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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の九・・・とこしえに
132/135

第132話 旅の終わりに・・・

 桃太郎はしろを連れて、洗濯場の端に建てられた小さな石の祠の前に佇んでいました。

 夕暮れ時、もうここに洗い物をしに人がやって来る時刻ではありません。干していた洗濯物もすでに片付けられていました。

 桃太郎が突然大人になって以来、大人たちに落雷を理由に言われてこの祠は子どもたちの宝物の隠し場所ではなくなり、いつ見ても中は空っぽです。

 思えば、『桃太郎』の全てはここから始まったのです。もし、あの時、しろを追ってここに来なかったら、来たとしても、落雷がなかったら・・・

 いや、自分もしろも『月』に仕込まれている以上、自分たちがここへ来た時にいきなり大人にするための『光』も予定のものであり・・・ここへ来る気になるのも、予定のものだったのかも知れません。ふうたととびすけも、この祠から出てきたと言うのです。

 弱体化してしまった『月』に、いきなり自分たちを大人にすることにどんな『つもり』があったというのでしょうか?

 それも、寿命が終わったら月に戻って問い詰めてやろうと思いました。

 「あら、早いわね」

 むらさきさんの声がしました。それに続いて、がやがやとたくさんの人たちの姿が現れました。さぎりさんの姿も見えます。何でも『竹の会』で今度はふうたととびすけの物語を書きたいと言うことで、想像を逞しくするためにも祠の前で話し合いをしようということになったのです。桃太郎も当然の如くに誘われました。断ることもできたのですが・・・しろが(行こうや)と言うので来てしまいました。ふうたととびすけが話題にされるのを聞きたいと言うのです。桃太郎がそばにいないとわからないのですから。

 星空になるのを待って、あたりに篝火がいくつも焚かれ、料理や酒まで持ち込まれていました。半分は宴会です。

 みんな輪になって座り込んで、ふうたととびすけをネタに好きなことを喋っています。ふうたのことはさぎりも知っているので、桃太郎とはまた違った話を提供できそうです。そして『燃える鳳凰』はむらさきさんや京の人々だけでなく、村から出迎えに行った人たちも見ているので、会に関係なくても、そういう人たちも参加しています。特に、肩掛け袋を最初に手に入れて桃太郎に同行する隊や京の人々の出迎えに積極的に参加した娘は、さぎりと似たような気質があるようで、さぎりは最初にこの娘と意気投合していました。今も隣同士で座っています。

 今宵も満月でした。月の光と降る星々の光を浴びて、想像力を競い合うような、ふうたととびすけが遭遇する新たな出来事の話し合いはますます盛り上がっていきます。竹の会の人々は、もちろん、話し合いにも参加しますが、それぞれ話し合いの様子を書き取って後日、むらさきと共々、内容を吟味しつつ物語としてまとめていくのです。みんなで創る物語となっていました。

 やがて夜も深くなり、月も空高くなって篝火も燃え尽きかけてきました。ある程度喋り切った人々は、それぞれあたりを片付けつつ三々五々、引き上げ始めました。

 さぎりはその娘、『なか』と一緒に帰っていきました。と言っても、さぎりはむらさきの家にまだ同居しており、なかは自分の家族の家に帰るのです。さぎりはむらさきから『物言い』をつけられないような態度にはなったものの、まだ誰もいない一人きりの家で夜を過ごすことには踏み切れないでいました。実家にしろ武人としての宿舎にしろ、常にまわりに複数の人のざわめきがあったのです。そしてそこで自分は『下っ端』として誰かの満足を買うために動きまわっていたのです。自分が満足することなど・・・いや、相手が満足することが自分の満足でもありました。ここに来て、自分は一体、何に満足すればいいのか・・・日々明るく過ごしながらも、さぎりはまだ満たされずにいました。

 会の人々はみんなが帰るまで待ち、その後篝火の後始末などをして帰ります。桃太郎も最後まで手伝いました。

 「あら? まだ帰らないの?」 むらさきが声をかけます。 

 片付けも済んで松明に改めて火を灯すと、会のみんなも帰ろうとしているのに、桃太郎はまた祠に向かって座り込んだのです。しろも隣で丸くなりました。

 「何だかな、ここからふうたもとびすけも出てきたと思うと、改めてあいつらのことを思い出してしまう」 しんみりと言います。話し合いの中で散々に遊ばれた二匹ですが、それも終わってあたりが静かになると、決して長いとは言えない付き合いも、改めて色々なことが思い出されてくるのです。ちゃんと『人』になれていたら、どんなことになっていただろうか?と。それこそ、しろと四人揃って道長さんにも会えただろうし、賊のヤツらとも、人同士でもっと違う戦い方ができたかも知れない・・・。

 「そう・・・。じゃ、私たちは帰るわね。桃太郎さんが来てくれたお陰でいい話し合いができたと思うわ」 むらさきが座っていた茣蓙を抱えて言います。

 「あんまり目新しいことはしゃべってないけど?」

 「雰囲気よ。いてくれるだけでいいの」

 みんな、そうじゃな、などと言いながら堤の方へ向かっていきます。

 「あんまり遅うならんようにな」

 最後に誰かが声をかけると、洗濯場には桃太郎としろだけになりました。


 

 この村に来て『むらさき』となった私は、話し合いの成果を携えて『竹の会』の皆と帰路につきました。その道々、次の集まりの日を決めるのです。それぞれが書き取った今日の記録を、家に持ち帰ってその集まりの日までに思い思いの物語に創ります。別に完成させる必要はなく、大雑把でもいいのです。まとまらなくても、し忘れても結構。好きなようにやれば。

 『会』と言えども、何の義務感もないのです。でも、みんなやるのです。『好き』だから。よほど身内に急な異変でも起こってバタバタしない限り、『宿題』をやってこない人など誰もいないのです。内裏の要請で書いていた『源氏物語』とは何たる違いでしょう! 私は想像の翼を自由に、大いに羽ばたかせる明日からの数日間に心を躍らせておりました。

 そうして、皆でガヤガヤと堤を越え、下ってそれぞれ分かれて行こうとした時───


 

 あの光がまた落ちてきました。音もなく・・・。

 (わわわ!)「ワワワワン!」 しろがそこから飛びのくようにして吠えました。

 その光は祠ではなく、祠の前の桃太郎にまともに落ちたのです。

 同時に桃太郎の体は、桃色の光の粒に分解され、次々と光の柱のようになって天へ吸い上げられていきます。

 しろは呆然と天に向かって真っ直ぐに伸びる光の柱を見上げていました。

 (桃太郎は・・・引き上げられとる・・・?)

 やがて、柱は下から消えていき、天に吸い込まれると、そこに桃太郎の姿はありませんでした。ただ、しろ一匹の静寂と夜闇ばかりが流れます。

 (ぶあ〜〜〜! ひとりになってもた!)「ブアォ〜〜〜ン」 しろは突然遠吠えするとあたりを駆けずりまわりました。ふうたの言葉がうつっていることには気がつかないまま。

 駆けまわる途中、しろは突然その場にばったりと横倒しになりました。

 光の柱の後を追うように、丸い(たま)がふわふわと天へ昇っていきました。



 「何じゃ何じゃ!」

 音のない稲光が閃いたのを見て、そして同時にしろのけたたましい吠え声が響き渡ったのを聞いて、一瞬身を縮めた私たちは、もしや? と互いに顔を見合わせると、急いで洗濯場へと引き返しました。私たちに見えたのは、ただあたりが一瞬、全てが見渡せるぐらい明るくなったことだけでございます。

 そこには、桃太郎さんの姿はなく、ただ死骸となったしろが横たわっているだけでした。

 一体、何が起こったのでございましょう? しろの寿命が突然、尽きたのでしょうか? ふうたやとびすけと同じように。

 桃太郎さんは・・・。

 『かぐや姫』のように月に帰る手段があったのなら、この短い間に、どうやって帰ったのでしょう・・・?

 

 「月に昇った光源氏・・・」

 私は、中天を下り始めた月を見上げ、そんなことをつぶやいておりました。


 そうして、桃太郎さんは本当にいつまでたってもどこにも帰って来なかったのです。あのあと、近場の家々に知らせ、松明を明々と掲げて皆で滝のあたりからそこらじゅうを探しまわったのですが。あの洗濯場は、それこそ誰にも見つからずに外へ出て行けるような場所でもないのです。たとえ夜闇であったとしても。

 本当に、月に帰ってしまったのでしょうか・・・?

 桃太郎さんを追っかけていた娘さんたちは、いよいよとなって泣き崩れる子たちが続出しました。誰もろくに個人的な付き合いもできないまま、黙って行ってしまうなんて・・・「信じたくない!」と。前のように京へ旅に出た、ような気持ちになるにはあまりにも不確実なことが多すぎるのです。

 しろの亡骸はせめても、と南の山のとびすけのお墓の隣に埋め、上を平らにならした一つの台のようにして、さぎりの作った墓標はそのままに、同じように枝を削って二つの墓標を並べて立てました。

 出来上がって皆で手を合わせた後、一緒に来ていたさぎりがぽつんと言いました。

 「もしかしたら、この人たちにとってお墓なんて何の意味もないのかもしれない」と。

 

 それでも、ある日、村の決断で、『桃太郎』の名前は『篠坂家』の墓石の、人々の列の一番前に彫り込まれたのでございます。墓の中に収めるものは何もないままに。

 『篠坂タケ』と同じになったのです。タケにとっては二人目の『タケル』となったのでしょうか・・・?

 いえいえ、それは『見てくれ』だけのことでございましょう───。



 









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