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星の戯れ 竹取物語変化  作者: 龍月小夜
    其の九・・・とこしえに
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第131話 全ては『物語』

 桃太郎としろは、今も元気で暮らしていました。しかし、もう、ここにいるさしたる目的はないのです。それなりの『旅』をしたのですから。

 

 物語が仕上がって実際に書物になるまでなかなか動けなかったのですが、書物になったらなったで、実際はどうだったのかという話を村人たちがひっきりなしに聞いてくるのです。その都度話すのも面倒なのですが、あの物語は二つともかなり実際を端折ったというか、抑えたというか、流れに合わせて作った所もあるので、正直、どうだかなあとは思っています。そして、実際の桃太郎の話に、皆、仰天するのです。「いくら何でもそんなことがあるものか」と。『かぐや姫が金色の帆掛け船で天に昇って行った』という『竹取の姫の物語』と実録書の話は信じているくせに、『海の中の竜ノ宮城』と『浦島太郎』の話は疑っているのです。この自分が『桃から生まれてきた』のを目の前で見ているにも関わらず。

 『天然の人』というのはこうも不可思議なものなのか・・・自分も正式に選択して天然に生まれたらこうなってしまうのか・・・?

 もういっそ、タケのように舞台で舞ってでもやればみんな満足するのかな・・・?

 しかしそんなことまでやる気はありません。自分は物語など書かないのですから。

 人々の中には当然、ふうたやとびすけに会ってみたいという人たちもたくさんいました。確かに『しろ』に対する態度も変わったような気もします。話しかけることが多くなったのです。桃太郎も一緒にいる時は桃太郎を通して聞いているので、しろの態度もまさにそれに応えるものであり、桃太郎がそれを通訳するのです。それでもしろは別に吠えて応えるのではないのですから「吠えてもないのに、ほんまかい」と疑われることしきりです。桃太郎がいない時はどうだかわかりません。普通の犬にしか見えないかも知れません。

 この人たちがいれば、彼らを村に入れてやることもできるかも知れない・・・。

 そう思った桃太郎はしろを連れて、ふうたたちと別れてから初めて南の山へ行ってみました。「会ってもいいか聞いてくる」と言って。村人たちをそこまで連れて行くか、ふうたらを村へ連れてくるか・・・その辺も決めたかったのです。さぎりが二冊の物語と一緒に村を出てから何日かたっていました。

 しかし、ふうたもとびすけも見当たりません。考えすら伝わってこない・・・どこかよそにいるのでしょうか? 

 「ふうたあ! とびすけえ!」 ふうたのために声に出して呼びかけます。

 探し始めてすぐに、桃太郎はびっくりするものを見つけました。木の根元に不自然に盛り上がった土の山を。そのてっぺんに木の枝らしきものが一本、立っています。桃太郎としろはそのそばに駆け寄りました。

 「はあ!? とびすけ!?」 

 枝の削り取られた面に彫り込まれている文字を見て仰天しました。

 (これ・・・もしかして・・・) しろも不審げに言います。

 「この土ん中にとびすけがおると・・・?」

 桃太郎は呆然とつぶやきました。確かに、村で見たお墓にはその人の名が彫りつけてあるのです。篠坂家の墓にもタケルやその両親やその前の・・・と昔に続き、タケルの後の代の親戚筋も、月に帰ったというそこにはいないはずのタケの名前すらタケルの隣に彫ってあります。『篠坂』の苗字を持った者は全て一つの墓石の周囲に彫られていくのです。そうした『苗字』の墓が墓地には数知れず立っています。それならば、これは『とびすけ』だけの墓・・・?

 (とびすけ、終わったということか?) しろが言いました。

 「誰がこれを・・・」

 (て、さぎりさんしかおらんだろ? こっち方面へ出て行ったんだから) しろは桃太郎や村の大勢の人たちと見送ったのを思い出しました。

 「じゃ・・・ふうたととびすけはさぎりさんと会うたんか?」

 (それは・・・とびすけは既に終わってたのか、さぎりさんと会ってる時に終わったのか・・・)

 「どっちにしろ、ふうたは・・・」

 (ひとりになったから、さぎりさんについて行ったとか?)

 「そんな・・・喋りに来いとか言うとったのに」 桃太郎は呆れたように言いました。

 (待ちきれなかったのかもな。どっちにしろ、とびすけはわからんが、ふうたも天然の人と絡めたんだったらよかったじゃないか)

 しろは続けて言いました。

 (そら、うまくやっていけそうなら桃太郎よりそっちを選ぶだろ)

 桃太郎は呆然ととびすけの『墓』を見下ろしていました。

 何だか、今まで話してきた自分の体験談の信憑性を証拠立ててくれるものたちがいなくなってしまったと思うと、むらさきさんに「創作だ」と言われても文句は言えないような気がしてきました。喋るサルも、燃える鳳凰も───。

 ただ、むらさきさんたち京の人らや村の数人が『鳳凰』を目撃していることだけが、この一連の話のただ一つの救いなのです。そして、ふうたが一緒に行ったなら、さぎりさんはもっと色々なことをふうたから聞かされるに違いないのです。


 ふうたととびすけを村人たちに引き合わせることができなくなって、桃太郎としろはしょぼしょぼと帰ってきました。とびすけが死んでいたことと、ふうたはどこかへ行ってしまったようだということを話しました。さぎりさんについて行ったかどうかははっきりしないのですから。素直な村人たちには残念がられこそすれ、それはしょうがない、と一言の文句も言われませんでした。それで疑いが晴れたわけでもないのでしょうが。

 そのうちにとびすけの墓を見に行く者たちも出てくることでしょう。まさか、墓掘りまではしないでしょうが。

 それ以来、桃太郎もしろも、いつ、自分たちは終わるのだろうか? 今日か? 明日か? という思いにつきまとわれるようになっていました。

 来る時はある日突然、何の前触れもなしにやってくるのだろうか?

 もし、自分の体が残ってしまったら、『実録書』にあるみたいな、『タケル』の葬儀みたいなことになるのだろうか? そして、あの墓に『桃太郎』の名前も刻まれるのか・・・?

 もちろん、今まで村の葬儀を見たことがないわけではありませんが、『タケル』に生き写しと言われている自分はどうなるのだろうか?と。

 ふうたととびすけのことを知って以来、しろと話す内容はもっぱらそのことになっています。しろは言います。(おまえさんはいいとして、オレはとびすけみたいな土饅頭にされたっきりか?)と。

 そんなことを考えながら、寿命が尽きる様子もないまま、月日は流れていきました。しかし、むらさきさんが入ってから『竹の会』となった保存会が人も増えてますます盛んになってきたので、桃太郎が会に呼ばれることもしばしばです。もう話すことは何もかも話したのに、何だか、桃太郎自身がネタにされているような感じもします。あと、話してないのは、『月から遊びに来た』という桃太郎やしろやふうたやとびすけの『真実』だけ───。

 それはとりも直さず、『タケ』や『かぐや姫』の真実の世界の話でもあるのです。

 地上の暮らしを謳歌するはずの、この星を選択した『天然の人』たちが、その『地の星』の制約外の、魂の世界のことを知る必要があるのか? 知ったとしてもそれはこの『桃太郎』としての話を信じるかどうかと同じで、想像の範囲のものでしかなく、何をすることもできないのですから。知っても仕方のないこと───。そして、人が竹や桃から生まれたりすることをただ不思議がっているしかないのです。

 それこそ、『真実』も一編の『物語』となってしまうだけ───。


 そんなある日、何でもないような顔をして戻ってきて、この村で暮らすことになったさぎりから、ふうたととびすけのことを聞きました。あの墓を作ったことも。そして、京の近くで終わってしまったふうたの墓も森の中に作ったと。

 やっぱりお喋りなふうたは『真実』をさぎりに話していたようです。しかし、さぎりはきっぱりと言いました。「そんなことより、私はこの村を京から護るために帰参したのでございます」と。

 『京から護る』・・・。

 そんなことも、京のある争いの世界を見てしまった桃太郎には、『物語』のように思えるのでした。










 

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