 何やってる! 出て来てちゃんと説明しろよ!)
(もう一つはどうなったんだよ!)
三つは月の上で虚しく騒ぎ続けました。
宇宙の深淵からやってきた魂たちも、その騒ぎを見て地の星の方へと逸れていきます。
やがて、ただ虚しいだけと悟り、三つは何の答えも得られないまま月を離れました。もう一つは、結局どこにいるのかわかりません。
どこにいるにしろ、自分たちを探さないで勝手にどこかへ行くはずはないのですが・・・
三つはとりあえず地の星を選択し、待ちの列に加わることにしました。いつ降りることになるかわかりませんが、その間に、その一つもやってくるかもしれません。やってくれば、わかるのです。
しかし、すでにある列の中にもいないようです。
本当に、どうなってしまったのか・・・。
地上に生まれたら、この世界のことは何もわからなくなってしまう。この『仲間』のことも。出会っていてもわからない。
ただ、一人の、何も知らない『天然の人』になるだけなのです。
三つが並んでいる間も多くの魂たちが人生を終えて地上を離れ、丸い形を解いて大宇宙へと拡散していきます。それは、この地の星の上で『人』が生きられる限り、延々と繰り返されることなのです。
そんな中の一つの魂は、今まで暮らした地上を眺めつつ、最後の思いを込めました。
・・・これからも、永遠に、お護りくださいまし・・・
それは『地の星』に投げかける最後の言葉でした。ここに来て、この世界の全てが理解できたのです。
いえ・・・生まれる前の状態に戻っただけ・・・。
そして、今度は、宇宙の深淵に向けて想いを投げかけました。魂の故郷へ向けて。
・・・ナミ・・・あなたのそばへ帰るわ・・・私の人生を混沌に託すために・・・
・・・とっくに混沌に還ったあなたに会えるわけではないけれど・・・
・・・それだけが何となく寂しい・・・
その魂は、故郷へと想いを馳せながら、収束を解いて、波に広がりました。
他のみんなと同じように・・・。
地の星での人生の終わりは、魂の故郷への旅の始まりなのです。




